ゑいが、家族に若いころの市郎右衛門の話をするシーン(第12回)が心に残っています。お武家様になりたかった市郎右衛門ですが、藍農家に入り「百姓はこの腕で勝負ができる。こっちのほうがよっぽどやりがいがあらぁ」と語ります。ゑいは、そんな市郎右衛門の言葉を静かに聞いている。その関係性がすてきだなと思っていました。
栄一がパリから帰国してからは、市郎右衛門と栄一が話をしているのをゑいと千代が聞いているというシーンが増えました。そんな場面の、セリフ、言葉の置き方、たたずまい、視線の動き、小林さんと吉沢さんの作られる空気、お二人の間にある空気がすてきで。市郎右衛門と栄一がやりとりをする場面の中に、二人の信頼や温かい思いがすごく伝わってきて…。「ゑいは、こんな“とっさま”のことがすごく好きなんだろうな」と思いながら演じていました。
吉沢亮さんは、栄一が血洗島を出たあと、さまざまな人たちと出会って、またさらに多くの場面を演じられています。でも、久しぶりに故郷に帰ってきたシーンを演じたとき、そこにはいつもと変わらない栄一がいて。吉沢さんはそういう栄一をちゃんと演じられています。きちんと考え、ぶれずに、きちんと真ん中に存在してくださる、とても頼もしい方でした。
撮影現場でも、シリアスな面持ちかな?…と思っていると、ふにゃっと柔らかいことを言ってみんなを和ませてくれたり、そういうところは、父を演じる小林薫さんととても似ていらっしゃる気がしました。
栄一が血洗島から出てしまったあとは、応援しつつ待つことしかできないゑいですが、そんなゑいにとって、同時に、栄一のお嫁さんのお千代ちゃんの存在がとても大きくなっていたのだろうなと思います。栄一からの便りがなければ「お千代はさみしいだろうな」と、栄一が帰ってくるということは、「お千代がうれしいだろうな」と。栄一の行動はすべてお千代ちゃんにつながっていく。「栄一=お千代」だったのではないでしょうか。
ゑいの最期のシーンでは、監督から命の終わりに向かって意識が朦朧(もうろう)としていくなかでも、「千代の目を見て、千代に対しては一度しっかりと意識を持っていくように」とお話がありました。ゑいにとっては栄一ももちろんかもしれませんが、ともに暮らしていたお千代ちゃんの存在をより大きく感じていたのだと思います。女性同士、同じ立場だからこそわかること、長い時間をともに過ごしてきたことで出来た関係性があるのだと。それがほんの一瞬の場面のたったひとつのやりとりでもわかってしまう。最期に向かっての一つ一つ、すごく濃い場面だなぁと、どのシーンも改めて思いました。
そのお姿が見えて、ハッとしました。撮影中、全く頼りにならない私だったと思うのですが、ありがたく、胸がいっぱいになりました。橋本愛さんは、とても聡明で、クールビューティーな方だと、ずっと勝手に思っていて。もちろん、お話をするときはいつもとてもにこやかにいてくださる方ですが。連日の撮影のたいへんな中、いつも演じることに誠実にいらして。撮影中、直接そういうお話はできていなかったのですが、ずっと、心の中でひそかに「偉いなぁ…」と思いながらいました。
特に、栄一が出ていったあとの渋沢家のシーンでは、お千代ちゃんの出番がすごくたくさんあって。シリアスな場面、涙する場面、赤ちゃんや小さな子どもたちと一緒の場面も多く、時には赤ちゃんをおんぶしながらの家事や、時代のものならではの所作、たくさんのシーンとセリフ、感情の動き。実はものすごくハードだったと思うのです。主人公の妻であり、今回の役を演じること、どんなにたくさんのことを胸の中に抱えていらしただろう…と思います。でも、それを出さずに目の前のこと一つ一つに真っすぐに取り組まれてクリアされていく。すごいなぁと思いながらいました。私のほうが出番が先に終わってしまいますが、橋本さん、皆さんから、いっぱい褒めてもらってください!と思いながらいます。
まだ終わっていないんじゃないか。また呼ばれるんじゃないか。そんな感覚でいます。終わってしまったと思うと、すごくさびしくて…。
小林優仁くん演じる子ども時代の栄一の母から、吉沢亮さん演じる栄一の母となり、おばあちゃんと呼ばれる年齢まで、一人の人物を演じさせていただきました。役を通しても、演じる皆さまご本人を通しても、現場のスタッフの皆さまからも、多くのことを教えていただいた現場でした。
すごく楽しかったし、うれしかったし、刺激を受けましたし、もっと頑張らなくてはと思うこと、たくさんありました。
大切な場面ばかり、時間に追われながらも、一つ一つをみんなで大事に作っていた、そういう記憶があります。積み重ねた日常のシーンすべてが、ゑいという人物のすべてを作るのだと思います。最後のほうのシーンを演じるときには、子役の栄一くんの時代からすべてが積み重なって、いま、ゑいのこのセリフがあるのだと、強く感じながら演じていました。
終わったいま、心が空っぽになっているんです。きっとこの先の私自身にも大きな影響を与えることになる作品であることは間違いなく…また泣きそうです…。
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