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新型コロナウイルス感染症騒動のさなか、一町医者が思うこと・・・シックキッズニュース2020年3月号(NO34)から

新型コロナウイルス感染症騒動のさなか、一町医者が思うこと・・・シックキッズニュース2020年3月号(NO34)から

ブログの更新が全くないこと、シックキッズニュースのPDFが読みにくいことから、ブログにもシックキッズニュースの原稿をのせることにしました。これまでにだしたものも含め、不定期でアップします。

 

シックキッズニュース 3月号 NO34から

今月のフォーカス 新型コロナウイルス感染症騒動のさなか、一町医者が思うこと

 

スギ花粉も飛び始め、花粉症のひとはつらい時期になりました。が、今年はスギ花粉どころかオリンピックさえ吹っ飛ばすかもしれない大事件が勃発。いうまでもなく、新型コロナウイルス騒動です(図1)。2月27日夕方には首相の突然の学校休校要請もあり・・・医師会の首相への感染対策要望は、「患者クラスターや流行状況に応じて、学校医と相談の上、地域における学校の臨時休校や春休みの弾力的な設定」だったのですけどね。別に、「お前のせいだ」と一部ネット民たちに非難されている医師会をことさら擁護するつもりはないのですが、要望書自体は何も間違ってないような気がするのですけどね。どうしてこうなっちゃたんでしょうか?ということで、今月フォーカスするのは、新型コロナしかないでしょう。ただし、今回に関しては、感染症の専門でもないただの一町医者である私が、にわか仕込みでネットで調べ、それに基づいて思った駄文です。文責はもちろん執筆した私にありますが、健康食品の宣伝で、細かく出ている「あくまで個人の感想です」というあれです。こんな風に考えている医者もいるんだな~、とお聞き流しください。

  • どこから情報を集めているか
  • 新型コロナは本当のところ怖いのか
  • 話題のPCR検査ってどうなの
  • じゃあ迅速の血清診断法はどうか
  • 当院では新型コロナ診療できるような状況か
  • では我々町医者はどのように対応すればいいのでしょうか

 

1. どこから情報をあつめているか

 国の公式の情報は厚労省のサイトからえるべきだとは思いますが・・・(以後発言自粛)。一番わかりやすくて、正確で面白い話題提供をしていると思うのは、日本の検索サイトの大手、Yahoo Japanが公開している「新型コロナウイルス感染症 最新情報のまとめ」です(図2)。国内外や都道府県別の患者数、死亡数、厚労省の発表、ファクトチェックサイト(簡単に言えばデマ情報検証サイト)、それに新コロナ関連の最新ニュースをまとめています。 

 ネットで情報を集める時代。個人のSNSのサイトから様々な玉石混合の情報を得ることができます。今回は、感染症界の有名な先生がたも、(テレビのワイドショーなんかに出ている自称専門家を含め)たくさんの方が自論をSNSやテレビで披露しておられます。この中で私が必ずチェックしているのは、神戸大・岩田健太郎先生(主にツイッターFBブログも)、岩手医科大・櫻井滋先生(Shigeru Sakuraiの名でFB)、そして現厚労省職員・高山義浩先生(FB)です。3人に共通しておられるのは、沖縄中部病院という日本でトップの病院で臨床研鑽されていること(Chuberというそうです)、きちんとしたところできちんとした臨床研修をされているので当然ですが、感染症や感染防御に詳しく、感染症の本質を理解しておられること。だから今回の未知のウイルス禍騒動でも正しく考えることができて本当に正しい情報をSNSを通じて公開している。そのうえで、(ここはあくまで私の感想ですが)おそらく3人ともにお互いを強く意識しているのがビンビン伝わってくるのが面白い。まさに同じ山を違う方向から見ているような感じです。ここで3人のことを紹介することは紙面的にも余裕がないので、是非ネットでのぞいてください。

 

2. 新型コロナは本当のところ怖いのか

確定診断された人を見たことがない町医者(注:ここでは執筆者のことを町医者とか一町医者と書いています)にはわかりっこないです。子供がかかると、多くは風邪でおわり安静だけで自然に治るといわれています。この現象はふつう怖くないといいます。けれどもウイルスは感染します。風邪は万病のもとといいます。風邪をこじらせて肺炎、しかもご存知のようにお年寄りや持病(呼吸器疾患や高血圧の人など)をお持ちの方は無視できない割合で重症な肺炎になってしまう例がたくさん報告されています。これは怖い。また軽くすむ子どもたちが、知らず知らずのうちに重症化するかもしれない大人にウイルスをうつすことを大変怖がっている人もいます。一方、感染は感染経路がないと成立しないので、感染経路を断つ自信があり怖がっていないように見える学者や医者もいます。新型コロナ感染症よりも、その影響で学校や幼稚園が休みになったり、せっかく準備したイベントが中止になったり、売り上げが落ちる、大株安が起きる、就活氷河期になるなど社会生活が混乱しています。結婚披露宴を控えている方。本当もう涙しかありません。例えばオリンピックが中止になること、これは日本政府が一番怖いことではないでしょうか。

一町医者にとっては、マスクやアルコールなどの消毒液、トイレットペーパーを卸が持ってきてくれなくなったことが、とりあえず怖いことです。あと、風邪なのに実は新型コロナ患者さんだったと後でわかった場合、防御服ではなく普段着で診ていたことが判明してしまったら、濃厚接触とされ、指定感染症だから無理やりPCR検査させられる。陽性ならば休診を余儀なくされる流れになっている感じ(正確には正しくないかもしれません、個人の感想です)で、一番怖いです。防御服やらゴーグルやらN95マスクで飛沫をブロックしても感染している例もあるのにね(どうやら飛沫より接触感染のほうが感染経路として重要視されているのはこの事例があるからだそうです)。手指アルコール消毒(いよいよなくなれば石鹸手洗い)とサージカルマスク(いよいよなくなれば手作りマスク)でなんとか許してほしい、と切に願っています。

それと、話は変わりますが、学校休校の影響でこどもを田舎に疎開させようとしている人々が多分少なからずいることは本当に怖いです。ちょっと考えてみてください。平和な田舎の高齢者のコミュニティーにウイルスを広げることになりはしないですかね(町医者の杞憂に終わればいい)。そうなったら休校措置という首相渾身の最後の切り札もあだとなりえません。町医者にとってはたかがコロナじゃん、と甘くみていましたが、ただこれが疫病となっちゃうと本当にいろんなところに大きな影響を及ぼすのだと思い知らされました。

 

3. 話題のPCR検査ってどうなの

 ウイルスをみつける検査のことが話題になっています。はやくも今年の流行語大賞候補に躍り出ている感の「PCR」検査のことです(図3)。百日咳菌やマイコプラズマなどの検出でおなじみの簡便なLAMP法も開発中らしいです。PCR検査については昔の原始的方法ですが、研究生時代は毎日のようにやっていました。実験が下手でなかなかかかってくれず(涙)。が、コロナなどの微生物でPCR検査をしたことがないので、コロナのPCRに関してはわかりません。簡単に言えば患者さんからえた検体の中のウイルス遺伝子の一部を増幅する装置を使って、増幅してくれば陽性、増幅しなければ陰性、というわけです。変人キャリー・マリス博士が開発して一発当てて、分子生物学の分野で革命をおこし、当然ノーベル化学賞受賞したすごいものです。

ワイドショーなどでは、「検査して安心したいのにどうして検査してくれないんだ!」とご意見されている方も散見されます。多くの日本人の思いを代弁したのだとは思います。すでに世界中で何十万件もこの検査がされてこの検査の精度がだんだんみえてきたようです。どうやら手間暇、金がかかる割には期待したような精度は出ないようです。

まだ何%の人が実際に感染しているかわかりませんが、事前確率はそこまで高くないとして、仮に2%の人が新型コロナに感染しているとしましょう(表1)。感度(感染している人がPCRで陽性になる確率)が7割、特異度(感染していない人がPCRできちんと陰性になる確率)が9割だという人が多いので、そうだとして・・・1万人のうち2%の人が新コロナ感染しているので感染者は200人。感度が7割なので、200人のうち140人が陽性となります。感染していない人が9800人ですが、そのうち検査して陰性になる人は特異度9割なので8820人となります。ということは本当は感染していないのに検査では間違って陽性になる人も980人もいるわけです。検査陽性者が本当に感染している確率(陽性的中率)は140人÷(140人+980人)で、たった12.5%ということになります。陽性になってショックを受けてもその的中率が13%足らずならばどうですかね。陰性的中率のほうは99%と高いですが。事前確率が低いだろうと見込まれる今回のケースでは、まずどう考えても新型コロナに感染していないだろうという人までどんどん検査してしまうと、間違いで陽性が出る確率が1割もある場合(特異度9割の場合)は陽性的中率が低くなるという問題もあるのです。

またのどか、痰か、鼻の奥か、便など、どの検体を採取すべきかを考慮しないといけないし、採取するタイミングも難しいようです。ウイルスが感染したといっても、全身にウイルスがいるわけではありません。風邪なのでのどにもいるとは思いますが、本当は肺の奥深いところにたくさんウイルスがいるようです。それにウイルスがたくさんいる場所が経過を追うごとに変わることも難しくしているようです。感染初期は口やのど、肺炎を発症してしまえば肺、免疫の力で肺からウイルスが排除されても便の中にはしばらくウイルスは残存することが知られるようになりました。大阪でPCR検査が陰性になった後、また体調を崩して再検査したら陽性になっちゃった、という例がクローズアップされていました。まだ原因は検証中らしいですが、ウイルスの排除がそんなに簡単にできるとは思えないことを思えば、残存したウイルスが引っ掛かけることもそりゃあるよな、と感じています(執筆者の感想です、正しいとは限りません、念のため)。クルーズ船から2週間の検疫期間を終えて検査が陰性だった人は船から出てきましたが、その方々が陰性証明書を出すよう強く要求したそうです。これは町医者からみればちょっと無理筋です。気持ちはわかるが、全身調べているわけでもなくウイルスが絶対にいないことを証明するのは悪魔の証明と同じで、できないとおもいます。陰性証明書をみせられても、容疑が晴れたね、とみる人はあんまりいないのではないでしょうか?だからほかの国では強制的にさらに2週間程度の検疫を、日本人でもクレバーな人は2週間程度の自己検疫を程度の差はあれしているのです。陰性にあまり意味がないのです。ノロウイルスなどでもいえますが、感染後数か月という長期間便からノロウイルスが検出される例もありますけれど、学校保健安全法でも、下痢などの症状がなくなり元気になれば隔離終了となっています。つまり症状がない人は感染力がないとみなすのが一般的な考えです。陽性の場合も、クラスター検知など疫学的には意味があり、国はウイルス行政検査をしていました。PCR陽性だからといって、それで感染力があるとは限らないし重症かどうかもわかりません。そもそも検査が陽性だからといって特別な治療もなく・・・インフルエンザのケースと違い症状が軽い方や症状が出ていない人がPCR検査にこだわる必要はないでしょう。

 

4.じゃあ迅速の血清診断法はどうか

確定診断のための検査、といえば、ウイルスの遺伝子や抗原を見つけることばかりにシャカリキになっている感がぬぐえません。しかもこれしか検査がないとか言ってる事実誤認した人もいますが、実は一足先に流行した中国は、感染したことを本当の意味で感染症にかかったこと(正確に言うと罹った既往歴がある)を証明できる新型コロナウイルスに対する抗体というたんぱく質を検出する迅速診断キットの開発に成功したそうです。いわゆる血清診断です(図4)。人は病原体に感染してしばらくたった後に免疫ができます。感染した人のリンパ球が免疫グロブリンというたんぱく質(簡単に言えば抗体)を作ることができるようになります。その抗体をイムノクロマト法で検出します。スギ花粉やダニのアレルギー検査と同様、たった20μLの血液でできます。いわゆる耳チックンで血液は採取可能です。それを2-3滴緩衝液で薄めて検査の板の穴に注ぐだけ。15分で検査完了。IgGかIgMの線がでれば、抗体があることを証明、というわけです。

体が感染症を患って戦った一番の証拠は、やはり古典的ですが、病原体に対する抗体があるかどうかを証明する血清診断が一番と思います。その意味では、新型コロナに対する免疫グロブリン(抗体)のM型とG型の2種類のたんぱく質が同時に迅速にイムノクロマト法で検出できれば、強力な診断ツールになりえると思います。日本でもおそらく開発が進んでるはずなので、こちらも早く保険収載してもらえればと思います。私自身これならやってみたい。意外にもたくさんの人が知らず知らずのうちにすでに感染していることがわかったりして(これ、完全に執筆者の妄想です)。

 

XueFeng Wang ORCID iD: 0000-0001-8854-275X
Development and Clinical Application of A Rapid IgM-IgG Combined Antibody Test for SARS-CoV-2 Infection Diagnosis から

 

 

  • 当院で新型コロナ診療ができるような状況か

先日医師会会長さんがテレビで、新型コロナ患者さんが増えたら手上げ方式で新型コロナ対応医院を募りみてもらうことになる、とお話していました。大きな病院任せにして医療崩壊させることは断じてあってはならず、当然のご提案だと思います。じゃあ当院が手をあげるか・・・正直に申し上げて、否です。

まず当院は、主に気管支喘息、食物アレルギーの子どもさん、乳幼児健診やワクチン接種など、普段は元気なこどもさんで、定期的な診療の上、検査や定期薬の処方をされる方たちが他の医院と比べて圧倒的に多いです。それにサージカルマスクも職員の分を確保できるのがやっと。マスクやアルコール消毒液も、当院のような町医者には在庫がないと、卸が持ってきていただけないような状況です。ない袖は振れず、仕方がないと思います。PCR検査が保険収載されても、検体をとるときに必要な防御服やゴーグル、フェースガードもなく、できることといえば着ているジャージを着替えるくらいです。というわけで現在の採取基準にてらせば検体採取はできません。

今は小児科医院でも感染用と非感染用に入り口や受付、待合室を分けているファッショナブルなところもあります。当院も入り口自体は2つありますが、1つは個室に直接つながっており、もしその個室を負荷試験などの検査で使用していた場合は使えません。現実的には入り口が一つで、新コロナ感染者と非感染者との動線を分けることは不可能です。個室は2部屋ありますが、これは主に長い時間がかかる検査の方に入っていただく、いわゆる逆隔離措置で使う部屋で、感染症を入れておく感染室ではありません。もし新型コロナ患者さんを診たばっかりに感染してしまえば、強制的に休診させられ、その後の風評被害のことも委縮につながっています。

以上のことから、入り口も2つあり、感染者用に動線をきっちり分けていると公言されている医院以外の多くのところでは新型コロナ診療医院として手を上げるところはあまりないでしょう。

 

6.では新コロナにどのように対応すればいいのでしょうか

 いくら新コロナ診療に手を上げなくても、患者さんが風邪に紛れてふつうに来院されるのは時間の問題でしょう。ではそうすればいいか。標準感染予防策を必ず取ることは当然として・・・それ以外の答えは残念ながらありません。でもそれを言ったら元も子もない。一町医者としては、まずは医療の原点に返ってみよう、と考えています。つまり「病原体をみすぎて人を診ることをおろそかにするな」ということでしょうか。私が医者になった30年前を思い出します。今よりずっと感染症に立ち向かう武器が少ない時でした。治療薬だけではありません。とにかく検査がなかったのでした。採血がむずかしいこどもに何とか採血をしても、結果がわかるのは数日後。仕方がないから血液をスライドグラスに塗って白血球の種類を顕微鏡で数えること、血液を細い管に入れて赤い赤血球が下がってゆく速度を図って強い炎症が起きているのだろうと推測するくらいしかありませんでした。検査といえるようなものといえば病原体の抗体をはかる血清診断で、急性期と回復期で2週間あけて行うくらいでしたか。今と比べると大変低いレベルで何とか診療していました。とにかく病気の患者さんは待ってくれないので何とか診断のヒントをもらおうと、必死でのどや耳やら皮膚やら肝臓やらリンパ腺やら呼吸の音やら心臓の音の調子やらいろいろ診させていました。

検査ができない新型コロナが出てきたら、まるで30年以上前の医療に戻った感じです。それでいいのかもしれません。コロナだけではありません。感染して熱や咳などの症状がでて(いわゆる感染症)苦しんでいる人が最初に相談するのは我々地域の町医者です。私もホームページにでかでかと書いていますが、「地域医療に貢献します!」と。コロナに限らず、地域住民の方のうち感染症で苦しんでいる人は地域医療に貢献していそうなところにたぶん最初に相談に来られると思います。我々町医者の仕事は、ウイルスを相手にしているのではないのです。熱や咳などの症状に苦しんでいる人を相手にしていることをまず再認識すべき。ウイルスを見つけることが、苦しんでいる人を診ること以上に大事であるとは思えないし、ましてやウイルスを消すことなんてできませんし町医者の仕事でもありません。ウイルスを消すのは、医者に楽にしてもらった患者さん自身です。コロナでもRSウイルスでもこれからはやるヒトメタニューモウイルスでも今年からはやるかもしれないマイコプラスマでも何でもいい。今あるもの、レントゲンや簡易キット、血球数測定器などできちんと肺炎を早期に診断してあげて、重症化しないように早め早めに対応するしかない、そう思います。

診療内容:小児科・アレルギー科・予防接種・乳児健診
tel.097-529-8833
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9:00~12:00
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