ダナティア家の因縁9
あけましておめでとうございます。
元旦から寒さが際立つ三が日……皆さんお風邪を召されませんように。
「フォルトゥナ公爵。王太女が健やかであらせられることをお望みなら、是非とも一度レナリアに頼んでみてはいかがでしょう?
彼女が正式に聖女の認定を受ければ、後になって治療を望むのは難しくなる――」
ダナティア伯爵がなおもガンダルフに言い募ろうとしたところ、別の物音で掻き消された。
人々のざわめきや衣擦れ、そして楽器の音が鳴り響くなかで王宮騎士達が一糸乱れぬ動きで剣を掲げ、胸の前で止めて整列する。
「ラウゼス・コラン・サンディス国王陛下並びに、第一王妃メザーリン妃殿下、第二王妃オフィール殿下の御成りです!」
国王夫妻たちの来場が、良く響く声によって会場中に知らされる。
一段と高いバルコニー上の舞台から、王族たちが堂々たる歩みで姿を現した。
サンディスで最も尊い人物が来たのだ。暢気にしゃべり続けているわけにもいかない。当然ガンダルフやコンラッドも視線を向けたし、ミカエリスやジュリアスも同様である。
一瞬だけ目を細めて、コンラッドはすぐに笑みで感情を覆い隠した。
「タイミングが悪かったですね。では、このお話は改めて」
「次はいらん」
にべもなくぶった切ったガンダルフは、既に視線すら向けようとしない。
元より愛想の良いタイプではないが、その様子にジュリアスは少し引っ掛かりを覚える。もしかしなくとも、ガンダルフはコンラッドをたったこの数分の間に敵認定、もしくは受け付け難い人物だと判断したのだろう。
普段からガンダルフはぶっきらぼうなところはあるが、人嫌いではない。義息子としてそれなりに付き合いはあるジュリアスは、それとなくガンダルフの好悪の機微を察せられるようになった。
(……胡散臭いのは確かだが、アルベル様の体調が思わしくないのは事実だ。かなり難しい状態であるし、本当は藁にも縋りたいだろうに)
だが、アルベルティーナが回復したとしても、見返りに求められるのが彼女の夫の座だというのは透けてみえる。
優位性は自分にあると思っているのか想定内なのか、これだけつっけんどんにされているのにコンラッドは怯まない。
だが、引き際は分かっているのか少し距離を取って、国王からの開宴の言葉を聞く姿勢となった。
だが、みなが国王に注目する中、空気が読めないのもいるのも事実だった。
ヴェールを被っているから気付かれないと思っているのか、コンラッドの後ろにいた白ドレスの『聖女レナリア』がこちらを見ていた。
顔を見なくとも、凝視しているのが分かる。ヴェールの下からですら、強い視線を感じた。
(俺を見ている?)
コンラッドとレナリアに対応していたのは、ガンダルフ、ミカエリス、ジュリアス。
だが、主に会話をしていたのはガンダルフだし、体格と言い存在感と言いダントツで目立つ。次点は真紅と言っていい見事な赤髪と上背、迫力のある美貌のミカエリスだろう。ジュリアスも美形だが、理知的な美貌は華やかさという点ではミカエリスに劣る。
どちらが美男子というのは、その人間の主観や好みだろう。
そもそも絢爛と言える身分の当主たちがいる中、子息という立場のジュリアス。序列的には下だ。だから、一歩引いていた。
その分、コンラッドをつぶさに観察することに集中していたのだ。
横顔に刺さる視線を感じながら、ジュリアスは素知らぬ顔をし続けていた。
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