(写真:読売新聞)

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 中国を拠点に活動する北朝鮮工作員が、北朝鮮の外貨獲得活動に日本企業を利用した疑いがあるとして、警察当局が「諜報(ちょうほう)事件」に認定していたことがわかった。

 警察当局は、国連の経済制裁下にある北朝鮮が外貨獲得のため、国際的な信用のある日本企業に目を付けていたとみている。

 北朝鮮関連の諜報事件の認定は戦後54件目だが、外貨獲得を巡る諜報事件は初めて。警察当局は海外の情報機関とも連携し、実態の解明を進めている。

 複数の捜査関係者によると、工作員は「リ・ホナム(李虎男)」という偽名を用いる60歳代の男で、北朝鮮の対外工作機関・偵察総局に所属。外国投資を管轄する「対外経済省」幹部など複数の肩書を持つ。

 韓国当局から2017年頃、リ・ホナムと日本企業との接点に関する情報が寄せられ、警視庁公安部が捜査。20年秋、東京都内の貿易会社の関係先を入管難民法違反容疑で捜索したところ、リ・ホナムが貿易会社の関係者と連絡を取り合い、外貨獲得活動を行っていた疑いが浮上した。

 捜索では、貿易会社などが14~18年頃、リビアの重油やロシアの液化天然ガス(LNG)などを買い付けて転売するとする契約書類や、取引額の一定割合をリ・ホナムに仲介手数料として支払うといった書類が複数押収されたという。

 警察当局は、仲介手数料はリ・ホナムがリビアなどの政府関係者に取引を働きかけた報酬に当たる可能性があるとみている。

 だが、捜査では重油などが実際に第三国に輸出された事実までは確認できなかった。リ・ホナム側に対する資金の流れについても、銀行口座などの捜査で裏付けは取れていない。

 一方、貿易会社の関係者は契約時期の前後にロシアなどに渡航していたほか、関係者からリ・ホナムに「送金が遅れる」と伝えるメールもあったという。警察当局はこれらを踏まえ、外貨獲得活動が行われていた可能性が高いと判断し、諜報事件と認定した。

 法人登記簿によると、貿易会社は「資源開発と石油、石炭の販売及び輸出入」などを業務としている。同社の関係者は昨年12月、取材に「中国で何度も会った」とリ・ホナムとの面識を認める一方、「どういう人物かは知らない」と説明。「リビアの重油やロシアのLNGなどの取引はしていないし、資金提供もしていない」と述べた。

 ◆北朝鮮の外貨獲得活動=石炭や鉄鉱石の輸出などが外貨獲得の柱だったが、度重なる核実験やミサイル発射を受けた国連の経済制裁で輸出が禁止されている。このため石炭などを海上で受け渡す「瀬取り」やサイバー攻撃などで資金獲得を図っているとされる。