座間事件の「本当の理由」?
一方、判決の翌日、同じく「現代ビジネス」に「マスコミが絶対に報じない、猟奇的な『座間事件』が起きた本当の理由」という寄稿があった。
その記事の筆者は「国際社会病理」を専門とする阿部憲仁氏であるが、彼の主張によれば「専門的には、幼少期の家庭環境が影響しているのではないかと考えられる」「白石被告の場合も、幼少期の家庭環境が犯行に何らかの影響を与えたことは否定できないだろう」ということである(太字引用者)。
つまり、阿部氏のいう「座間事件の本当の背景」なるものは、一言で言えば「親が悪い」という乱暴な「分析」である。そして、彼の分析や結論は、すべて想像の域を出ていない。そこには何の科学的、客観的根拠もない。
社会に大きなインパクトを与えた重大事件であるから、社会的関心も大きい。その事件について、「専門家」を名乗る者が、想像に頼って全国的なメディアで発信をすることは、大きな問題がある。
私はある通信社の協力を得て、77日間全24回に及んだ公判の記録をすべて熟読したが、実際、公判を通して被告の家庭内での大きな問題は何も出てきていない。報道でも家族の問題については、何も触れられていない。
しかし、それに対しても阿部氏は「家庭環境や幼少期の経験を明らかにすると、せっかく一新した自分のイメージに傷がつくため、口を閉ざしていると推測できる」とまた「推測」を重ねている。
つまり、自分の結論に合わせて都合よく「推測」をつなぎ合わせているだけなのだ。これは「確証バイアス」の見本のような主張だといえる。被告が家庭に問題があったと語らないのは、本当に問題がなかったからかもしれないのに、それでは都合が悪いのである。