日本ミステリ百選 by 幻影の書庫
私個人の範疇において、日本ミステリの中でも秀作と思える百作を
選んでみました。ちなみに百作それぞれの順位は設けていません。
各コーナー毎に、作者名、作品名のアイウエオ順で並んでいます。
[ 王道三十傑 ]
誰もが認めざるを得ないほどの、日本ミステリ史上に残る傑作達。
本格ミステリファンならば、これらを読まずに死んではいけない!
1. 三毛猫ホームズの推理 赤川次郎
大衆小説作家も初期には正しくミステリ作家だった。本作はお得意のユーモ
アミステリの中で、密室に対する斬新な解法を示して、忘れられない作品。
2. 十角館の殺人 綾辻行人
新本格の幕開けを告げた名作。クリスティの名作への新本格的解答。心理の
ギミック、一行の衝撃。驚愕の提示法として、本作を越える作品は少ない。
3. 迷路館の殺人
綾辻行人
過去の手法の大胆なアレンジ。幾多にも折り込まれたサブアイデア。過去へ
の回帰ではない。これこそ新本格ムーブメントを象徴する綾辻の最高傑作。
4. りら荘事件 鮎川哲也
「本格とは何か?」という設問に対する具体的な回答。「本格推理」の「本
格の雄」による「本格の鬼」のための「本格ミステリ」 これが究極だ!!
5. 月光ゲーム 有栖川有栖
日本における正統なクイーン継承者の登場。クイーンばりのロジックの具現
化に日本中がしびれた。綾辻、法月と共に新本格三本柱となる氏の処女作。
6. 孤島パズル 有栖川有栖
私的有栖のベスト。クイーンばりのロジック。絞り込まれたロジックに、よ
りスマートさが光る。ある分野での新形式を示した『双頭の悪魔』も傑作。
7. 十一枚のトランプ 泡坂妻夫
奇術の陰の記述の仕掛け。奇術とミステリとの完全友好的融合。自身が奇術
師でなければ成し得ない奇蹟の傑作。本格ファンならば、これを読むべし。
8. クラインの壷 岡嶋二人
ミステリとしての仕掛けと、ストーリーテリングの手腕が最高潮に達した。
現実と非現実の境目があやふやになる、岡嶋作品の最後にして最高の傑作。
9. そして扉が閉ざされた 岡嶋二人
完全閉塞状況。最小限の容疑者。ぎりぎりまでに刈り込まれた本格の場で、
新たな驚愕を用意してくれた傑作。本格の極北。岡嶋ミステリの最高傑作。
10.黒死館殺人事件 小栗虫太郎
探偵小説の要素をことごとく詰め込み、荘厳重厚なペダントリーで全体を覆
い尽くした、孤高の輝きを放つ傑作。欠点は致命的なほど理解不能なこと。
11.バイバイエンジェル 笠井潔
盛り込みの過剰さから云えば、『サマーアポカリプス』の方が上だろうが、
「首斬り」に関して斬新な解決を示した、本作を笠井の最高傑作としたい。
12.魍魎の匣 京極夏彦
あやかしの夢が現実にすり替わる妖艶の美学。不可思議の謎から何物をも引
き剥がさず「あるがまま」に祓う。妖しの世界を創造する京極の最高傑作。
13.弁護側の証人 小泉喜美子
超絶の技巧が度肝を抜いた、カルト的傑作。ミステリの企みとしては、史上
最も秀でたものの一つだろう。新本格の諸作品を軽く凌駕する奇想の名作。
14.不連続殺人事件 坂口安吾
一風変わった登場人物達が、一風変わった状況の中で、繰り広げる殺人劇。
心理の論理という見過ごされがちな課題を再認識させた、玄人好みの絶品。
15.占星術殺人事件 島田荘司
新本格以前に本格の渇を癒してくれた島田荘司。持ち味である大技トリック
が炸裂する代表作。これを読まずして日本ミステリを語れない名作の一つ。
16.斜め屋敷の犯罪 島田荘司
私的島荘ベスト作品。「ここまでやるか!」と度肝を抜かれた驚愕の傑作。
舞台の創造から全てが本格に寄与する。よりマニア的な、館物の最高傑作。
17.人形はなぜ殺される 高木彬光
本格を一冊だけ翻訳して他国の本格ファンに上梓するなら、この作品を選び
たい。スマートな仕上がりの中に、探偵小説の鬼たる企みを併せ持つ傑作。
18.能面殺人事件 高木彬光
氏の一作と云えば一般的には『刺青殺人事件』だが、探偵小説的企みの使い
方としてはこちらが上。個人的には刺青を落としても、こちらを取りたい。
19.危険な童話 土屋隆夫
作者のトリッキーな作風と、重いトーンの叙情性とが、極めて密接に融合し
た傑作。童話の叙情性の奥底に秘めた、残酷性をトリックに仕立てた名作。
現実と虚構とが反転を繰り返す超絶の構成。ペダントリーに超論理の競演。
壮大な本格作品ではあるものの、私見では壮大な未完成作品と喝破したい。
21.大誘拐 天藤真
読者の想像を凌駕する、徹底的にユニークな展開の誘拐ユーモアミステリ。
抱腹絶倒の展開に、ミステリ的アイデアが十二分に盛り込まれた、大傑作。
22.虚無への供物 塔晶夫
全編を覆うペダントリーの中で、異世界の探偵遊戯を楽しみながら、壮大な
アンチミステリたる結末に辿り着く。日本本格ミステリ史上不動の最高峰。
「最長」のタイトルホルダーながら、たしかにこれだけの分量が必要だと納
得させられる大雄編。大胆と繊細を備えた、日本ミステリ史上に残る傑作。
24.誰もがポオを愛していた 平石貴樹
クイーンばりのロジックのもう一人の具現者。ポオの論文を含めて、本格ミ
ステリファンを唸らせて止まない。きっちりとした純粋推理に酔える名作。
25.翼ある闇 麻耶雄嵩
新本格随一の奇想の驍将、その類い希なる衝撃的デビュー作品。奇想の極限
的密室、稚気なる見立て、シニカルな展開。バカと紙一重の本格の最先端。
26.生ける屍の死 山口雅也
死者の蘇る世界で起こる殺人。ねじれた設定の世界でこそ生き得る、ホワイ
を主軸に据えたパラドックスのロジックの妙。90年代の代表的本格傑作。
27.花の棺 山村美沙
日本に於ける密室小説の最高峰。機能的な和密室としての解法は見事。日本
的密室の舞台と解法として、この作品を越えるものはいまだに出ていない。
28.ドグラ・マグラ 夢野久作
メビウスの輪の構造を持った悪夢のラビリンス。夢の中で見る夢のように、
確かな足許のない混沌の重層世界。ミステリ史上最高の迷宮がここにある。
29.獄門島 横溝正史
ミステリ史上最も有名な科白を始め、見立て、トリック、犯人の仕掛けと、
最高の完成度を誇る名作。日本ミステリ史上ベスト作品との呼び声も高い。
30.本陣殺人事件 横溝正史
日本独特の家屋と小道具が、様式美と機能美の絶妙のバランスで配置された
極めて美しいミステリ絵画。美学にまで昇華された、和密室物の最高傑作。
[ 裏ベスト二十傑 ]
表から、裏から、横から、背中から、真下から、襲いかかる驚愕。
表舞台に立つよりも、幕裏でフフフと含み笑いを浮かべていたい。
31.殺戮にいたる病 我孫子武丸
軽味のユーモアミステリで勝負してきた作者から、突然変異のように産まれ
た衝撃作。サイコホラーでありながら本格ミステリの企みに驚愕する傑作。
最初から最後まで、極限なまでにミステリではない、完璧なる「単なる青春
小説」 これが完璧なる本格ミステリになるのは、読み終わった瞬間から。
幾つものパートが絡み合い、最後に全てが収束する際のとんでもない衝撃。
世界の様相ががらりと転回してしまう驚愕。形式すらも意外性に寄与する。
34.清里高原殺人別荘 梶龍雄
あるジャンル小説でありながら、巧妙に読者の目から隠されている。若者の
成長を描く青春本格ミステリの書き手が挑む、ミステリの企てを読めるか?
35.姑獲鳥の夏 京極夏彦
ミステリの成立性をも脅かす、恐るべきアンチミステリたる企み。それを成
立させるための明確な意図を持った人物配置と、その類い希なる伏線の妙。
36.星降り山荘の殺人 倉知淳
孤高の”ぶっとび日常の謎派”倉知淳が生み出した、微妙なフェアプレイに
よる絶妙のフーダニット(犯人当て)。貴方は果たして犯人を見破れるか?
謎解きの果てに現れる爆笑のハウダニット。人工型騙りと伏線の巧者にして
大型(オオバカ)トリックメーカー。ミステリ界の色物作家のデビュー作。
38.他殺岬 笹沢左保
誘拐物としてのユニーク極まる展開から、こんな着地点があり得るのかって
ほど、驚愕の結末に辿り着く。ミステリとしてのプロットが突出した逸品。
39.北の夕鶴2/3の殺人 島田荘司
島田大技作品として、占星術、斜め屋敷に唯一並び得るのが本作。御手洗物
じゃないからって見逃すな。トリック小説愛好家絶対必読の力業爆裂作品。
40.ロートレック荘事件 筒井康隆
前人未踏の言語トリック、謳い文句に偽り無し。言語遊戯の達人が仕掛けた
空前絶後の大トリック。無から有を取り出してみせる、言葉の錬金術の罠。
41.消失! 中西智明
日本ミステリ史上最高純度のバカミス。バカミスと言えば本作を思い浮かべ
る人も多いはず。惜しむらくは、本作のみで作者も消失してしまったこと。
42.十和田湖殺人事件 中町信
プロローグ、エピローグに挟まったトリック。同じ形式の中で、どれだけの
秀作を産み出せるのか。病気シリーズとも称し得る、湖シリーズの最高作。
43.聯秋殺 西澤保彦
西澤版毒チョコ。全編推理というミステリ読みのためのミステリ、その推理
連鎖の果ての驚愕。ミステリ読みを唸らす、構造の技巧を見せつけた秀作。
なんというイリュージョンをこの人は実現させてしまったのか。活字におけ
るマジック、高純度のトリック。マジックは今”奇蹟の本格”に昇華する。
バカ伝奇→バカ見立て→バカ殺人→バカ犯人→バカちゃぶ台ひっくり返し→
バカ真犯人→バカラスト。究極のバカ構造が連鎖する、超弩級のバカ本格。
とんでもない話、とんでもないトリック。出てきた途端に解かれていく謎。
とんでもなくミステリなのに、感動の青春小説。全くとんでもない作者だ。
「超ど級の大傑作」に成り得るポテンシャルを持っていながら、自ら積み上
げた積み木をわざと倒したような作品。トリックの衝撃度で氏の最高傑作。
密室の解明。その密室すら凌駕するトンデモ・トリック。最後に本作が意図
していたバカ凄い趣向。三度笑える衝撃奇想の、カルト的バカミスの傑作。
49.トリック狂殺人事件 吉村達也
本格のガジェットを詰めるだけ詰め込んで、遊び倒した遊戯型本格の佳作。
本格性とエンタテインメント性の両立。”愉しめる”要素重視の娯楽作品。
50.歳時記 依井貴裕
凄い着想を地味~な作品に結実させてしまう、不器用な異才の大業。トリッ
クとロジック、どちらにも華麗なほどの地味さを誇る氏の最高の大業作品。
[ 連作/短編集二十傑 ]
短編ならではの切れ味。短編集としてまとまった統一感の美しさ。
連作としての企み。長編だけでは描き得ない世界がここにはある。
ロジックの美しさとアクロバティックなパラドックスが、巧妙にシンクロし
た優れものの犯人当てなど、遊び心と本格センスに満ちあふれた名短編集。
極めて生々しい”本格”の要素だけを煮詰めに煮詰めた、本格濃縮スープ。
本格の本質を剥き出しにした、刺激的な作品集。稚気と技巧と愉悦の絶品。
53.ヴィーナスの心臓 鮎川哲也
本格ミステリ短編オールタイムベスト級作品が、問題編・解答編に分かれた
犯人当てとして出題される。最高の技巧、最高の愉悦、史上最高の短編集。
54.亜愛一郎の狼狽 泡坂妻夫
泡坂妻夫を代表する手法とも言える「奇妙な論理」で全編を貫いた、他に類
を見ない傑作短編集。パラドックスのロジックで本作を超えるのは不可能。
55.ダック・コール 稲見一良
心の強い男とは真の優しさを備え持つ。ハードボイルドとファンタジー、自
然につながる美しさと切なさ。男が少年を描くのか、少年が男を語るのか?
パズラーとしてド真ん中のド本格ながら、ロジックの帰結は驚愕のド奇想。
今世紀最高の新人にして、史上最高のミステリパズルの名手になるかも?!
57.完全犯罪 加田伶太郎
これまた「本格とは何か?」という設問に対する具体的な回答の一つ。忘れ
去りがちなWHYにも意を用いた、端麗で”美しい”本格ミステリ短編集。
58.魔法飛行 加納朋子
謎という芯を包み込んで暖かい何かに膨らますアプローチ。淡いクレパスの
文体とほのかな温もりが、ファンタジーとミステリを軽やかに引き寄せる。
59.空飛ぶ馬 北村薫
日常の謎派の代表選手。淀みのない文章の流れ、きっと温かいペンの温度。
まさしく現代の語り部。「日常の謎派」の象徴でもある私シリーズ代表作。
60.しゃべくり探偵 黒崎緑
ぼけホームズとつっこみワトソンの、しゃべくり漫才本格ミステリ短編集。
凝り凝りの構成、こてこての笑いの陰に、コツコツと仕込む本格ミステリ。
不可能犯罪物短編集としても屈指の出来であり、作者の仕掛けも興味深い。
トリックにロジック、ゲップが出そうなほどの濃厚料理を味わって欲しい。
62.なめくじ長屋捕物さわぎ 都筑道夫
特定の砂絵ではなく、シリーズ総名称で表すのが定番なので、通例に従う。
著者のライフワーク。全編超トリッキーな本格を展開する希有なシリーズ。
63.遠きに目ありて 天藤真
日本における安楽椅子探偵物の代表作。本格性、人情味、硬軟両面の練達。
初心者からマニアまで、あらゆるミステリファンを惹き付ける連作短編集。
マガーを踏襲した趣向を凝らした短編集。全編に敷き詰められた叙述の罠。
仕掛け、ロジック、遊戯性、ユーモア、と本格者の魂を揺さぶり出す逸品。
悩める作者(名探偵)が本格のど真ん中に帰還した。吹っ切れた爽快感。シ
ンプルで完成されたプロット『都市伝説パズル』を含む『功績』も良いぞ。
京極堂が「論理で祓う」のならメルは逆に「論理で呪う」。ねじれた探偵、
ねじれたアイデア、ねじれた奇想。ねじれた本格ミステリの究極の短編集。
67.キッドピストルズの妄想 山口雅也
パラレルワールドのパンク探偵。特異な世界の正統な本格。狂気をロジック
に取り入れたこのシリーズ2作目が、氏の本格ミステリ短編集の最高傑作。
奇想トリックのオンパレードに、奇怪なる形式の謎めいた謎解き。歪んだ人
間群像による、ミステリ絵巻の果ての陥穽。何という奇想、何という傑作!
69.妖異金瓶梅 山田風太郎
中国の伝奇小説を元ネタに、恐るべきミステリ絵巻を繰り広げる怪作、大傑
作連作集。輪廻する奇想。繰り返しの超技巧。大天才異色作家の最高傑作。
70.戻り河心中 連城三紀彦
短編集としての完成度はミステリ史上例を見ない美しさ。詩情性と意外性を
これだけマッチングできる作家は他に存在しない。最高に美しい名短編集。
[ My favorite 十五選 ]
客観的な視点だけではなく、自分自身の嗜好も折り込んでみよう。
「好き」だけでは終わらない、個々の魅力が光る愛すべき作品達。
71.殺人喜劇の十三人 芦辺拓
過剰すぎるほどにパンパンに膨らんだ”行き過ぎた技巧派”のデビュー作。
過剰なトリック、過剰なプロット。過剰な知的作業から生まれた人工建築。
72.探偵映画 我孫子武丸
持ち味である仕掛けの巧さが最大限に発揮された秀作。作者の企みに喝采。
サイコホラー衝撃本格『殺戮にいたる病』と並び得る、もう一つの代表作。
73.準急ながら 鮎川哲也
鮎川哲也を語るのに”アリバイ物”は外せない。『黒いトランク』ではなく
本作を選ぼう。鉄道だけではないアリバイ、ロジックの愉悦。隠れた名作。
74.人それを情死と呼ぶ 鮎川哲也
プロットの妙味、逆転の驚愕、ラストの哀切。ド本格というわけではない。
アリバイ物ではあるが鉄道物でもない。だけど、鮎川哲也の代表作の一つ。
75.妖女の眠り 泡坂妻夫
独自の世界を構築する氏のもう一つの作風。世界に引きずり込まれる感覚と
その世界がひっくり返る謎の解明のカタルシス、いずれも兼ね備えた傑作。
シリーズの集大成だけど単独では読めない(少なくとも7月は同時に必要)
文章世界の外から仕掛ける作者の技巧。こんなシリーズ、どこにもないぞ!
本格ミステリ界随一の珍妙奇天烈摩訶不思議なトリックスター。「こじつけ
のプロ」の歴史は、このトンデモで痛快で胡散臭い、歴史推理から始まる。
78.コミケ殺人事件 小森健太朗
オタクな本格ミステリで、作中に同人誌を挿入したオタクなメタミステリ。
虚実交錯の構成。オタクな読者は当然として、非オタクだって満足させる。
79.あきらめのよい相談者 剣持鷹士
大学時代に一緒にミステリ愛好会を立ち上げた同士。縁故採用してみよう。
九州弁の語り口に何とも味がある、現役弁護士だからこそ描ける日常の謎。
80.暗い傾斜 笹沢左保
『人喰い』『霧に溶ける』など新本格と同じ基盤の作品も良いが、着想を叙
情的な世界で展開させた作品を選ぼう。心理そのもので、人は殺せるのか?
現実側、歴史側双方のバランスが取れていて、テーマも王道。シリーズ代表
作。最後に示されるビジュアルなイメージは、ミステリのケレンそのもの。
時間跳躍の論理パズル。タイムスリップSFに、論理性の要素を付加して、
軽快なエンタテインメントに仕上げた痛快作品。この論理性はミステリだ。
83.卒業 東野圭吾
代表作のなかった器用貧乏作家も今は昔。新本格系の作品にも好きなものは
多いのだが、敢えてトリックのゲーム作が楽しい初期作品を選んでみよう。
今後首斬りをテーマに語る場合に、本作を落としては語れまいと思えるほど
の”新しい古典”の登場。構図の凄まじさは空前絶後。衝撃度抜群の奇想。
85.龍は眠る 宮部みゆき
現代を代表するベストセラー作家に成長した彼女。小説としての完成度が極
まった『火車』よりも、ミステリとしての最高傑作ならば本作を選びたい。
[ 古典十五選 ]
子曰く、故きを温めて新しきを知る。本格の魂が生きていた時代。
現代からの帰還に捧げられる供物。以てミステリの師と為るべし。
86.江戸川乱歩傑作選(新潮文庫) 江戸川乱歩
やはり作家としての乱歩は基本的に短編作家だろう。「夜の夢こそまこと」
という言葉にふさわしい作品達。特に初期短編群は、まさに奇蹟の宝石だ。
87.とむらい機関車(国書刊行会) 大阪圭吉
人と物、童話性とリアリズム、謎と論理、全てが渾然一体となる本格世界。
日本の本格、中でもトリッキーな作品を愛する人々にとっての必読作品集。
88.天狗(国書刊行会) 大坪砂男
文学的な世界に展開される奇想。日本短編ミステリ中でも、最も奇想が際立
つ表題作を始め、香味高い文章で語られる奇想本格マニア向けの逸品揃い。
89.薫大将と匂の宮 岡田鯱彦
源氏物語を舞台にした、清少納言と紫式部の推理合戦。設定の着想が秀逸。
文学世界にミステリを構築した、小説としてのセンスがキラリと光る名品。
90.股から覗く(国書刊行会) 葛山二郎
本格ミステリを逆手に取ることを得手とする作者の傑作選。ミステリ初心者
よりも本格ミステリ・プロパーこそを驚かす、奇妙な技巧の煙に巻かれろ。
91.ぼくらの時代 栗本薫
乱歩賞に新しい風を起こした鮮烈な作品。ミステリは不変だが、同時代性と
いう要素もあったりする。私にとっての「そのときの作品」かもしれない。
92.錦絵殺人事件 島田一男
横溝正史より至る、日本固有の本格ミステリ色を強く継承した作品。同系統
の『古墳殺人事件』や、スマートで奇妙な『上を見るな』も挙げておこう。
93.抹殺の意志 草野唯雄
トリッキーなミステリとサスペンスフルな展開を得意とする作者の代表作。
作者から読者への仕掛けやどんでん返しなど、意外性にこだわった作者だ。
94.炎に絵を 陳舜臣
乱歩賞受賞作『枯草の根』も香味高く描かれた秀作だが、連続する意外性、
題名のセンスの良さ、奥行きのある描写とプロットで描かれた本作を選ぶ。
95.奇蹟のボレロ 角田喜久雄
短編や時代小説等ミステリ以外の分野にも秀作が多い作家。一般的には『高
木家の惨劇』が代表作に選ばれることが多いが、個人的にはこちらを買う。
96.大いなる幻影 戸川昌子
乱歩賞中でも奇妙な味わいが印象に残る異色作。海渡英祐『伯林―1888
年』や大谷羊太郎『殺意の演奏』あたりも、古典系乱歩賞では好きな作品。
97.猫は知っていた 仁木悦子
日本ミステリの原点の一つ。小説としての乱歩賞初代受賞作品。それなのに
古さを感じさせない、スマートでトリッキーで爽やかでもある正統派本格。
98.殺しの双曲線 西村京太郎
「この作品には双子トリックが使われている」と最初に宣言する。氏本来の
本格スピリットが明瞭に現れた、本格の稚気をたっぷりと詰め込んだ名作。
練りまくられた複雑系トリックの妙技。本格を、トリックを、ここまで突き
詰めた作品集なんてそうは出逢えないぞ。山沢晴雄は一つの究極形なのだ。
奇想トリックファンならば真っ先に名前を挙げるだろうトリックメーカー。
バカミスの代名詞にもなり得る『白魔』を始め、奇想満載の鷲尾ワールド。
海外ミステリ百選はこちら
[ 変更履歴 ]
’04/09/05 百作登録 .
’05/04/10 「六色金神殺人事件」「アルファベット・パズラーズ」追加
「クビキリサイクル」「真っ暗な夜明け」削除 .
’08/05/25 「首無の如き祟るもの」追加、「パンドラケース」削除 .
’08/06/08 山沢晴雄「悪の扉」を「離れた家」に変更 .