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花問屋の色男【宇善♀️】花屋×女中 - akの小説 - pixiv
花問屋の色男【宇善♀️】花屋×女中 - akの小説 - pixiv
6,604文字
花問屋の色男【宇善♀️】花屋×女中
公式で花屋さんされたら書くしかないでしょう!
ツイッターで呟いた小話(前半部分)に続き書きました。
女体化設定はまったく生きてない。
うぜん結婚して。
その時代の花屋さんとか女中さん事情とかはまったくの雰囲気捏造です。
善子にしようか悩んで名前を【善】にしてます。

表紙はお借りしています。
なんでもありな人向けです。
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2019年12月19日 08:18

「宇髄の若旦那ァ、今日お客が来るんだよぉ~! 品のいいのつくろってもらえって母ちゃんがうるさくてよぉ」 「お? そりゃぁ腕がなるねぇ! 待ってろすぐこさえてやっから!」 「頼むよ! ったくよぉ、ここらの女は旦那目当てに花を買うやつが多くて商売繁盛だろぉ?」 「はっはっは! そりゃぁこっちも高級品でも売ってりゃぁなぁ! 見ろよ値段を! 儲かってるって値段か!?」

とある町の花問屋の主人が、ここらで人気者の色男として評判だった。 大きな背格好、整った顔立ち、誰にも分け隔てなく感じのいい、おしゃべり上手の若旦那。あっちこっちから見合いの話がくるというが、今のところそれらしい相手はいないらしい。

「母ちゃんが好きそうだよ、まったく若旦那にゃ敵わねぇなぁ!」 「そうだそうだ、奥さんこれが好きだろう? おまけにつけてやっから上手くやれよ」 「っかぁー! モテる男は違うねぇ!? つってもよぉ、俺が渡したって信じるわきゃねぇんだよ女は勘がいいからよぉ……まぁ機嫌とれりゃ儲けもんだ、ありがたくもらってくぜっ」 「おう! 毎度あり!」

花問屋の主人は、名を宇髄天元といった。 宇髄の若旦那、花屋の旦那、天元さん、天ちゃん、など、呼ばれ方はいろいろだ。かまえる店で花を売り、時間をみてはかごを担いで花を売り歩く。切り花も鉢花も上手く売るもので、稼ぎがいいとは言わなかったが、生活は安定していた。

「天ちゃーん! おっかさんの供え花をもらえる?」 「天元さん、これもらっとくれよ! 畑が豊作でねぇ」 「旦那、悪いがそれ一本包んじゃもらえねぇかい、いやそれがよ、嫁にたまには花のひとつも贈ってみやがれってこのまえ怒鳴られちまって……」

花問屋には、いつもいろんな客がやってきた。宇髄はその誰もの相手をこなして、時にはこんなお客の相手をすることもあった。



「おはなやさん、いっぽんくださいな」 「ん? 通り向こうの饅頭屋の嬢ちゃんか」

小さな女の子は、少し照れくさそうに微笑んだ。

「えへへ、あのね、おかあさんにわたすのよ。おだちんをとっておいたの。これでかえる?」 「そりゃぁいいじゃねぇか、どれでも好きなのを選んでいいぞ?」 「ほんとう!? えっとね、じゃぁこれ!」 「よし! で? お前はどれが好きなんだ?」

女の子の手の中の小銭では足りない値段の花だったが、宇髄は彼女の選んだ花を一輪作業机に置いたあと、すぐにそう問いかけた。 大きな瞳でぱちくりと瞬きをした彼女はひかえめに小さな声で、「わたしはこれがすきよ……おはなやさんがいつもいちばんさいしょにおみせのそとにだすでしょう?」と言った。

これには宇髄も目を見開き、そのあと「女はいくつでも女だなぁ」とぼやくと、彼女の指差した花を一本桶から抜いた。 母親に渡すという花を包んで彼女に手渡し、そして彼女の選んだ「宇髄の一番の気に入りの花」の茎をはさみで短く飛ばし、彼女の耳のあたりに、髪飾りのようにさしてやった。

「似合ってるじゃねぇか、将来はいい女になる」

彼女は顔を真っ赤に染めて、「ありがとうおはなやさん」と言って去っていった。 その背を見つめてぽりぽりと頬をかき、宇髄はひとつ伸びをする。

「いい天気だ」

彼は、花問屋の色男。





そんな穏やかな町には、ひとつ大きなお屋敷がある。その屋敷の主人には、数年前に亡くなった妻がいた。妻は宇髄の花屋を大層贔屓にしていて、亡くなった時の葬儀の花も、主人に頼まれて宇髄が用意した。 妻亡きあと、屋敷に花を活けるものがなくなるとどうにも寂しい。妻の好きだった花を活けに定期的に屋敷に来てくれないかと、とある日に宇髄は屋敷の使いの者から依頼を受ける。 ありがたい話だと、宇髄は週に一度屋敷を訪れて花を活けていた。

そんなあるときだ。

屋敷には数名の女中がいたが、また新たに女中が加わったからと主人から紹介された女に、宇髄は驚いた。

「こりゃぁまた、ド派手な色だ」 「異国の子ではないよ、知り合いの爺のところの子でね。髪のおかげでなかなか人にも馴染めんそうだ。よかったらちょっと気にかけてやってくれると助かるんだが」

屋敷の主人は女中を大事にするひとで、宇髄はとても好感が持てた。だからこそ、たまには花を活ける以外にも、電球をかえるだとか重いものをもつだとか、何かと手を貸していたりする。 金の美しい髪を持つその女中に、宇髄は確かに気に入りの花を見つけたときのような心を捕まれる気持ちを覚えたものの、特段気にはしなかった。

「善といいます」

小さく会釈をすると、彼女の結った髪が穏やかに揺れた。

「宇髄だ。宇髄天元。まぁ、困った時にはいつでも言え」 「はい、ありがとうございます」

あまり表情の動かない女だった。 せっかくの美しい見た目が勿体ないとは思ったが、だからと言って何をするでもない。

宇髄はその日からほんの少しだけ、彼女を目で追うようになった。



次の週のことだ。

「宇髄さん、どうぞ」 「ん? ああ、わりぃな。……善は?」 「さぁ、あの子仕事の覚えが悪いんです。どこかで手間取ってるのかもしれないわ」 「そうか……」

女中のひとりが宇髄にお茶を持ってきた。 そういえば他の女中はそれぞれ挨拶をしたが、あの子がいない。 宇髄は「向こうの植木鉢をちょっと見てくる」と言ってその場を離れ、善の姿を探した。

外へ出て、植木鉢のその向こうで、濡れた着物の袖を絞る善を見つけた。

「おい? どうした?」 「あ、……いえ、その」 「濡れたのか。 どれ、ちょっと寄越せ」 「え!?」

何か困った様子で言葉を濁す善に不審がりながらも、宇髄は善の手を持ち、肩にかけていた手拭いを押し当て、袖から水をすいとってやった。

「っ、汚れますから!」 「例え手元だろうが何だろうが、女が身体を冷やすもんじゃねぇ」 「で、でも」 「どじったか、誰かにやられたのか聞きゃしねぇが……あんまり我慢してっと毒だぞ」 「……はい」

着物の袖を不用意に濡らすことは、ないだろう。それほどに濡れている箇所は大きな範囲だった。 水をかけられた可能性が高かったが、ここで宇髄が下手に波風を立てるのも彼女に悪影響かもしれない。 宇髄は手拭いをそのまま善に手渡し、一週間前からずっと気になっていたその艶やかな金糸に小指を通した。

「……綺麗だな」 「ぁ、あの……っ」 「手は汚くねえよ。……よく似合うな、お前に」

善は頬を真っ赤に染め、「そんな歯の浮くような言葉をよく思いつきますね……!」と今までにない強い口調で言った。

「お。お前デケェ声出るじゃねーかよ」 「あ!」 「ははっ、その調子でやれや、女は強い生き物だ」 「ほ、ほかの人には黙っててもらえませんか! あんまり、その、」 「心配しなくても、言いふらしゃしねーよ。……まぁボチボチやんな」

宇髄は善の額をこつんと突いて、笑いながら中へ戻っていった。

「……変なひと……」

その背中にこっそり呟き、善は彼が触れた髪にそっと触って、大きなため息をついた。



その翌週。 宇髄が屋敷に行った二日後のことだ。 店の掃除をしていると、来客があった。

「失礼します……」 「いらっしゃ、善? どうした?」 「いやあの、この前借りた手拭い……お屋敷で返したら人目が……悩んで結局今日になりました、遅くなってすみません!」

善は綺麗に洗ったであろう手拭いを差し出し、丁寧に頭を下げた。 宇髄はそれを受け取ると、「ふーん」と悩んで、それから善の顔を覗き込む。

「お前、町を見てまわったのか?」 「え? いえ、あんまり……」 「よし、今日は暇をもらってんだろ? ちょっと付き合えよ!」 「え……え!?」

にっと笑った宇髄は、店の奥のかごに花を積み、重いはずのそれを軽々と担いで、片手で善の手を引いた。

「花売りがてら案内してやるよ、ちょっと手伝え」 「手伝えって、何しろって言うんですか!?」 「にこにこしときゃいーんだよバーカ。ほら、行った行った!」 「えええっ」

戸惑う善を連れ、宇髄はいつもの調子で商店の前を歩く。あちこちで話しかけられ、あちこちで花を売る。 「こりゃぁまた別嬪さん連れてどうした!?」 「あら、お屋敷の? やだ天ちゃんもう口説いたの!?」 「宇髄さんたら! 私がいながら!」 なんてからかわれて慌てる善に「綺麗なもんが好きでよぉ」なんて言って笑いながら、否定もせずに宇髄は歩き続けた。

「う、宇髄さん!」 「ん?」 「あんなこと言われたら否定しないと!!」 「なに、お前困るの?」 「こまっ……困るのはそっちでしょ!?」 「困らねーよ。言ったろ、綺麗なもんが好きなんだ」 「っ……!」

宇髄は頬を染めた善のことを可愛いと思ったし、冷やかされて悪い気もしなかった。 若い娘に入れあげるなんて想像もしなかったが、たった二週ですっかり心惹かれていたようだ。

「……どうしたもんかね」 「あの、宇髄さんこっちですか?」 「あ? ああ、そっち右だ」

少し慣れて来たのか、花をくれと母親とふたりで歩み寄ってきた小さな子供に一輪花を包んでやる善の姿は、宇髄の目にしっかり焼きついた。



しかし屋敷を訪れるたび、善の表情は陰っていった。 宇髄を見ると少し笑うが、寄っても来ない。遠巻きにひっそりと仕事をして、ほかの女中がそれを見てクスクス笑っているようなところも見たことがある。 宇髄が眉を寄せながら花を用意していると、屋敷の主人がこっそりと「女の子というのは、なかなか難しいもんだねぇ」と、彼女らのことに気づいてはいるが下手に口出しするのも憚られていることを話していった。

宇髄も確かにそのことをすぐにどうにかしてやれる立場でもなく、何度もため息をついては花を活けて、そうして屋敷を出る前には「いつでも来いよ」と善に耳打ちして帰っていた。

何回かに一度、善は暇を貰うとこっそり宇髄の店を訪れて、「お花ってこんなにいい香りがするんだ」と笑った。あの屋敷に花なんて持ち帰ったらそれこそ目の敵にされるだろうと思うと手土産をやることもできず、宇髄は甘味を買ってきて一緒に食べたり、花の水切りの手伝いをさせたり、何気ないようなことを一緒にすることで善の心に寄り添った。

「お前の手、すぐ冷えるなぁ」 「そうですか? あんまり思ったことはないけど」 「ほら貸せ」 「ちょっ、」

そっと冷たい手を両手で包みこみ、息をふきかけて。そうしてふと視線をあげると、宇髄は息をのんだ。

「……そういう顔をすると、男は勘違いするぜ」 「……あ、あなたが、させてるっ……」 「…………嫌なら抵抗しろ」 「うず、っん……!」

はじめてのキスは、花の香り。 唇はかさついていて、さっき食べた黒蜜の味がした。





善が屋敷に来てもうすぐ一年というころのことだ。 宇髄がいつものように屋敷の扉を開けたとき、中から女中のひとりが「あんたが悪いのよっ! 宇髄さんに気に入られて調子にのって!!! 旦那様に目をかけられてるのだって気にさわるのよっ!! 結うほど邪魔な髪なら短くなっていいでしょう!!」と、叫ぶ声がした。   宇髄は慌てて花をその場に置き、中へ駆ける。

「おい!! お前ら何っ、」 「う、ずいさ、」 「善……お前その髪っ」

結っていた髪を肩の上のあたりで切られたらしい。 善の金糸がバラバラと散っていて、宇髄は唇を噛んだ。

少し、前のことだ。 「長くなってきたし切ろうかと思って」と話す善に、宇髄が言ったのだ。 「……切るなよ。もったいない」 善ははにかんで、「宇髄さんがそう言うなら」と返した。

「わ、悪いのは私じゃっ」 「……見苦しい言いわけはよせ。今日は俺が連れ帰、」 「大丈夫! 大丈夫だからっ、宇髄さんもお仕事をっ、皆さんも戻ってください……ここを片づけます」 「善!」 「これは! これは、私の問題です」

善は、弱くなかった。 あまりにその目がまっすぐで、宇髄は大きなため息をついた。

「……悪いがおやっさんには報告するぞ。それだけは譲れねぇ」 「……はい」

宇髄は善の髪をそっと撫で、女中たちに睨みをきかせた。

「俺は女に手をあげねぇ。……善に感謝しろ」

その日の屋敷は、ひどく静かだった。



翌日のことだ。 善が訪ねてきて、「宇髄さんなら髪を整えるのが上手そうだと思って」と笑った。 また大きなため息をついた宇髄は、店を閉めた。何もそこまでと慌てる善を奥の椅子に座らせ、宇髄はそっとその髪を整えてやった。

「短く、なっちゃった。せっかく誉めてもらったのに」 「……これも悪くない。お前短いのも似合うよ。……長いほうがいいならまた伸ばせばいい」 「……逃げたくないから、旦那様にはこのまま働かせてほしいと言いました」 「そうか」

善は困ったように「私、耳がいいんです」と悲しげな顔の宇髄に言う。 「人の小さな声の悪口も聞こえる。……相手がどんなふうに思ってるかも、音でなんとなくわかります。……宇髄さんから今、淋しい音がする。ごめんなさい、心配をかけて……」

宇髄はその日、何を言っていいかわからなかった。 そっと寄り添って、「またな」とその小さな背中に告げるのが精一杯だった。 善は宇髄より強かった。にっこり笑って「今度はいつもみたいに派手な音させてくださいよ?」なんて言って去っていく。

あの子を守りたい。

宇髄はその瞬間腹をくくった。



「……どんな準備が必要だっけな」

ぼりぼりと頭をかいて、近くの呉服屋の門を叩いた。

「おかみさん。ちょっと聞くがよ」 「あら、なんだい天ちゃんあらたまって」 「花嫁衣装ってのはどこで用意するもんかねぇ」 「あら!! あらあらあら!!」



そのまた次の日、宇髄は仕事着でなく、きちんとした装いで屋敷を訪れた。手には花束があった。

まず屋敷の主人に話を通した。彼は驚いたが豪快に笑って「お似合いだよ! 爺にすぐ連絡してやらんと!」と席をたった。

宇髄はそのまま屋敷の廊下を歩き、窓をふく善を見つけた。

「善」 「宇髄さん……? どうしたんですか? 旦那様に用事でも……」

その手にあるぼろぼろの雑巾が、宇髄の決意を強固にした。 宇髄はその雑巾を善の手からそっと取り上げて、持ってきた花束から一輪、花を抜いた。 そうしてその花を善に渡し、不思議そうな顔をした善が首をかしげると、宇髄は言った。

「お前には、そっちのほうがよく似合う」

困ったように笑う善の顔をじっと見つめ、それから宇髄はこう続けたのだ。

「……嫁にこいよ、幸せにする」 「……ぇ……?」 「俺の嫁になれ、善。……お前、花を売ってるほうがずっといいぜ」

善はぽろぽろ泣いた。 嘘、と言ったけど、嘘ではないことくらい、善が一番わかっていた。

とても穏やかな、あたたかい音がしていた。

それは、愛情の音だった。

「……花問屋のおかみさん、大変そうだねっ」 「心配ねぇよ。隣で笑っててくれりゃぁ、それでいい」



ふたりは、共に生きることを決めた。



祝言は盛大に行われた。 確かに町には宇髄の心を射止めた善に嫉妬する者もいたが、宇髄があまりに善を大切にするのでぐうの音も出なかったという。

そのあと、あの女中はふたりの花問屋を訪れて頭を下げた。

善は「髪を切ってもう一度謝ってもらえば許しますよ」とにこりと言ったので、女中は青い顔をしたし、宇髄は店の奥でひっそり笑いを噛み殺した。

「また来ます」と去った女中を見送って、「……冗談のつもりだったんだけど……」と呟く善に宇髄はとうとう吹き出した。

「さすが俺の嫁だわっ」 「え!? 何そんなに笑ってるの!?」 「あーーったくお前は最高だよ」 「ちょ、え? 宇髄さん!」 「配達行ってくるわぁ」 「ええっ、もう! いってらっしゃい!!」



これは花問屋の色男と、 その花嫁のお話。

おわり



fin.



花問屋の色男【宇善♀️】花屋×女中
公式で花屋さんされたら書くしかないでしょう!
ツイッターで呟いた小話(前半部分)に続き書きました。
女体化設定はまったく生きてない。
うぜん結婚して。
その時代の花屋さんとか女中さん事情とかはまったくの雰囲気捏造です。
善子にしようか悩んで名前を【善】にしてます。

表紙はお借りしています。
なんでもありな人向けです。
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2019年12月19日 08:18
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