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アルテイシアの59番目の結婚生活

2021.12.18 更新 ツイート

ノットオールメンはもう聞き飽きた  アルテイシア

10年ほど前、BBC製作のドラマ『SHERLOCK(シャーロック)』にハマって、鹿撃ち帽を買った。鹿を撃つ予定はなかったけど。

俺たちのシャーロックことベネディクト・カンバーバッチは、“有害な男らしさ”について「我々男性は態度を改める必要がある」と語っている。(詳しくはこちらの記事を)

男性たちは反論し否定し「すべての男が悪いわけではない」というような幼稚な言い訳を口にする。しかしそれは違う。私たちはただ口を閉じ、聞かなくてはならない

 

この言葉に膝パーカッションしすぎて、膝が砕け散った。周りの女性陣も「膝が二枚じゃ足りない!」と合唱していた。

膝破壊神カンバッチ先輩は、我々が一番言ってほしいことを言ってくれたからだ。

性暴力や性差別の話になるとバグる男性は多い。我々は男性の言う「ノットオールメン」にうんざりしているのだ。

たとえば、女性が痴漢被害の話をすると「男がみんな痴漢するわけじゃない」と返す男性はげっさ多い。

「そんな男と一緒にされたら迷惑だ」とムッとしたり「自分も責められてるようでつらい」と被害者ぶる男性を見るたび、見えている世界が違うんだな……と絶望する。

これが女同士だったら「(痴漢に遭って)つらかったね」と相手の気持ちに寄り添い「おのれ痴漢め許せねえ!」と加害者に対して怒る。

なぜ多くの男性はそれができないのか?

これが「痴漢に遭った」じゃなく「強盗に襲われた」だったら「そんな男ばかりじゃない」なんて返さないだろう。

性暴力の話になると、なぜ目の前の相手に寄り添わないのか? 黙って相手の話に耳を傾けないのか?

なぜ「俺はそんなことしない」と自己弁護に走るのか? なぜ自分が責められているように感じるのか?

そうした言葉や態度で「そんな話は聞きたくない」と女性の口をふさぐのは、なぜなのか?

それを男性自身に考えてほしいけど、尺もないのでさっさと答えを言うと「男性だから」である。

男性は「性暴力に遭う機会が少ない」「性暴力に怯えて暮らさずにすむ」という特権を持っているからだ。

男がみんな性犯罪をしないことなど百も承知だが、現実に性犯罪をする男は存在する。

性犯罪の加害者の95%以上が男性、被害者の90%以上が女性である。

ほとんどの女性が子どもの頃から性被害に遭っていて、ほとんどの男性は性被害に遭ったことがない。

この圧倒的な非対称性ゆえ、同じ感覚を共有するのは難しくても、想像することはできるだろう。

たとえば日本人の男性が欧米で暮らして、アジア人差別を何度も経験したとする。

その話を白人にした時に「すべての白人が悪いわけではない」と言われたら?

「そんな白人と一緒にされたら迷惑だ」とムッとされたり「責められてるようでつらい」と被害者ぶられたら、どう思う?

「いや被害者はこっちやぞ、まずはこっちの話を聞けよ」と思うだろう。

そこで「白人だってつらいんだ」と言われたら「なぜ張り合おうとする? まずはこっちの話を聞けよ」と思うだろう。

居心地が悪いからって、こっちの口をふさごうとするなよと。

自分はすべての白人が悪いなんて思ってないし、あなたを責めたいわけでもない。

ただ差別に怯えて暮らす現実を知ってほしい。

アジア人というだけで殴られるかもしれない、殺されるかもしれない。誰がまともかなんて見分けがつかないから、こっちは警戒するしかない。

それを「自意識過剰」「気にしすぎ」と責めないでほしい。それでいざ被害に遭ったら「なぜ自衛しなかった」と責めないでほしい。

「アジア人が夜道を歩くから」「派手な恰好をしているから」と被害者のせいにしないでほしい。

人種差別の話になった時に「俺は差別なんてしない」と返すんじゃなく、白人に向かって「差別するのはやめろ」と言ってほしい。

その声はマイノリティの自分が言うよりも届くから。

~~fin~~

いやfinじゃねえわ、まだ終わらんよ! とキャスバル兄貴も言っている。

女性が男性に対して思うことも同じである。

性暴力や性差別の話になった時、男性は居心地の悪さを感じるだろう。それは自分がマジョリティ側にいるからだ。

居心地が悪いという理由で、こちらの言葉を遮らないでほしい。耳に痛い話でも真摯に耳を傾けてほしい。

「そんな男と一緒にされたら迷惑だ」と思うなら、それを被害者じゃなく加害者に言ってほしい。

「性暴力や性差別をやめろ」「そういう男がいるから迷惑するんだ」と男性に向かって怒ってほしい。

加害者がいなければ、性暴力も性差別もなくなるのだ。痴漢がいなくなれば、女性専用車両は必要なくなるのだ。

これは被害者じゃなく加害者の問題なのだ。

それを理解して「我々男性が変わる必要がある」とカンバッチ先輩のように声を上げてほしい。

来年公開の『ドクターストレンジ2』も楽しみである(わくわく)

女友達はドイツに住んでいた時、人種差別を何度も経験したという。

ドイツ人の夫に「あなたとレストランに行った時と日本人の友達と行った時では、店員の態度がまるで違うのよ」と話すと「気にしすぎじゃない?」「きみはちょっと敏感すぎるよ」と言われたそうだ。

そのたびに「見えている世界が違うんだな……」と絶望したという。

気にせずにいられること、鈍感でいられることが特権なのだ。そして人は自分の持つ特権を認めたがらない。

友人いわく「夫は高学歴のエリート白人男性でバリバリの特権を持つ強者だけど、本人は絶対に認めなかった」とのこと。

「僕は特権なんて持ってない、ここまで必死に努力してきたんだ」と夫は主張していたという。

たとえば、アメリカの大学で白人の男子学生に「白人であること、男性であることは特権だ」と言うと「自分は貧乏暮らしで苦労している、だから特権なんてない」と否定するようなケースが多いという。

特権を持っている=人生薔薇色でイージーモード、という意味ではない。その人の努力や苦労を否定するものでもない。

“その属性”を理由に差別される機会が少ないことが特権なのだ。

男性は女性に比べて、性暴力や性差別に遭う機会が少ない。だから見えている世界が違うけど、人はわかりあえると思うのアムロ。

唐突にララァが憑依したけど無視してほしい。ララァがわからない人は周りの年寄りに聞いてみよう。

うちの夫もめっちゃいい奴だが、ジェンダー問題になるとアホになるマンだった。

彼は私と出会うまで恋愛経験がなく、女性との接点が少なかった。性暴力や性差別について無知で無関心だった。

私と出会って一緒に暮らす中で、夫のジェンダー感覚がアップデートしていったのだ。

たとえば「通りすがりのおっさんにマンコって言われた」「すれ違いざまに殴る真似をされた」と私から聞くことで、女性が日常的に加害される現実を知ったという。

また、私はこの世界に対してバチボコに怒っていた。

女というだけで性被害に遭いまくり、女が性被害を訴えると「冤罪」「売名」「枕営業」「ハニトラ」とセカンドレイプにさらされる。

こんな理不尽があってたまるかよ! 冗談も休み休み言えオブザデッドやぞ!!

とバチギレる妻の話を夫はちゃんと聞いてくれた。そこでクソリプを返す男だったらそもそも結婚していない。

そんな怒れる妻は、伊藤詩織さんの話をするたびに泣いていた。

「私たちの世代がもっと声を上げていれば、被害を止められたかもしれない」とオイオイ泣く妻を見て、性暴力を自分事として考えられるようになったのだと思う。

そう、私たちは一緒に考えてほしいのだ。

どうすれば性暴力や性差別を止められるか。どうすればこの世界を少しはマシな場所にできるか。

そんな思いから「性暴力を見過ごさない」動画を作った。

動画の主人公を加害者でも被害者でもなく傍観者の男性にしたのは、男性に考えてほしかったからだ。「自分はこんなことしない」じゃなく「自分にできることはなんだろう?」と考えてほしかった。

動画を公開した時に「アンチフェミから嫌がらせを受けるかも」と夫に言うと「防衛力を高めよう」と巨大ヌンチャクを購入していた。

夫はベランダで巨大ヌンチャクの練習をしている。たまに自分の足とかにぶつけて「めっちゃ痛い!!」と叫んでいる。

この人やっぱりアホなのかな? と思うが、ジェンダーについてはアホではなくなった。

今のところ巨大ヌンチャクの出番はないが、アンチフェミからのクソリプはしょっちゅう来る。

この前は「穴需要のないババアの嫉妬」というクソリプが来て「穴需要……アナと雪の需要……レリゴー♪」と歌ってしまった。

こっちは「一方的に性的に見るな、氷柱にしてやろうか」と思っているのに、あっちは「女は男に性的に求められたい」と信じている。

見えている世界が違うオブザワールドだ。

「若い女は男にチヤホヤされて得」というのも、勘違いオブザリビングデッドだ。

男性にとってのチヤホヤは、女性にとってセクハラである。

20代女子から「学生時代は男女平等だったけど、社会に出て男尊女卑に殴られました」「セクハラや性差別に遭ってヘルジャパンを実感しました」という声が寄せられる。

会社の飲み会で偉いおじさんの隣りに座らされて「若いね」「かわいいね」だの言われたり、偉いおじさんの集まる場に接待要員として連れていかれたり。

偉いおじさんに食事に誘われて「仕事を教えてあげるよ」とマンスプをかまされたり、欲しくもないプレゼントを渡されたり……。

そういうものすごくウザくてありえないほどダルい数々が、一部の男性には「チヤホヤされて女は得」に見えるのか。

あなたたちは女の何を知っているのか。

私たちは若い頃、自分も同じような目に遭ったから知っている。だから若い子を守るために間に入って壁になる。

それであとでこっそり「ありがとうございます」「困った時は言ってね」と会話している。これがシスターフッドである。

それが一部の男性には「若い女を妬んで邪魔するババア」「女の敵は女」に見えるのだろう。

同世代の女たちが集まると「若い頃はおじさんに塩対応できなかったよね」という話になる。

当時は圧倒的な立場の違いから「すごいですねー」と愛想笑いするしかなかった。

でも自分がおばさんになると、おじさんが怖くなくなる。塩対応どころかジャックナイフと化してギザギザ子守唄な対応ができる。

こうしてわきまえない女が爆誕する。

わきまえず自由にレリゴーする女は、彼らにとって脅威なのだろう。だから穴需要のないババアとクソリプを送ってくる。

アナと雪の需要……レリゴー♪(気に入った)

しかしこれが悪口になると思っている時点で救いようのないアホである。

ドントビーザットガイ(そんな男にはなるな)

男性が「NotAllMen」と女性に言うんじゃなく、「DontBeThatGuy」と男性に言うようになれば、世界は変わる。

この世界を少しはマシな場所にしたい、多くの男性はそう思っているだろう。

同じ思いを持つ人とは連帯できる。見えている世界が違っても、私たちはつながれる。アナルテイシアはそう信じている。

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アルテイシア

神戸生まれ。現在の夫であるオタク格闘家との出会いから結婚までを綴った『59番目のプロポーズ』で作家デビュー。 同作は話題となり英国『TIME』など海外メディアでも特集され、TVドラマ化・漫画化もされた。 著書に『続59番目のプロポーズ』『恋愛格闘家』『もろだしガールズトーク』『草食系男子に恋すれば』『モタク』『オクテ男子のための恋愛ゼミナール』『オクテ男子愛され講座』『恋愛とセックスで幸せになる 官能女子養成講座』『オクテ女子のための恋愛基礎講座』『アルテイシアの夜の女子会』など。最新作は『40歳を過ぎたら生きるのがラクになった』がある。 ペンネームはガンダムの登場人物「セイラ・マス」の本名に由来。好きな言葉は「人としての仁義」。

Twitter: @artesia59

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