最前衛の才能を誇るボーカロイドクリエイター、トーマ。WEBに作られた退廃的な都市の世界観と、緻密な計算によって仕掛けられた中毒性の高いデジタライズにシンクロしたロックサウンドによって、独自の世界観が構築された傑作アルバム作品の誕生だ。
ポストハードコア・サウンドを好むトーマが生み出すサウンドは、展開が縦横無尽に飛び交う、まるで迷路のような構成によって毒っ気の強いポップなメロディを、絵が見える物語性によって届けてくれる。黄砂に悩む東京の都市生活者を見ていると、予言者トーマの創造した世界『アザレアの心臓』が、現実と虚構の境界線が限りなく曖昧になってきているなと痛感する。そこで、気になる収録楽曲すべてをセルフライナー的に訊いてみた。
最前衛の才能を誇る音楽家が生み出した
“正しく生きること”を伝える2013年要注目のアルバム作品!
トーマ『アザレアの心臓』全曲解説 -B面-
トーマ『アザレアの心臓』全曲解説 -A面-はクリック
8.「オレンジ」
ーメロウなグルーヴが極上のせつなさを表現されています。絵が浮かぶメロディですよね。
トーマ
僕の原風景である好きなイメージをひっぱりだして、そこにストーリーを載せました。テーマとしては普遍的な別れの曲ですね。
ー日々の生活では忘れているんだけど、ふとした瞬間にいつも自分の身近にある感じな存在感というか。
トーマ
日々、なんともいえない生き方をしているので、答えとかいつも意識してないんですね。そうなると、いかに目の前の罪を減らしていくか……、毎日そういう生き方しかできないんですよ。なのでどこにも行けないようなもどかしさが曲にあらわれているかもしれません。
9.「未来少年大戦争」
ー突き抜け感、高揚感にあふれたナンバーですね。タイトルもそうなんですけど、アニメーション的な映像が浮かんでくる楽曲です。
トーマ
こざかしいことをせずストレートに、歌詞もあえて飾らなく、かつちゃんと言いたいことを言えた楽曲ですね。歌詞で何度も“未来”って言っているんですけど、希望的なイメージでは無いかもしれないです。それはアルバム全編通していえることですね。ぼくらの世代って“未来”には希望が持てないし、いつまでたってもうじうじ考え続けると思うんです。でも生き物として本能で“未来”に希望を持たざるをえないというか……。本当はよくないことばっかりな時代だけど、前を向いて考えなければいけない。闘わないといけない。救われないけど考え続けていかなければならないのだと思っています。
10.「ヤンキーボーイ・ヤンキーガール」
ートーマさんの代表曲であり、人気チューンですね。生ドラム、生ベースヴァージョンがカッコ良く、中毒性が残る口ずさみたくなる楽曲ですよね。ヤンキーがテーマに登場するギャップ感にしびれました。
トーマ
ヤンキーと魔法少女と一緒で、わかりやすくアイコン化できる日本の文化だと思うんです。実際のヤンキーはすごいささくれた感じだと思うんですけど、漫画や映画とかに出てくるヤンキーってヒーロー視されているというか、良い奴ばっかりじゃないですか?現実よりエンターテイナーな部分のヤンキーを切り取った感じですね。ヤンキー映画を好きでよく見るんです。昔で言うところのヤクザ映画なカタルシスというか(笑)。
11.「クジラ病棟の或る前夜」
ートーマが創造する“未来世界”の行く末がとても気になるナンバー。歌詞世界がグッとくる、物語性の強さ、伝えたいことが一貫してぶれない軸が強い曲だなと思いました。
トーマ
なんていうか、具体的なビジョンを提示したかったワケではないんですね。ぼくの中にある普遍的な想いが、良い感じにアルバムの中で位置付けられている楽曲かなって思ってます。ポジション的にも重要視して作ったはずなんだけど、伝わりづらいかなって思ったり。……でも、気休めにはなったかなと思います。
12.「アザレアの亡霊」
ーある意味、テーマソング的なポジションもあるのですか?
トーマ
タイトル的にテーマソング風に伝わるかもしれないですね。でも他の曲と比べて飛び抜けてこだわりが強いかって言えば、そんなことはないんですよ。でも、今回のアルバムの13曲の中では一番最初に作った曲ではあります。なので、今までとこれからの架け橋的な存在かもしれませんね。あと、パッケージでいうビジュアル面でのイメージを包括したナンバーかもしれません。
13.「心臓」
ー『心臓』は、希望感の強い力強いイントロに元気がもらえます。ハイライトな感じというか、他の曲と空気感が違う印象を受けました。転調の使い方もグッときますよね。
トーマ
言いたいことを言い切った曲ですね。一番伝えなければならない気持ちがあって、自分でヴォーカルを担当しました。対話のような歌詞になっているんですけど、実は相手は自分自身かもしれないんですね……うーん、歌詞がすべてな楽曲です。
ートーマさんは楽曲を作り出すことで、救われた感ってあるものですか?
トーマ
頭の中でイメージしている瞬間が一番純粋に楽しめます。曲を具体的に作り始めると、それこそ自分と向かい合ってしまって、いかに“許されるか”の戦いになってしまうので……。
ー音楽活動をするうえで、多くの人に聞いてほしい気持ちはありますか?
トーマ
アルバムとしてパッケージとして作品を出したい欲求の方が強いですね。タイトルが何曲も連なって、一つのテーマとなりジャケットに表現されることに憧れがありました。CDという形が好きなんですよ。なのでやりたいことは今回のアルバムにすべて詰め込めた気がしてます。
ー今回、自身でのヴォーカルを初挑戦されてましたが、ボーカロイドを使わず、自身の歌のみで作品を手がけてみたい想いってありますか?
トーマ
あるんですけど、今は正直言ってボカロだから許されている感があって、やるとしたらもっとちゃんとやらなきゃいけないプレッシャーがありますね。
対話・テキスト_ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)
text by fukuryu