人生の転機とは突然に起こるものだ。
なんの特徴も無い少年が、空から降ってきた女の子を助けたことで世界を股にかけた大事件に巻き込まれたり、またまた偶然不思議な力を手に入れて世界から狙われる羽目になったりーー
得てして、そのような出来事は彼らに不意打ちを食らわすかのように降り掛かってくる。そして何より、小説などで見かけるその姿は私達に高揚感と勇気を与えてくれるのだ。
しかし、俺はこう思う。
「クソ!どこへ消えた!」
「城内をくまなく探せ!まだ遠くには行っていない筈だ!」
「アイリス様を害そうとした不届き者だ!我がベルゼルグの威信にかけて何としても捕まえるのだ!」
それは他人事だから楽しいものであり、そんなことに自分自身が巻き込まれるのはたまったものじゃ無いと。
....どうして、こんな状況になってしまったのだろう。話は数十分前へと遡る。
「ようこそ死後の世界へ。私は、あなたを新しい道へと導く女神、アクア。鈴木誠也さん、あなたはつい先程、不幸にも亡くなってしまいました。短い人生でしたが、あなたの一生は終わってしまったのです」
気が付くと、俺は辺り一面真っ白な部屋に設けられた木製の椅子に座っていた。目の前には俺が今まで見たこともないくらい美しい女性がおり、俺に語りかけてくる。
あまりにも現実離れした光景だからなのか、俺は、すんなりと彼女の言葉ーーここが死後の世界であることを受け入れることができた。
ただ、1つ理解できない事がある。
「あの、1つ質問良いですか?俺はどうやって死んだんでしょうか?」
俺には、自分が死んだという記憶が無いのだ。覚えているのはいつものように学校から帰ってきてから宿題をやってベッドに入った所まで、特段体調が悪かったり、疲れていたわけでもなかったから何かあったら直ぐに目が覚める筈。いくら考えても自分が死ぬ要素が見当たらない。
「あら、自分が死んだ記憶が無いのですか?そういうことなら...」
そこまで言い、彼女が囁く様な声で何かを呟くと、目の前に人の身長ほどの大きな鏡が現れる。
「これは真実の鏡と言い、あなたが今まで歩いた人生の軌跡を写しだすものです。これがあれば、あなたの死因もすぐに分かりますよ」
彼女は鏡に手をかざすと、スマホの画面をスライドさせるかのように鏡を操作し始める。よかった、これなら俺の死因もすぐに分かりそうだ。
しかし、そんな俺の期待を裏切り、死因はいつまで経っても見つからない。現在、探し始めてから3時間は経過している。
「なんで見つからないのよ!意味分かんないわよ!こんな転生者1人に時間割いてられるほど私時間ないのに!これからニチ○サで仮面ラ○ダー見ないといけないのに!」
「録画すれば良いだけなんじゃ....」
「ナマで見ないといけないの!あなたにはわからないでしょうね!」
彼女も最初こそは意気揚々と調べていたのだが、途中から目の色が濁っていき、今や先程まで貼っていためっきが剥がれ落ち、癇癪を起こしている。というか女神もニ○アサ見るんだ...
「というか、そんなに探しても無いってことは、俺がここに呼ばれた事自体が何かの間違いって線は....」
「そんなわけ無いじゃない!私は女神よ!そんな間違いするわけ...するわけ.....」
「......」
「......」
彼女は俺から顔を背けると、どこかに電話をかけ始める。しばらくして通話が終わると彼女は非常にバツの悪そうな顔でこちらに振り返ってくる。
「オイ、まさか...」
「いや、あのー、そのー、ですね....」
「.......」
「.......」
「「.......................」」
「あー、あのー、そのー、ね、我々のミスで、ですね、あのー、あなたの身体から魂を抜いてしまいました....」
「........」
「.........ごめーんね☆」
「野郎オブクラッシャァァァァァァ!!!!」
「ひたぁぁぁぁぁぁ!!ひたたたたた、ひたいひたい!ひゃめてぇぇぇぇぇ!」
俺は不届き者の女神へと飛びかかり、彼女の頬を力強く引っ張る。人のこと勘違いで殺しやがった報いだ!オラッ!オラッ!
「というか私悪く無いもん!悪いのはそんな間違えやすい名前ランキングベスト4くらいに入ってそうな名前のあんたよ!このモブキャラ!」
「テメェ自分が間違えた癖に逆ギレしやがって!そんな減らず口叩く暇があったら俺を元の体に返せよ!!」
「無理よ!だってあなたの身体もう燃えちゃって灰しか残って無いんだから!」
「じゃあもっと深刻に考えろやァァァァァァ!!」
コイツ実質1人殺ってんのに反省の色がねぇ!コイツは駄目だ。駄目な女神だ。略して駄女神だな、これからはそう呼んでやろう。
「ったく!で、これから俺はどうなるの?まさか勘違いだったけどしょうがないから天国に行ってくださいなんてことはないよな?」
「.....ソンナコトナイヨー」
「オイ」
何故コイツは女神を名乗っていられるのだろう。いっそ悪魔とでも名乗った方が相応しいんじゃないだろうか?
「ねぇ、あなたって異世界転生に興味無い?」
駄女神は以下のことを言った。
とある世界が魔王によって滅びの危機に瀕しているらしい。なんでも、魔王軍に殺された人々がその世界での生まれ変わりを恐怖のあまり嫌がって、みんなおじいちゃんみたいな生活を望むとのこと。そのせいで、人口はどんどん減少していっているらしい。このままではその世界が滅びてしまう。そこで、別の世界の若者がその世界にチート能力を持って行き、人口増加及び魔王の討伐をさせればいけるのでは? との考えとなり、それが今もなお行われているとのことらしい。確かにゲームやラノベが大好きな現代人にとっては、この話を蹴る人間もそうはいないだろう。
「そこに行けばもう一度、俺は生きることができるのか?」
「えぇ、ただあなたは私達が魂が死んでしまう前に身体から抜き取ってしまったから、ちょっとしたデメリットはあるけど生きることにほとんど支障はないから大丈夫よ」
「じゃあ、それでお願いするわ」
俺がそう言うと彼女は待ってましたとばかりに分厚い辞書のような物を差し出してくる。
「何これ?」
「ここには、異世界に持っていけるいろんなチート能力やチート武器が書かれているわ。その中から1つ選びなさい。それを特典として、あなたは異世界に転移するの」
俺は駄女神に渡されたカタログを見る。書いてある能力はどれもこれも強力で、中々選ぶことが出来ない。
「ちょっとー、早くしなさいよー。私この後も仕事あるんですけどー暇じゃ無いんですけどー」
「お前の仕事っつうのは仮面ラ○ダーを見ることだろうが!大体、誰のせいでわざわざ異世界転移せにゃならんと思ってんだ!悪いと思ってんなら特典を増やすくらいの気概くらい見せろや!この駄女神が!」
「ひどい!今駄女神って言った!美しい水の女神、アクア様に対して駄女神って言った!それに特典を増やすなんて暴論よ!そんなこと出来るわけ無いでしょ!」
「ならさっきの電話貸してみろ!俺がお前より上のやつと交渉するから!2つは無理でも、謝罪くらいはしてもらわないと気がすまねぇ!」
そう言って彼女から電話をひったくろうとするが駄女神は力を込めて電話を離さない。何故か顔が青白くなっており、目には涙を浮かべ、首を小刻みに横に振っている。
「....まさかとは思うが、これ上司に連絡してないなんてことはないよな?」
彼女の顔から血の気が更に引き、肩が小刻みに震えだす。どうやら図星らしい。マジかコイツ。
「離せ!テメェの不祥事全部上にバラしてやんよ!」
「やめてぇぇぇぇ!!わかった!わかったわよ!特典の2つや3つ持っていけば良いじゃない!だからやめてぇぇぇぇぇぇ!!」
彼女は自分の不祥事を上司に知られたくないのか、すごい力で抵抗してくる。まぁ特典を増やしてくれるのであれば仕方ない。黙っておいてやろう。そんなことを考えながら俺はカタログから自分の欲しい特典を3枚引きちぎり、転移用の魔法陣の真ん中へと立つ。先程の攻防により息も絶え絶えな彼女が呪文を唱えるとその魔法陣は蒼く輝き出し、俺は謎の浮遊感と共に宙へ浮き上がっていく。
「勇者よ!願わくば、数多の勇者候補の中からあなたが魔王を打ち倒す事を祈っています。……あなたが転移した理由だけど、他の神に会っても絶対言わないでよね!絶対だからね!」
「わかったわかった、言わないから落ち着きなさいよ」
その後もそんなふうな会話を2、3回ほど繰り返していると魔法陣が一際眩しく光り始め、その光に思わず目を閉じる。すると、急速に意識が遠のいてきて……
「……ムカつくからランダムテレポートにしてやろ」
キサマァァァァ!!!
そう言おうとしたがそれはすでに遅く、俺の意識はそのまま光の中へと吸い込まれていくのだった。
「あースッキリした!プークスクス!あの人の最後の顔傑作だったんですけどー!あーお腹痛い!」
彼を送り、ただ1人となった転生の間に女神の爆笑が響き渡る。この駄女神、全くと言って良いほど反省していなかった。彼女はひとしきり笑い転げると息を整え、次なる転生者へと意識を向ける。
「さて、次が今日最後の転生者ね。えっとなになに...佐藤カズマ?」
主人公の名前は鈴木誠也(すずきせいや)です。
感想、評価をくれるととっても嬉しいです。