暗躍する請負人の憂鬱 作:トラジマ探偵社
唐突だが、国防陸軍の特殊部隊が無頭竜の幹部がいる一室へ攻撃を仕掛けたらしい。芋づる式に無頭竜の協力をしてCADへの細工等をしてくれた大会委員の人間や会場内に紛れ込ませたジェネレーターが拘束され、委員の人は警察へ引き渡され、ジェネレーターは研究所へ送られた。皇悠は関わっていない。陸軍が単独で実行したようだ。
元々、無頭竜の幹部に関しては洗脳済みで何者かの襲撃があったり、九校戦で趨勢が決した段階で何も情報を残さず自害するようにしておいたのだが、それが見事に機能して襲撃した輩には無頭竜のトップや俺に関する情報を与えずに消えてくれたようだ。死体は残ってないらしい。陸軍には人体消失が出来る魔法の使い手がいるようだ。絶対、マトモな精神しているような奴じゃないな。命じた奴も実行した奴も。魔法が人殺しのためにしか存在しないから、魔法師というのはどうしてこうも人の殺し方に拘るんだろう。アイデンティティが『殺傷』しかないというのもあるが、メンタリティーがテロリストとか殺人鬼のようなものだから、総じて人を如何にして惨たらしく殺すかに終始していて同じように見られるのは困る。魔法師そのものが嫌われている可能性に目を向けてほしい。
無頭竜の件は特に不利益を被ることは無い。処理する手間が省けたので都合が良い。しかし、ここに来て無頭竜の幹部を潰したという事は陸軍も何らかの形で関与していたのだろう。用済みとなって潰されたか。じゃあ、陸軍の狙いは何だったのか気になるところで先ずは十師族派が絡んでいるのは明白である。だが、目的は不明である。今更、ソーサリー・ブースターだのジェネレーターだのを取り締まるような連中でもあるまいし、何がしたかったのやら。
これは俺にとって関係があるが、実害のない話。
消え方が尋常な手段で行われてないから、相当ヤバめの魔法師が投入されたようだ。十中八九、司波達也だろう。ちょっと理不尽極まりない。司波達也という男に関わるのは赤字で大損して、死亡フラグでしかないだろう。その司波達也は四葉と九重八雲に俺の身辺調査を依頼したようだ。妖怪ジジイと縁切りしている状態に近い俺の事を九重八雲が全部ぶちまける可能性は大であり、司波達也は知った上でどうするか容易に想像つく。確実に殺しにかかるだろうな。政治的に対立する十師族派の軍人でもある人間だから、新皇道派に属しているように見える魔法師は危険人物だから『排除』するのは理解できる。魔法師は邪推して深読みし、三度の飯より殺しが大好きな存在だ。厄介な存在に目をつけられたよ。しかも、相手は泣く子も黙る四葉家。ただの暴力装置でしかない存在に権威を感じろ、と言われても無理がある。恐怖しか植え付けないから、魔法師は排斥されるんだ。
そういうのは後で考えるとして、今は九校戦に集中する。
先ずはここまでの成績を一高と三高のみに絞って考える。
スピードシューティング、三高が一位を独占により男女合わせて100ポイント。
クラウド・ボール、女子は一位は三高、二位は一高。男子は二位が三高、四位に一高。三高が合計で80、一高が35。
バトル・ボード、男子が一位は三高、二位は一高。女子は一位は一高、三位に三高。合計で三高が70、一高が80。
アイス・ピラーズ・ブレイク、男子一位は一高、二位に三高。女子は一位が一高、二位に三高。合計、三高が60、一高が100。
ここまでが本戦で、今のところの総計は一高が215、三高が310。
続いて新人戦。
スピードシューティング、女子は一位が三高、二位と三位と一高。男子は一位に三高、三位に一高。合計、三高が50、一高が35。
クラウド・ボール、女子は一位が三高、二位に一高。男子は一位に三高、一高は予選落ち。合計、三高が50、一高が20。
バトル・ボード、女子は一位が一高、二位に三高。男子は一位に三高、一高は予選落ち。合計、三高が40、一高が25。
アイス・ピラーズ・ブレイク、女子は一位から三位まで一高、四位に三高。男子は一位に三高、一高は予選落ち。合計、三高が25、一高が50。
ミラージ・バット、一位から三位まで一高、四位に三高。合計、三高が5、一高が50。
モノリス・コード、一位が三高、二位に一高。合計、三高が50、一高が30。
新人戦の合計は、一高が210、三高が220。
そして、本戦の残り二つの競技。
ミラージ・バット、一位に一高、二位に三高。合計、三高が30、一高が50。
モノリス・コードはこれからなので加算しないで、現在の合計は三高が560、一高が475。一高がモノリス・コードで優勝して100ポイントを得ると575となるから、三高は二位か三位を取れば総合優勝はできる。過去のデータを見れば充分可能であることは推測できるので心配いらない。しかし、皇悠の依頼があるので十文字克人がいるモノリス・コードのメンバーは優勝させてはならないので無茶振りもいいところ。
元々の依頼は十師族の優勝阻止だ。モノリス・コードのメンバーは十文字克人、服部刑部、辰巳鋼太郎で、十文字克人がモノリスを守り、残る二人で攻めていくやり方のようだ。
多彩な魔法を使う服部選手、スピードファイターな辰巳選手を攻略するだけなら、何もしなくても可能だが問題は十文字克人をどうするかだ。一般魔法師が干渉力を超えることは出来ないから、防御を貫くことは不可能。『ファランクス』の唯一の弱点は消耗が大きい事だろう。全ての系統種類を不規則な順番で切り替えながら絶え間なく紡ぎ出し、防壁を幾重にも作り出す多重移動防壁魔法が、まさか何のリスクが無いというワケもなく、そんな高性能な魔法が低燃費なハズが無い。
十文字克人の攻略法は、持久戦に持ち込むか、魔法力でゴリ押しするか、であろう。後者だけなら、俺が演算同調することで可能となる。前者は十文字克人に『ファランクス』を維持させる必要があり、圧倒的な攻撃役の二人も捌きつつ戦うのは無茶ぶりも良いところだ。幸いなのは十文字克人が『ファランクス』を攻撃に転用しない事だろう。攻撃型とか防御型などと定義していたりするが、同じ『ファランクス』であることに変わりなく、攻撃に使うことも便宜上は可能だ。しかし、『ファランクス』は容易に人を圧死させられる事が可能であるから、レギュレーションに引っ掛かるので防御にしか使えないと見て良いだろう。
ということで、見舞いに来てくれていた本戦モノリス・コードのメンバー三人を同時に掌握したのが昨日の話。ちなみに一条は告白できなかった。ヘタレめ。
無理やり退院して護衛に復帰し、皇悠のいるVIP観覧席に行く。
「あっ、兄さん」
「お前は……!」
修道服を着た四葉真夜……じゃなくて十六夜夜子が出迎えた。
つい反射的にCADに手をかけたが、本人に殺気がなく皇悠が止めに動く姿勢を見せたので手にかけるだけで終えた。流石にメスゴリラの早撃ちより早く魔法を発動できないし、二度目の十六夜夜子との戦闘は勝てるか怪しいので遠慮したい。所詮、最強なんて自称なのさ。
だが、これだけは譲れない。
「お前に兄さんと呼ばれる筋合いはない。所詮、遺伝子上の繋がりだけで家族でも何でもない」
「血が繋がってるのに……」
「いきなり血の繋がりがあって家族だとか言われても、すんなり受け入れれる方がおかしいだろ。俺の事を兄と認識するように精神干渉魔法でもくらってるんじゃないかって疑うレベルだぞ」
「本当だもん。でなきゃ、殺そうとしないし殺されようともしない」
とりあえず『殺す』から離れてくれんかね。
「物騒な話はそこまでにしておけ。試合が始まる」
「志村くん、静かにしてください」
「あんたら……姫殿下はともかく、遠山さんは平気なんですか? この娘、姫殿下や貴方に対して殺害未遂やらかしてるんですよ」
「姫殿下に傷を負わせたクズを姫殿下は囲うと決めたのですから、私はそれに従うまでです。次に何かするようであれば、その時は容赦なく潰しますけどね」
これはマジだ。凄絶な笑みを浮かべるつかさちゃんは、自尊心を傷つけられたこともあるが、何より皇悠に手傷を負わせたことが最も許せないようだ。
雪辱を果たしたいだろうけど、何らかの取引によって十六夜夜子は皇悠につくことになったらしいのでおとなしくするらしい。なんで問題のある人間ばかりなんだ。魔法師なんて打算と利害関係でくっついてるような輩ばかりだが、同じ土俵に立たなくても良かろうに。単一の戦力としては優秀だが、性格はシリアルキラーだったかサイコキラーの類いというどこを安心すればいいのか分からん。おまけに殺意は俺に向かってきているし。寝てたら、そのまま永眠したりしないか不安だ。
でも、俺も「殺すな」と依頼されて実際に報酬も受け取ってしまった手前、何かする訳にいかない。警戒しなければいけないだろうが、警戒するために意識を割くのは、十文字克人を攻略する上で命取りとなりかねない。
先んじて不安を取り除くなどすれば、他の魔法師と同じとなるからここは敵に回らせないようにするかスルーしよう。高度な柔軟性を活かしつつ臨機応変に対処するんだよ。
先ずはスルーすることから始め、モノリス・コードの試合を観戦する。三高VS二高の対戦なんだが、今は試合が止まっていた。モノリスを防御していたらしい三高選手のところに人が集まっている。担架が来た。
「熱中症か?」
草原ステージだし、陽光に晒されて走っていたのもあって体が耐えられなかったのだろう。寒冷化していたとはいえ、今は温帯に戻ってるんだから水分補給はしっかりしておかないと……。
「違う。よく見ろ。二高の選手がレギュレーション違反したんだ」
「……一条パターンですか」
二高選手が接近戦を仕掛けて近づき過ぎた結果、二高選手は制御を誤ってレギュレーションを超えて攻撃魔法を使ったらしく、お茶の間に放送できない事態になってしまった。今更、代理で選手は出せないし三高は棄権だろう。一高をモノリス・コードで優勝させなければ三高の優勝は決定するから、まだ使える選手は残っている。
今は選手の容態チェックを優先するべきか。
「一応、状況確認に行ってきます」
まさかこんな事態になるとは予想がつくワケがない。
◇◆◇◆◇◆
志村が出ていった後。つかさが真剣に問いただす。
「姫殿下、今の状況をどう見ますか?」
「邪推ならいくらでも可能だろう。十師族が二人もいる一高を勝たせたいという思惑もあれば、こちらの志村を引っ張り出して十文字克人と力比べさせたいかのいずれかがあるだろう」
二高の選手は体よく利用された、と考えられる。この日本にいる魔法師で魔法名家ないし軍の影響を受けていない魔法師は存在しない。今回の件は仕組まれたものだろう。もしくは志村が自分が出たいために仕組んだとも考えられるが、九校戦に出たくなかった側の人間がそんな事するハズもないし、矢面に立つことを嫌う人間がそんな目立つ事はしない。
「これで三高に代理の選手が認められるか否で決まるだろう」
認められれば確実に志村が出ることになる。他の2年や3年を押し退けて出なければならないだろうから、嫌でも目立つ。後は十文字克人に勝つか否かだが、勝ってくれると十師族の権威に疵がつき、関係各所への説が楽だが……流石にそこまでしないだろう。既に九校戦会場でのテロによって陸軍や十師族の信用は落ちているから、あんまりやり過ぎると開き直って何を仕出かすか読めなくなるからサジ加減が難しい。それにあんまりこちらが強くなり過ぎるのもマズいだろう。私は争いたい訳ではないのだ。
発表があった。
二高は失格、三高は棄権となった。