ツイステLINEスタンプ発売にかこつけて、フロイドの「気分じゃねぇ」とリドル「返事は!?」で喧嘩させてみました。ハピエンです。
フォロワーさんとLINEのやりとりをしてたら生まれたお話だったので、フォロワーさんに感謝です🙏✨
フロイドにとって気分とは、自分でもままならぬところにある、一種の体調不良のようなものだ。
「フロイド! 何回言ったらキミは分かるんだい!?」
「んあ〜?」
「返事は!?」
「んー…、気分じゃねぇ〜」
「なんだって?」
「だぁー、かぁー、らぁー、気分じゃねぇっつってんじゃん」
もう、どうして喧嘩が勃発したのかすら思い出せない。わかるのは、自分の気分がひたすらに沈んでいることと、なんだか金魚ちゃんがウギウギと怒っていること。こうなった状態の自分たちが、側に居続けるのは賢明な判断とは言えないだろう。なのに、リドルの小言は止まることを知らない。
このままでは思ってもないことを言ってしまう。これ以上リドルと無意味なやり合いなどしたくないのに。傷つけたくないのに。一人にして欲しいのに。とにかく今は頭を冷やしたい。そんな思考が、フロイドの頭の中を駆け巡る。
そして、とうとう「金魚ちゃん、うざぁ…」なんて言ってしまったときには、後悔してもすでに遅かった。少し視線を見やれば、リドルはひどく傷ついたような顔をしていた。
だから嫌だったのだ。気分じゃないときに喧嘩だなんて。リドルを傷つけてしまう言葉しか言えない自分自身に苛立つ。フロイドはもどかしい気持ちを抱えながらも、チッ、と舌打ちすると、そそくさとその場を立ち去ることにした。
一方で、そんなフロイドの心情など露ほども知らないリドルは、「うざぁ」の一言に衝撃を受けていた。なにせリドルは、気分などというものに判断を左右されたことのないのだ。気分屋の彼が今、何を思って、何を考えているかなど到底理解できない。ただ、自分を置いてどこかへ行ってしまった事実だけが、不安となってやってくる。
もうボクは、キミとって喧嘩する価値もない相手になってしまったのだろうか。
そんなことはない。きっと彼は気分の波に飲まれているだけだ。どんなに、そう信じたい気持ちを強く保とうとも、涙は溢れて頬を伝い、優しく温かい手がその涙を拭ってくれることはなかった。
▽▽▽
ところで突然だが、冒頭でも述べたようにフロイドの機嫌というのは体調不良のようなものだ。治ってしまえば、ケロリと微笑んで、リドルとあった喧嘩など反故しようとするどころの騒ぎではない。「オレ、金魚ちゃんにウザいなんて言ったっけ?」と、耳を疑う発言までかましてくるのだ。
だが、リドルは違う。言われた一語一句を重く考え、真摯に受け止める。有り体に言えば根に持つのだ。
「ふん、キミが言ったんじゃないか。金魚ちゃんウザいって」
「あー…? うーん…あんま覚えてねぇんだけどぉ、ごめんね?」
「なんで覚えてないのに謝るんだい!?」
ふざけるのも大概におしよ! そう叱咤しようと、フロイドの顔を見やるも、彼は珍しく心底バツが悪いように眉を八の字に下げて、「だって、金魚ちゃんが悲しそうな顔してんだもん。それ、オレのせいでしょ」なんて、しおらしくしていた。
なんだか、拍子抜けである。
「そ、そうだよ。キミがボクのことをうざいなんて言うからっ…」
「うん」
「ボクは…っ」
「金魚ちゃんは?」
「き、キミにとって、喧嘩するほどの価値もない存在になってしまったのかと」
「うん」
「こ、」
「こ?」
「怖かったんだ…」
「…うん」
「悲しかったんだっ」
「ごめんね」
一度、吐露してしまえば感情が溢れてとめどない。そうだ、ボクはキミに見放されるのが怖くて、悲しくて、怯えていたんだ。なのに、キミは気分でボクを突き放したり、今はこうやって甘やかしたり、ボクの情緒はキミのせいでめちゃくちゃだ。ぜんぶぜんぶ、キミのせいだ。
ぼろぼろと涙を流して責め立てれば、フロイドはリドルを抱きしめながらポンポンと優しく撫でて、「不安にさせてごめんね」と謝る。
その手に安心させられると共に、ようやっと冷静を取り戻してきた頭の片隅でぼんやりと理解していく。本当に悪いのはフロイドだけではないことを。
なにせフロイドの気分屋など、今に始まったことではないのだ。そういうところも含めて、リドルの好きになったフロイドであり、彼自身だ。
フロイドは、こんな情緒の安定しないリドルを丸っと丸ごと受け止めてくれるのに、自分がフロイドの気分屋な部分を受け止められないだなんて、フェアとは言えないのではあるまいか。
リドルだって、フロイドのすべてを受け入れたいと、常日頃から思っている。…言葉にするのがちょっと出来ていないだけで。
「フロイド」
「んー?」
「ボクの方こそ、キミのことをわかってあげられなくてごめんね。でも…その、少しずつだけど、キミのことをもっと理解していきたいし、受け止めたいとも思ってるんだ。…ほんとうだよ」
「あはっ、うん。知ってんよ」
▽▽▽
悪いことをしたら謝る。これは世の中の常識であり、エレメンタリースクールの子どもでも知ってることだ。でも、それを素直に口にできる人は本当に少ない。大人になればなるほど、それが難しくなっていく心地だ。変なプライドが邪魔をする。
今回だって、フロイドが謝ってくれたからこそ、リドルは素直に謝ることができた。なら、いつかフロイドが謝ってくれなくなったら?
そんな不安を抱えていれば、フロイドは「金魚ちゃん、なんか変なこと考えてね?」と優しいキスを落としてくれた。
果たして、この甘美なキスよりも守りたいものなど存在するのだろうか。答えは否だ。
それだけで、プライド云々など言っている場合ではないことに気付かされる。将来、もし大きな喧嘩をするとしても、今度は自分から非を認めて謝ろう。
単純な思考回路だと笑われたって構わない。プライド、矜持、自己顕示欲、そんなものたちは愛の前では無力なのだから。
それを証左するように、街中のいたるところでは、「必ず最後に愛は勝つ」なんて歌が、不朽の名曲として持て囃される。
【必ず最後に愛は勝つらしいので】