最注目ボカロクリエイター・トーマ『アザレアの心臓』全曲解説~前編

ニュース 公開日:2013/05/19 119
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最前衛の才能を誇るボーカロイドクリエイター、トーマ。WEBに作られた退廃的な都市の世界観と、緻密な計算によって仕掛けられた中毒性の高いデジタライズにシンクロしたロックサウンドによって、独自の世界観が構築された傑作アルバム作品の誕生だ。


ポストハードコア・サウンドを好むトーマが生み出すサウンドは、展開が縦横無尽に飛び交う、まるで迷路のような構成によって毒っ気の強いポップなメロディを、絵が見える物語性によって届けてくれる。黄砂に悩む東京の都市生活者を見ていると、予言者トーマの創造した世界『アザレアの心臓』が、現実と虚構の境界線が限りなく曖昧になってきているなと痛感する。そこで、気になる収録楽曲すべてをセルフライナー的に訊いてみた。
最前衛の才能を誇る音楽家が生み出した“正しく生きること”を伝える2013年要注目のアルバム作品!


トーマ『アザレアの心臓』全曲解説 -A面-
1.『潜水艦トロイメライ』
ーアルバムのオープニングに相応しい退廃的ながらも派手目なアレンジがインパクトの強いナンバー。強烈な掴み、サビの疾走感に注目したい楽曲です。エネルギー問題や行き過ぎた文明批判がテーマでありながら、誰からも忘れられた街の話が主題となっていて、とても気になります。
トーマ
アルバムの1曲目として作り始めたので、始まりを意識したサウンドに仕上がってますね。歌詞は退廃的なイメージをガツンと打ち出しました。あと深海の展開もポイントです。結構サビが綺麗というか、サビが2度ある展開を作ったんですけど、そういう2面性を楽しんでもらえればと。
ー歌詞は“書くぞ!”と気合い入れてから仕上げていくんですか?
トーマ
はい、相当気合を入れて書いてます。頭からガガガガと埋めていく感じなんです。映画のように1曲の中で様々な場面がストーリーによって展開していくイメージです。このパートではこういうストーリー、サビでこういうことを歌っていこうということは漠然とはあります。それをちゃんと綺麗な形にするために頭から引っ張りだして、ペタペタ貼っていく、そんな作り方ですね。
2.『リベラバビロン』
ーこの曲はトーマさんのヒット曲『バビロン』のリプロダクションですね。
トーマ
こちらが最新版という感じは無いんです。アルバムの世界観に合わせて空気感とメロディーラインと歌詞の切り口を変えたって感じです。
ーこの楽曲はファンク要素が刺さってきます。スピードが自在に変化して構成がまるで迷路のような曲ですよね。
トーマ
まさにそういう感じにしようと思いました。基本が既に存在する曲だから自分で塗り足しもできて、行きたいところに行ってもちゃんと戻せるので、好きなように作れました。ちなみに、ドラムのレコーディングが展開的にすごいことになっています(笑)。やりすぎた感もあるんですけど、それがいいですね。
ー『バビロン』との違い、アルバム作品としてのこだわりは?
トーマ
より救われない感じになっています……。歌詞で結構まずいこと言っている気がするんですけど、そう意図したわけではなくて、描きたかったことを表現する為に言葉が生まれてしまったんです。あと、『バビロン』があったことで、より人に寄り添える曲になったような気がしてます。

3.『サンセットバスストップ』
ーイントロから最強です。あの絶妙な泣きメロ、ちょっと大人な感じですよね。歌詞も湿った感じがすごくツボで刺さりました。
トーマ
タイトルから浮かんだ世界観でした。映像と響きから作ったイメージです。この曲をつくったのはアルバムのなかで真ん中ぐらいな時期でした。ぶっ飛んだ世界観の曲ばかりだったのを、いったん日常に戻そうと思って……より身近なところへ戻しました。でも結局ひどいことを言ってしまったような気がします。終わってしまえば、あんまり覚えてないですけど(苦笑)。
ーこの楽曲のミドルなテンポで郷愁感なノリ、トーマさんでは他ではあまりないタイプですよね。
トーマ
はい、わりと狙って作りました。考えきれてないかもしれないですけど、選曲として一曲一曲の立ち位置的はちゃんとイメージして書いているんですよ。
4.『魔法少女幸福論』
ーシンセサウンドがキュートなポップナンバーですね。でも世界観的にいうと、いわゆる物語が奥の深いアニメーション『まど☆マギ』的な感じがしたんですが、これはどんなふうにして?
トーマ
作品ジャンルでいうところの魔法少女が好きなんです。日本ならではの文化だと思うので、継承しなければって思いで作りました。アルバムの中でもポンと抜けた曲だと思ってます。なんていうか、魔法少女をテーマに曲を作った結果、こうならざるを得なかった感じでもあります。最初は完全に全部シンセだったんですけど、それだと自分の中でしっくりこなくて……。バンドサウンドにしたらけっこうしっくりきたのでそこの変化はありました。歌詞ではまた救われない感じなことを言ってますね……。
ーポップミュージックの世界ってリアルなものだったり、世の中を写す鏡の要素も強いはずだから、辛い面から逃げない表現ってのは正しいというか、ちゃんと踏み込んでいてカッコ良いなと思います。
トーマ
あんまり自分でこの表現は世間的に駄目だろうって葛藤な線引きは無いんです。ただ自分の聴きたい好きな曲を作っているだけなので……。
5.『envycat blackout』
ー人気チューン『エンヴィキャットウォーク』も、すごいキャッチーでカッコ良くて大好きな曲だったのですが、さらに良い意味で荒々しくグランジに進化してますね。
トーマ
より汚くドギツクしました。前のヴァージョンが割とスポっとまとまったので、アルバム用に毒を入れた感じです。ちょっと作り直すくらいだったら、これくらいやらないと腹の虫が収まらないんですよ。元があると逆に帰る場所があるから、どこに行っても帰れるのでどこへでも突き進める安心感があるんですね。あまり世界観は変わってないですけど、クローズアップする場所がちょっと人寄りにズームアップしているかもしれないですね。

6.『九龍イドラ』
ーこちらも同人で先行リリースされたアルバム『Eureka』の収録曲ですね。チャイナ風なメロディ、歌詞でのアジアの退廃的なイメージがありました。
トーマ
音楽的にしっかり東洋っぽい楽曲を作ろうと思ったんです。モチーフとして九龍城を使いました。今回、アルバムに収録するにあたってサビだけ変えたんです。サビのメロディがなんかイキ切らないなと思っていたんですが、突き抜けたサウンドに仕上がったと思います。その結果タイトルも変わりました。
7.『廃景に鉄塔、「千鶴」は田園にて待つ。』
ー複雑な展開のギターロックであり、ヴォーカルをトーマさん自身が歌唱されていて、歌声のハマりっぷりにヤラレました。サビでの突き抜け感が爽快なんです。サビ前のハードコア・サウンドなテイストを予感させる独特なタメとか、快楽ポイントが絶妙すぎます。“鉄塔”や“田園”ってキーワードからは映画監督岩井俊二作品も浮かんできました。そういえばアジア的な共通点もありますよね。
トーマ
僕の原風景として一番浮かんでくる“絵”って僕の実家近くの風景なんです。この曲を作っている時、その風景がいつも浮かんでいて。実は、その鉄塔を写真に撮って今回ブックレットに掲載してます。これもわりと日常寄りで、手に届く範囲の世界観で好きな感じでやりました。ちなみに岩井俊二さんは好きな映画監督ですね。
…トーマ『アザレアの心臓』全曲解説 -B面-へ続く。
対話・テキスト_ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)
text by fukuryu
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※本記事は掲載時点の情報です。