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いもけんぴ
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放課後の約束 - いもけんぴの小説 - pixiv
放課後の約束 - いもけんぴの小説 - pixiv
8,351文字
放課後の約束
キ学軸の宇善です。技量の無い人物の書いたホラー風味ですがそれでも苦手な方はやめておいて下さい。
儀式はネットで有名な某あの儀式を参考にしております。ふわっとした感覚で書いたので、詳しい方は何も突っ込まずに宜しくお願いします。

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我妻善逸はある日実習棟にある美術準備室の窓から美術教師宇髄天元に声をかけられ、半ば無理矢理美術部へ入部させられる。
美術部員は善逸ひとりきり。宇髄先生とのふたりきりの部活動が始まったのだった。
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2020年12月31日 05:51

「先生今日は何を手伝えばいいの?」 「そうだな、今日はその古雑誌の束を解いてあの棚に発行順に並べてくれるか」 ──────それ、この間縛ったばっかりじゃん…



善逸の通うキメツ学園には部活動に所属しなければならないという規則は無く、善逸も特にどこにも入る気など無かった。けれど入学したての4月のある放課後、帰路に着こうと実習棟の前を善逸が1人で歩いていたら「おい、そこの」と男の声が上から降ってきた。 「は?え??」 キョロキョロと周囲を見ても誰もいない。ぐりり、と首を真上に向けてみると実習棟の4階の教室の窓から上半身を乗り出している人物がいた。どう見ても生徒じゃない、かと言って教師のようでもない。服装はダボついたスウェットパーカーだし、遠くて良く見えないがギラギラした何か装飾品が額についている。何アレ?頭突きする為の武器!?と善逸は恐怖した。銀色らしい髪も長くてやけにキラキラしている。でもそれが不自然じゃない程にその男の顔は整っていた。うん、絶対先生じゃないな!と善逸は確信した。 「え、やだ!じゃあ学校にガラの悪い不審人物が入り込んでるって事!?」 「誰が不審人物だ!コラ!正真正銘ここの教師だっつの!」 「え、アンタ先生なの…!?怖……」 「お前ちょっとここまで上がって来い」 今思えばあんなガラの悪い男の自称教師をなぜ信じたのかと思うが、善逸は素直に4階まで上がって行った。4階まで上がるととんでもなく男前の美術教師が美術準備室のドアから顔を出して手招きしていたので渋々歩み寄ると 「ド派手な髪だな気に入った。俺の所に来い。名前は?ここに書け」 と半ば無理矢理この美術準備室に引っ張り込まれてその場で美術部の入部届を書かされたのだった。

「我妻善逸ね、覚えた」



入部から3か月、夏になった。 善逸は毎日放課後にこの美術準備室を訪れる。 部活動をしに。 美術準備室は本校舎の裏の連絡通路から続く実習棟の4階の端に位置していて、他にもこの棟には化学実験室や視聴覚室、調理実習室なども入っているのだけどどこも放課後はほとんど使われていないらしく実習棟はとても静かだ。 少なくとも4階はいつも人けが無い。 そんなわけで宇髄はこの美術準備室も美術部活動も誰にも咎められる事なく好きに使っているようだった。

美術部は、入ってみれば部員は善逸1人で、活動だって絵を描くのかと思えば「俺の仕事を手伝え」と準備室の整理やら資料探しをさせられるばかりで美術部らしい活動は何もしていない。これでは宇髄のお手伝い部だ。 ならばたまにはサボってしまえば良いのだけれど、毎日部活の終了時に宇髄は 「おい善逸、明日もここに来いよ、約束な。約束破って来なかったらお前の事迎えに行くから」 と恐ろしささえ感じるような美しい笑顔で宣ってくるので、善逸はまた翌日も一人で部活動をしに準備室に向かうのだった。

そして本日も冒頭のやり取りである。 宇髄の言いつける手伝いは言わば雑用である。 ただ、その作業にほぼ意味を感じない。 ある日に縛れと言われた雑誌の束を今日は解いて並べろと言う。先日は授業に使うからと小石を何十個も数えさせられた。デッサンのモチーフに使ったけど大きすぎて処分できないからと粘土の塊を小さく切り刻まされた日もある。

「先生この手伝い意味あるのー?」 「意味なんか無さそうに見えてある事もあれば無い事もある」 「無いんでしょ!!」 「ははは、それ終わったら冷蔵庫のアイス食って良いから頑張れ」 「え!アイスって何、何?」 「お前がこの間言ってた月見大福の期間限定のやつ。今度買ってやるって約束してたからな」 「頑張ります!!」 宇髄は善逸の話したなんて事ない話や言葉のあやのような約束も覚えていてくれて、そんな所を善逸はとても尊敬している。

美術準備室は普通の教室よりは少し狭いけれど、その中に事務机と、作業用にくっつけた4つの学習机、椅子が数脚置いてある。壁に並んだ棚はデッサンモチーフや教材だらけで、空いている場所があれば中身を乱雑に詰め込まれた段ボールやら縛った資料本などが置かれているから、この小さな部屋の中で行きたい場所に真っ直ぐ歩けなくて面倒だ。そして窓の前に一台のイーゼルと一脚の椅子。宇髄は部活中いつもそこに座って絵を描きながら善逸と話す。

善逸は解いた古雑誌をまずは机上で発行年別に分ける事にする。せっせと手を動かしながらチラリと宇髄に目をやると、宇髄もこちらを見ていた。目が合って善逸の心臓が跳ねあがる。頬がカアっと熱くなる感覚がして慌てて見ていないフリをして手元の作業に視線を戻した。美術関連の雑誌のようだけどいったい何年分溜め込んであるのか、結構な冊数がある。

あの時、「俺の仕事を手伝え」と宇髄は言った。 「あと、絵のモデルも」とその後に付け足してきたのだ。 「モデル!?無理無理無理!!俺じっとしてられないし!」 「じっとなんてしてなくていい、勝手に見て描く」 「え?そんなので描けるの?」 「俺様を誰だと思ってんだ、神だぞ!動いてるぐらいで丁度いいわ」 「何の神ですか…。まあそれで良いなら、どうぞご自由に」 そうして善逸が手伝いという名の意味の無い作業をしている所を宇髄は見て描いているのだ。 だから宇髄がこちらを見ていても何も不思議ではないし、この意味の無い手伝いは動くモデルとして必要な作業なのだ。 それでも、善逸の跳ねた心臓はその後もなかなか落ち着いてくれないし、顔も赤いまま冷めないから余計に宇髄の方を向けなくなる。



入部してからしばらくした頃、嫌だ嫌だと通い始めた美術部はいつしか善逸の放課後の楽しみになっていた。 宇髄は話が上手い。日常のふとした話、ちょっとした昔話、豆知識。どれも面白くて善逸は手伝いの最中も退屈しなかった。そして話し上手は聞き上手と言うが宇髄は善逸の話を引き出すのも上手くて、その日の出来事から幼少期の思い出、些細な悩み事も善逸は宇髄に打ち明ける程気を許すようになっていった。宇髄は善逸の話をちゃんと聞いてくれて、小さな出来事にも大笑いしてくれたし悩みはどんな事にも真面目に答えてくれた。これは部活の最中で宇髄は教師だからそれが当たり前なのだとわかっていても、2人きりで互いの話を毎日交換し合っていたら気づいた時には善逸は宇髄を好きになってしまった。 (あーあ、失恋決定片想いかぁ…)

「先生って彼女いるの?」 ある日善逸は思い切って聞いた。善逸のはるか昔の初恋や最近好きなアイドルの話はした事があったけど、宇髄の色恋話はそう言えば聞いていなかった。 (こんな男前でいないとは思えないけど) 「彼女?いねーけど?」 「ええっ、嘘っ!?何で??」 「いや、何でって言ってもいねーもんはいねーよ」 「え、おモテにならないの!?」 「アホか、モテモテだわ!いねーんじゃなくて作らねーの」 「うっ、うわーっ!腹立つ台詞!」 宇髄を指差して非難の声をぶつけるが、善逸は内心ホッとする。 「好きなヤツがいるからいいんだよ」 「えっ?」 善逸の喉がグッと詰まる。 (あーやっぱり、そうわかっててもショック) 視界がぼやっとして鼻もグズグズしてくる。これは泣いてしまう、ヤバイ、止まらない。 「あ!すいません、ちょっとトイレ!」 慌てて身を翻してその場から逃げようとすると、グイッと後ろに腕を引かれてボスンと何かに背中がぶつかる。 「ちょっ、先生…急に引っ張らないで…うっ、うぇっ…」 どうやら宇髄が善逸の腕を引いたので、後ろに倒れて宇髄の胸に背中をぶつけたようだった。体格の良い宇髄なのでぶつかったところでびくともしなかったけど、その衝撃で善逸の目から堪えていた涙の粒が溢れ出してしまう。 (あー、これはもう先生にバレる!絶対気まずい!部活辞めないといけないな…) 涙の理由が自分への恋心だったと知ったら宇髄だってこれからの接し方に困るだろう。それに善逸だってフラれた相手と今までと同じように過ごすのは難しい。



「善逸にモテたいんだけど」 「…はっ??」 予想外の言葉が後頭部の辺りから聞こえて善逸は聞き間違いかと思った。 「じゃなかったらあの日ここに呼ばなかった」 「へっ??」 「部活動の顧問なんてめんどくさい事したくないから部員ゼロで良かったんだよ。でもお前と毎日会えるならやってもいいって思って…」 「えっ?あっ?あの日って、な、んで??」 あの日、それは宇髄が4階から善逸を呼んで入部届を書かせた日、つまり初めて出会った日だ。 「髪が派手だから」 「それだけ!?」 「きっかけなんてそんなもんだろ、後から色々ついて来るもんなんだよ。今はこうやって照れて大騒ぎするとことか、顔くしゃくしゃにして甘いもん食うとことか他にもたくさん好きだ」 背後から善逸を抱えたまま宇髄は告白してくるので、今彼がどんな表情をしているか見えない。でもその声は真剣だ。この体勢では善逸の心臓が大太鼓を鳴らしている振動も伝わっているんじゃないだろうか。 (宇髄先生が俺の事好きって……嘘すぎない?)善逸の心臓の大太鼓が連打をやめなくて言葉が上手く出せない。早く、早く返事をしなくちゃと思うのにビックリしすぎて何を言うか考えられずに口だけがパクパクと動いてしまう。

「………あ、あの…モテてます、俺に」 「善逸に?」 漸く喉奥から押し出した言葉は妙な倒置法みたいな言い方になってしまった。 「俺、先生が好きだから……」 添えられていただけの宇髄の手が動いてギュッと善逸を背中から抱きしめた。 「はー何だそれ、めちゃくちゃ嬉しいんだけど」 ボソボソと照れくさそうに囁く宇髄が可愛くて善逸の胸がキュゥっとなる。 「あ、あの、どうしましょうか……俺達」 「今は教師と生徒だから、卒業したらこの髪も体も爪先まで全部俺のものにさせてくれ。約束な」 「う、うんっ…!」 ソレってつまりそう言う事だよね?卒業したら体をって…!!恋が実った興奮と、体の関係を想像してしまった恥ずかしさで善逸は今にも倒れそうだった。 「それまで部活辞めるなよ、他のやつにふらふらすんなよ、約束な」 「うん…」

約束。そういえば宇髄はやけにこの言葉を使うなとその時善逸は少し引っかかったけれどそれどころじゃなかったのでそれは放っておいた。

あの告白から今日で1か月。もちろん教師と生徒として毎日の部活を行っているのだけど、こうして度々ぶつかる視線や言葉の端々に特別な熱を互いに持ち、感じるようになった。宇髄は大人だからかそれでも落ち着いた態度でいるけれども、善逸は赤くなったり汗をかいたりドキドキしっぱなしだ。 そして宇髄は時折善逸に触れてくるようになった。髪を一房摘んだり指先で善逸の手や頬を撫でる程度だけれど、善逸には逆に官能的な仕草に感じてしまう。加えてその時の宇髄は熱の籠った目をしながら「あー早く俺のものにしたい」なんて言うのだからたまらなかった。 (俺も早くあんたのものになりたいよ、2人きりなんだからいっそしてくれたっていいのにな)

七月の中頃になって、クラスメイトの村田が話しかけてきた。 「なあ我妻、最近フイッターで話題の降霊術知ってるか?」 「何それ、こーれーじゅつ??」 「霊を呼ぶ方法だよ」 「え、てゆーか呼びたくないんだけど!?」 村田はその手のSNS上の噂話やオカルト系の話が好きらしく、良く話題に上げてくるのだ。 「そうなんだよ、呼びたくないのに呼んじゃうんだよ」 サラサラの髪をかきあげながら村田は続ける。 どうゆうこと?と善逸は少しその話に興味を持つ。 「最初はコレは運気が上がるおまじないだとか、未来の自分と会えるだとか言われてフイッターで拡散されてたんだ」 「ふんふん」 「紐を結んだり解いたり、数を数えたり、部屋の中をわけのわからない順序で歩かされたり」 「へー」 「それで何もいい事なんておきないって反応がほとんどだったんだけど、色々な方面から詳しいやつの考察が出始めてさ、それってむしろ降霊の儀式じゃないかって」 「紐を結んだり解いたりが?」 「そうそう、意味の無さそうな事一つ一つが何かの見立てでさ、それを当て嵌めて行ったら…」

ゾクリ

善逸の背中に悪寒が走った。同じような会話を最近しなかったか? 結んだり解いたり────数えたり────しなかったか?

「あとこれちょっと気持ち悪いんだけどさ、何でもいいから生物の形のものバラバラにする工程があってさ、キャラクターのぬいぐるみとかでいいらしいんだけど。それが生贄の見立てじゃないかって言われててさ」 「げっ!それ、めちゃくちゃ怖いじゃん!」 「でも生贄だなんて皆んな思わないからさ、家にあるオマケとかで貰ったいらないキャラクターグッズとかでやっちゃったみたいでさ」

バラバラに──────した。 粘土の塊。だけどあの塊、元はどんな形だったのだろう?気にもしていなかったけれど、確かに何かの形をしてはいた。手足らしきものも付いていた気がする。どうしてそれが何なのか確かめなかったのかと善逸は後悔した。

「我妻?ごめん、怖すぎたか?顔色悪くなっちゃったな」 「あ、ううん、大丈夫。それで幽霊出た人いたの?」 「んー、こればっかりはネットだから真偽がわからないんだよな。ほら、バズりたくて面白おかしく嘘書いてくるやつもいるし。でも、何かいる気がしたとか音が聞こえたとか、手が見えたとか声がしたとかいう体験談がちらほら出始めて、それでこれは運気を上げるおまじないなんかじゃないぞって話題になったんだよ」 「知らずにやっちゃったらどうしたらいいんだよ?」 「その情報はまだ誰も辿りつけてないみたいなんだよなー、だから我妻ももしフイッターで回ってきてもやるなよ」 「うん……やらないよ」

その日も善逸は部活の為に美術準備室に行った。だって約束だから。 授業中の話、昼ごはんの友人との話題、昨晩のテレビ番組の事など宇髄とはいつも通り話した。ただ、村田とのあの話は口にしなかった。きっとこの話はしても面白くないから、善逸はそう自分を納得させた。でもお腹の中にでっかい不安が居座っているのも無視できなかった。 今日の手伝いは何故か何丁もある鋏に糸を巻きつける作業だった。授業でデッサンのモチーフに使うのだと宇髄は言った。だからこれは意味のある作業なのだ、意味のないふりをした儀式などではないはずだ。 「善逸、今日なんか元気ないな?どうした」 宇髄は善逸の変化に目ざとく気づいてくれる。それはいつもそうだ。 「あ、あの、期末テスト近いから、勉強あんまり順調に進んでなくて、それで心配で」 これは別に嘘じゃない、本当だ。でもそれを自分にわざわざ言い聞かせている事で善逸は何かを見て見ぬふりをしている自分にも気づく。 この不安を、わずかな恐怖心を、宇髄に悟られてはいけない。 「じゃあ今日はもう手伝いしなくていいから、ここで勉強してろよ」 宇髄は優しく笑って言う。いつもの宇髄だ、何も怖がらなくていいはずだ。2人だけの甘い時間をただ過ごせばいい。 「教科書全部家だから、今日は早めに帰ります……先生ごめんなさい」 「え、もう帰るのか?」 緊張して声が震えてしまった。きっと宇髄は気づいている。宇髄の表情を見るのか怖くて顔が上げられない。

「……そっか、テスト期間はしょうがねえよな。よし、帰れ帰れ!手伝わせて赤点取られちゃ俺が叱られちまうわ」 ハハハと笑ってくれた宇髄にフッと善逸の緊張も緩んだ。村田の話のせいで変な事を考えすぎてしまったようだ。安心して顔を上げて宇髄の表情を見た善逸はヒュッと息を飲んだ。宇髄は笑っていたのに、その目は何だか怒っているようにも見えたから。

「善逸、明日もここに来いよ、約束だ。来なかったら迎えに行くからな」



帰ってから善逸はスマホで検索した。 『鋏 糸 巻きつける』と。



次の日の昼休み、いつも一緒に昼食を取る炭治郎と伊之助と今日も弁当を食べながら話していた。2人とは幼馴染で小学校から一緒だ。高校では2人は剣道部に入ったので朝練と放課後の練習で中々一緒に過ごせなくて、2人との昼食は善逸には美術部と並ぶ大切な時間だった。 「善逸、今日は剣道部も休みだし久しぶりに一緒に帰ろう」 「どっかで何か食い物買って紋逸の家で一緒にテス勉しようぜ」 聞けば剣道部は期末テスト前だから今日から試験期間終了まで休みになるようだ。 「ごめん、美術部は部活あるんだ。先にどこか店で2人でやっててよ。先生に部活早めに終わってもらって合流するから!」 そう返すと炭治郎と伊之助の2人は顔を見合わせていた。 「部活って今日もあるのか?善逸」 「え?あるよ?先生にも昨日、明日も来いって言われたし」 「他の部員の人にも確認してみたらどうだ?テスト前だから全部活休みのはずだぞ?」 「…え?いや、他の部員って言っても…」 他にいないし、と言おうとしたけど伊之助が「俺が聞いてきてやる」と教室にいた女生徒の所へ行ってしまった。その子に聞いてわかるわけないでしょうが、困っちゃうよきっと。

「紋逸、今日美術部は休みだってあの女は言ってたぞ」 「……何で美術部の予定知ってるんだろ?」 「あの子が美術部だからだろ?皆知ってるぞ、何言ってるんだ善逸」 「え?美術部?あの子が?」 「それとあの女が、我妻くんは美術部にはいない、ってよ」 「……え?もしかして美術部って2つあるのかな、俺とその子の部活違うんじゃない?」 「善逸、何を言ってるんだ、そんなの聞いた事ない。美術部は一つだけだ」 「じゃあ俺、毎日宇髄先生としてるの部活動じゃなくてただの手伝いだったって事?入部届も書いたのにな」 「宇髄先生……?」 「そう、美術の」 炭治郎の表情が険しくなって善逸はビクリとする。 (もしかして先生と部活じゃないのに2人でいたってのがダメだったかな?さすがに先生と付き合ってるとかバレたらマズいよね) 「善逸、毎日部活ってどこに行っているんだ?」 「えと……美術準備室…だよ、実習棟の4階の」 (準備室じゃ絵を描いてないってのもバレバレだよな。先生バレそう、ごめん!)

「善逸、俺は美術準備室に入った事がある。だけどあそこは荷物がたくさん押し込まれててほぼ倉庫みたいになっていた。中で何かできるような部屋じゃない。」 「それっていつ?それから片付けたんじゃない?」 (炭治郎は片付いてから入った事がないんだ)

「……紋逸、お前さっき実習棟の4階って言ったな」 「言ったよ」 「美術準備室は3階だぞ」 「……あれ?俺、階数数え間違えてた?」

「そもそも実習棟は3階建てだから、4階なんてねぇよ。お前毎日どこに行ってるんだ」

善逸は急に2人の声が遠くなるのを感じた。

(だって先生いつも4階にいるよ、あの美術準備室のドアから顔出して、手招きして呼んでくれるよ)

「それに善逸、うちの美術の先生は田中先生1人だ、授業だっていつもそうだろう?宇髄先生なんてこの学園にいない」

善逸の顔から一気に血の気が引く、頭がぐらぐらと揺れて今にも机に伏せそうになる。

(そういえば宇髄先生と美術準備室以外で会った事、ない。先生なのにどうして)

冷や水をかけられたように全身が冷たい。

「善逸、もうその美術準備室には行くな、その宇髄って人にも会うな、何か変だ」 「…………でも、約束が…」 「約束?どんな約束をしたんだ?」 「それは────」 (来なかったら、どうするんだっけ)

「紋逸、行かないって言え、約束なんて破れ」 「でも、約束を守らないと────迎えに来るって」 「教室にか、じゃあ俺がその怪しいウズイ捕まえてやる!」 (そうだ、どこに迎えにくるんだろう)

「善逸、行くな。俺たちと一緒に帰ろう」 (でも行かないと迎えに) 「紋逸、もう部活やめろ」 (やめないって約束した) 「…………わかった、行かない……」 (約束を破った……)

すぐ側にいるはずの2人の声が再び遠のき、代わりに遠くから別の音が響き始める。 足音が、階段を降りてくる。 そうか俺が手伝っていたのは───

「あぁ善逸、約束破っちまったな。じゃあ約束どおりお前を迎えに行くぞ。せっかく卒業まで待ってやるつもりだったのにな」









放課後の約束
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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

我妻善逸はある日実習棟にある美術準備室の窓から美術教師宇髄天元に声をかけられ、半ば無理矢理美術部へ入部させられる。
美術部員は善逸ひとりきり。宇髄先生とのふたりきりの部活動が始まったのだった。
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