主にポケモン。初代・金銀の開発史考察多し。
QLOOKアクセス解析
未分類RSS|

ポケモン開発史考察 #06 通信対戦機能未実装想定時の名残り

ポケモンというゲームには様々な遊び方・楽しみ方があります。


図鑑完成を目指すためのポケモン収集。
野生の個体を捕まえたり他のプレイヤーと交換したり等、ありとあらゆる方法で何百種類と存在するポケモン達を集めていきます。

友達、あるいは見知らぬ人との対戦。
様々なポケモン達の様々な戦術がぶつかり合い、その流行や環境も日々めまぐるしく変化し続けています。

一人旅、タイムトライアル、回復禁止等の縛りや競争を設けたシナリオ攻略。
最近「全世界同時操作ポケモン」なるものが話題になりましたが、あれも一種の縛りプレイと言えるでしょう。


これらの中でも特に「花形」となっているのはやはり対戦……通信対戦と考えていいでしょうね。
「ポケモンを遊んでいる」≒「ポケモンの通信対戦をやり込んでいる」となっているほどです。


このように、ポケモンの主流の遊び方となっている「通信対戦」ですが…。









実は、「赤緑」の開発段階では通信対戦機能は実装されない予定だったんです。




『ポケットモンスター』の遊び要素のひとつとして、対戦モードの可能性は、かなり早い時期から田尻の構想のなかにはあった。
ただ、それを実現させようとすれば、代わりに失われるものもある。
対戦は、あくまでもオマケとしての要素なのだから、いまは保留にしておいた方がいいだろう。まずは、なによりも交換の部分を練り上げること。そのうえでゲーム全体をまとめること。とにかくゲームを完成させ、そのあとに時間と余力が残っていれば、そこではじめて対戦について考えてもいい……。
それぐらいの比量で作業にあたっていた。

ところが、ゲーム完成のための最終締め切りが、二週間後に迫ったある日。田尻は突如として、通信対戦モードの採用を決定した。この決断の背景には、田尻自身が対戦の必要性を感じたからであるのはもちろんだが、それだけではなく、周囲からの熱烈なリクエストがあったことも影響している。
ゲームの全貌が見えるようになったあたりから、ゲームフリーク社内だけではなく、クリーチャーズや任天堂の社内でも、連日テストプレイが繰り返されていたが、そうした作業に携わっているスタッフの口々から「対戦できたらもっと楽しいのに」という意見が続出したのである。

この急激な提案に仰天したのは、対戦部分を担当することになったプログラマーの森本である。なにしろ締め切りまで、あとわずかの時間しかないのだ。

「最初に組み立てた戦闘のシステムとかプログラムは、あくまでもゲームのなかでの戦闘のためであって、通信用に作ったものではなかったんです。だから、それをそのまま通信対戦に応用しても、本当に面白くなるのか疑問でした。だいいち、そんな通信対戦のための新しいプログラムを組むのは大変だよなぁ、って思ってたんですね。いまだからいえることですけど、当時はこのまま他の作業に集中して、最終的に、対戦は間に合わなかったね、ってことになるんじゃないかと期待してたわけです(笑)」

しかし、決断されてしまった。よりによって締め切りまでたったの14日間という土壇場の時期に。


「うちの社内だけじゃなく、任天堂さんからも、クリーチャーズさんからも『通信対戦やろうよ』って聞かされると、みんながそう考えるならやっぱり入れるべきだな、と思うようになりまして、慌てて作業に取りかかったんです」


まず最初に森本が作ったのは、プレイヤーが見ているだけのバージョンだった。
お互いがゲームボーイをケーブルで接続し、対戦させるポケモンを決める。戦闘開始のボタンを押すと、あとはコンピュータが判断し、それぞれが交互にポケモンを繰り出し、どちらかの体力がゼロになるまで戦う。この間、プレイヤーは手をこまねいて見ているしかない。

「このバージョンを任天堂さんに提出したら、返ってきたアンケートに『つまらない』ってはっきり書かれてしまいました。まぁ、それは自分でもそれはそうだよなぁ、と思いましたけどね(笑)。もともとが通信対戦を前提にしていなかったので、ポケモンの強さなんかも通信対戦向きのバランス調整をしていませんでしたね。結局、そこからまたかなり手を加えていって、締め切りギリギリで現在のような形に仕上げていったんです」


およそゲームフリークの制作スタイルらしかぬ、突貫工事のような作業で作られた通信対戦モードだったが、それによる効果は大きかった。なぜなら、ゲームが画面のなかで完結したものではなく、ケーブルでの交換とともに、友達との対戦という遊び方が、ゲームを外の世界に開かせることになったからだ。

また、通信対戦は<ポケモン・リーグ>という呼び名で、最大のデモンストレーション効果をも発揮してくれた。
テレビ番組や各地のイベント会場で開催されるポケモン・リーグには、日本全国からポケモン自慢が集まり、その熱い戦いぶりが、まだ『ポケットモンスター』を持っていない子供たちに、強烈な購買意欲を誘ってくれたのだから。

ゲームフリーク 遊びの基準を塗り替えるクリエイティブ集団(とみさわ昭仁・著、メディアファクトリー刊) 128頁-131頁より引用



田尻 通信でポケモンを交換できればそれだけでもいいと思っていたんですけど、それが実現できるようになると、次はやっぱり対戦をさせてみたくなるんですよ。

森本 対戦については、田尻社長は前からやろうと言っていたんですけど、僕はそれほど対戦の魅力を感じていなくて、むしろそんなプログラム組むのは大変だなぁとしか思わなくて(笑)。「間に合わなくてできません」ということになりそうだなぁとか思っていたんですけど、任天堂さんの方からも「対戦が欲しい」という意見がありまして、やっぱりみんなそう考えるのかと思ったんですよね。じゃあ、しょうがないからやるかということになったんですが、最初に作ったのは見てるだけというヤツだったんです(笑)。勝手に戦っているのを眺めて、勝った負けたというヤツ。それをまた任天堂さんに提出したら、返ってきたアンケートで「つまらない」とか書かれてしまいまして(笑)。確かにそうだよなぁとは思ったんですけど、実際にコマンドを入力して対戦できるものを作るためには、締め切りの都合とかもあってキツかったんですよ。それでも、みんなが求めているんだからということで、通信のツールとかを手直しして、現在の形になったんですね。

田尻 ちなみに、このゲームは任天堂発売のゲームの中で、最もデバッグに時間がかかったゲームなんです。開発者の皆様、お手数お掛け致しました(笑)。

増田 結局、どんなゲームでもそうでしょうけど、バグが取れなくて苦しんだ場所っていうのが一番思い出深いところですね。それがこのゲームでは、最後の決断で通信対戦をがんばって入れたところだったんですよ。

森本 もともとが通信を前提としていませんでしたから、細かいところをすべて修正していかなければならなかったんですよね。

ポケットモンスター図鑑(アスペクト社刊) 「開発スタッフ・インタヴュー」 142頁より引用





ポケモンの生みの親であるゲームフリークの社長・田尻智氏には通信対戦をやりたいという考えもありはしたものの、制作自体は「実装しない」方向性で進められていたとの事です。

そう考えてみると、初代ポケモンにおいて「ああ、これは通信対戦を実装しないつもりでいた頃の名残りでこういう事になってるんだな」と納得できるモノが結構あります。


当記事では、そのような「名残り」から開発当時の“ポケモンというゲーム”の過程の姿を探ってみます。



種族値

イワークの種族値

攻撃がポッポと同等、HPと特殊がポッポ以下な反面、防御は151種類中2位(ちなみに1位は180のパルシェン)
素早さは平均を少し上回るそこそこの速さ…という非常に極端な種族値をもつポケモン・イワーク。

このようなアンバランスな種族値をもつようになった経緯には何があったのでしょうか。



・ポケモン赤緑は通信対戦機能を実装しないつもりで開発が進められていた
・イワークは1番目のジムリーダー「タケシ」の切り札的ポジションのポケモン

この2点を考慮するとそれに納得がいきそうです。


イワークは「1面のボス」「最初の難関」といったコンセプトのもとで生み出されたポケモンだったのではないでしょうか。
あるいは、そういったコンセプトに途中からシフトされたか。

「今まで通りひっかくだとか体当たりだとかノーマル技ばっかり使ってちゃ駄目だぞ!」
「相手のポケモンのタイプやステータスに合わせて様々なタイプの技を撃ち分けるんだ!」

という事を指南する役割を担っているのでは…と考えられます。

防御が非常に高いためノーマル技(物理攻撃)ではてんでダメージを与えられない。
ところが特殊が低いおかげで、レベルアップによって覚えた草・炎・水技(特殊攻撃技)ならラクに倒す事が出来る。
イワーク側の攻撃力は貧弱で、こちらが致命傷になるようなダメージは飛んでこない。だから焦ることなくじっくり適切な戦い方を模索できる。
けれども我慢には要注意だ。


通信対戦機能の実装が予定されていなかったからこそ、
こういったシナリオ進行上の都合に合わせたであろう種族値調整になったのではないでしょうか。


ところで、御三家のうちヒトカゲだけは特殊技(=火の粉)が「いまひとつ」ではありますが、物理技のひっかくに比べりゃ遥かにマシだという事をプレイヤーは身をもって痛感します。
何より、向こうはこちらの弱点を突いてきませんから難易度はそこまで辛くはありません。

…まぁでも確かに、フシギダネとゼニガメは「ばつぐん」なのにヒトカゲだけは「いまひとつ」ってのは不平等ではありますよね。
話がズレてしまいますが、そういえばもうひとつ。
「リメイク版のFRLGではヒトカゲがメタルクローを覚えるようになったからタケシ戦の難易度が下がった」なんて言う人がいますがそれは違うと思います。
物理技のメタルクローは防御の高いイワークに対してそこまで有効打になり得ないからです。
むしろ、イワーク側が岩タイプの攻撃技「岩石封じ」でヒトカゲの弱点を突いてくるため難易度は上がっているように感じます。

「シナリオ進行上の都合に合わせて調整したであろう種族値」をもつポケモンは他にもいるでしょうね…。

NPCとの交換でのみ手に入るポケモン(カモネギとか)は、「他人産は獲得経験値が1.5倍」という仕様を前提とした上で素の種族値が低めに設定されている…とかありそう?



覚える技

ワタルの手持ち

四天王のワタルは、手持ちポケモン全員に破壊光線を覚えさせているのが特徴的なトレーナーです。


ほお、全員に技マシン15を使ったのか。たいしたこだわりっぷりだな…。と思う方もいるかもしれません。が、それは誤った認識です。



ワタポケレベル技

なぜなら、ミニリュウ系列・ギャラドス・プテラは全員レベルアップで破壊光線を覚えるからです。
別に技マシンを使わずとも習得できるんです。僕も頭では分かってはいるもののついつい勘違いしがちなんですよねこれ…w

「破壊光線が全員4スロット目」という点においてもなんだかすごい統一感がありますが、これも破壊光線の習得タイミングが全員一番最後というだけの単純な話です
(NPCはレベル技を押し上げ式に覚えさせます。育て屋さん方式と言えば理解しやすいでしょうか)。

カイリューのバリアーに関してはここ参照。

ギャラドス、プテラ、ハクリュー、カイリュー…。こいつらを四天王の総大将・ワタルに使わせよう
→「ワタルのポケモンは全員破壊光線を覚えている」って事にしておくと強いしインパクトあるな
→破壊光線をギャラドス・プテラ・ミニリュウ系列のレベルアップ習得技に設定しよう。強い技だからいずれも一番最後で


という流れであったように思えます。


シナリオ進行上の演出が「ポケモンの覚える技」にまで手を伸ばしているという事です。
これもある意味「通信対戦機能未実装想定時の名残り」と言えなくもないでしょうね。



タイプ相性・及び強弱バランス
初代のタイプ相性表

初代のタイプ相性はとにかくエスパーが強いとよく言われますね。

エスパータイプの技を半減にできるのは同じエスパータイプのポケモンのみ。
また、エスパータイプのポケモンに抜群を突ける技タイプは虫のみ。
虫タイプの攻撃技は威力が貧弱なものしか無いため、エスパー単タイプのポケモンは実質弱点無しという事になります。


このように、エスパータイプの相性という観点で見ればエスパー一強とも取れますが…。
他の要因も絡めて考えると実は案外そうでもありません。



まず、エスパータイプのポケモンという観点で見てみると……。

「実質弱点無し」の単エスパーポケは自力で覚える攻撃技のタイプの範囲がとても狭く、エスパーやノーマルくらいしかありません。
技マシンによる補強を試みても地獄車やら穴を掘るやらといった程度です。しかもこれらは全て物理技!

(バリヤードの場合、ソーラービームや10万ボルト等ちょっとは多彩になっていますがそもそも種族値が貧弱なんですよねぇ)ミュウツーとミュウは「例外」ですよ、もちろん

その上、単エスパーはケーシィ系列にしろスリープ系列にしろ種族値にクセがあるんですよね。中途半端な足の速さだったり、とんでもない打たれ弱さだったり。
あと、レベルアップで覚える技にやたら補助技が織り交ぜられているためNPCの思考ルーチンだと「無駄な一手」が暴発する可能性が高めという欠点もあります。

【NPCの技の出し方について】

初代では相手のポケモンがどの技を繰り出してくるのか…というのは基本的にランダムです。

0~255の範囲内で乱数を生成し、その値が
0~62なら1番目、63~126なら2番目、127~189なら3番目、190~255なら4番目の技が選ばれます。
もしも存在しない技スロットの値が出たら……。例えば、2つしか技が無い状況で134(3番目に該当)が出たら…?その場合は乱数生成のやり直しです。

野生ポケや一部のトレーナーの場合はそもそも思考すらしていない完全ランダムな技選択ですが、トレーナーの種類によっては
「効果抜群になるタイプの技を優先して出す」等といった判定を事前に挟んだりもします。

(参考:敵の技はどうやって決まる? ― POKeMON Analysis


じゃあ複合タイプのエスパーポケはどうなるんだ?強力なエスパー技をタイプ一致で撃てるし、何より単エスパーの弱みだった「攻撃技の範囲の狭さ」もカバーできているぞ?
って事になりますが、そいつらの場合は「エスパーじゃない方のタイプの弱点を付く」という対処ができる訳です。
スターミーなら草や電気、ナッシーなら炎や飛行等、といった感じで。

こう考えてみると、あながち「バランスが悪い」とは言い切れないんですよね。
もちろん「通信対戦の概念が存在しないという場合でのゲームバランス」という意味ですけど。





エスパータイプの技という観点でも考えてみましょうか。

【攻撃技】
サイケ光線、念力、サイコキネシス、夢喰い、サイコウェーブ(5個)

【補助技】
催眠術、ヨガのポーズ、高速移動、テレポート、バリアー、光の壁、リフレクター、ド忘れ、スプーン曲げ、眠る(10個)


実は、エスパータイプのみ攻撃技の数<補助技の数となっているのです。まぁそれだけエスパー技は補助技率が高いという事でして。

これらの補助技は、エスパータイプのポケモンに限らず割と様々なポケモン達がレベルアップで覚えます。特に高速移動とか。





…ちょっと前述の「NPCの技の出し方について」を再び確認してみてください。


トレーナーの種類によっては「効果抜群になるタイプの技を優先して出す」等といった判定を事前に挟んだりもします。


実はこの判定、攻撃技と補助技を区別しないのです。

…これがどういう事か分かりますか?

例えば、「覚える技」の項目で触れたワタルのポケモン。その中でもカイリューを例に挙げてみましょうか。

カイリューに着目

このカイリューに対し格闘タイプや毒タイプのポケモン(=エスパー技が抜群になるポケモン)を繰り出すと、相手は高速移動やバリアーを延々と積みまくるのです。

当記事の冒頭で触れた「全世界同時操作ポケモン」でも話題になった、ある種のテクニックとしても知られている仕様です。


僕はこの仕様は「攻略のアナ」としてスタッフが敢えてそうしたのではないかと考えています。
特に、やけに数が多いものの相性やタイプ一致技の火力など不遇な面の多い毒タイプ。
特殊な形ではありますが活躍を狙える場が与えられているんですね。……これはちょっと深読みしすぎかな。








ところで、赤緑当初作られたという「プレイヤーは見てるだけの通信対戦」。
この通信対戦においても、NPCと同じ上記の仕様が用いられていたらどういう風になっていたのでしょう。

「初代ポケモンは技の忘れさせ・思い出しが出来ない」事も考慮すると、上述の単エスパーも含め多くのポケモンは技マシンを使わないとロクに活躍できそうにないですね…。

そういえば、この通信対戦って後のシリーズ「エメラルド」で登場した「バトルパレス」での対戦の仕様を彷彿とさせますね。
アイディアのヒントになったのかな。





…結局、最後の項目は「種族値」も「覚える技」も複雑に絡む形になっちゃいましたね…。

僕が気付いていないだけで、「通信対戦機能未実装想定時の名残り」はまだ結構あるのかもしれません。



あと、タイプに関してはまだまだ色々思う事があるのですが、それらは「タイプについて」という個別記事にする事にします。



ワタルさんトップページにもどるワタルさん





ポケットモンスターシリーズ・攻略ブログ

スポンサーサイト



  1. 2014/05/01(木) 23:01:21|
  2. 未分類|
  3. トラックバック(-)|
  4. コメント(-)