スクープ! コロナ著名人と製薬マネー

新型コロナウイルスの克服には製薬企業との連携が欠かせないが、負の側面である「金銭的利益相反」への配慮は不十分だ。

2021年12月号 DEEP
by 尾崎章彦(医師)、村山安寿(医学生)共著

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医師ではないが多額の製薬マネーを受け取っていた横浜市の山中竹春市長

筆者らは、製薬企業から医療者・医療機関に支払われる謝金や寄付金(以下、製薬マネー)の調査をライフワークとして取り組んでいる。製薬マネーが引き起こす問題や筆者らの活動の詳細は、月刊FACTA「医者と製薬会社の『悪しき慣習』」(2019年12月号)「『製薬マネー』知られざる実態」(21年2月号)をご覧いただきたい。要約すれば、製薬マネーは、医療者・医療機関にとって代表的な金銭的利益相反の原因であり、製薬企業に都合の良い形で診療を歪めてしまう可能性がある。

本稿においては、特に新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に関する製薬マネーを取り上げる。11月8日月曜日、本邦の新型コロナの新規感染者数は102人と極めて低い水準を推移している。しかし、今冬にかけて第6波の到来も予想されており、予断を許さない。また、治療薬の開発が勢いを増している。そのため、改めて新型コロナに対する製薬マネーの影響について注意喚起を図る必要がある。

中でも本稿で特に着目するのは「コロナ著名人」である。その代表例は、テレビの報道番組にコメンテーターなどとして登場する専門家である。表1に、21年上半期(1月~6月)に、新型コロナに関連して、テレビの報道番組への出演が多かった専門家TOP10(日本モニター調べ)を示す。

テレビ出演「上位十傑」受け取り額

日本の主要な製薬企業は、日本製薬工業協会が定めた透明性ガイドラインに基づき、そのホームページにおいて、個々の医療者に支払った講師謝金・原稿執筆料・コンサルティング料を公開している。例えば、講師謝金は、医療者を対象とした勉強会や講演会で講師や座長を務めることに対して支払われる謝金である。筆者らは16年から19年に支払われたこれらの謝金を集計し、専門家毎にまとめた。

集計の結果、4年間で最も製薬マネーの受け取りが多かったのは、三鴨廣繁氏であり、538の案件で7760万4155円を受け取っていた。2位以降は、二木芳人氏(3084万2256円)、松本哲哉氏(1852万4154円)、森内浩幸氏(1273万3633円)、寺嶋毅氏(697万0103円)と続く。これらの専門家は、いずれも医師資格を持つ大学教授だ。

では、なぜ医師資格を持つ大学教授に、製薬マネーの支払いが集中するのだろう。製薬企業の売り上げの大部分は、医師が処方する処方用医薬品に依存している。そして、製薬企業は、薬価が高い新薬の売り上げを増やすために、プロモーションの一環で、講演会等の事業を展開する。そこでは、自ずと、その新薬に十分な知識を持ち、その領域で名が通った医師がパートナーとして選ばれる傾向にある。加えて、日本の医学界においては、大学教授を中心とするヒエラルキーが強く、「権威付け」を狙って大学教授が選ばれやすい。

このような構造を理解すれば、医師資格を持つ大学教授を除いて、製薬マネーの受け取りが少なかったことも概ね理解できる。例えば、クリニック院長である水野泰孝氏、佐藤昭裕氏、倉持仁氏の製薬マネー受け取りは少額にとどまった。なお、水野氏と佐藤氏については、18年までは大学病院に所属していたが、いずれも教授職にはなかった。加えて、岡田晴恵氏は、「コロナの女王」として名高いが、医師でないことが影響してだろう、製薬マネーの受け取りはない。

次に着目するのは、製薬マネーの拠出が多かった製薬企業である。集計の結果、MSDが3670万4789円で第1位であり、2位以降は、富士フイルム富山化学(前身の大正富山株式会社、富山化学工業を含む、2599万5346円)、ファイザー(1850万4516円)、アステラス製薬(1319万9532円)、第一三共(1023万9700円)と続く。15年から19年にかけて、どの企業も、少なくとも一つは感染症領域で新薬あるいは適応が追加となった既存薬を持ち、特に、MSDに至っては、この期間に8種類の新薬の販売を開始していた。MSDの製薬マネーの拠出が増えたのは当然と言えるだろう。

もちろん、これらの製薬マネーは、新型コロナが問題となる以前に支払われたもので、その治療薬やワクチンの開発とは直接関連しない。しかし、本来の目的にかかわらず、特定の製薬企業との金銭的関係は、その企業が開発・販売する他の医薬品に対する医師の態度にも影響する可能性がある。そのため、新型コロナに関する報道番組を視聴する際、これら専門家の過去の金銭的利益相反について理解することで、より公平にその発言を解釈できると考える。

専門家による「フライングコメント」

実際、専門家によっては、「フライング」と呼ぶべきコメントを残している方もいる。代表的なのは、20年5月5日のTBS系情報番組「ゴゴスマ」における、三鴨廣繁氏の、「(アビガンは)早期に投与した方がよく効く。確かに副作用として肝障害とか生殖毒性というものはありますけど、『早期に投与できればきちんと直すことができる』というイメージが我々にはある。こういった薬が一般の先生が使えるようになるのは極めて朗報だと思う」といったコメントである。

アビガンは、元々、富士フイルム富山化学の前身である富山化学工業が抗インフルエンザ治療薬として2014年に販売を開始した。安倍晋三元総理が20年5月4日の会見において、「治療薬としてアビガンの今月中の承認を目指す」と発言したことで、広く一般国民にも知られることになった。

ただ、当時、新型コロナに関してのアビガンのデータは乏しかった。加えて、同薬の抗インフルエンザ薬としての「実力」は、お世辞にも高いとは言えなかった。

抗インフルエンザ薬の承認を目指して実施された臨床試験において、十分な効能を示すことができなかったのみならず、胎児の奇形を引き起こす可能性が指摘されたのだ。その結果、本邦では、既存薬の効果が乏しい新型インフルエンザに対して、限定的な使用が許可されたのみで、新型コロナが問題になった20年時点で、同薬は市場には流通していなかった。加えて、日本以外に同薬をインフルエンザ治療薬として承認している国は存在しなかった。以上の経緯を踏まえると、思惑が外れた富士フイルム富山化学が、新型コロナを、アビガンの起死回生のチャンスと捉えたことは想像に難くない。

加えて、三鴨氏の発言を紐解く上で、製薬マネーの存在は見逃せない。三鴨氏は、16年から19年にかけて、富士フイルム富山化学から総額で2116万1875円と莫大な謝金を受け取っていた。三鴨氏の発言は、当時大変な状況で新型コロナの治療に当たっていた全国の医療者を励まそうとした意図もあったのかもしれないが、濃厚な金銭的利益相反があった同社に対しての無用なリップサービスだったというのが、現実に近いのではないだろうか。

本来、新薬の効能や安全性は、適切なデザインの元に実施された臨床試験の結果によって評価されるべきであり、その評価過程においては、ただの「化合物」の枠を出ない。実際、アビガンは、1年半以上が経過した現在においても新型コロナウイルス感染症治療薬として承認されておらず、上市の見通しは立たない。その点、三鴨氏の発言は、同薬に対して根拠のない期待を広めてしまった可能性があり、不用意だったと筆者は考える。

もちろん、このような「フライングコメント」は三鴨氏に限らない。例えば、松本哲哉氏は、21年8月12日のTBS系「報道1930」において、「イベルメクチンはまだ国内で正式に承認は得られていない。治療薬としての扱いでコロナの感染症に使うことはできないが、イベルメクチンを使ってはいけないということではない」といった発言をしている。しかし、本稿執筆時点で、同薬の使用を積極的に推奨したり、本邦でその承認を期待する根拠は薄弱だ。実際、アメリカ感染症学会は、臨床試験目的以外でのイベルメクチンの使用を控えるよう推奨している。なぜ松本氏はこのような発言をしたのだろう。その理由を推し量る上で、松本氏が、調査期間中、MSDから923万5922円の謝金を受け取るなど同社と濃厚な金銭的利益相反関係にあったことは見逃せない。

以上の議論を踏まえ、読者の方々には、お馴染みの専門家とこれらの製薬企業の間に濃厚な金銭的利益相反が存在することを、よく意識してほしい。21年10月1日には米メルクの経口薬「モルヌピラビル」の有効性が、11月5日にはファイザーの経口薬「パクスロビド」の有効性が報告されており、今後日本のマスメディアの報道が熱を帯びてくるだろうことも、そう考える大きな理由である。

製薬DB検索「上位10傑」受け取り額

ここで、公平性を期すために、テレビ局側の責任についても、合わせて追及したい。報道は極めて公益性が高い行為であり、それゆえに「報道の自由」が保証されている。ただ、自由には当然責任が伴う。すなわち、テレビ局も自らが起用する専門家の金銭的利益相反についてもっと意識的になるべきであるし、それを視聴者に適切に周知すべきである。実際、医学の世界では、過去のスキャンダルへの反省から、専門家が、学術論文を発表したり学会発表をする際に、過去3年間の金銭的利益相反を適切に公開することが義務付けられている。テレビに限らず、マスメディアにおいては、今後なんらかの取り決めを設け、視聴者が専門家の発言を適切に吟味できるよう、体制の構築を急ぐ必要がある。

ではそのような仕組みが作られるまで、一般の視聴者はどうするべきか。提案したいのが、医療ガバナンス研究所とTansaが公開する製薬マネーデータベース(以下、製薬DB)の利用だ。21年8月27日に公開した最新版(*https://db.tansajp.org)では、16年から18年の製薬マネーの支払いを、個人毎に検索できる。

Google Analyticsによると、21年11月5日時点で、既に約3.9万人がアクセスしており、これは、1日約550人が製薬DBを利用している計算となる。表2に、公開から最初の4週間にアクセスが多かったTOP10をお示しする。まとめると、テレビやSNS、その他の形で、新型コロナに関わりを持つ専門家ばかりであった。

例えば、大阪大学医学部の忽那賢志氏は4905回と最も多く検索されていた。忽那氏は、以前の職場である国立国際医療研究センターにおいて新型コロナウイルス感染症の診療に早い時期から関わり、その経験をSNSやYahoo!ニュース等で発信していた他、ワクチン接種を訴える政府のCMにも起用されてきた。その結果として、製薬企業との金銭的な関係性に一般の方々に興味を持たれ、検索回数が増加したのだろうと推察する。4年間の製薬マネー受け取りの総額は386万1376円と教授クラスに比較すると少ないが、21年7月に大阪大学の教授に就任したことを考えると、今後、製薬企業からお座敷がかかる頻度は増加するだろう。

その他に、製薬マネーとの関わりで着目するべきは、山中竹春氏である。山中氏は、「コロナの専門家」として21年8月22日の横浜市長選に勝利した。元々はがんの臨床試験で統計解析を多く手掛けていた統計の専門家である。そのような背景もあり、医師ではないが、総額で1934万2384円と多額の製薬マネーを受け取っていた(岡田晴恵氏とは対照的である)。そのうち、山中氏に最大の製薬マネーの拠出をしていたのは中外製薬(575万2669円)である。

コロナ分科会委員にも製薬マネー

興味深いのが、中外製薬が新型コロナ治療に製造販売する抗体カクテル療法「ロナプリーブ」の実施を、横浜市において山中氏が推進していることだ。以上踏まえると、本来、中外製薬に関する山中氏の金銭的利益相反は、市民に適切に公開されるべきだろう。しかし、マスメディアに登場する専門家において金銭的利益相反に対する取り決めがなかったのと同様に、自治体首長にもこの点に関して取り決めはない。首長に限らず医療の背景を持つ政治家が今後も続く可能性を踏まえ、その金銭的利益相反管理についても今後議論を進める必要がある。

政府の新型コロナウイルス感染症分科会の委員、舘田一博・東邦大学医学部教授は、総額3472万円の製薬マネーを受け取っていた

最後は、舘田一博氏である。舘田氏は総額で3472万3615円の製薬マネーを受け取っており、今回紹介した専門家の中でも三鴨氏に次いで製薬マネーの受け取りが多かった。着目すべきは、舘田氏が、2020年に政府新型コロナウイルス感染症対策分科会(以下、分科会)の委員だったことだ。分科会は様々な領域の専門家から成り、多面的な視点で政府に提言を行うことを目的に設立された。しかし、現在に至るまで分科会委員の金銭的利益相反は公開されていない。一方で、医薬品の保険収載に関わる薬事食品衛生審議会などにおいては、委員において金銭的利益相反の提出が義務付けられており、そのコピーがオンラインで公開されているのみならず、基準を上回る金銭的利益相反を持つ専門家は、審議に参加することが許可されない。分科会においても同様の仕組みを構築すべきだったと言える。

以上、コロナ著名人における製薬マネーについて述べた。新型コロナ克服には製薬企業との連携が欠かせないが、その負の側面である金銭的利益相反への配慮は不十分であった。今後起こりうる国家的危機において、広く適切な金銭的利益相反管理が実現されるよう、新型コロナにおける金銭的利益相反管理を振り返り、その教訓を残していく必要があると、筆者らは信じている。

著者プロフィール

尾崎章彦(医師)、村山安寿(医学生)共著

   

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