暗躍する請負人の憂鬱    作:トラジマ探偵社

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第5話

 公開討論会当日。

 

 長い工作活動もようやく目処がつくといったところだろう。金にならん仕事は気が進まない。

 

 改めてこちらの状況を整理しよう。

 

 手持ちの戦力はブランシュの構成員50名だ。武装はアサルトライフルやロケットランチャー、アンティナイトに各種手榴弾だ。エガリテ総員20余名は学生中心で使うにはリスクが大きいので戦力としての価値は無し。マトモに挑んだところで返り討ちに遭うのが関の山。これで襲撃計画を盛り込んでやって皇悠に作戦計画を伝えたら『国益になる』と許可を出したので、ブランシュやエガリテが潰されても良いという事なのだろう。いや、テロをするのに潰れる覚悟が無いのはアホの極みだったか。

 

 せっかく苦労して手に入れた駒を捨てるのは勿体ない気がするけど、襲撃しなかったら今度は顧傑さんが出しゃばってくるので宥めるのが面倒くさい。

 

 そんな事情なんぞ知ったことではないとばかりに、あちらは今か今かと襲撃のタイミングを待っている。

 

 表面上は国会中継で見るような公開討論会が始まり、俺は学校を休んで事務所で根暗ちゃんから送られてくる映像を見守っていた。

 

 

 

 討論会は七草真由美に分があるものだった。

 

 統計やら何やらの情報は有志同盟……ブランシュの下部組織であるエガリテには渡らないようにしていたか、あるいは意図的な情報操作が行われたのは確実。

 

『カリキュラムも施設利用も一緒であり、一科と二科は単なる制度上の区別にしか過ぎない』

 

 普通に調べただけでは、この結論しか出ないしただの言い掛かりとしかならない。一科生だから、二科生だからというのは生徒自身の問題であるというのが学校側の認識なんだろう。

 

 で、ここからが俺が洗脳や暗示など精神干渉魔法を駆使し、更にハッキングやら何やら非合法な調査方法で得た情報を出していこう。

 

 教師が不足しがちなのは教師となる魔法師の多くが名家の『お抱え』となるからだった。魔法科高校の教師は魔法科大学からの出向が殆どだったりする。純粋に教える人間はいないのだ。

 

 次に制服の8枚花弁のエンブレムの有無に関しては、学校側が制服の発注ミスをやらかしてただけだった。ただ純粋にミスっただけであり、すぐに是正して然るべきだったのに「一科と二科で『差』を設けると、二科に向上心を芽生えさせれるのでは?」みたいな感じのことを言った人間がいたらしく、ソイツは七草家お抱えということもあってエンブレムの有無問題は放置されたという。結論、七草が悪い。

 

 どれも一般には知られてないし、知ることも出来ない。これを有志同盟が暴露した場合、七草からの報復は確実だろう。下手したら、他の十師族のみならず魔法名家全てを敵に回す。有志同盟の人間を守ってくれる人間はいないから、手に入れた情報は最終手段として残しておく。

 

 だが、こんな情報を使わずとも有志同盟に勝つ方法はある。

 

『カリキュラムも施設利用も()()に割り振られています。一科も二科も単なる制度上の区別でしかありません』

 

 首っ引きで精査した数字はすぐに論破された。ある意味でブランシュ対策と言っても過言じゃない平均化もしくは均衡化である。一科生も二科生も扱いは一緒で、差別してないのだという。

 

 平等に扱っているから何だ、と言いたい。こちらの主張は根拠が無く、ただの言い掛かりである。

 

 だから、これからする事は『否定』だ。

 

『区別でしかないというなら、実際に雑草(ウィード)という言葉を用いて嘲笑され、軽蔑されるのはどうしてですかっ? 制度上の区別でしかないというならば、制服のエンブレムの有無などで差別用語を用いた差別が横行していいハズがない!』

『……っ! ですから、それは―――』

 

 七草会長がちょっと言い淀む。流石に何も知らないハズが無いし、そもそも色々と隠して八方美人になってどちらにも良い顔していたのが失敗だ。どっちつかずは信用も信頼も出来ないから、故に七草会長と上辺だけの関係に落ち着く人間が一定数いるのだろう。

 

 しかし、七草会長を崩すには至らない。

 

 そこへ、彼女の堅牢な牙城を破壊するため1年前に起きた魔法の暴走事故の映像データが流れる。

 

 内容は、当時1年の二科生のクラスの実習時の映像だ。次が一科生でヤジを飛ばし、出来ない事を横から詰る酷い授業風景だが、この時はそれが過剰にやってしまって集中出来なかった二科生が魔法を暴発、怪我をして魔法力を失って退学した問題事案だった。

 

『これは1年前、実際に起きた事件です。これに対して学校側はおろか生徒会は何もしなかった! それどころか隠蔽したのです! 

 

 差別は確かにそこに存在するのです! 生徒会は差別が無いということを正当化するため、また隠すのですかっ?』

『大変痛ましい事故が起きたのは私も心苦しく思ってます。しかし、生徒会が隠蔽に加担したというのは事実無根であり、また私たち生徒会は常に生徒の味方であり続けているというのは今も変わっていません!』

 

 清廉な雰囲気をまとい、真摯に言葉を並べ立てるのは本人の容姿やよく通る美声もあって誰もが納得する。

 

 しかし、隠蔽があったのは事実である。この映像データは俺が保存していなかったら決して世に出回ることのなかった削除済みの映像だ。内心は動揺してるのが丸わかりだ。

 

『そう言うのなら、七草会長……生徒の味方であり続けるなら、貴方の考えを聞かせていただけませんか?』

 

 フィニッシュラインに到着する頃だ。これで七草会長の考えを聞き、それ次第で全てが決まる。

 

 思い切った大胆な改革をするなら良し。こっちは『平等』という耳障りの良い言葉を否定した。七草会長の任期はともかく、上に立つ人間がしっかりと問題点を把握して変える努力をするならこの後の行動は無くなる。

 

『──―実を言えば、生徒会には一科生と二科生を差別する制度が、一つ残っています。

 

 それは、生徒会長以外の役員の指名に関する制限です。

 

 現在の制度では、生徒会長以外の役員は第一科所属生徒から指名しなければならないことになっています。

 

 この規則は、生徒会長改選時に開催される生徒総会においてのみ、改定可能です。

 

 私はこの規定を、退任時の総会で撤廃することで、生徒会長としての最後の仕事にするつもりです。

 

 少々気の早い公約になってしまいますが、人の心を力づくで変えることは出来ないし、してはならない以上、それ以外のことで、出来る限りの改善策に取り組んでいくつもりです!』

 

 期待外れだった。壬生さん、拍手は煩くてもやっておしまい! 

 

『七草会長、それだけしかやらないんですか?』

『どういう意味ですか?』

『それだけかって聞いてるんです。そんな目に見えない改革で何が変わるんですか? その時の生徒会長が役員の選出で必ずしも二科生を選ぶハズもないから、何も変わらないじゃないですか! 

 

 何故、学校側に何も求めないんですか! 何故、制服のエンブレムの有無は学校側の制服の発注ミスが原因だというのに、生徒会は学校側へ是正を求めない! 何故、生徒の味方を謳っておきながら、学校側に何もしない! この嘘つき!』

 

 これはやり過ぎだろう。公衆の面前での暴露プラス七草家の令嬢を罵倒。問題にならないハズがない。

 

 肝心の七草会長は、衝撃を受けたって顔してるね。面と向かって罵倒されて否定されたのが初めてだからなのだろう。ちょっと涙目。

 

 そんな七草会長を擁護しようと、一科生が立ち上がる。

 

『なんで会長の考えを理解しようとしないんだよ! 補欠は補欠らしく、おとなしく従ってろ!』

『そうだ! 所詮ウィードで俺たちブルームより劣るクセして同じように扱ってくれてるだけでもありがたいだろうが!』

『本来なら、補欠に時間を割いてやる必要なんてないのよ!』

 

 などと表向き禁止している用語のオンパレードに腹が捩れそうになる。

 

 舞台は壇上ではなく、場外でのヤジの飛ばし合いになった。

 

『なんだと! そんなに花冠がついてるのか偉いのかよ!』

『頭の中お花でも咲いてるんじゃない? ブルームだけに』

『なんだと! 言わせておけば、補欠が調子に乗るなァー!』

 

 侮辱されればCAD使って魔法行使に踏み切るのが魔法師の特徴である。舐められたら終わりだから、短絡的な行動にも理解してあげよう。

 

 放課後ということもあり、CADの所持制限が解除されていたのが悲劇を生んだ。

 

 簡単な移動魔法は突然の予期せぬ行動だったということもあり、誰にも防がれることなく一人の二科生を吹っ飛ばして何人か巻き込んで壁に激突させた。

 

 一瞬、静寂するも直後に暴動が発生。響き渡る悲鳴と飛び交う魔法に顔が引きつる。

 

 生徒会や風紀委員が止めようとしているが、それよりも良い感じに混乱してくれてるので収まる前にブランシュによる襲撃をしてもらおう。

 

 大きな爆発音。

 

 更に混乱は大きくなったが、根暗ちゃんが誰かとぶつかって端末を落としてしまい、運が悪いことに踏み潰されてしまった。グシャッといっちゃった。

 

「まあ、後は上手くやるだろう」

 

 討論会は終わった。

 

 しばらくすると、端末に着信音が鳴り響く。

 

 ダミーを介したダミー通信機からだ。発信者は壬生紗耶香だ。

 

 変声機を使い、相手は別人であることを視野に入れて電話に出る。

 

「もしもし、壬生紗耶香か?」

『改めましてだな、スポンサー』

 

 司波達也だ。ブランシュもエガリテも取り押さえられてしまったか。だから、少数戦力で魔法科高校に挑みたくなかったんだ。

 

『単刀直入に聞きたい。お前が壬生先輩を洗脳した犯人か?』

「洗脳? 一体何の話をしているんだ? 私は壬生紗耶香や二科生たちが差別に苦しんでいたからこそ、彼女たちの討論会で円滑に事を運べるように手助けしていたんだよ」

『そうだとしたら、随分と悪辣な方法を使うんだな』

「七草会長の事かな? 分かりやすい攻撃対象がいるのだから、利用しない人間はいないだろう。ところで、壬生紗耶香が洗脳されていたとはどういう事だ? 初耳だ」

『ああ、実は──―』

 

 司波達也から事情を聞き、俺は悲しい声で壬生紗耶香に同情するかのようなスタンスをとる。

 

 諸悪の根源である黒幕は、ブランシュのリーダーである司一に全て丸投げして逃げ出すことにした。

 

「よもや、ブランシュが利用しているとは夢にも思わなんだ。私も罪に問われてしまうのかな?」

『それはどうだろうな。今後の行動次第だろう』

「全面的に協力しよう。だが、人前には出れない。私は魔法の事故で顔も体も爛れてしまって家から出られないんだ」

「……何者だ?」

「元二科生だった者だよ」

 

 何食わぬ顔で嘘を連ねて一高の暗躍者は消滅する。

 

 ドローンを使った情報では、恐らく公安の秘密捜査官と思われるカウンセラーの小野遥がブランシュの拠点をリークし、十文字克人をリーダーに司波兄妹、西城レオンハルト、千葉エリカ、桐原武明がカチコミした。

 

 硬化魔法で車の前面を硬くして突撃、降車して千葉が西城のお守りについて十文字と桐原が裏から攻め入り、司波兄妹は正面から入って対峙するという分担が決まった。サラッと十文字が司波達也に指揮権を委譲して責任を押し付けていたがご愛敬だ。平然と殺すことも視野に入れているあたり、魔法師って恐ろしいや。

 

 視点を変えて司一の持つ中継器からの映像。

 

 ブランシュのアジトに残る人数はリーダーを含めると、たったの5人しかいない。抗う術はないので、あからさまに洗脳されてる感を出させておく。

 

『ようこそ、司波達也君に司波深雪さん。私たちは君を歓迎するよ』

『お前がブランシュのリーダーか?』

『いかにも。私がブランシュ日本支部のリーダー司一だ。そして、今日でリーダーは終わりだ』

『なんだと?』

 

 司一は自身のこめかみに銃口を向け、残るメンバーはそれぞれ銃口を向け合う。

 

『何故なら、今日でブランシュ日本支部は解散するからだ! もうメンバーの大半は捕まり、エガリテも壊滅した! 完敗だ! 我々は所詮、君たちのように特別な魔法師に温い実戦の機会を与えただけの単なる雑魚だったということさ! こんな雑魚に相応しい末路は死ぬしかあるまい!』

 

 涙で顔がぐちゃぐちゃで、銃を持つ手を震わせる姿は上記の潔いセリフからは程遠い。とてもじゃないが、これから自決しようとする人間には見えないだろう。

 

 そして、一斉に銃声が鳴り響──―くことはなかった。

 

『な、なに──―?』

 

 突如、持っていた銃がバラバラになった。

 

 CADを構えた司波達也がいて、彼が魔法を使ったのだろう。分解魔法かと思われ、戦略級魔法も分解にちなんだ魔法だろう。最高難度とされる魔法の1つであり、物質構造に干渉できるってところは俺と一緒なのかもしれない。

 

 俺プロデュースの下手くそで短い洗脳自殺は司波達也の手で止められたが、ここで予想外の出来事が発生した。

 

 観念して項垂れ、投降しようとしていたところに桐原武明と十文字克人が参上。桐原が『ブランシュのリーダーは誰か』と訊ね、司波達也が真面目に答えると激昂して斬りかかったのだ。

 

『テメェが壬生を誑かしやかったのか!』

『桐原先輩、待ってください』

『止めんじゃねー! 俺はコイツを──―!』

『その人も洗脳されてます。ですから、壬生先輩を誑かした相手は別にいます。そうだろう、司一』

 

 司波達也が鋭い視線を向け、桐原武明が胸ぐらを掴んで殺気を直に浴びせられ、十文字克人には厳しい目を向けられ、司波深雪には冷たい目を向けられる。

 

 しかし、司一は答えられない。俺のことは洗脳云々以前に純粋に何も知らないのだ。ヒントになる情報を与えていないし、ここで問い詰めたところで答えることは出来ない。

 

『私は何も知らない! 誰かの指示には従ってたけど、ソイツが誰かなんて分からないんだ! 私たちは便宜上『ペルソナ』と呼んでたけど、それ以上は何も知らないんだ!』

『ソイツは今どこにいる?』

『知らないんだ! 本当に何も知らないんだ! ただ私たちはあの人のために動かなければいけない! あの人は神であり、この世に光を齎す救世主だ! そうだ、我々は死ななければならない! あのお方の最後の命令なのだから!』

 

 強めの洗脳の弊害が発生してしまった。

 

 狂ったように死のうとして頭を地面にぶつける司一とブランシュメンバーの常軌を逸した行動は、軽くホラーを感じさせる恐ろしいものだ。ここで俺がいたら洗脳解除できるのだが、生憎と俺自身は金沢にいる。一高の皆さんに頑張ってもらうしかない。

 

『どれだけ卑劣に仕組めば気が済むのですか、ペルソナという人間は……!』

 

 司波深雪の憤る声を拾い、反省しつつ絶対に正体を知られないようにしようと心に決めるのだった。

 

 とりあえず、ブランシュが絡んだ事件は終了して俺の1年かけて取り組んだ仕事も終わりである。

 

 

 後日。

 

 予定通り一高では一科生による二科生への嫌がらせなどによる迫害が始まった。あらかじめ条件つけて洗脳していた一科生たちが周囲を唆して寄ってたかって陰湿な嫌がらせ、事故を装った攻撃が二科生へ容赦なく行われる。

 

 一科生には正義があった。

 

 ブランシュの襲撃が起きたのは二科生が仕組んだことであるという情報が流れているからだ。彼らには『テロリスト=二科生』という図式が成り立っており、正当性があるものだと信じて止まない。有志同盟がブランシュの襲撃が起きた際に真っ先に拘束されたのも、二科生が混乱をもたらす魔法師分断を目論む悪の権化だということを信じる根拠の一つになっている。

 

 そんな理不尽には黙ってられない二科生も立ち上がり、状況を収めようと自治側が見回りを開始して睨みを利かせるが、更に一触即発の様相へと沈んでいく。

 

 どうなるかなと様子を見守ることにしていこうと矢先のことだ。

 

『どういう事だ!』

 

 端末越しに怒鳴ってきたのは皇悠である。

 

 一高の分断状況をどっかで聞いたらしく、すぐに俺が何かしたのだと推測して電話してきたようだ

 

「どういう事も何も……ブランシュ事件の結果としか言いようがないですね」

『どうして一科と二科の分断などという珍事が起きている?』

「一科生からしてみれば、二科生なんて敵なんでしょう。牙を向いてきたのだから、一科生としては叩き潰さないと気がすまない。故に排除を始めた。それだけの話では?」

『それだけとは何だ。余計なことはしてないだろうな?』

「公開討論会で行った作戦以上のことはしてません」

 

 そもそも、作戦の中身は公開討論会を行って頃合いを見計らって襲撃を行わせ、騒ぎを大きくして魔法科高校で起きている問題を明るみにさせるというものだ。それが皇悠が了承した作戦で、これに1年前に始めていた一科生による二科生排除を起点とした分断作戦が重なったのが現在の一高の校内紛争である。

 

 そもそも図書室にある最先端の魔法技術の強奪なんて、普通に考えて失敗するものだ。魔法科高校は小国の軍事力に匹敵する戦力試算がされているので、通常兵器でしかも普通科中隊の半分以下の勢力で挑むとか無茶ぶりである。仮に盗めたとして、退路の確保なんて出来ない。運よく撤退できても、ヤクザが乗り込んでくるのは目に見えていたので辛い。だったら、初めから諦めて嫌がらせにシフトするのが定石だろう。

 

 結局、ブランシュもエガリテも同時に失って魔法科高校における工作活動できる組織は亡くなってしまった。代わりに魔法科高校は一科生と二科生の間で遺恨が残り、分断が加速するだろう。

 

 皇悠との通信が終わった後、別の端末に呼び出しの音が鳴る。皇悠よりは劣る超のつくVIPなので必ず会いに行かねばならない。

 

 

 

 

 

 場所は変わって九重寺

 

 金沢から東京まで来るなんて大変だけど、そうした労力を割かなければいけない事情があるので仕方ない。

 

「やあ、久しぶりだね。根暗そうな見た目は相変わらずかな」

 

 真っ先に出迎えてくれたのは住職の九重八雲だ。今が夜で良かった。でなきゃ日差しで目潰しされてたね。

 

「ハゲ先生も相変わらずなようで嬉しいです」

「これは剃髪だよ。僕じゃなかったら、怒られているよ」

「それで閣下はどちらに?」

「既に中に入られて寛いでおられるよ。くれぐれも姫殿下と同様、粗相のないようにお願いするよ」

「殿下に怒られているのであんまり自信ないんですけど」

「君が嫌われる分には構わないさ」

 

 なんて薄情な人なんでしょう。でも、知らないような態度で誤魔化してくれたことには感謝している。

 

 寺の中へと入っていき、客間の前まで通される。

 

「青波入道閣下、お連れしました」

 

 入れ、という言葉を受けて入室すると妖怪みたいな老人が正座していた。

 

 白くドロッと濁った眼を見たら、大抵の人はビビると思うの。

 

 青波入道閣下……東道青波は皇悠を陰から支援する最大の後援者でもあり、俺の本来の雇い主だ。古式魔法師の世界では恐るべき力を持っており、古くから日本を守ってきた……なんというか、そんな感じの権威と伝統と歴史のある家柄の人だって。日本に巣食う寄生虫の1つだと思う。

 

「長い工作活動ご苦労だったな」

「ありがとうございます。でも、良かったんですか? 大亜連合に魔法技術を流してしまって」

「魔法科高校にある魔法技術は大したものじゃない。それにどうせ、大陸の連中が日本へ攻め込むなんぞ出来はしない」

 

 大亜連合は絶賛ドロドロの内戦中です。足元で火災が起きているのに消火作業中に他国へ兵力を割くなんて、正気を疑うレベルだ。おかげで日本は皇悠を中心に内部改革が推し進めれるのだろう。誰が内戦を誘発させたんだろうな。

 

 顧傑さんは日本における活動拠点を失ったし、十師族は信用不安くらいは残せただろう。皇悠は優しいので、一高で差別による迫害が起きている状況に胸を痛めており、それで咎めているのだろう。大亜連合はそもそも魔法技術を得たところで古式魔法が中心であるため、流用できる元となる技術が無いので宝の持ち腐れ状態だ。大漢を吸収したとはいえ、四葉が虐殺と破壊しまくって紙屑も残らん状態ではねぇ。

 

 戦争なんて起こしている暇は無いに等しい。魔法師は自らの行いのツケを払わされているような状況だ。やっぱり兵器は人間に管理されなきゃダメみたいだね。

 

 一通りの報告を終え、今後も引き続き皇悠の飼い犬として動けと言われた。必要とあらば、肉盾となれとも言われたので大変である。

 

「盾になれとは……既に姫殿下には優秀な肉壁がついているのでは?」

「姫殿下は九校戦を見たいとのご所望だ。姫殿下個人からも依頼があるだろうが、よもや断らんよな?」

「いえ、そんな腹積もりはありません」

「ならば、良いだろう。決して姫殿下の身に傷がつくようなことを起こすな。何かあれば物言わぬ体になるから、用心しておくのだな」

「心得ておきます」

 

 うーん、やっぱり年寄りの下は嫌だな。

 

「それと、九校戦に際して貴様には重要なことを任せたい」

「はい、なんでしょう」

 

 面倒くさくリスクの大きい仕事を任されてしまうのだった。

 

「わかりました。ところで、俺が利用したブランシュやエガリテの人たちはどうなりますか?」

「ブランシュもエガリテもメンバーは君しかいない。君が洗脳して増やしたモルモットなんぞワシは知らない」

「左様ですか」

 

 この人嫌い。

 

 


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