「クールジャパン」ではなく、「先駆ジャパン」であれ
「ハードパワー」、つまり軍事力や経済力による争いは、「勝ち組」と「負け組」に分かれるが、ソフトパワーはそうではない。ソフトパワーは力の一種であるが、その内実は「強さ」ではなく、「魅力」である。
現在、韓国のKポップや映画が世界的な人気となり、韓流と呼ばれるブームになっている。これもソフトパワーだ。だからといって、ソフトパワーの性格上、韓流が日本のカルチャーの魅力を薄れさせるものではない。
ソフトパワーによる競争は、ゼロサムゲームではない。軍事力や経済力を支える富や資源は限られているが、ソフトパワーの根源である想像力は無限だ。韓国の人気バンドBTSの曲を聴いた後、日本のアニメやマンガを楽しむのはごく普通。だから、劇場版「鬼滅の刃」無限列車編は、韓国でも2020年に上映された映画興行収入でトップとなった。
以前、日本の音楽業界はごく一部を除き、海外展開に興味がないと思われるほど国内だけに目を向けていた。Jポップが後れを取ったのは、ソーシャルメディアやストリーミングの活用で出遅れ、海外のファンがアーティストの顔写真など基本情報を手に入れにくかったからだ。Kポップ人気はアーティストたちの努力の結果でもあるが、若者にアピールするためにソーシャルメディアを賢く使った成果でもある。海外ファンが日本のバンドと韓国のバンドを比較して韓国を選んだわけではなく、日本のバンドをほとんど知らなかったのだ。
「韓国政府がポップカルチャーを手厚く支援しているから、Jポップが負けた」という意見がある。しかし、クールさ、つまり愛や信頼や尊敬は、上からの命令や政府の資金投入で得られるものではない。「クール」は自然に集まってくるものだ。消費者は、日本が「クール」だから日本製を消費しているわけではない。1990年代前半にバブルが弾けた後、社会的、政治的、個人的問題に直面した日本の多くのクリエーターと消費者が必死になって生み出した商品やトレンドが、たまたま2000年代のリーマン・ショック後、同様の問題に直面した欧米の人々のニーズに合ったから消費しているのだ。「クール」より、本能的な反応だろう。
そんな例は他にもある。フェイスブックやツイッター、ネットフリックスなど、ネット時代に我々が普通に使っているSNS(交流サイト)やストリーミングサービスなどは、米シリコンバレーで生まれたものが多い。確かに私たちが使っているシステム自体はそうなのだが、実はその使い方や生かし方の大半は、メイド・イン・ジャパンであり、その点についてたぶん日本人は気付いていない。
テキスティング、絵文字、セルフィー(自撮り)……。これらを「発明」したのは、1990年代の日本の女子高生やOLだった。ポケベル、iモード、写真シール作製機などを使いこなし、独特のカワイイ文化を生み出した。それだけではない。2010年代から欧米社会を混乱させる一因となっている匿名掲示板の祖先は、1999年に日本で生まれた「2ちゃんねる」である。
バブル崩壊後の「失われた20年」を経て、日本はもう国際的な影響力を失ったと海外からいわれた。海外の政治家やトップリーダーは「ジャパンパッシング」に動いたが、皮肉なことに、日本の若者はその間、近い将来、世界中の誰もが使うようになるバブル後の社会を生き抜くためのツールを作り、流行(はや)らせていた。クールジャパンではない。「先駆ジャパン」なのだ。そして、これが「文化輸出立国」への第3のポイントに他ならない。そうしたパワーをいかに伸ばしていくか。課題先進国の成果物は、ポップカルチャーブームを超えた本物のソフトパワーだと私は思う。
なぜ日本のマンガ、アニメ、ゲームは世界を魅了したのか?
1945年の敗戦から、日本人は米兵が乗ったジープ(小型四輪駆動車)を見て、捨てられたブリキ缶を回収して、玩具のジープを作り、その娯楽品を輸出して食料などに替えた。この創意工夫の職人的精神は江戸時代から引き継がれたものだ。
1990年代初頭のバブル崩壊後もゲームやカラオケ、女子高生が担ったハローキティなどのカワイイ文化は、世界に拡大していく。こうしたサブカルチャーの歴史を東京でゲームなどのローカライズ(日本語から英語への翻訳)を仕事にしてきた著者が丹念な取材で描いた。
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33件のコメント
百代過客通行人
何か故意にピントをずらしているような空気ですが、却って「軍事もアニメも」の方が現実解に近いんじゃないんでしょうか。
武流
ここに取り上げられている文化が日本国内で重視され、国家戦略として日本の主力製品にしていこうなんて動きにでもなったら、余計な連中(つまり分かってない肩書だけ立派な連中)が参入して、分かったような采配を振るって、その文化そのものをブチ壊すような
気がします。アニメーター、確かに待遇悪すぎると思いますが、ここが日本屈指のトップ報酬が貰える世界になったら、、、今のアニメーター達ではない連中が制作するようになり、、、きっと今のアニメの「何か」が失われるでしょう。...続きを読む武田
アニメの世界価値は偶然の産物なんでしょう。
だからと言って世界戦略などと言って、世界に迎合すればその魅力が失われる。
アニメは日本人に向けて日本人が作ったものが、たまたま世界の人々にも受け入れられた、ガラパゴスだからこそその価値を発揮できた
。...続きを読む文化は異質であればあるほど魅力が輝く。
工業技術のようなガラケー・国産スマホとは意味が違う。
ぱい
アニメを持ち上げ過ぎと感じました。
年のせいなんでしょうか。
小学校の卒業文集には漫画家になりたいと書いていたくらい漫画は好きだったんですが。
JP
国産製造業創業役員
こういうキャッチーな表題を付けるのは日経BPの戦略かな?
まあ、まず読んでもらわなければだめだからね。
携帯電話メーカ+K-POPとかの文化の進出でその後政治的なメッセージ(独島は韓国のものとか、日本は慰安婦を強制連行したとか)をしているの
は韓国政府の方針ですからね。ある意味当たっているね。この人の書いているNYタイムズも10年位前から韓国バイアスの編集方針だしね。...続きを読むコメント機能はリゾーム登録いただいた日経ビジネス電子版会員の方のみお使いいただけます詳細日経ビジネス電子版の会員登録
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