ロータス・エキシージCUP260(MR/6MT)【試乗記】
ひとつの完成形 2011.02.16 試乗記 ロータス・エキシージCUP260(MR/6MT)……945万3900円
レースを視野に入れながら公道も走れるロータス、「エキシージCUP260」。さらに鋭さを増したという最新モデルの実力を、ワインディングロードで試した。
こてこてのテコ入れ
1996年に初代「エリーゼ」を発表して以来、バスタブ構造のアルミシャシーを守り続け、ライトウェイトスポーツカーの指標であり続けているロータス。その中でも、かなりスパルタンな「エキシージCUP(カップ)260」の、“2010年モデル”が今回のテスト車である。
従来モデルからの見た目でわかる変更点は、フロントバンパーの開口部が拡大され、デザインも新しくなったこと。ラジエターに当たる風量は増大し、バンパー両側の開口部それぞれにオイルクーラーが配置され、エンジンの冷却性能もアップした。ちなみにこのオイルクーラーダクトを並行に仕切る羽根板はカーボンファイバー製で、大きな空気抵抗にさらされても変形しにくいという。
フロントバンパー下部にはカーボンコンポジット製のスプリッターも装着。フロントエンドで得た空気の流れをアップスイープさせ、タイヤ周りの乱流を整える。
また、これまで2本のステーで支持されていたGTウイングは、角度調整式の、より大型な翼端板支持タイプになった(幅は181mm、高さは46mm拡大)。取り付けをエンジンフードからボディクラムシェルへの直付けとして強度を上げつつ、その位置も61mm後退。時速160km/h走行時には42kgのダウンフォースが得られるようになったという。
そしてなによりロータスといえば軽量化だ。その足元には、フロントが5.56kg/本、リアが7.75kg/本と、標準装着ホイールとしてはロータスで最も軽量な鍛造ホイールを装着。ボディのほうも、ルーフパネルやシート、ダッシュパネルなど、さまざまな箇所にカーボンコンポジット素材を使用。その他のコンポーネンツも軽量なバッテリーやフライホイール、バルクヘッド、過給パイプ(アルミ製)などを採用し、車重は910kgに収められた。
常識的な非日常
のっけから結論づけてしまうと、この260カップは「純然たるサーキットモデル」である。「カップ」という名前もヨーロッパで開催されるエキシージカップ(2006年にエキシージ240でスタート)に由来している。助手席フロアにはパッセンジャーの乗車を阻むほど大きな消火器が鎮座しており、標準装着のバケットシートがHANS(※)対応のシェル形状となっていることからもそれがわかる。
ただし、日本には同様のシリーズがないことから、主に休日のサーキット走行を楽しむユーザー用のモデルとなる。車検を含め、エアコンやパワーウィンドウなどの装備で公道走行が可能になっているのも、現場(もちろんサーキット)に自走して行くための快適装備ととらえたほうが自然だろう。
とはいえ、同じウルトラ・ライトウェイト・スポーツカーである「ロータス2イレブン(ツーイレブン)」に比べれば、雨風がしのげ、暑ければクーラーも使えるCUP260は、はるかに常識的な性格だ。レーシングカーというよりは「クラブスポーツ」。一般道での試乗でも、その仕上がりの良さは確認できた。
ひと手間かけてイモビライザーを解除すれば、スターターボタンを押すだけでルーツ式スーパーチャージャーを搭載したトヨタ製「2ZZユニット」は簡単に目覚める。クラッチも操作しやすく、低めの着座位置とリアのバルクヘッドからダイレクトに聞こえるメカニカルノイズ(といっても、スポーツカー好きならソソられる音)以外、心拍数を上げる要素はない。
運転しやすいけれど、ちょっとわくわくさせてくれる。そのバランスがわれわれアマチュアドライバーにはちょうどいい。
※「HANS」(Head and Neck Support):ヘルメットをドライバーの上体と結束することで、衝突時の頸椎損傷を防ぐ安全装備。F1を含む国際格式のレースで広く使用されている。
お茶もすすれる乗り心地
そのバランス感覚のよさは、走り出しても変わらない。デフォルトの足まわりは確かに、ストリートではやや硬め。サスペンションストロークをたっぷり使い、路面の凹凸をいなすタイプではない。しかしながら路面からの入力を受け止めるボディがしっかりとしており、かつストロークが短いダンパー(オーリンズ製:伸び側60段/縮み側22段(!)で調節可能)も、その範囲内できちんと減衰力を立ち上げてくれるから、入力時の振動もビシッ! と短く収束する。聞けば、リアのサブフレーム剛性もこれまでより30%ほど増しているそうだ。
おかげで、専用のSタイヤ(ヨコハマA048LTS)を履きながらも、それほどハイレートなスプリングを入れる必要性はないのだろう。路面のうねりなどで、左右にクルマが短く揺さぶられるような、不快な動きも出ない。ボディも軽いから、ピッチングやロールといった縦横の動き(慣性重量)がいつまでも残らない。彼女が隣でコーヒーをすすれるくらいのスパルタンさ、といったらおわかりだろうか。ドリンクホルダーはないけれど。
そんなCUP260を飛ばして走らせると、エリーゼ系マシンのひとつの完成形というべき姿が見えてくる。
いまやノーマルの「エリーゼ」は、カジュアルなオープン2シーターの役を担っており、超安定志向のセッティングが施されている。世に出た当初見られた軽快なロール感はなくなり、かといって走りに徹したソリッドなコーナリングが得られるわけでもない。極端に言えば“ステアリングだけで曲がれるクルマ”になった。
そうしたニーズはあるのだろうし、そこから自分好みにカスタマイズするのもまた楽しみだが、CUP260は、最初からメーカー自らすべてを仕立て直してくれている。それも、かなりの完成度の高さでだ。
場所を選べばなおウマい
しっかりとしたフロントタイヤのグリップ。それに対するブレーキ&サスペンションの追従性。それらのアクションで起きた路面からの反力が、細身の小径ステアリングから混じりけなく伝わってくる。ノーズが鋭く切れ込む割にリアは安定しており、狙ったポイントからアクセルを踏んで行くと、素早く縦方向にトラクションがかかる。ミドシップであることを感じながら「あぁ、スポーツカーってエエわぁ〜」とつぶやいたりしてしまうのは、ちょっとしたカタルシスだ。
そんな“シャシーが勝ってる”特性ゆえか、260psのパワーはそれほど凶暴だとは感じない。パワー・トゥ・ウェイト・レシオで見れば3.5kg/psと強烈な値だが、ターボとは違い、回転上昇とともに出力が盛り上がるスーパーチャージャーは扱いやすい。自然吸気のエンジンと同様、フラットにパワー&トルクを増していくから、ストレートはもちろんコーナーでのアクセルワークにも必要以上の神経を使わないで済むのだ。8000rpmまでとめどなく回るから、全てのギアで使い切るような運転は、公道ではおすすめしないけれど。
だからこそ、CUP260のうま味をすべて味わいつくしたいのなら、断然サーキット! なのである。今回はそうしたテストがかなわなかったが、予想するに、公道で硬めに感じたサスペンションも、クローズドコースではかなりしなやかに屈伸すると思われる。公道よりも高いGを発生する場所にあって初めて、ロータスのライトウェイトスポーツカーらしい動きになるのではないかと感じた。
そのときに過給器を積んだリアセクションの重さが、どのように慣性として働いてくるのか。それをどのようにアクセルで止めることができるのかは、非常に興味深い。
CUP260は、現時点でもかなりオススメ。「せいぜいワインディングで楽しめれば十分」という向きには「エリーゼR」や「エリーゼSC」という選択もあるけれど、サーキットを走って「コイツは最高!」と言えるなら、888万円というプライスでも手放しでオススメしたいと思う。
(文=山田弘樹/写真=峰昌宏)