精選版 日本国語大辞典「蚕」の解説
かい‐こ かひ‥【蚕】
〘名〙 (「飼い蚕」の意で、古来、飼育されるところからいう。かいご(卵子)とは別語)
① カイコガ科のガ。はねの開張約四センチメートル。雌は白色で、触角は灰色。雄は灰色で触角は黒色。蛹(さなぎ)から羽化して数日間で交尾、産卵して死ぬ。何千年間もの累代飼育によって習性が変化し、人の管理下で飼育しないと生命を維持することができず、成虫は飛翔力を失った。かいこが。蚕蝶(かいこのちょう)。
② ①の幼虫。絹糸をとるために飼育される。卵から孵化(ふか)した直後は黒色で毛深く毛蚕(けご)または蟻蚕(ぎさん)と呼ばれる。桑を食べて発育する期間(齢)と、食べずに脱皮の準備をする期間(眠)とを交互に繰り返し、第五齢で成熟する。第二齢以後の幼虫は不透明な白色で不規則な黒い細線のあるものが多く、熟蚕になると体が透明になり絹糸腺から糸を吐いて体のまわりに繭をつくる。蛹(さなぎ)は羽化して成虫のガとなって繭から出る。幼虫は絹糸をとるために飼育され、品種も多く、原産地によって日本種、中国種、欧州種、熱帯種などに分けられるほか、種々の分類がある。家蚕(かさん)。御蚕(おこ)。《季・春》
※書紀(720)神代上(兼方本訓)「顱(ひたひ)の上に粟生(な)れり。眉の上に
(カヒコ)生れり」
③ 蚕を飼うこと。蚕飼(こが)い。養蚕(ようさん)。《季・春》
※俳諧・落日庵句集(1780頃か)「ことしより蚕はじめぬ小百姓」
[語誌]古くは単に「こ(蚕)」で、「万葉‐二四九五」に「たらつねの母が養子(かふこの)まよごもりこもれる妹を見むよしもがも」とあり、「日本書紀‐神代上」の「養蚕」に「こかひ」の古訓がある。「かいこ」の語形は、書紀の古訓に見えるが、一般化したのは中古以降と思われる。
こ【蚕】
〘名〙 かいこ。《季・春》
※万葉(8C後)一二・二九九一「たらちねの母が養ふ蚕(こ)の繭(まよ)隠りいぶせくもあるか妹に逢はずして」
さん【蚕】
〘名〙 カイコ。
※続春夏秋冬(1906‐07)〈河東碧梧桐選〉春「蚕の神の御鬮の占のよかりけり〈碧童〉」 〔韓非子‐内儲上〕
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