古都の景観、垂れ下がる電線…無電柱化わずか2%

古都の景観、垂れ下がる電線…無電柱化わずか2%

電線がクモの巣のように広がる茶わん坂(京都市東山区で)=河村道浩撮影

 風情ある町並みの保全に力を入れる京都市で、電線を地中に埋めて電柱をなくす「無電柱化」事業が停滞している。財政難が理由で、約90億円かかる24路線(計10・1キロ)の整備計画が白紙化され、着工のメドはたっていない。他都市と比べて遅れが目立つため、期待していた観光関係者からは「動き出すのはいつなのか」と不安の声が漏れる。(坂戸奎太)

■予算見送り

 世界遺産・清水寺(京都市東山区)につながる茶わん坂。優美な朱色の三重塔を見上げられる参道だが、電線や電柱が視界を妨げている。福岡から訪れた女性(40)は「旅情を感じる眺めなのにもったいない」と首をかしげた。

 景観保護対策で、先駆的に取り組む京都市。点滅式広告や屋上看板を禁じたり、建物の高さ制限を厳しくしたりして、統一感のある町並みを保とうとしてきた。無電柱化もその一環で、1986年以降、烏丸通や河原町通、四条通などで順次実施。清水寺周辺でも、もう一つの参道「産寧(さんねい)坂」などで終えている。

 昨年3月までに整備したのは111路線の計約62キロで、2019年に決めた今後10年間の整備計画では、茶わん坂(0・4キロ)や銀閣寺道(0・2キロ)、八坂通(0・5キロ)など景観目的の24路線を優先着工することにしていた。

 しかし20年12月の市議会で門川大作市長が、財政難により28年度には企業の破産にあたる「財政再生団体」に転落する恐れがあると表明。全施策が見直されることになり、昨年3月の市議会で、景観目的とした無電柱化事業の予算化は少なくとも23年度まで見送られた。

■防災面を優先

 京都市によると、通信ケーブルと電線を地中に埋める「共同溝方式」の工事費は道路1キロ当たり約9億円。国と自治体で3分の2、残りを電力会社などの事業者が負担しており、国も16年に無電柱化推進法を施行して支援するが、財政負担がネックで手をつけられない自治体は多い。

 そんな中、優先されるのは防災面で必要性の高い道路だ。阪神大震災で約8000本、東日本大震災では約5万6000本の電柱が倒壊して、道路を塞ぎ、避難や復旧に支障が生じるなどした。

 京都市も今年度、景観目的の予算化を見送った一方、災害時に緊急車両が通行する幹線道路などには8億2000万円を計上。12路線(9・9キロ)は従来通り進める方針だ。

■住民合意に時間

 海外では、電柱がないのが当たり前とされる都市も多く、国土交通省によると、ロンドンやパリ、香港の無電柱化率は100%。台北(96%)やソウル(49%)も率が高い。

 日本は戦後の復興を急ぐため、電柱を使って配電網や通信網の整備が行われた経緯があり、全国で最も進んでいる東京でも23区で8%(17年度末時点)。都知事が積極的に推進しているが、東京スカイツリー周辺や青山通りなどにとどまる。繁華街の曽根崎新地本通や宗右衛門町通などで実施済みの大阪市も6%だが、さらに少ないのが2%の京都市だ。

 市内の道路3600キロのうち、市が無電柱化を計画しているのは約275キロ(8%)で、完了までに数十年かかるとみられる。遅れが目立つ要因として、担当者は「昔ながらの狭い道路が多く、必要な地上機器を道路のどの辺りに置くかなどで、住民との合意形成にも時間がかかる」と言う。

 茶わん坂では、3年かけて合意をとりつけたといい、「茶わん坂繁栄会」会長で西陣織専門店を営む岡本喜八さん(72)は「コロナ禍が収束すれば、いずれ観光客が増えるはず。今のうちに工事を進めるのがいいと思っていた。どうにかならないものか」とため息をついた。

 群馬大の小竹裕人教授(公共政策論)は「無電柱化は観光都市にとって重要課題の一つだ。国がさらに財政支援などで後押しし、コストを削減できる工法の工夫を事業者らに促すべきだ」としている。

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