経験に頼ることの危険性
阿部氏の分析手法は、本人自身が書いているように、これまで何人かの重大犯罪者と面会などをしてきたことの「経験」に基づいて事件の考察をするというものである。記事にも「その経験から、座間事件の特徴を以下で考察してみたい」と書かれている。
つまり、科学的なエビデンスやデータに頼るのではなく、「経験」という個人的体験や主観に頼るのだということをはっきり述べている。
私自身もこれまで千人を超える犯罪者との面接の「経験」があるが、その分析において個人的「経験」に頼ることはない。「経験」から何かの示唆を得たとしても、必ず科学的エビデンスと照らし合わせて、あるいは自ら科学的研究を行って、それがどの程度正しいのか実証的裏付けがあるのかを検証する。
経験には、思い込みや偶然などのバイアスが必ず紛れ込んでおり、それに頼ることは危険だからだ。これが科学的態度というものである。
特にこのような連続殺人の場合、どれだけ過去のケースを集めてみても、たかだか十数件程度にしかならない。阿部氏自身も過去の、しかもアメリカの連続殺人事件を引き合いに出しているが、少数の事例はもとより、どれだけ多くの事例を集めてもそれはエビデンスとは呼べない。