そんなお話
一高へ合格するための受験勉強、それはまさにえげつない厳しさだった。
筆記はまだいい。元より理系的な思考が出きるタイプだったから、式とか単語とかはきっかけがあればなんとでもなった。
雫とほのか、そして我らがグラハム先生によるスパルタ授業のお陰で、筆記だけの成績なら大分上位のレベルまでは行ける筆記で精々足を引っ張られたのは、長ったらしい小論文だけ。
問題は、やっぱ実技なんですよねぇ…………
才能の壁が大きいよ…………加速関連は確実に満点を叩き出せる自信はある。が、他は良くて平均ちょい下が最高。なんだこれ、ステ極振り縛りプレイじゃないんだから。
でもこれでも結構成長したほうなんだぜ? 最初なんてあれだろ、CADぶっ壊れてんのかなって思うくらい悲惨な感じだったのに、今じゃまだまともになってんだから。努力ってすごいね(小並感)
もう大変だったよ、マジで。いや冗談とかじゃなくて本気で。
学校では雫とほのか両名から学校に加えて課題出されて、学校外ではグラハムによるスパルタ魔法授業。家ではひたすらパソコンで魔法の成功例を見てイメージトレーニング。もう毎日魔法よ、魔法漬けの毎日。
CAD触らなかった日はこの一年なかったし、ノートも何冊書き潰したことやら。プレステとかゲームなんて受験勉強始めてからほっとんど触ってないし。
ここまでやっと、受験許可が正式に降りる。もうヤバイよ、一高って天才の巣窟じゃん。おいおい死んだわ俺…………
けど、うん…………勉強やってるのは、案外嫌じゃなかった。
グラハムにはあんだけ文句も垂れたけど、やっぱ俺も男だし行けるなら上に行きたい。それに魔法は好きだし、大好きだし。
男なら一度は名乗ってみたいじゃん、最強って。俺一応こんなんでも転生者だし。チートもクソもない代わりにキメラハムスターしかないけど。
何よりね、可愛くなった幼なじみ二人と勉強という大義名分で一緒に居られるのはかーなーり役得でしたわ。朝は勉強見てもらって、昼は一緒に飯食って、夜はわからんとこを電話で聞く。
まさに一日中絡んでるわけよ。これはもう付き合ってると言っても過言じゃないだろう(過言)
いいのよ? 別に、努力して夢を掴もうとする俺に惚れても? 俺は全然ウェルカムだぜ? 可愛いから全然オッケーだぜ? 可愛いから(クズ)
というわけで、うーだらうーだらと文句を口にした訳だけども、俺個人としては一高に行きたいと思ってる。途中強制的にあのホモハムスターに路線変更されたのはさすがにキレたけれども、今ではいい思い出だ。
これが今までの流れ。そして、明日は遂に一高入試日。ここまで長かった。本当に長かった。積み上げて来た努力を、明日すべて吐き出すんだ。なんか表現悪いな…………
と、とにかく! 泣いても笑っても明日だ。今日一日でやれることなんてたかが知れてんだ。今更徹夜でやったって明日に響くだけだろうし、何よりもう雫からメールで早く寝ろってお達しが来てる。
だから俺は! 準備をきっちりかっちり終わらせて、確認を三回ぐらいやり終わって夜10時! さっさと寝て、明日に備える!! もう今日やることは、ベッドへダイブして爆睡するだけ!!!
さあ寝ようすぐ寝よう!! 一高は家からちと遠い。少し早起きになるからその分しっかり寝とかないとな。
おやすみなさい…………
「寝れん」
はい回想しゅーりょー。上記のことはすべて過去の回想でございます。今俺はというと…………
絶賛布団の中で目を血走らせながら起きてますね。
いやんなすっぽり寝れるわけねぇだろ。俺はあれだぞ、受験なんて前世でも受けてないんだぞ? 緊張するに決まってんでしょーが!!
何回起きて荷物確認したかもうわっかんねぇよ。一時間置きにカバンから道具出して、確認して、直すしてるし。
時刻は2時。もう完全に深夜、カーテンから光なんざ入ってこないし、俺を照らすもんはなんもない。
いやまーじでどうしよ…………本当に寝れないんだよ、お目目ぱっちりなんだよ。眠気が来ない…………学校の授業とかならすーぐ眠くなるのにな、先生の長話は催眠効果でもあるんだろうか?
さすがにこのまま寝れないのはまずいよな…………ここは少しリビングまで行って、お茶でも飲んで心身共に落ち着かせるっきゃないか…………
そう思って、うつ伏せ状態からうじうじと動き始める。なんかうつ伏せの方が安心して寝れるんだよね、朝前髪ど偉いことになってるけど。
かかってる布団を剥ぎ、すっと体と一緒に顔を上げる。すると…………
『なんだ、眠れないのかカヅキ』
あらびっくり、眼前にグラハムのお顔が。
「うおうぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?」
『ぬおっ!? なんだ、敵襲か!?』
ほぼ条件反射でベッドから跳び跳ねてバックステップ。ドタドタ音だしたら下で寝てる両親に悪いなんてこの際考えない。
「おまっ!? お前、お前静かだなーと思ったらなにしてんの!?」
『なにとは…………そろそろ寝ようと少年の人形を取りに行こうと思えば、君が何かうんうん唸っていたのでな。少し顔を覗き込んだところだ』
「覗き込むなっ!! それもこんな夜更けにっ!!」
普通にビビるわ!! 考えてもみろ、眠れないなーって顔上げたら、目の前に人間の顔つきハムスターがいるところを。その辺のホラゲーよりも恐怖度高いわ。
「てか観賞用フィギィアを抱き枕に使うなって何回も言ってんだろーが!!」
『あれをすると、心が安らぎ翌日の行動が快適になるのだ。君もやってみるか? 心地よいぞ?』
「いや痛そうなんでやめときます」
樹脂で出来た人形抱えながら寝たら寝相でえらい目に合うわ。主に俺と抱き抱えるフィギィアの二つが。
刹那人形は…………うん、なんかもうあれはいいかな。最早何代目かも不明だし。
『まぁそんな事は端に置いておこう。カヅキ、眠れないのか?』
「あーうん、明日のことを考えるとちょい緊張して…………」
『確かに。明日は人生最大とも言える大勝負だ。緊張するのも仕方がない。が、それでもきちんと休息をとらなければ、出せる力も出せずに終わってしまうぞ?』
「うっ…………まぁ、そうだけど…………」
グラハムの癖に案外まともな事を言いやがる。いつもは『わー少年のフィギィアだーペロペロペロペロ』みたいな事やってるトラブルメーカーハムスターの癖に。
けどそれでほいって寝れたらこんな丑三つ時まで起きてないんだよ。プレッシャーに弱いとその界隈から定評がある俺は、受験という重圧に絶賛押し潰されてるんだから。
『ふむ、ならば仕方がない。私が君に、とある筋から入手したよく眠れる安眠道具を渡そう』
「えっ? とある筋ってなに? そんなコネクトあるの? てか刹那のフィギィアとかならいらないぞ俺は」
『そうではない。あれは君のサイズには合わない、加えて私専用だ。』
いやサイズが合ったとしても使いたかねぇよ。勝手に専用にしとけ俺は絶対使わないから。
言い終えると、グラハムはなにやら自分の口に手を突っ込んでごそごそと何かを探し始める。ほんとどういう造りしてんだあいつの体。
内部完全に四次元ポケットじゃん。やってることドラえもんと一緒だけど絵面が、絵面がキモい。口のなかガチャガチャ言ってるし、どんなもんその腹に納めてんのこのハムスター?
しっかし安眠道具か…………何があるんだろ? やっぱ妥当なのはアイマスクとか? その辺の物にあんま詳しくないからわかんないわ。
とまぁそんな事を考えてたら、目当ての物を探し当てたのかグラハムが何かを引っ張り出す。うわ口むっちゃ伸びた、お前やっぱ人間じゃねぇや(再確認)
グラハムが口から出した物はそれこそ俺の身長くらいの長さのクッション。それこそ、本当に用途がしっかりした抱き枕という感じで…………
『さぁ、このコマンドー式サリー抱き枕で明日に備えるんだ』
「いや微塵も欲しくねぇよ!!!!」
いらねぇ!? いやいらねぇ!? (重要なので二回)
なんでなの!? 抱き枕なのはわかるけど張るイラストがなんでコマンドーなの!? もっと他にあっただろうが可愛いキャラとかさ!? こんなゴツゴツのおっさんで気分が落ち着くわけないだろ!?
なんでサリー!? そいつ『うわぁぁぁぁぁぁぁん!!』って叫びながら崖に落とされる奴だろ!! 顔もそのシーンの顔してるし!! てかどこに需要があるんだよこの抱き枕!? 作ったやつ頭イカれてんじゃねぇの!?
『なーに、心配するな。この抱き枕は優秀でな、ボタンを押せばコマンドー名言集を語ってくれるぞ』
「それのどこに心安らぐの!? 野郎ぶっ殺してやるって殺害予告耳元でされて落ち着く輩なんているわけないだろ!? アホかお前は!!」
『アホではない! グラハム・エーカーだ!!』
「知ってるわ!! 論点そこじゃねぇよ!!」
どこでこんな
『それカヅキ、コマンドー名言集に高まる心が安らいでいくのがわかるだろう?』
「お前はこれで落ち着けると思いますか?」
『? だから渡したんだぞ』
あーはいソウデスネ(諦念)
こいつは感性が常人のものとは百八十度違うんだった。
グラハムが吐き出した
「なんかさ、もっとまともなもんないの? こんなイカれた感じのやつじゃなくてさ」
『イカれてるとは失礼な。私の同好の士が、「攻め手が載る抱き枕、これはきっと新しい風が吹きますよ!!」と力作した作品だぞ』
「同好の士って誰よ? てかオーダーメイドなのこれ?」
注文された業者どんな気持ちでこれ作ったんだろう…………
これでコミケにでも出るつもりなの? 確実に誰も並ばないか、ある意味ネット上で伝説になるかの二択になる未来しか見えてこない。
『しかしカヅキがいやというなら仕方がない。他の手を考えよう』
お願いだから今のは冗談だと言って欲しかったけどどうやらこいつ本気でコマンドー抱き枕で安眠出来ると思ってるらしい。ホモもここまで来ると怖くなってくるわ。
『ならば、子守唄はどうだ』
「子守唄?」
『そうだ、音楽というのは科学的にも精神の安定剤と成りうると検証されている。なら、私が君へ歌えば良いだろう?』
えぇ…………(困惑)
子守唄はわかるけどお前が歌うの? なぜ? スマホで調べてイヤホンで流せばいいんじゃないでしょうか? (名案)
『生の物でなければいけないらしいぞ?』
「あぁ…………そうですか」
なんかもういいや、グラハムがそう言うならきっとそうなんでしょう知らんけど(投げやり)
「じゃあなに? 俺はただ静かに横になってればいいの?」
『ああ、時折合いの手をいれてもらえると助かる』
「子守唄ってライブみたいに合いの手いるもんだっけ?」
子守唄:子供を寝かしつけたり、あやしたりするために歌われる歌。合いの手は通常いらない(ここ重要)
『さて、それでは歌うとしよう…………私の歌を聞けっ!!』
「シェリルの真似はやめい」
咳払いを数度。喉の調子を合わせたのか、たかが子守唄にそこまで全力になるか普通? まぁグラハムだからと言えばそうなんだけど。けど子守唄ってなにを━━━
『もうだめ!! これ以上行きたくなァい!!!』(裏声)
!?!?!?!?!?!?!?
『あの人が死んでしまう…………地球に帰ったって、もう、あの人はいないわ。私まだ何も言ってないのに! 好きだとも、愛してるとも、抱いてとも言ってない、何一つ…………言えなかったのよぉ。』(裏声)
ナニコレ? (遊戯)
子守唄をするんじゃないの? この寸劇はなんなの? てか歌じゃないし、なんだか内容が不穏だし、グラハムの裏声が気持ち悪いし。
あと、今のグラハムのセリフはどっかで聞いたことが…………
『本当はあの時、キスして欲しかった。…………抱いて欲しかった。好きだと言って欲しかったのよ。それなのに…………それなのに…………このまま、もう逢えなくなってしまうなんて…………絶対にいやァァァァァァァ!!』(裏声)
このまま続くの!? 歌は!? 最近の子守唄ってミュージカル調なの!? んなわけあるかい!!
というか本当に聞き覚えあるぞ。いつだっけな…………確かなんかのアニメのセリフ…………
ブチンっ!!
ん??
『お姉様、しっかりして下さい! このままじゃ、やられてしまうわ!』(グラハム2号機裏声)
分裂したぁぁぁぁあ!? 配役が増えたぞオイ!!
『コーチの六ヶ月はどうなるの? 本当はコーチだって、グラハムと一緒にいたいはずよ! 最後の六ヶ月よ!! 本当は、行くなと抱きしめてやりたかったはずよ! それをコーチは自分を捨てて、その半年を、あたし達にガンバスターに賭けたのよ! これは、その六ヶ月なのよ! グラハム!!』(裏声)
おめぇらどっちもグラハムだろうが!!名称分けろや紛らわしいっ!!
というかコーチ? ガンバスター…………??
あっ、
これトップをねらえじゃねぇかよ!?!? それも一番熱いシーンの!!
てことは待て、もしかして子守唄って…………
『お願い! グラハム! 戦ってェ!!!!』(グラハム2号機)
『…………わかったわ、グラハム。合体しましょう!!』(グラハム)
『お姉さま!!』(グラハム2号機)
『『foooo!!!』』(野太い声)
テレレッテッテテテテーレッ!! テレレッテッテテテテーレッ!!
「やっぱf○y highじゃねぇーか!?!?」
子守唄で選ばれる曲じゃないだろどう考えても!? 明らかにテンションガッツリ上げる用の曲だろうが!!
というかなぜ最後だけ地声になったし!! やるならそこも裏声頑張れよ!!
あかん…………これ乗ったら確実に俺もう今日寝れんくなる…………今のうちに耳を塞いで置かなければっ!!
『あなたの六ヶ月。この六ヶ月戦ってみせるわ。あなたの為に。それが…………あなたと同じ時を生きる、唯一の方法なのね。』(裏声)
グラハム迫真の演技っ!! なんて奴だ…………後ろにガンバスターが見えてきそうだぜ…………
けど俺は乗らない。もう寝る確実に寝るだから、俺はガンバスターなんて叫ばない。
『ガァァァァァァァン!!』(グラハム地声)
俺は寝る…………寝るんだ…………
『バァァァァァァァス!!』(グラハム地声)
俺は…………俺は…………!!
『『「タァァァァァァァァァァァ!!!!」』』
はい、乗っちゃいました。
男子だから、こういう熱い展開大好きだから、あと深夜テンションだから。なんか色々諸々コミコミだから、仕方ないね(現実逃避)
結局、俺はそのままグラハムとグラハム2号機と一緒にギャーギャーと騒ぎ、途中でプツンと倒れるように寝た。騒ぎ終わった頃は、確か朝方の4時だったと思う。
で、騒ぎに騒ぎ、ほぼ徹夜と同等の事をした結果。
「あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"寝坊じだあ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"」
寝坊、しちゃったぜ( ;∀;)
ガンバスター、知ってる人いるかな?
周りにいなくて悲しい作者です( ;∀;)