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 Amazonマーケットプレイスで売られている中国製モバイルバッテリーが原因で自宅が半焼した男性が、アマゾンジャパンなどに損害賠償を求めて提訴した。政府はプラットフォーム事業者に対し、問題のある商品の販売停止を要請できる新法案を今国会に提出する。身近に起こり得る被害を救済する第一歩だ。

 情報法に関連した研究者である加藤尚徳氏は2020年11月に米アマゾン・ドット・コムやアマゾンジャパンを相手取って提訴した。Amazonマーケットプレイスで購入した中国製モバイルバッテリー内部からの出火で自宅の家財道具が消失した損害の一部賠償と、被害者救済の仕組みを求めたものだ。

 火災の原因となったモバイルバッテリーをAmazonマーケットプレイスに出品した中国メーカーは、類似した製品を国内の家電量販店でも販売している。加藤氏は出品者である中国メーカーやアマゾンジャパンに事故の周知や対象製品のリコールといった対応も求めた。しかし具体的な対応はしてもらえなかったという。

 中国メーカーにはAmazonマーケットプレイスのWebフォームでしか連絡できず。弁護士に依頼して被害を訴えても、中国メーカーは返金のうえ損害額より少ない見舞金を払ったのみで、「(同社に)製品を納入した製造業者に責任がある」として事実上対応を拒否。日中の法制度の違いが壁となって中国で訴訟を起こすのは難しいと判断し、メーカーへの直接請求は断念せざるを得なかった。

プラットフォーム事業者や海外との法制度の違いが壁に
プラットフォーム事業者や海外との法制度の違いが壁に
(出所:加藤尚徳氏の資料を基に日経クロステック作成)
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 一方でアマゾンジャパンに中国メーカーとの仲介を依頼しても断られたという。そのため加藤氏はアマゾンジャパンなどに、取り扱っている商品に瑕疵(かし)がないかの確認や適正な事業者かの審査のほか、保険・補償制度の構築といった義務を果たしていないとして損害賠償を求めて提訴した。

 海外製品を輸入して販売する企業に対しては製造物責任法(PL法)などで責任を負う仕組みがある。しかしプラットフォーム事業者の多くは購入した金額分を補償する返金制度はあっても、一部の事業者を除いて購入金額以上の被害が出た場合の補償制度がない。

 消費者相談窓口を通じても解決できなかった。アマゾンジャパンのカスタマーセンターから先に進めず、中国とは消費者トラブルの交渉を仲介する法的な仕組みがないためだ。加藤氏はアマゾンなどプラットフォーム事業者に対し、「商品を販売する場所を貸したのなら仲裁の場所も貸してほしい」と話す。