アンデルセンは笑っている   作:小千小掘

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序章ラストです。

ラスト、なのですが、やってしまいました……。行き当たりばったりでやってる弊害が出た……。

本作は序章で入学してからの三日間、二週目と三週目のどこか一日ずつ、五月一日を描いていたんですが、当初の予定だと四月の間にもっと他クラスの原作キャラと仲良くなるはずだったんです。完全に失念していた……。今後の展開に大きく影響してしまう。

構成練り直してなんとか整合性を保つか、オリ主たち三人のクラス対抗戦への意気込みの変化というテーマから外れるって理由で無理矢理tipsに持ち込むか。いやでも、さすがに二章に入った時点で仲良くなってるキャラとの馴れ初めを本編でなくtipsで片付けるって駄目かなあ。ちょっとこれを悩んで二章の更新は遅れるかもしれないです。

今回オリ主の能力ちょい見せです。


夕闇に沈む意志(後編)

「……ほう」

 

 入学当初の鈴音なら、恐らく評価の正当性を頑なに認めず、自分の非の打ちどころを探そうとは決してしなかっただろう。弱さを飲み込み、他人からの評価に理解を示そうとする今の彼女の姿勢は、僅かながらも確かな成長を感じさせるものだった。

 

「学力以外で自分に足りない能力は何なのか、そう聞きたたいんだな?」

「はい」

「……実の所、意外だった。お前のことだ、てっきり配属ミスだとか採点基準のミスだとか言って、見苦しいこじつけでもしてくるのかと思っていたんだがな」

「茶化さずに答えてください。私は、何としてもAクラスに上がらなければならないんです」

 

 ここで「Aクラス」という限定した表現をするあたり、並々ならぬ執念を感じる。

 

「大きく出たな。不良品のお前たちが頂点にたどり着くまでの道のりは、相当長いものだと思うが」

「不可能でないのなら、絶対に勝ち上がってみせます。それに、Dクラスと言っても、ただの無能だけが集るスラムではないと、私は感じていますから」

「ふっ、そうか。して、その貧民たちにパンを与えるイエスたり得るのは、彼らのことか?」

 

 「え?」と呆然とした声を漏らす鈴音。この流れ、やってくれたな。避けられる可能性があったかと言われると厳しいが、したくもない盗み聞きをさせられた挙句即ネタばらしまでされるのは合点いかん。

 

「出てこい、浅川、綾小路」

 

 籠城という選択肢もあるが、出るまでこの戦況は動かないだろう。今回は僕らが白旗を揚げるしかないようだな。

 清隆と頷き合い、扉を開ける。

 

「いやあ茶柱さん、至高のティーブレイクでしたよ。あのインスタントコーヒー、いくらかもらって行ってもいいですか?」

「BGMがお二方の言い争いだったことだけが残念だけどな」 

「あ、あなたたち……」

 

 僕らの登場に鈴音は絶句し、額を押さえる。

 

「どうしてこうも、現れて欲しくない人ばかりがタイミング良く……これからは急に開くドアには用心した方が良いかしら」

「……ごめん、許して」

 

 櫛田の件、本当に引きずっているみたいだ……。どうしたものか。こうなると時間が忘れさせるのを待つ以外手立てがない気がする。

 気を取り直した鈴音は、茶柱さんの方を向き直った。

 

「どうしてこのようなことを?」

「何が足りないのか。それを知りたいなら、この二人が必要になるはずだと思ったまでだ。――そもそも既に、お前たちは共謀して何やら面白いことをしているな?」

 

 不意を衝く発言に、鈴音だけは表情に出てしまった。質問に答えてもらっているつもりだったからポーカーフェイスが間に合わなかったのだろう。致し方ない。

 

「確かに、三人だけで結託してクラスの輪から離れてみようなんてこと、企ててたような企ててないような」

 

 清隆が惚けるも彼女は鼻であしらう。だから君、どうしていつも自虐ネタに僕らを巻き込むんだい。一緒に哀れまれるんだよ、よしておくれ。

 

「それが成功したら実に滑稽だな、嗤ってやるぞ? だが――綾小路清隆、125061、堀北鈴音、133030、何の話をしているかわかっているな?」

 

 初日のHRでの説明で詳細を把握されること自体は覚悟していたが、まさか追及されることになるとはな。しかもこれ、単なる面白半分で目を付けられたってことじゃないか?

 

「周りへの態度の冷たさ、とかですかね?」

「浅川君、それはどういうつもり?」

「オレと鈴音とで10000しか変わらないのか……」

「綾小路君?」

「何でもないです」

 

 こんな状況でも呑気に茶番を繰り広げる僕らに茶柱さんは苦笑する。

 

「お前たちは本当に仲が良いんだな。私は嬉しいぞ。はみ出し者の印象だったが、最低限の良好なコミュニティは築けていたようだな」

「おかげさまで、退屈していません。本当に、退屈していません」

 

 わかりやすく「悪い意味で」と暗に訴えている……。

 

「だがな浅川。そうなるとお前は、大変社交性に優れた生徒になってしまうな?」

「スロースターターなんですよ。見ててください。これから劇的な速さで友達が増えて――」

「浅川恭介、0()p()r()。お前、入学早々この一か月を無一文で乗り越えたな?」

 

 決定的な一言に、僕らは三人揃って溜息を吐いた。

 やれやれ、ここは言い出しっぺだった僕が対応するか。

 

「ほんの出来心だったんですよ。何のメリットもない動きだって、あなたも理解しているでしょう?」

「どうだろうな。だが、行動そのものが興味深い。お前たちはポイントの支給が毎月十万ではないことに気付いていた。違うか?」

 

 確信を持って言う茶柱さん。まあそうなりますよね。だが、簡単に認めるわけにもいかない。

 

「根拠は?」

「根拠も何も、毎月十万もらえると思っているやつが一か月でも0円生活をしようなんて思うか? 単なる節約や浪費防止ならわからなくもないが、初めの一週間で他人へ全額譲渡したやつは本校始まって以来初と言ってもいい」

 

 ……この女、意外と熱心にポイントの動きを見ていたんだな。もしや、最初から僕らに目を付けていた? 考えすぎだろうか。

 でも、初か。いいねなんか。金字塔を打ち立てたとなるとどことなく胸を張りたくなる。特に名誉でも不名誉でもないんだけど。

 

「茶柱さん、僕はこう見えて慈善活動に明け暮れる日々が大好きなんですよ。まずは親交の深いこの二人に幸せをお届けしようと思いまして」

「屁理屈で逃げるか。私は素直に感心しているんだ。お前も素直にお褒めに預かったらどうだ?」

「屁理屈だって臭いだけで十分理屈です。それに、もし預かってしまったら何かで返さなきゃいけなくなる気がするんでね。要らないものは気安く受け取れませんよ」

 

 彼女は何が面白かったのか、ここで初めて声に出して笑った。相変わらず抑揚は感じないが、素だなこれ。

 

「要らない、か。堀北、Dクラスにも彼のように現状の評価を気に留めない連中がいる。綾小路もその一人だろう。それについてはどう思う?」

「精神的に向上心のないやつは馬鹿だ、とだけ言っておきます」

 

 失敬な、向上心はあるわい。あれだ、君にとっての上と僕にとっての上は別のところにあるんだよ。……自分でも何言ってるかわかんねえや。やはり僕は馬鹿だったか。

 

「過去の文豪も真理を悟っていたというわけか。だがどうやら、向上心が見られずとも決して才能がないとまでは言えないようだぞ」

 

 ……この人、まさかあれを晒す気か!? 教師としてあるまじきだぞ。

 

「あなた、その机の上にある四枚の紙、今の話のために用意したんじゃありませんよね?」

「目敏いな、浅川。その通りだが、一体何を焦っている? 二人に知られたくないことでもあったか?」

「……君、指導者に向いてないよ」

 

 僕の咎める声を鼻嗤いで一蹴し、彼女は僕が指した書類の内二枚を手に取った。

 

「まずは綾小路からだ。お前は浅川にも負けず劣らず面白い生徒だな」

「先生の苗字に比べれば大したことないですよ。少なくとも友達と誇れるのが二人しかいない程度にはつまらないです」

 

 矛先を向けられた清隆が冷静に返す。後半自虐になっていたぞ。最近卑屈だね君。

 

「筆記試験の結果は五教科全て50点。加えて今回の小テストも50点だ。これが何を意味するかわかるか?」

 

 答案用紙を見て鈴音が驚きの表情を見せる。正味僕も同じ気持ちだ。すごいな、全テスト50か。50好きなのかな。

 

「いやー、偶然って怖いっすね」

「惚ける気か? 意図的だろう」

「証拠もないのに決めつけられても。そもそもそんな中途半端な点数狙うメリットがないでしょう」

「お前も頑なに否定するか。お前たち二人は気が合いそうだな」

 

 僕と清隆を交互に見比べてそう言われた。おお、それは言われて悪い気はしないな。

 

「だがな綾小路。お前は正答率の高い問題を間違えておいて、それを足掛かりにしなければならない高難度の問題は正解している。これについてはどう説明する?」

「偶然としか。隠れた天才だったみたいな設定はありませんよ」

 

 なるほど。正誤の詳細に違和感があるというわけか。でもおかしいな。あの清隆が迂闊に実力を悟らせるようなことを……。

 

「……なあ、清隆。君、もしかして遊んじゃった?」

 

 導き出した結論を直接問いただす。彼は呆れた表情をするが、僕にはそれが「余計なことを言うな」と訴えているように見えた。ごめんて。今からフォローするから。

 

「偶然って考えた方が寧ろしっくりくるんじゃないですか? ヤマが当たって正解して、50点なのも本当に偶々。配点も知らずに狙って揃えただなんて考える方が非現実的ですよ。――可哀想だなあ清隆。在らぬ濡れ衣を着せられて」

「全くだ。自分の低い学力がこうしてお前らに露呈して、心底恥ずかしいよ」

 

 強ち僕の言ったことは間違っていないだろう。彼の実力をある程度把握していなければ、この結果に疑問を抱く可能性は非常に低い。何を正解して何を間違えたかなんて、採点者でさえ一々気にして丸バツ付けてなどいないはずだ。二人の会話の様子から察するに面接官だったわけでもなさそうだから、茶柱さんが清隆の佇まいを予め目にしていたわけでもない。

 なら、彼女はいつどこで清隆に一目置く機会があったのだろう。初めから綾小路清隆という人間を知っていなければ、こんな大胆な行動は取れない。彼女に裏事情があるのか、清隆に裏事情があるのか、将又その両方か。いずれにせよ、この人はまだ僕らに隠していることがあるのかもしれない。

 

「まあいい。今はお前の自供が欲しいわけでないからな。次は、お待ちかねだな、浅川」

「僕この後用事が……」

「そうか。では早く済ませなくてはな」

 

 くそ、逃げ場がない。何でアンタこんなことをするんだ。いや、自分のためだってのはもうわかってるけど、僕の事情も考えてくれたまえよ。腐っても教師だろう?

 

「先日の小テスト、お前は良くやってくれたよ。採点中に大笑いしてしまったくらいだ。――――まさか、『0点』を取るなんてな」

 

 清隆の憐みの視線と鈴音の冷たい視線が刺さる。性質は異なるのにどうしてどちらも胃を痛めつけてくるのだろう。

 そう、僕はあれだけ自信満々な態度を取っておいて赤点どころか学年ビリを勝ち取った。いやはや、あっぱれだよね。

 しかし、本当に話にされたくないのはその先であるわけで……。

 

「だがな、私がどうして笑ったかというと、お前がただの間抜けではなかったからだ」

 

 そう言って彼女は僕らの眼前に答案用紙を突き付けた。は? 公開処刑かよ。職権乱用で訴えられないのかこれ。

 それは兎も角、二人の呆然とした表情を見て僕は頭を抱える。だから嫌だったんだ。

 

「……浅川君、これはどういうことかしら?」

「一休さんが世に認められる世界だと信じたかった」

「ふざけないで。とんちにも限度というものがあるわ。解答欄に『答え』を埋める一休さんなんて淘汰された方がマシよ」

 

 ぐうの音も出ません……。

 何を隠そうこの浅川恭介、解答欄に埋めた文字は『答え』、『計算式』、『過程』、『記号』、『何ではありません』の五つのみである。

 

「いやほら、ここって普通の学校じゃないじゃん? だから解き方も普通じゃないのかなって……」

 

 僕の発言に今度は鈴音が頭を抱える。あっはは、お互い苦労するねホント。

 

「無論学年でこんなにも遊び心に溢れた回答をしたのはお前だけだ。さて、そうなると次に気になってくるのは、本来の学力だな?」

 

 皮肉たっぷりな笑みを浮かべて、茶柱さんは未だ伏せられていた最後の紙を掴み僕らに掲げた。もうどうにでもなれだ……。

 

「国語を除いた四教科は全て満点、その国語もたった一問ケアレスミスをしただけで98点、堂々の二位だ」

「な……」

「マジか。恭介、お前頭良かったんだな」

 

 鈴音は言葉を失い、清隆は……わかりにくいが、驚いているのか? 二人共想定内の反応だった。後で鈴音からの追及が恐い……。

 変に手を抜いて不合格になんてなりたくなかったから全力でやったのに。まさか友人の前で結果を公表されるだなんて誰が思うだろうか。しかも担任の手によって。

 

「浅川、何か言うことはあるか?」

「い、いんやあ、偶然って本当に怖いんだなあって……」

「偶然でそんな点数取れるなら大抵の努力は虚しくなるわよ……」

 

 どうやら怒りや悔しさよりも先に困惑と呆れが込み上げているらしい。鈴音の当たりが思っていたよりキツくない。が、小テストの話の時より少し焦りや動揺が強く出ていた。当然だな。誇りを持っていたはずの学力で負かされたのだから。

 

「冗談が過ぎたなあ。ちゃんと努力したよ。君なんかには負けないと自信を持って断言出来るほどの、それこそ()()()()()()()()()をね」

 

 僕の急な真面目な表情で、鈴音は返答に窮してしまったようだ。ふざけてもどうせ火に油を注ぐだけだろうからな。それに、こればかりは譲れない。本当に頑張ったんだから。()()()()()()()()()()けど。

 

「狙って50点を取り続ける男と学年二位の学力を持ちながら小テストでは頓智を聞かせて0点を取った男。今年のDクラスは例年と比にならない程にユニークな生徒で溢れているようだ。お前たちがこれからどんなスクールライフを送るのか、楽しみにしているぞ」

 

 総括を述べ、茶柱さんは部屋の扉を開ける。

 

「話は以上だ。私は片付けをしてすぐに出る。お前たちも早く帰れ」

 

 呼んだのはあなたなのにそんな雑な形で追い出さなくても。言ってくれればちゃんと出るからもっと物腰柔らかくいてくれよ。鈴音とそっく――

 

「リンダッ!」

「言葉には気を付けなさい」

「リンダリンダァ……」

 

 心の言葉にどう気を付けろと……? 鳩尾入ったぞ。何か習っていたやつの攻撃の仕方だったな、完璧に。

 茶柱さんは何故指摘しない。まさか戯れだとでも思われているのか? 心外だ。圧倒的暴力だろう。監督不行届だな。一つ意趣返しでもしてやろうか。

 

「茶柱さん、僕らにここまで恥をかかせたんです。何かお詫びがあっても良くはありませんか?」

「内容によるな。言ってみろ」

 

 僕は――給湯室の方を指差した。

 

「僕と清隆に一箱ずつ、プレゼント願います」

 

 彼女は一瞬拍子抜けした表情を見せ、短く息を吐いた。

 

「駄目だ。本来ポイントで購入しなければいけないものだからな」

「もてなしで菓子を出す時にお金を取りますか? これくらいはしてくれないと割に合いません。最悪理事長辺りに直談判しますよ。プライバシーを侵害されたって。――それに、どうやらあなたは僕の貧しさを調査済みなようですし」

 

 捲し立てるように反論した僕に、彼女は呆れた様子で目を閉じた。

 

「器の小さいやつだ……好きにしろ。一箱ずつだぞ」

「その器の大きさだけは教師らしいですね。褒めて称えます」

 

 軽い捨て台詞に彼女はこちらを一瞥するが、すぐに自分の事務作業へと戻って行った。

 得るものさえあるならいくらでも器を小さくしてやろうじゃないか。伊達に貧乏生活していないんだよこっちは。

 戦利品を取りに行って清隆に片方渡す。

 

「無益な時間、でもなくなったなあ」

「そうだな。これで千ポイントくらいは浮いたんじゃないか?」

「おう。水以外を飲むのはここに来たから初めてだ」

「本当に頑張ったんだな……尊敬する」

 

 余程遠い目をしていたらしい。視線に同情と敬意が含まれている。まあこの生活自分から始めたんだけどね。

 実のことを言うと、僕は一度もポイントを使わなかったわけではない。お気づきだろうか。清隆に便乗する形で購入したカップラーメンである。恐らく茶柱さんが調べる前に僕が0prになったためにそこまで知られていなかったのだろう。あの時はまさか数日後の自分の思いつきのせいで最後に有料で食べるのがカップラーメンなるだなんて思わなかったよ。

 そんな漫然とした振り返りをしながら廊下を進み始める。

 

「二人共、ちょっと待ちなさい」

 

 待ちたくない。

 

「歩きながら話せないのか?」

 

 僕の隣で清隆は足を止めずに返す。

 

「あなた、さっきの点数は本当に偶然なの?」

「何度も言わせないでくれ。恭介もそう結論付けただろう」

「浅川君があなたの肩を持つことなんて目に見えてるわ。二人揃って後ろめたい隠し事があったのだから」

「誰だって知られたくないことの一つや二つある。呼び止めてまで言いたかったのはそれだけか?」

「そんなわけないでしょう。何より、言いたいことがあるのは――」

 

 ガシッ、と。鈴音は僕の腕を掴んだ。

 足が止まる。

 

「浅川君、あなたによ」

「…………何だ」

 

 彼女が僕に言いたいことなんて、二つに絞られる。

 でもそれは、答えたくなければ触れたくもない内容だ。

 

「どうして、実力を隠していたの?」

 

 一つ目。

 

「見せる機会がなかっただけだ」

「……小テストの最後の三問、あなたならいくつ解けるの?」

「……それを聞いて何になる? 君自身学力だけが実力ではないことを受け入れ始めていたじゃないか。追及する意味を感じない」

 

 僕が例え学力が高かったとしても、それが鈴音が軽く僕に信を置いていい理由にはならない。今の彼女なら、それがわからないわけでもないはずだ。

 

「それでも、指標の一つであることに変わりはないわ」

 

 彼女は僕を真っ直ぐ見据える。本当に、真っ直ぐな目だ。

 かつて好きだった、憧れた目。だけど今では、逃げ出したくなるような忌み嫌う目。

 眩しくて、自分の目を覆いたくなる。無力を突き付けられて、膝を折りたくなる。

 

「少なくとも、私が今まで思っていたよりもずっと、あなたは優秀なのだと思う。綾小路君にしてもそうよ。胡散臭い悪知恵が働くだけの冴えない男だと思っていたけど、まだ底を測りかねてる」

「酷い言い草だな……」

 

 蚊帳の外だった清隆から突っ込みが入る。

 それも無視して、鈴音は言葉を続ける。

 

「けど、私は今こうして浅川君にだけ話をしている。何故だかわかる?」

 

 僕は何も返さない。話の向かう先がわかっているからこそ、進めたくなかった。

 

「綾小路君はもう、私がAクラスに上がることに協力すると誓ってくれたわ。後はあなただけなのよ、浅川君。――私たちに、協力する気はあるかしら?」

 

 これで、二つ目。

 始まったばかりなのに、やけに濃密に感じた一か月。クラス抗争が表面化した今、これから更に刺激の強い生活が待っているのだろうか。

 この一か月、色んなことがあった。

 思えば、最初から僕は、前を向けてなどいなかった。

 あらゆる現実に背を向けて、留まるべき場所から逃げ出した。

 家を発った時のこと、清隆と鈴音と初めて話した時のこと、椎名と初めて話した時のこと、櫛田の依頼に取り組んだ時のこと。

 照らし合わせて考えて、いつまでも整理がつかなかった。

 だから、諦めてしまった。

 

「…………ない」

 

 少し怯えた目で、目の前の少女を捉える。

 恐らく、向こうからは決意の籠っていないやつれた目に見えたことだろう。だけど、そのこと自体が一番の理由だった。

 

「ごめん、無理だ」

 

 震える手を握りしめる。

 迷いを、自力で解くことができないのなら。

 何者であるのかも、見出すことができないのなら。

 

「無理、なんだ」

 

 ボクはキミらに、協力すべきではないと思ったんだ。

 




衝撃の恭介協力拒否で、序章完結です。次回は幕間になりますけど、ある意味本作全体としては大きな転機になるんじゃないかなと、期待と不安が入り混じってます。2月に更新予定です。

さて、お気付きでしょうかみなさん。各話見返してみると(正直例外はあるんですけど)著名作のセリフやワンシーンのオマージュをいれてあるんですよね。二章でも続けるとなるとガ○ダムネタが度々でてきちゃう気がする。

ボソッと言わせてもらうと、実は序章で訳あって回収できなかった伏線が一、二個あって、二章のどこかで明かすことにします。

オリ主の過去話について(どれになっても他の小話もやるよ)

  • 止まるんじゃねぞ(予定通り,10話超)
  • ちょっと立ち止まって(せめて10話以内)
  • 止まれ止まれ止まれ…!(オリだけ約5話)
  • ちょ待てよ(オリキャラだけ,3話)
  • ムーリー(前後編以内でまとめて)

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