三略 上略
01 夫主將之法、務攬英雄之心、賞禄有功、通志於衆。故與衆同好靡不成、與衆同惡靡不傾。治國安家、得人也。亡國破家、失人也。含氣之類、咸願得其志。
夫( れ主( 将( の法( は、務( めて英雄( の心( を攬( り、有功( を賞( 禄( し、志( を衆( に通( ず。故( に衆( と好( みを同( じうすれば、成( らざるは靡( く、衆( と悪( しみを同( じうすれば、傾( かざるは靡( し。国( を治( め家( を安( んずるは、人( を得( ればなり。国( を亡( ぼし家( を破( るは、人( を失( えばなり。含( 気( の類( 、咸( く其( の志( を得( んことを願( う。
- ウィキソース「三略」参照。
- 主将 … 全軍の総大将。
- 法 … 心得。底本では「灋」に作るが、『直解』に従い改めた。「灋」は「法」の本字。
- 攬 … (多くの人の心を)集めてとらえること。収
( 攬( 。底本では「擥」に作るが、『直解』に従い改めた。「擥」は「攬」の本字。 - 有功 … 手柄があること。
- 賞禄 … 褒美として賞金や俸禄を与えること。
- 通志於衆 … 自分の意思を部下たちに周知させる。
- 与衆同好靡不成 … 部下と好みを一致させれば、成功しないことはない。
- 靡 … 「なし」と読み、「ない」と訳す。否定の意を示す。「無」とほぼ同じ。
- 与衆同悪靡不傾 … 部下の憎むところを一致させれば、心をこちらに寄せないものはない。
02 軍讖曰、柔能制剛、弱能制強。柔者徳也、剛者賊也。弱者人之所助、強者怨之所攻。柔有所設、剛有所施、弱有所用、強有所加。兼此四者、而制其冝。
軍讖( に曰( く、柔( は能( く剛( を制( し、弱( は能( く強( を制( す、と。柔( は徳なり、剛( は賊( なり。弱( は人( の助( くる所( 、強( は怨( みの攻( むる所( なり。柔( は設( くる所( あり、剛( は施( す所( あり、弱( は用( うる所( あり、強( は加( うる所( あり。此( の四( つの者( を兼( ねて、其( の宜( しきを制( す。
- 軍讖 … 兵法の書。軍の勝敗を予言的に述べたもの。「讖」は、予言めいた言葉。
端末未見、人莫能知。天地神明、與物推移、變動無常。因敵轉化、不爲事先、動而輒隨。故能圖制無疆。扶成天威、康正八極、密定九夷。如此謀者爲帝王師。
端末( 未( だ見( れずんば、人( 能( く知( る莫( し。天( 地( は神明( にして、物( と推( 移( し、変動( して常( 無( し。敵( に因( って転( 化( し、事( の先( と為( らず、動( けば輒( ち随( う。故( に能( く無( 疆( を図( り制( て、天( 威( を扶( け成( し、八( 極( を康正( し、九( 夷( を密定( す。此( の如( く謀( る者( は、帝王( の師( たり。
- 康 … 底本では「
」に作るが、『直解』に従い改めた。
03 故曰、莫不貪強、鮮能守微。若能守微、乃保其生。聖人存之以應事機。舒之彌四海、巻之不盈懷、居之不以室宅、守之不以城郭、藏之胸臆而敵國服。
故( に曰( く、強( を貪( らざる莫( く、能( く微( を守( ること鮮( し、と。若( し能( く微( を守( らば、乃( ち其( の生( を保( たん。聖人( は之( を存( して以( て事( の機( に応( ず。之( を舒( ぶれば四( 海( に弥( り、之( を巻( けば懐( に盈( たず、之( を居( くに室宅( を以( てせず、之( を守( るに城( 郭( を以( てせず、之( を胸( 臆( に蔵( めて、敵国( 服( す。
- 懐 … 『直解』では「抔」に作る。
04 軍讖曰、能柔能剛、其國彌光、能弱能強、其國彌彰。純柔純弱、其國必削。純剛純強、其國必亡。
軍讖( に曰( く、能( く柔( に能( く剛( なれば、其( の国( 弥〻( 光( あり、能( く弱( に能( く強( なれば、其( の国( 弥〻( 彰( る。純( ら柔( に純( ら弱( なれば、其( の国( 必( ず削( らる。純( ら剛( に純( ら強( なれば、其( の国( 必( ず亡( ぶ、と。
- 弥 … いよいよ。ますます。より一層。
夫爲國之道、恃賢與民。信賢如腹心、使民如四肢、則策無遺。所適如肢體相隨、骨節相救、天道自然、其巧無閒。
夫( れ国( を為( むるの道( は、賢( と民( とを恃( む。賢( を信( ずること腹心( の如( く、民( を使( うこと四肢( の如( くなれば、則( ち策( 、遺( す無( し。適( く所( 、肢( 体( 相( 随( い、骨節( 相( 救( うが如( く、天道( の自( 然( 、其( の巧( 、間( 無( し。
- 肢 … 底本では「支」に作るが、『直解』に従い改めた。
05 軍國之要、察衆心施百務。危者安之、懼者歡之、叛者還之、寃者原之、訴者察之、卑者貴之、強者抑之、敵者殘之、貪者豐之、欲者使之、畏者隱之、謀者近之、讒者覆之、毀者復之、反者廢之、横者挫之、滿者損之、歸者招之、服者活之、降者脱之。
軍国( の要( は、衆( 心( を察( して百( 務( を施( す。危( うき者( は之( を安( んじ、懼( るる者( は之( を歓( ばし、叛( く者( は之( を還( し、冤( なる者( は之( を原( し、訴( うる者( は之( を察( し、卑( しき者( は之( を貴( くし、強( き者( は之( を抑( え、敵( する者( は之( を残( い、貪( る者( は之( を豊( かにし、欲( する者( は之( を使( い、畏( るる者( は之( を隠( し、謀( る者( は之( を近( づけ、讒( する者( は之( を覆( し、毀( る者( は之( を復( し、反( する者( は之( を廃( し、横( なる者( は之( を挫( き、満( つる者( は之( を損( じ、帰( する者( は之( を招( き、服( する者( は之( を活( かし、降( る者( は之( を脱( す。
- 活 … 底本では「居」に作るが、『直解』に従い改めた。
06 獲固守之、獲阨塞之、獲難屯之、獲城割之、獲地裂之、獲財散之。敵動伺之、敵近備之、敵強下之、敵佚去之、敵陵待之、敵暴綏之、敵悖義之、敵睦攜之。順舉挫之、因勢破之、放言過之、四網羅之。
固( きを獲( て之( を守( り、阨( を獲( て之( を塞( ぎ、難( きを獲( て之( を屯( し、城( を獲( て之( を割( き、地( を獲( て之( を裂( き、財( を獲( て之( を散( ず。敵( 動( けば之( を伺( い、敵( 近( づけば之( に備( え、敵( 強( ければ之( に下( り、敵( 佚( すれば之( を去( り、敵( 陵( げば之( を待( ち、敵( 暴( なれば之( を綏( んじ、敵( 悖( れば之( を義( し、敵( 睦( めば之( を携( す。挙( に順( って之( を挫( き、勢( いに因( って之( を破( り、言( を放( ちて之( を過( め、四( もに網( して之( を羅( む。
07 得而勿有。居而勿守。抜而勿久。立而勿取。
得( て有( する勿( かれ。居( りて守( る勿( かれ。抜( きて久( しうする勿( かれ。立( ちて取( る勿( かれ。
爲者則己、有者則士、焉知利之所在。彼爲諸侯、己爲天子。使城自保、令士自取。
為( す者( は則( ち己( 、有( する者( は則( ち士( ならば、焉( んぞ利( の在( る所( を知( らん。彼( は諸侯( たり、己( は天( 子( たり。城( をして自( ら保( たしめ、士( をして自( ら取( らしむ。
- 取 … 『直解』では「處」に作る。
08 世能祖祖、鮮能下下。祖祖爲親、下下爲君。下下者務耕桑、不奪其時、薄賦斂、不匱其財。罕徭役、不使其勞、則國富而家娯。然後選士以司牧之。夫所謂士者、英雄也。故曰、羅其英雄則敵國窮。英雄者國之幹、庶民者國之本。得其幹、収其本、則政行而無怨。
世( 能( く祖( を祖( とすれども、能( く下( に下( ること鮮( し。祖( を祖( とするは親( たり、下( に下( るは君( たり。下( に下( る者( は耕桑( を務( め、其( の時( を奪( わず、賦( 斂( を薄( くし、其( の財( を匱( しくせず。徭役( を罕( にし、其( れをして労( せしめざれば、則( ち国( 富( みて家( 娯( しむ。然( る後( に士( を選( んで以( て之( を司( 牧( す。夫( れ所謂( 士( とは、英雄( なり。故( に曰( く、其( の英雄( を羅( すれば則( ち敵国( 窮( す、と。英雄( は国( の幹( 、庶民( は国( の本( なり。其( の幹( を得( 、其( の本( を収( むれば、則( ち政( 行( われて怨( み無( し。
- 娯 … 底本では「娭」に作るが、『直解』に従い改めた。
09 夫用兵之要、在崇禮而重禄。禮崇則智士至、禄重則義士輕死。故禄賢不愛財、賞功不踰時、則下力并、而敵國削。夫用人之道、尊以爵、贍以財、則士自來。接以禮、勵以義、則士死之。
夫( れ兵( を用( うるの要( は、礼( を崇( くして禄( を重( くするに在( り。礼( 崇( ければ則( ち智士( 至( り、禄( 重( ければ則( ち義士( 死( を軽( んず。故( に賢( を禄( するに財( を愛( まず、功( を賞( するに時( を踰( えざれば、則( ち下( は力( 并( せて、敵国( は削( らる。夫( れ人( を用( うるの道( は、尊( ぶに爵( を以( てし、贍( わすに財( を以( てすれば、則( ち士( 自( ずから来( る。接( するに礼( を以( てし、励( ますに義( を以( てすれば、則( ち士( 之( に死( す。
- 而敵国 … 『直解』には「而」の字なし。
10 夫將帥者、必與士卒同滋味、而共安危、敵乃可加。故兵有全勝、敵有全因。昔者良將之用兵、有饋簞醪者。使投諸河、與士卒同流而飮。夫一簞之醪、不能味一河之水。而三軍之士、思爲致死者、以滋味之及己也。
夫( れ将( 帥( は、必( ず士( 卒( と滋味( を同( じうし、安( 危( を共( にすれば、敵( 乃( ち加( う可( し。故( に兵( 、全( 勝( 有( り、敵( 、全因( 有( り。昔者( 、良将( の兵( を用( うるや、箪醪( を饋( る者( 有( り。諸( を河( に投( ぜしめ、士( 卒( と流( れを同( じうして飲( む。夫( れ一箪( の醪( は、一( 河( の水( を味( すること能( わず。而( るに三軍( の士( 、為( に死( を致( さんと思( うは、滋味( の己( に及( ぶを以( てなり。
11 軍讖曰、軍井未達、將不言渇。軍幕未辦、將不言倦。軍竈未炊、將不言飢。冬不服裘、夏不操扇、雨不張蓋。是謂將禮。與之安、與之危。故其衆可合而不可離。可用而不可疲。以其恩素蓄、謀素合也。故曰、蓄恩不倦、以一取萬。
軍讖( に曰( く、軍井( 未( だ達( せざれば、将( 渇( けるを言( わず。軍幕( 未( だ弁( ぜざれば、将( 倦( めるを言( わず。軍竈( 未( だ炊( がざれば、将( 飢( うるを言( わず。冬( は裘( を服( せず、夏( は扇( を操( らず、雨( にも蓋( を張( らず。是( れを将( の礼( と謂( う、と。之( と安( くし、之( と危( うくす。故( に其( の衆( 合( す可( くして離( る可( からず。用( う可( くして疲( る可( からず。其( の恩( 素( より蓄( え、謀( 素( より合( するを以( てなり。故( に曰( く、恩( を蓄( えて倦( まざれば、一( を以( て万( を取( る、と。
- 謀素合也 … 「合」は、底本では「和」に作るが、『直解』に従い改めた。
12 軍讖曰、將之所以爲威者、號令也。戰之所以全勝者、軍政也。士之所以輕戰者、用命也。故將無還令、賞罰必信、如天如地、乃可御人。士卒用命、乃可越境。
軍讖( に曰( く、将( の威( を為( す所以( は、号令( なり。戦( いの全( く勝( つ所以( は、軍政( なり。士( の戦( いを軽( んずる所以( は、命( を用( うればなり、と。故( に将( は令( を還( す無( く、賞( 罰( は必( ず信( にして、天( の如( く地( の如( くなれば、乃( ち人( を御( す可( し。士( 卒( 命( を用( うれば、乃( ち境( を越( ゆ可( し。
- 御 … 『直解』では「使」に作る。
13 夫統軍持勢者、將也。制勝敗敵者、衆也。故亂將不可使保軍、乖衆不可使伐人。攻城不可抜、圖邑則不廢。二者無功、則士力疲敝。士力疲敝、則將孤衆悖。以守則不固、以戰則奔北。是謂老兵。兵老則將威不行。將無威則士卒輕刑。士卒輕刑則軍失伍。軍失伍則士卒逃亡。士卒逃亡則敵乗利。敵乗利則軍必喪。
夫( れ軍( を統( べ、勢( いを持( する者( は、将( なり。勝( ちを制( し敵( を敗( る者( は、衆( なり。故( に乱( 将( は軍( を保( たしむ可( からず、乖( 衆( は人( を伐( たしむ可( からず。城( を攻( むれば抜( く可( からず、邑( を図( れば則( ち廃( せず。二( 者( 功( 無( くんば、則( ち士( 力( 疲( 敝( す。士( 力( 疲( 敝( すれば、則( ち将( 孤( にして衆( 悖( る。以( て守( れば則( ち固( からず、以( て戦( えば則( ち奔( り北( ぐ。是( れを老兵( と謂( う。兵( 老( るれば則( ち将( の威( 行( われず。将( 、威( 無( ければ則( ち士( 卒( 刑( を軽( んず。士( 卒( 刑( を軽( んずれば則( ち軍( 、伍( を失( う。軍( 、伍( を失( えば則( ち士( 卒( 逃亡( す。士( 卒( 逃亡( すれば則( ち敵( 、利( に乗( ず。敵( 、利( に乗( ずれば、則( ち軍( 必( ず喪( ぶ。
- 敗 … 底本では「破」に作るが、『直解』に従い改めた。
- 不可抜 … 底本では「則不抜」に作るが、『直解』に従い改めた。
- 敝 … 底本では「
」に作るが、『直解』に従い改めた。
- 悖 … 底本では「
」に作るが、『直解』に従い改めた。
14 軍讖曰、良將之統軍也、恕己而治人。推惠施恩、士力日新。戰如風發、攻如河决。故其衆可望而不可當、可下而不可勝。以身先人、故其兵爲天下雄。軍讖曰、軍以賞爲表、以罰爲裏。賞罰明則將威行。官人得則士卒服。所任賢則敵國震。
軍讖( に曰( く、良将( の軍( を統( ぶるや、己( を恕( りて人( を治( む、と。恵( を推( し恩( を施( せば、士( の力( 、日( に新( たなり。戦( うこと風( の発( するが如( く、攻( むること河( の決( するが如( し。故( に其( の衆( 望( む可( くして当( る可( からず、下( る可( くして勝( つ可( からず。身( を以( て人( に先( んず、故( に其( の兵( 、天( 下( の雄( と為( る。軍讖( に曰( く、軍( は賞( を以( て表( と為( し、罰( を以( て裏( と為( す、と。賞罰( 明( らかなれば則( ち将( の威( 行( わる。官人( 得( れば則( ち士( 卒( 服( す。任( ずる所( 賢( なれば則( ち敵国( 震( う。
- 震 … 『直解』では「畏」に作る。
15 軍讖曰、賢者所適、其前無敵。故士可下而不可驕、將可樂而不可憂。謀可深而不可疑。士驕則下不順。將憂則内外不相信。謀疑則敵國奮。以此攻伐則致亂。夫將者國之命也。將能制勝則國家安定。
軍讖( に曰( く、賢者( の適( く所( は、其( の前( に敵( 無( し、と。故( に士( には下( る可( くして驕( る可( からず、将( は楽( しましむ可( くして憂( えしむ可( からず。謀( は深( かる可( くして疑( う可( からず。士( に驕( れば則( ち下( 順( わず。将( 憂( うれば則( ち内外( 相( 信( ぜず。謀( 疑( わば則( ち敵国( 奮( う。此( を以( て攻伐( すれば則( ち乱( を致( す。夫( れ将( は国( の命( なり。将( 能( く勝( を制( すれば、則( ち国( 家( 安定( す。
- 國之命 … 『直解』では「國家之命」に作る。
軍讖曰、將能清能静、能平能整、能受諫、能聽訟、能納人、能採言、能知國俗、能圖山川、能表險難、能制軍權。
軍讖( に曰( く、将( は能( く清( く能( く静( かに、能( く平( かに能( く整( い、能( く諫( めを受( け、能( く訟( えを聴( き、能( く人( を納( れ、能( く言( を採( り、能( く国俗( を知( り、能( く山川( を図( り、能( く険難( を表( し、能( く軍権( を制( す、と。
16 故曰、仁賢之智、聖明之慮、負薪之言、廊廟之語、興衰之事、將所宜聞。將者、能思士如渇、則策從焉。夫將拒諫、則英雄散。策不從、則謀士叛。善惡同、則功臣倦。專己、則下歸咎。自伐、則下少功。信讒、則衆離心。貪財、則姦不禁。内顧、則士卒淫。將有一、則衆不服。有二、則軍無式。有三、則下奔北。有四、則禍及國。
故( に曰( く、仁賢( の智( 、聖明( の慮( 、負( 薪( の言( 、廊( 廟( の語( 、興衰( の事( は、将( の宜( しく聞( くべき所( なり。将( たる者( 、能( く士( を思( うこと渇( するが如( くなれば、則( ち策( 従( う。夫( れ将( 、諫( めを拒( まば、則( ち英雄( 散( ず。策( 従( わざれば、則( ち謀( 士( 叛( く。善悪( 同( じければ、則( ち功臣( 倦( む。己( を専( らにすれば、則( ち下( 、咎( を帰( す。自( ら伐( れば、則( ち下( 、功( 少( し。讒( を信( ずれば、則( ち衆( 、心( を離( す。財( を貪( れば、則( ち姦( 、禁( ぜず。内( 顧( すれば、則( ち士( 卒( 淫( す。将( に一( 有( れば、則( ち衆( 、服( せず。二( 有( れば、則( ち軍( に式( 無( し。三( 有( れば、則( ち下( 、奔( り北( ぐ。四( 有( れば、則( ち禍( 、国( に及( ぶ。
- 姦 … 『直解』では「奸」に作る。
17 軍讖曰、將謀欲密、士衆欲一、攻敵欲疾。將謀密、則姦心閉。士衆一、則軍心結。攻敵疾則備不及設。軍有此三者、則計不奪。將謀泄、則軍無勢。外闚内、則禍不制。財入營、則衆姦會。將有此三者、軍必敗。將無慮、則謀士去、將無勇、則士卒恐。將妄動、則軍不重。將遷怒、則一軍懼。軍讖曰、慮也、勇也、將之所重。動也、怒也、將之所用。此四者、將之明誡也。
軍讖( に曰( く、将( の謀( は密( なるを欲( し、士( 衆( は一( なるを欲( し、敵( を攻( むるには疾( きを欲( す、と。将( の謀( 密( なれば、則( ち姦心( 閉( ず。士( 衆( 一( なれば、則( ち軍心( 結( ぶ。敵( を攻( むるに疾( ければ、則( ち備( え設( くるに及( ばず。軍( に此( の三者( 有( れば、則( ち計( 奪( われず。将( の謀( 泄( るれば、則( ち軍( に勢( い無( し。外( 、内( を闚( えば、則( ち禍( 制( せられず。財( 、営( に入( れば、則( ち衆( 姦( 会( る。将( に此( の三者( 有( れば、軍( 必( ず敗( る。将( に慮( り無( ければ、則( ち謀( 士( 去( り、将( に勇( 無( ければ、則( ち士( 卒( 恐( る。将( 妄( りに動( けば、則( ち軍( 重( からず。将( 、怒( りを遷( せば、則( ち一軍( 懼( る。軍讖( に曰( く、慮( や、勇( や、将( の重( んずる所( なり。動( や、怒( や、将( の用( うる所( なり、と。此( の四( つの者( は、将( の明誡( なり。
- 姦 … 『直解』では「奸」に作る。
軍讖曰、軍無財、士不來。軍無賞、士不往。軍讖曰、香餌之下、必有死魚、重賞之下、必有勇夫。故禮者士之所歸、賞者士之所死。招其所歸、示其所死、則所求者至。故禮而後悔者、士不止、賞而後悔者、士不使。禮賞不倦、則士爭死。
軍讖( に曰( く、軍( に財( な無( ければ、士( 来( らず。軍( に賞( 無( ければ、士( 往( かず、と。軍讖( に曰( く、香( 餌( の下( には、必( ず死( 魚( 有( り、重賞( の下( には、必( ず勇( 夫( 有( り、と。故( に礼( は士( の帰( する所( 、賞( は士( の死( する所( なり。其( の帰( する所( を招( き、其( の死( する所( を示( せば、則( ち求( むる所( の者( 至( る。故( に礼( して後( に悔( ゆる者( には、士( 止( まらず、賞( して後( に悔( ゆる者( には、士( 使( われず。礼( 賞( 倦( まざれば、則( ち士( 争( いて死( す。
- 死魚 … 底本では「懸魚」に作るが、『直解』に従い改めた。
- 勇 … 底本では「死」に作るが、『直解』に従い改めた。
軍讖曰、興師之國、務先隆恩。攻取之國、務先養民。以寡勝衆者恩也。以弱勝強者民也。故良將之養士、不易於身。故能使三軍如一心、則其勝可全。
軍讖( に曰( く、師( を興( すの国( は、務( めて先( ず恩( を隆( んにす。攻( め取( るの国( は、務( めて先( ず民( を養( う。寡( を以( て衆( に勝( つ者( は恩( なり。弱( を以( て強( に勝( つ者( は民( なり、と。故( に良将( の士( を養( うや、身( に易( えず。故( に能( く三軍( をして一心( の如( くならしむれば、則( ち其( の勝( 全( かる可( し。
18 軍讖曰、用兵之要、必先察敵情、視其倉庫、度其糧食、卜其強弱、察其天地、伺其空隙。故國無軍旅之難、而運糧者虚也。民菜色者窮也。千里饋糧、士有飢色。樵蘇後爨、師不宿飽。夫運糧千里、無一年之食。二千里、無二年之食。三千里、無三年之食。是謂國虚。國虚則民貧。民貧則上下不親。敵攻其外、民盗其内。是謂必潰。
軍讖( に曰( く、兵( を用( うるの要( は、必( ず先( ず敵( 情( を察( し、其( の倉( 庫( を視( 、其( の糧食( を度( り、其( の強弱( を卜( し、其( の天( 地( を察( し、其( の空隙( を伺( う、と。故( に国( に軍旅( の難( 無( くして、糧( を運( ぶ者( は虚( なり。民( に菜( 色( ある者( は窮( するなり。千( 里( に糧( を饋( れば、士( に飢( 色( 有( り。樵( 蘇( して後( に爨( げば、師( 、宿( 飽( せず。夫( れ糧( を運( ぶこと千( 里( なれば、一年( の食( 無( し。二( 千( 里( なれば、二( 年( の食( 無( し。三( 千( 里( なれば、三年( の食( 無( し。是( れを国( 虚( しと謂( う。国( 虚( しければ、則( ち民( 貧( し。民( 貧( しければ、則( ち上( 下( 親( しまず。敵( 其( の外( を攻( め、民( 其( の内( を盗( む。是( れを必( ず潰( ゆと謂( う。
- 士 … 底本では「民」に作るが、『直解』に従い改めた。
- 運糧千里 … 底本では「運糧百里」に作るが、『直解』に従い改めた。
- 二千里 … 底本では「二百里」に作るが、『直解』に従い改めた。
- 三千里 … 底本では「三百里」に作るが、『直解』に従い改めた。
- 是謂國虚 … 底本には「謂」の字はないが、『直解』にあるので補った。
19 軍讖曰、上行虐則下急刻。賦重斂數、刑罰無極、民相殘賊。是謂亡國。軍讖曰、内貪外廉、詐譽取名、竊公爲恩、令上下昏、飾躬正顔、以獲高官。是謂盗端。軍讖曰、羣吏朋黨、各進所親、招舉姦枉、抑挫仁賢、背公立私、同位相訕。是謂亂源。軍讖曰、強宗聚姦、無位而尊、威無不震、葛藟相連、種徳立恩、奪在位權、侵侮下民。國内譁諠、臣蔽不言。是謂亂根。
軍讖( に曰( く、上( 、虐( を行( えば、則( ち下( 、急( 刻( なり。賦( 重( く斂( 数〻( にして、刑罰( 極( まり無( ければ、民( 、相( 残賊( す。是( れを亡国( と謂( う、と。軍讖( に曰( く、内( に貪( り外( に廉( に、誉( を詐( り名( を取( り、公( を窃( みて恩( を為( し、上( 下( をして昏( からしめ、躬( を飾( り顔( を正( し、以( て高官( を獲( る。是( れを盗( の端( と謂( う、と。軍讖( に曰( く、群( 吏( 朋党( し、各〻( 親( しむ所( を進( め、姦枉( を招( き挙( げ、仁賢( を抑( え挫( き、公( に背( き私( を立( て、同( 位( 相( 訕( る。是( れを乱( の源( と謂( う、と。軍讖( に曰( く、強( 宗( 聚( り姦( し、位( 無( くして尊( く、威( 震( わざる無( く、葛藟( のごとく相( 連( なり、徳( を種( え恩( を立( て、在( 位( の権( を奪( い、下( 民( を侵( し侮( る。国内( 譁( 諠( するも、臣( 蔽( して言( わず。是( れを乱( の根( と謂( う、と。
- 賦重斂數 … 底本では「賦斂重數」に作るが、『直解』に従い改めた。
- 姦 … 『直解』では「奸」に作る。
20 軍讖曰、世世作姦、侵盗縣官、進退求便、委曲弄文、以危其君。是謂國姦。
軍讖( に曰( く、世世( 姦( を作( し、県官( を侵( し盗( み、進退( して便( を求( め、委( 曲( して文( を弄( し、以( て其( の君( を危( うくす。是( れを国姦( と謂( う、と。
- 姦 … 『直解』では「奸」に作る。
軍讖曰、吏多民寡、尊卑相若、強弱相虜、莫適禁禦、延及君子、國受其害。
軍讖( に曰( く、吏( 多( くして民( 寡( なく、尊( 卑( 相( 若( き、強( 弱( 相( 虜( めて、適( に禁禦( する莫( く、延( きて君( 子( に及( べば、国( 其( の害( を受( く、と。
- 害 … 底本では「咎」に作るが、『直解』に従い改めた。
軍讖曰、善善不進、惡惡不退、賢者隱蔽、不肖在位、國受其害。軍讖曰、枝葉強大、比周居勢、卑賤陵貴、久而益大、上不忍廢、國受其敗。
軍讖( に曰( く、善( を善( として進( めず、悪( を悪( として退( けず、賢者( は隠蔽( し、不( 肖( 位( に在( れば、国( 其( の害( を受( く、と。軍讖( に曰( く、枝( 葉( 強( 大( にして、比( 周( 、勢( いに居( り、卑( 賤( 、貴( を陵( ぎ、久( しくして益〻( 大( なれども、上( 、廃( するに忍( びざれば、国( 其( の敗( を受( く、と。
21 軍讖曰、佞臣在上、一軍皆訟。引威自與、動違於衆、無進無退、苟然取容、專任自己、舉措伐功。誹謗盛徳、誣述庸庸、無善無惡、皆與己同。稽留行事、命令不通。造作苛政、變古易常。君用佞人、必受禍殃。
軍讖( に曰( く、佞臣( 、上( に在( れば、一軍( は皆( 訟( う。威( を引( きて自( ら与( し、動( きて衆( に違( い、進( む無( く退( く無( く、苟然( として容( を取( り、専( ら自己( に任( せ、挙( 措( 、功( を伐( る。盛徳( を誹( 謗( し、庸庸( を誣( 述( し、善( と無( く悪( と無( く、皆( 己( と同( じうす。行( 事( を稽( 留( し、命令( 通( ぜず。苛( 政( を造作( し、古( を変( え常( を易( う。君( 、佞人( を用( うれば、必( ず禍( 殃( を受( く、と。
軍讖曰、姦雄相稱、障蔽主明、毀譽並興、壅塞主聦。各阿所私、令主失忠。故主察異言、乃覩其萌。主聘儒賢、姦雄乃遯。主任舊齒、萬事乃理。主聘巖穴、士乃得實。謀及負薪、功乃可述。不失人心、徳乃洋溢。
軍讖( に曰( く、姦雄( 相( 称( して、主( の明( を障( 蔽( し、毀誉( 並( び興( り、主( の聡( を壅塞( す。各〻( 私( する所( に阿( り、主( をして忠( を失( わしむ、と。故( に主( 、異( 言( を察( すれば、乃( ち其( の萌( を覩( る。主( 、儒賢( を聘( すれば、姦雄( 乃( ち遯( る。主( 、旧( 歯( に任( ずれば、万( 事( 乃( ち理( まる。主( 、巌穴( を聘( すれば、士( 乃( ち実( を得( 。謀( ること負( 薪( に及( べば、功( 乃( ち述( ぶ可( し。人心( を失( わざれば、徳( 乃( ち洋溢( す、と。
- 姦 … 『直解』では「奸」に作る。
- 私 … 底本では「似」に作るが、『直解』に従い改めた。
- 遯 … 『直解』では「遷」に作る。
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