墨は何でできている?

こんな墨をもある

ある講演会で聞いた話です。松煙墨は紀州田辺の名産でした。紀州藩として作っていたもので一家相伝の仕事として伝わったそうです。正に門外不出の仕事でもありました。

最近、中国の墨の隆盛期、明代、清代の墨、所謂名墨はほとんど目に触れなくなりました。

和墨

でも名墨は中国だけではありません。日本製の「和墨」でも良い墨はあります。
最近では「百選墨」「千寿墨」という墨です。

筆者は、墨が大好きで、この墨を見かけるたびにと購入していた時期があります。とにかく墨色がいいのです。油煙、松煙どちらも素晴しい。これは良い材料を腕のいい職人さんが手塩にかけて作ったものですから。

唐墨と和墨の違い

では中国産「唐墨」と日本産「和墨」の相違はというと、唐墨は木臼や石臼で捏ねて作るそうです。和墨は職人さんが手で捏ねています。これが最も大きな違いでしょう。

使用して分かるのは「唐墨」は摺ると堅い感じがします。聞けば、唐末の名墨は水に浸けておいても柔らかくならなかったそうです。一方の和墨は摺って見ると柔らかです。これは良い悪いではなく、墨の個性でしょうか。

日本最古の墨

現在、日本に残っている墨で最も古いのは、正倉院にある唐製の墨です。高句麗の僧「曇徴」が紙、墨を持ってきたと言われています。

日本で最初の女帝「推古天皇」の時代。聖徳太子の同世代の頃の墨が保存されています。機会があればご覧になってください。

百選墨 上から(景宝談経、喜得連科、玄松)

百選墨 上から(景宝談経、喜得連科、玄松)

 

千寿墨 天平瓜形鈴 その1

千寿墨 天平瓜形鈴 その1

千寿墨 天平瓜形鈴 その2

千寿墨 天平瓜形鈴 その2

墨・漢字用と仮名用

墨は煤(炭素)と膠、そして香料を混ぜ合わせて作ります。
墨つくりでも、少し触れましたが、実は大変な作業です。混ぜるものの種類が少ないだけに、その製法はなかなか単純ではないようです。

粒子の違いが肝

通常、漢字、仮名とも同じ墨(原料は同じ)を使用しても何ら問題はありませんが、「漢字」用の墨とは言わないと思いますが、「仮名」用の墨と表示してあるのをご覧になった経験はありませんか。

通常の墨、ここでは「漢字」用の墨ですが比較的炭素の粒子は粗いものが多いようです。

「仮名」用の墨というのは、同じ原料から採取する煤の違いがあります。煤を採取するのに、上の方の煤を集めます。これは、煤が上の方に行くにしたがい粒子が細かくなるのです。原材料が鉱物性・植物性にかかわらず煤は上の方が細かいのです。

大作は別に、仮名は線が細い線で書くことが多く、粒子が細かく線の伸びが良い方が仮名を書きやすいからだと思います。市販されている仮名用の墨は、いずれもやや小ぶりで、価格は高価です。これは上に行く煤が少なく採取に手間がかかるからだと思います。

仮名を書くのに適した墨

経験では、仮名を書く際には和墨の方がしっくりいくようです。料紙を使用する時も和墨の方が紙にのり易い。
因みに中国産の墨を「唐墨」と呼んでいます。

漢字用墨

漢字用墨

 

仮名用墨

仮名用墨

墨つくり

今、墨を磨っている方はどの位いらっしゃるでしょうか。知り合いの書道用品展の専務さんに伺ったら、墨の売れ行きが悪くて、と嘆いておられました。「ほとんど墨汁ですね。売れるのは」とも。

墨は固形墨と液体墨があります。

墨の原料は、松や植物油、菜種油などを燃やし、お皿を逆さまにしたような容器に煤を集めます。最近では、石油やカーボンも使用されています。その煤に香料を混ぜ、膠を溶かしたものを煤と混ぜ合わせ練り込む。これが大変な作業。職人さんの手は真っ黒。その練ったのを木型に入れて墨の形にします。その後倉の中に入れて乾燥させます。出来たばかりの墨はゴムのように柔らかですよ。

握り墨

「握り墨」ってご存じですか。ある時、デパートで実演をやっていまして、練ったばかりの墨を手で握っただけで販売していました。
そのまま家に帰り押し入れの片隅に追いてあります。

墨作りは繊細な作業

墨つくりは大変デリケートな作業です。
同じ墨を作るにも温度、湿度により、それぞれの原料の配合を変えるそうです。煤の種類により青墨や茶墨などになります。

以前、「墨について」の講演を聴きました。
昔は、樹齢、樹脂に富んだ松を探し、傷をつけに三・四ヶ月放置して樹脂が吹き出た良い松のある山に障子のある小屋を作り、二人でそこに籠もって良煤を手に入れるために作業したそうです。凄いですね。

墨作りの様子

墨作りの様子

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