――もし藤岡さんが、作中に登場するような大量の金塊を手に入れられたら、何に使われますか?
藤:私なら人を救い、感動させるために使います。そして、これからの未来を背負う子どもたちのためにユートピアを作り、遺していきたいですね。国境も宗教もイデオロギーもすべてを超え、人類すべての子どもたちへの教訓を遺し、託したい。
僕には4人の子供がいますが、みんな武道で精神と肉体を鍛えています。いつも「私の心臓が止まるまで全力でお前たちを守り続け、教え続け、託し、遺すから心しておけ!」と叱咤していますよ。それが私のやれる最大のことで、逆に言えば、それ以上のことは何もできない。自分の親父がどういう考えで生き、何を遺したかが子どもたちの記憶に残り、それが彼らの財産になるんです。人間ひとり、どうせ100年ほどの命ですよ。100年という期限付きの肉体はアパートの一室のようなもので、最後には返さなくてはならない。じゃあ、そのときに何を持って出ていけるのか? 財産も、地位も金塊も持っていけませんね。最後、自分に残るのは、「道(どう)」に従った生き様だけです。どれだけ人を愛し、救い、感動したか? という、自分の歴史だけですからね。
野田先生の漫画の価値は、僕のように実体験と重ねてしまう読者には、とてもよくわかります。先生のように「実」を知って漫画を描いている人は、ほかにはそういません。『ゴールデンカムイ』は、僕の愛読書になりましたよ。ぜひ、完結までしっかり読ませていただきたい。
先生は今日も徹夜明けだそうですが、お忙しくて、あまり十分に睡眠が取れないんじゃないですか? 今日はね、これを先生に差し上げようと持ってきたんですよ。僕が世界中を巡り、2年かけて厳選した珈琲豆です。寒暖差の激しいアンデスで生き抜いた有機栽培の豆で、生命力が違う。その豆を職人が「気」を入れてくれているので、味は最高ですよ。
野:おお、これはすごい……ありがとうございます。
【『GK』こぼれ話】
今回調理した羆の手足は、アイヌの工芸家であり現役猟師の浦川太八さんが獲ったものをいただいた。実はこの方『ゴールデンカムイ』とも所縁が深い。野田先生曰く、浦川さんが彫ったマキリ(小刀)が、チカパシとキラウシのマキリのモデルなんだそう。どちらも作中に登場&活躍した、印象深いマキリだ。