色々挨拶する前にまずお伝えしたいことが。僭越ながら、今までの話(特に序章)の描写をかなり修正しました。大まかな流れは変わっていませんが、ところどころ丸っと変わっている部分もあるので、気が向いたら確認してみてください。(一つ具体的に言うと、きよぽんがオリ主の苦悶に気付くタイミングが大分減っています。)
さて、どうして久しぶりに投稿する回がtipsなのかと言いますと、これまで長らくお待たせしていた原因と関係がございまして……普通に難航しています。
やはり原作キャラを再現するのがムズイ。本作の展開のための舞台装置感が否めない。という気持ちが拭えず頭抱えていたらいつの間にか二か月半経っていました。なので実質エタっていません。オリ主の性格も多分きっと恐らく見失っておりません。(ちょくちょく様子見に来てくれている方が万が一いるなら、各話の更新履歴を見て薄々まだ活動は続いていると気づいていらしたかもしれませんね)
妥協、と言うと言い方が悪いですが、そろそろ自分の力不足を大人しく認めて本編の続きも投稿できたらなと思います。
実は今後の展開についてお伝えしたいことや取りたいアンケートがあるのですが、それは本編の方で書きたいと思います。
「今から何人かで食堂に行こうと思うんだけど、誰か一緒に来ない?」
その提案は、当たり前として定まりつつあった穏やかな騒めきに投じられた、刺激と言える一石だった。
教室中に行き届いた声に、多くのクラスメイトの視線が一点に集まる。
中でも、他人と関わることに内心鼻息が荒くなってしまいそうなほど必死になっている少年――綾小路は、人知れず猛烈な勢いで振り返った。
尿意に従いトイレへ行き、戻って来た矢先の願ってもいなかった蜘蛛の糸。垂らしているお釈迦様はクラスのリーダー、平田洋介だ。もしかしなくとも、親睦会の意味を込めての発言だろう。
早くも餌に群がる鯉のように、半数近くの女子が彼を囲み始めている。が、彼の困り顔から察するに、多少は同性とも食事を共にしたいと暗に嘆いているようにも感じられた。間違いない、間違いなくそのはずだ。
大抵は浅川と堀北と昼休みを過ごしているものの、予め伝えておけば一方はやんわりと了承してくれるだろうし、もう一方は無愛想に催促してくるはず。
ともなれば、これから自分の取るべき行動は決まっていた。
これはまさしく、好機……!
綾小路は、無駄に洗練された無駄のない無駄な動きで音もなく最速でメシアたる少年のもとへと接近する。
「ひら――」
名前を呼ぼうとした、その時。
平田は無惨にもこちらに背を向け、廊下を出て行ってしまった。
ピタリと足を止め、その場で固まる綾小路。
クソッ!
あと一歩だったのだ。あと一歩で、束の間の至福な一時に漕ぎつけられそうだったのに……。
平田は確実に自分の存在に気付いていた。現に一瞬、彼は自分と目が合っていたのだ。何なら口も開きかけていた。
なら一体何がいけなかったのか。そんなもの一目瞭然だ。
異性の集団に臆することなく突撃できるほど勇敢であれば、今の綾小路は既に交友関係に悩むことなどなかっただろう。
特にあの軽井沢とか言う少女。女子カーストにおいて櫛田と双璧を成している彼女はやけに平田と親し気で、今しがたも急かすように彼の腕を引いて退室していた。あれは突如として現れた異物である自分への牽制に他ならない。「あんたなんかが平田君と一緒にご飯を食べようなんて思わないで、邪魔だから」と貶された気分だ。
オレは、無力だ……。
ともあれ今の綾小路がクラスで真面な権威を持っているはずもなく、自分が平田に釣り合わないというのは一概に否定できないことであるため、尚更肩を落としてしまう。
思わず膝をつきそうになっていると、今度は背後から名前を呼ばれた。
何だか前にも似たシチュエーションで似た声で呼ばれた気がすると思いながらゆっくりと振り返ると、予感した通りの人物が目に映った。
「桔梗……?」
「こんにちは。元気なさそうだね?」
周りに人がごった返している中で彼女と話すのは初めてだ。池や山内など彼女の虜になっている一部の男子から突きさすような視線を向けられているのも、これまでになく冷や汗の滲む経験だった。
「ああ、たった今高度な駆け引きに敗れて苦汁を飲まされていたところだ」
「カケヒキ? クジュー?」
櫛田は綾小路の目線を辿り、やがて「ああ」と納得した。
「平田君は人気者だからね。王子様に夢中になっている女の子ほど、押せ押せな人はいないと思うよ」
なまじ慰めとも取れる対応をされたが、綾小路は意にも介さず自己嫌悪を重ねていく。
「押せ押せだと……? オレの方が、あいつに近づきたいと思っているはずだ。オレが、一番、あいつのことを……」
「あ、綾小路君……?」
どんよりとした雰囲気を醸し出す彼に彼女はたじたじだ。
受け取り方によっては特殊な恋心と間違われそうだが、友達づくりに難航している様子から単に友情を渇望しているだけだということは理解してもらえているようだ。
彼女は苦笑しつつも会話を続ける。
「勇気を出して声を掛けれたら、平田君なら応えてくれるんじゃないかな?」
「まさに応えてくれそうだったんだが、女子の圧というのは凄いものだな。足がすくんでしまった」
「あはは……まあしょうがないかな。軽井沢さんに至っては平田君と恋仲だから、少しでも一緒にいたいって逸る気持ちがあるのかも」
「え」綾小路は目を丸くした。「そうだったのか?」
「うん、結構有名な話だよ? 早くも学年きっての美男美女カップルの誕生だーって」
「……初耳だ」
無関心というわけでもないのに、どうしてこうも自分は情報に遅れてしまうのだろう。密かに精神に追い打ちを喰らった。
「でも、何だか不思議なんだよねぇ」
「ん、どういうことだ?」
左手の人差し指を顎に当て可愛らしく首を傾げる櫛田に問いかける。
「うーん……私の勘違いってこともあるから、ちょっと言えないかな」
濁されてしまった。どうやら彼女の中でもまだ確信には至らない疑問だったようだ。
ただ、今の一言で推測できることもある。広義には平田と同じ穴の貉である彼女が態々口にするのを渋るということは、恐らくあのカップルについて良くない言い方をする意見だったのだろう。
それが何なのかイマイチよく理解できないのは、自分が『コイナカ』というものに関して単に無知だからなのか、感受性が乏しいからなのか。少なくとも、自分が櫛田より劣っている何かに起因するはずだ。
「……オレには、よくわからないな」
「綾小路君はやっぱり、そういう経験はないの?」
思わず率直な感想を零すと、そんなことを訊かれた。
「いや、ないな」
「そっか」
「やっぱり」という部分に妙な傷心を覚えつつ、きっぱりと答える。
――が、すぐに思い直す。
「……だが、特別な存在はいた」
「ふーん。…………えっ、そうなの!?」
過去一番の驚きようだった。
あくまで昔の視界に映った有象無象ではない一人を思い浮かべての発言だったが、第三者が聞けばそういう誤解をするのも無理はないだろう。
「別に恋心じゃないぞ。何せ顔も覚えていないんだ」
もっと言うと性別も背丈も記憶にない。ただそこに存在していたという事実だけが、脳裏にこびりついて離れない。そんな粘着性のある感覚。
櫛田は困惑の表情を浮かべている。それもそうだ。「特別」なのに外見すらもはっきりしないなどおかしな話だ。
「じゃあ、その人とはもうずっと長いこと会ってないんだ」
「ああ。向こうもきっと、オレのことなんて覚えていないさ」
自分ですらこの曖昧具合なのだ。同じ環境で育った他の子供が似た芸当をできるとは考えられなかった。
とはいえ、だから寂しいと嘆くわけでも、感慨に耽るわけでもない。
「自分はその人に関心があった」、それだけだった。
「お前はどうなんだ?」
「私?」
「やはり高嶺の花がどんな恋愛譚を秘めているのか、気にならないやつなんていないだろう」
「えー、そうなのかなあ」納得しがたいという風に苦笑する櫛田だが、思春期とは往々にして嗅覚が敏感だ。煙の臭いを嗅ぎつけ、好奇心に従って火を探すのも仕方ないというもの。
綾小路としては、数多ある恋愛模様を僅かでも知っておきたいという一般高校生から些かズレた目的であったが、それを彼女が看破できる道理はない。
「私も、ないかな」
「マジか」
「どういう意味……?」
「い、いや、お前も平田と同じくらい異性にモテるから、てっきり一人か二人くらいは経験があるものかと思って」
自分が軽い人間だと思われていると感じたのか櫛田は不快感の滲んだ声音で返してきたので、慌てて訂正した。
「興味がないわけじゃないよ。でも、私はきっと誰とも付き合わないと思う」
「……そうか」
「どうしてかは聞かないんだ」
「脈ナシだとわかっただけで十分だ」
「ふーん」彼女はこちらの表情を窺うようにしながら相槌を打つ。思ってもないことを言っているのは見透かされているかもしれない。
この問答で綾小路は二つ得るものがあった。一つは櫛田桔梗という人物の分析だ。「きっと誰とも付き合わない」。その言葉で、彼は
それによって、平田たちに向けた彼女の疑惑も察することができた。恐らく彼の根幹にある平和主義が今現在の状況で恋人をつくったことに噛み合わないのだ。それはまさしく、櫛田だからこそ容易く気付くことができた違和感だろう。
――恋、といっても、色々あるのか。
「そうだ。綾小路君、急かすつもりじゃないんだけど……この前の件ってどうなってる?」
ここで櫛田は話の方向をごっそりと切り替えた。もう広がらない話題だと判断したのか、これ以上自分が追及されないために避けたのか。いずれにせよ、彼女の会話の流れに付いていく他ない。
「一応恭介が主導で良い方法を模索している。すぐにとはいかないが、今月中にはどうにかするつもりだから、今はあまり
「うん、わかった」
当たり障りのない回答をしていると、「櫛田さん」と一人の少女が櫛田に近づいてきた。
「みーちゃん? どうしたの?」
「えっと、一緒にお昼食べないなって思ったんだけど、いいかな?」
みーちゃんと呼ばれた少女――名前は
「うん、いいよ! すぐ行くから、ちょっと待っててね」
櫛田が快く頷くと、二人は顔を綻ばせこちらに一礼してから去って行った。
「……オレって、そんな怖い顔をしているのか」
「初対面で緊張しちゃったんじゃないかな。確かに、根暗そうな人ランキングでは上位だけど……」
以前櫛田と初めて話した際に教えてもらった、生徒間ネットワークで密かに行われている種目別ランキング。その内、根暗そうな人としてランクインしたのはまさかまさかの自分だった。因みに可愛い人ランキングではDクラスから浅川と沖谷がランクインしている。
「世の中不公平だぜ、全く」
「少なくともあの二人は、ちゃんとよく話せば友達になってくれると思うよ」
そうは言うが、今後いつどこで会話にありつける可能性があるというのか。きっとあの二人は「綾小路君って人、何か根暗で恐そうだね」という気持ちのまま三年間を終えるに違いない。
「よし、私そろそろ行かないと」
櫛田の声に気付くと昼休みももうじき半分が経過しようとしていた。たった今彼女も約束を取り付けてしまったし、無理に引き留めているわけにもいかないだろう。
……それに、池と山内の視線があまりに鬱陶しくなってきたからな。
「憐れな根暗男の雑談相手をしてくれてありがとな」
「ううん、そんなことないよ。またね、綾小路君」
「ああ、また」彼女の否定が感謝の言葉に対する謙遜なのか将又こちらの自虐に向けられたものなのかは怪しいが、そんなことはさておき自分の席へと戻る。
日常の一ページとも捉えられる一時だったが、今日もまた、人間関係の何たるかについてほんの少し知ることができたような気がする。
――やはりまだ、オレに恋は早すぎるな。
そもそも友情さえまだほとんど確立できてないのだ。異性とのコミュニケーションだってものにしていないのだし、おいそれと試せるものではない。
ただ――。
漫然とした疑問は、瞬く間に脳内で溶けていった。
自分の席にたどり着くと、二人の「友人」が目に留まる。一人は窓の向こうを飛ぶ蝶を物憂げに眺め、一人は黙々と読書に浸っていた。
半ば放心状態に陥っていた少年――浅川がこちらに気付き軽く微笑む。「おー、清隆。おかえりんさい」
彼の声で本の世界から帰還した少女――堀北もこちらを向く。「やけに長かったわね」
「櫛田とばったり会ってな。世間話をしていた」
「そっか。トイレで気絶したのかと思って心配していたんだけど、良かったよ」
「あなたが語り合えるほど世間を知っていたなんて驚きね」
二人の返しには各々の個性が宿っていた。今更咎めるまでもない。いつも通り言葉を交えるだけだ。
「今日はどうする?」
「決まってらー。定番イチオシ、山菜定食を頬張るぜー」
「またそれなの? 二度も食べたいと思うような味ではなかったと思うけど……まあいいわ。勝手に行ってらっしゃい。私は今日は――」
「食堂か、じゃあ早速行こう。ほら、鈴音も」
「ちょっと、私の話を――」
「おーし行くぞー鈴音。清隆、今日は一体何を注も――」
「コンパスで刺すわよ」
「直球じゃないか!」
つい先日と似たようなやり取りをしつつも、浅川と二人なし崩しで堀北を食堂へ連行する。無論、傷跡残さずコンパスで刺されながら。
そんな時間も、やはり悪くないと心中頷く綾小路であった。
これから語り手以外の視点の三人称視点でのtipsはこのようなエピタイでやっていきますのであしからず。因みに既存の清隆の一人称視点は言わばその章のサブ視点という扱いです。何言ってっかわかんねえと言う方は二章の終わりごろにわかると思うので待っていてください。
一応話のジャンルごとに目次を並べていますが、時系列順や他の並び順にしてほしいという意見があれば言ってください。多数届いたり至極ごもっともだと思ったりしたら変えるかも。
オリ主の過去話について(どれになっても他の小話もやるよ)
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止まるんじゃねぞ(予定通り,10話超)
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ちょっと立ち止まって(せめて10話以内)
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止まれ止まれ止まれ…!(オリだけ約5話)
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ちょ待てよ(オリキャラだけ,3話)
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ムーリー(前後編以内でまとめて)