そんなに甘くはない?
懐かしのNINTENDO64向けゲームの『スーパーマリオ64』は、1990年代に多くの人々の心を沸かせたヒット作となりました。そして今や、アルツハイマー病などの予防効果があるとして脚光を浴び、世間をにぎわせているようです。
このほど電子ジャーナルのPLOS ONEにて、55歳から75歳の健康な被験者を対象とした、スーパーマリオ64の効果を謳う研究論文が発表。実験では、毎日30分、週5日、6カ月にわたって、スーパーマリオ64をプレイし続けてもらいました。その結果、脳の海馬および小脳領域の灰白質が増加し、記憶力の向上が認められるに至ったと発表されています。
効果を比較検証するため、同じ期間にわたって、ピアノを習って練習を続けるグループと、なにも特別なことはしないグループも設けられました。その結果、ピアノを続けたグループも、やはり程度の差こそあれ、脳の海馬および小脳領域で灰白質の増加が観察されています。一方、なにもしなかったグループは、脳内の灰白質の減少が報告されていますね。
過去の大々的な研究を通じて、海馬に多くの灰白質を有するならば、特定の精神神経疾患を抱えるリスクが低下することが判明している。
同研究チームを率いた、カナダのモントリオール大学のGreg West氏は、こんなふうに語っています。そして、この論文発表を受けて、一斉に海外メディアでは「スーパーマリオ64をプレイすると認知症予防に(削除済み)」とか「スーパーマリオ64は脳をアルツハイマーから救う」などの見出しが躍り、ややセンセーショナルな研究結果が報じられました。
でもこれって本当に、そう信じてしまってもよいものなのでしょうか?
今回の研究発表について、ルーマニアにあるバベシュ・ボヨイ大学の心理学者のIoana-Alina Cristea氏は、大いに懐疑的な意見を表明しています。まず実験規模の小ささについて。彼女は、3グループ全体でも、わずか33名のみが被験者として報告されていることを問題視しました。スーパーマリオ64をプレイしたグループにいたっては、当初は15名が選ばれていたのに、途中で11名が棄権し、追加で4名が加えられた経緯があるんだとか。つまり、公平にランダムなセレクションがなされたというよりは、そもそもスーパーマリオ64が好きな人たちが選りすぐられてしまう結果になってしまっていると指摘しています。
また、記憶力の向上という効果に関しても、ほかのグループとの比較に疑問が残ると彼女は語っています。たとえば、脳の灰白質減少が認められた「なにもしなかったグループ」は、記憶力の低下はテスト結果に表われませんでした。もしかすると、スーパーマリオ64をプレイしようがしまいが、記憶力には何ら影響がないのでは? そんな厳しい反論もしています。
どうやら今回の研究に携わった当の研究者たちも、あくまでもゲームプレイの効果性を示す小さな一歩に過ぎず、さらなる大規模な検証を進めるべきだとの見解を有していたそうです。しかしながら、海外メディアによってスーパーマリオ64の効果が過大に報じられ、やや当惑してもいるというのが現状みたいですね。
現段階では、お年寄りに慌ててゲームを熱心に勧める必要はないのかもしれません。とはいえ、ファミコンや64世代には夢のある話題でもあるだけに、スーパーマリオとアルツハイマーの関連性について、さらなる続報にも期待したいところでしょうか。
Image: ngorkapong/Shutterstock.com
Source: PLOS ONE
Ed Cara - Gizmodo US[原文]
(湯木進悟)