←前  次→

影の輪舞曲[ロンド] 第3夜:影の誘[いざな]い-衛
アスペルギルス 著


  鏡の中のボク。オトコノコでもオンナノコでもない、中途半端なボク。

  膨らみ始めた胸。そろそろブラジャーをしないといけない。だけどあの締め付けられる感じ、どうしても慣れない。

  もっと小さい頃。オチンチンがついているかいないかなんて、オシッコする時にしか問題にならなかったあの頃。男の子とどこまで走っても負けたことなんてなかった。子供たちの中には『ズボンをはいた子』と『スカートをはいた子』の二種類しかいなくて、ズボンの中に何がついているかいないかなんてことは何の関係もなかった。

  50m走で、初めて同い年の男の子に負けた。悔しいというよりも、なんだかどうしようもなく悲しかった。

  「なんだぁ衛ー、アノ日かぁ?」

  「うるっさぁい!」

  口の悪い男子に軽口で答える。心の中で泣きながら。

  小さい頃、走るあにぃについて行けるのは妹たちの中でボクだけだった。あにぃと一緒に広い野原をどこまでも走るのが、ただ楽しかった。あにぃがそれでも手加減してくれていると気付いたときには確かに悲しかったけれど、頑張ればいつかきっと追いつくことができると、そんなふうに思ってた。

  けれど。

  おとぎばなしの魔女がかけた呪いのように、胸が膨らんでくる。お尻のあたりが丸みを帯びてくる。

  ボクの望みとは関わりのないところで、ボクの体は勝手にオンナノコになっていく。ブラジャーをしないと胸が鬱陶しい。古いジーンズのお尻が入らなくなった。丈は変わらないのに。

  魔女の呪いなら、王子様のキスで解けるかもしれない。そんなことを考えてみたりもする。だけど。

  いつのまにかずいぶん大きくなった乳首に触れてみる。ぴくんっ!と全身が震えるような感覚。

  そんなことをしながらあにぃのことを考えているうちに、下着を湿らすほど濡れている部分。そこに触れてみるたびに体の中を駆け抜けていく不思議な感覚。

  決してイヤじゃない。だけど、イヤじゃないというそのこと自体がイヤだった。これが、オンナノコの感じるもの…?

  想像の中の王子様は、いつだってあにぃの顔をしていた。

  王子様のキスを受けたなら、それは呪いではなくなるんだろうか。この胸が膨らんでくるのも、オシッコ以外のもので股間が濡れてしまうのも、月に一度必ずやってくるあの煩わしい生理も、イヤではなくなるんだろうか。

  でも、たぶん一つだけはっきりしていることは、そうしたらもう男の子には絶対に戻れないということだ。あにぃの後をついてどこまでも走っていくことは、もう二度とできない。

  だけど、ボクは女の子にもなりきることもできない。クラスの女子や、ほかの姉妹たちがボクをおいてどんどん先に行ってしまう。そんな夢を、何度も見た。そんな夢を見て目覚めると、いつだって下着が濡れていた。

  夢の中の王子様は、いつだってあにぃの顔をして、ボクを迎えにやってくる。

  だけどボクは、ボクの本当の望みは、あにぃと一緒にどこまでもどこまでも、あの広い野原を駆けていくことなんだ。

  ―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―

  「…ぷはぁーーっ!」

  思いっきり泳いでくたくたになった体を砂浜の上に転がす。灼けつくような陽射しが肌についた水分を蒸発させていく、あのチリチリという感じ。体の中に残るモヤモヤしたものも一緒に、全部蒸発してしまえばいい。

  「そんなことしてると、後でたいへんよ」

  さっさとパラソルの下に避難した咲耶ちゃんは、その上さらに念入りに日焼け止めを塗りながら呆れたような目でボクを見る。

  「後で皮を剥くのがまた、楽しいんだよぉ」

  「…皮膚癌になるわよ」

  そう言われて、とりあえずボクもパラソルの下に潜り込む。

  咲耶ちゃんが『海に行こう』と言い出した時、ボクは一も二もなくそのお誘いに乗った。海で思いっきり泳いだら、ここのところの煮詰まった気分も変わるんじゃないかって、そう思って。

  ただ、一つ誤算があったとしたら、それは咲耶ちゃんと二人っきりだったということだった。

  「なぁに、私と二人きりじゃ不満?」

  いや、そんなことはないけど…。

  そんなことはないけれど、咲耶ちゃんと二人きりになるとボクは何だかとてもいたたまれない気分になるというのも、やっぱり本当のことだったんだ。

  まして、こうして泳ぎに来たりして、二人とも水着になったりして。そうするとほんの一瞬だけど、このまま逃げ出してしまいたいような気分にさせられてしまう。

  咲耶ちゃんは、大胆な黒いビキニ。雑誌とかグラビアみたいな『バン!ボン!ドッカァーン!』って感じの押し付けがましいのじゃなくて、ごく自然に盛り上がった女の子らしい胸。中身入ってないんじゃないかって思うような細いウェスト。ほどよく丸みを帯びた、それでいてムダな肉の少しもついていない腰。

  ボクの持ってないものを全部持っている咲耶ちゃんと一緒にいると、ついボクは自分の体を気にしてしまう。スポーツ用の水着は体の線がすっかり出てしまう。

  「…衛ちゃん、もしかしてまた胸大きくなった?」

  そんなボクの気持ちを知る由もない咲耶ちゃんが、ボクの前を覗き込んで突然そんなことを言う。

  「…な、なにさ突然」

  ボクは慌てて胸を押さえた。

  「うふっ、照れなくたっていいじゃない、姉妹なんだから」

  咲耶ちゃんは、さらに悪ノリして後ろから抱き付いてくる。水着越しに、咲耶ちゃんの柔らかい胸の膨らみの感触が伝わってきて、ボクは心臓をきゅんと締め付けられるような気分。

  「どれどれ、おねえさんが確かめてあげる」

  「…やだっ…」

  抵抗したけれど、咲耶ちゃんの手は器用にボクの腕の間をすり抜けて水着の上からボクの胸に触れる。オンナノコの細い指が、ふくらみかけの胸を風のようにそっとなぞる。

  「…いやぁ…」

  自分でも情けないくらい弱々しい声で、ボクは下を向いてしまった。触られた胸から体中に伝わるざわざわした気持ち。咲耶ちゃんの指はさらに大胆に、ボクの胸の先端を、とん、と叩く。

  「きゃぁっ…!」

  ざわざわした感覚を上書きするみたいに、電気がボクの体を走る。背中に押し付けられた咲耶ちゃんの素肌が熱い。ボクはそれ以上声が洩れないように唇を噛み締めた。

  …咲耶ちゃんはしばらく何も言わずにボクを抱いていた。それから、咲耶ちゃんの指がぎゅっとつむったボクの目の端をすっとなぞる。

  …その時になって初めて、ボクは涙を流していたことを知った。

  「そんなに、……になるのが、怖い?」

  吹き抜けた風が、咲耶ちゃんの言葉を半分どこかへ持っていってしまった。聞き返そうとして顔を上げるボク。咲耶ちゃんはしなやかな動きですっと立ち上がって、にっこりと微笑う。

  それでボクは、何も言えなくなってしまう。

  「さ、もう一泳ぎしよっか!」

  そうしてボクたちは走り出す。焼けた砂の上を、何かに急き立てられるように。

  ―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―

  体を動かしていると、なんだかもやもやした気持ちも忘れていられる。夢中で泳いでいるうちに、ボクたちはずいぶんと沖まで出ていたことに気がついた。そろそろ戻った方がいいかも。

  「あの岩まで行ってみようよ」

  そんな時、咲耶ちゃんが言った。彼方に浮かぶ、海面からちょっと顔を出した小さい岩。

  「…けっこう遠いよ、あれ…。やめた方がいいよ」

  「平気よ。…ほら、来ないんなら置いてっちゃうわよ!」

  そう言って咲耶ちゃんは、きれいなクロールでさっさと泳いで行ってしまう。

  「しょうがないなぁ…」

  ボクは、その後を追った。大丈夫かな、何かあったら咲耶ちゃん抱えて浜まで戻るのはちょっと辛いんだけど…。

  「キャァッ!」

  そんな考えが頭をよぎった瞬間、咲耶ちゃんの悲鳴が聞こえる。

  咲耶ちゃんは、足でもつったのか水面から頭だけ出してもがいている。ボクは懸命にそこを目指して泳いだ。引き始めた潮が、咲耶ちゃんの体をどんどん沖のほうへ運んでいってしまう。

  ようやく、咲耶ちゃんを捕まえる。その位置からなら、浜に戻るより例の岩まで行ってしまったほうが近い。

  ボクは、ぐったりとした咲耶ちゃんを何とか支えながら、その岩に泳ぎついた。

 

  狭い岩場の中に、どうにか横になれるだけのスペースを見つけて、咲耶ちゃんをそこに寝かせた。不規則な呼吸に上下する胸。濡れた髪が張り付いた肩。湿った肌がなんだか艶めかしくて、こんな場合だっていうのにボクは妙にドキドキしてしまう。

  ボクは、人工呼吸のやり方をなんとか思い出そうとしていた。まず、鼻をつまむんだっけ、それとも胸を押さえるんだったっけ?ボクは慌てふためきながら、何とか息を吹き返してもらおうとして咲耶ちゃんの上に屈み込む。

  その時。

  咲耶ちゃんのぐったりと垂れていたはずの腕が、ボクの首に回される。そのまま咲耶ちゃんはボクの体を引きつけ、ボクが咲耶ちゃんの上に重なって倒れ込むような形になった時、咲耶ちゃんはボクにキスをしていた。突然のことにボクは何も反応できない。

  咲耶ちゃんの舌がボクの口の中に入ってくる。ボクの舌を誘うように絡みついてくる咲耶ちゃんの舌。潮の味に混じって微かに漂う、咲耶ちゃんの甘い吐息。

  首に回された手がそのまま下へすっと走ってボクの背中をさする。

  「ひゃっ!」

  その刺激にようやくボクは我に返って、咲耶ちゃんから体を離した。

  「そうよ、溺れたなんて嘘」

  咲耶ちゃんはあっさりそう言って、にっこりと微笑う。

  「…な、なんで…!」

  「二人きりになりたかったから」

  咲耶ちゃんの手はまだボクの首から背中にまわされたままだ。息がかかりそうなほど近くで、咲耶ちゃんが囁く。

  「不公平よねぇ?…男の子は生まれた時からオトコなのに、女の子はそうじゃないって」

  「…何言ってるんだか、わかんないよ…」

  「衛ちゃん…オンナになるのが怖いと思ってるでしょう」

  ボクはびくっとして体を固くする。息と息とがまじりあいそうな距離で、咲耶ちゃんはボクの目を見つめる。ボクは、目をそらすことができない。

  「…そんな、こと…」

  口の中がカラカラに乾いてしまって、上手く言葉が出てこなかった。

  「そうかしら?」

  咲耶ちゃんは、ボクの腰に回した手を脇腹から上へなぞり、そのまま乳房の下の方をすっと撫で上げた。

  「ひゃ…っ!」

  咲耶ちゃんに触れられたところから、ざわざわとした微妙で落ち着かない、それでいて心地よい感覚が広がっていく。どこか体の奥の方で何かのスイッチが入ったような感じ。そこからなんだか暖かいものが湧き出してくるような気がして、ボクはもじもじと腰をよじる。

  咲耶ちゃんは、ボクの目を見つめている。どうしようもなく恥ずかしくてならないのに、どうしても目をそらすことができない。何もかも見透かしたような、黒い瞳。見ていると吸い込まれてしまいそうな、そんな漆黒の瞳。

  ふくらんでいく胸。丸くなるお尻。ボクの体がだんだんとオンナに変わっていく。

  それよりもボクが怖いのは、ボクの体の中、心の中がオンナに変わっていくことの方だ。

  「オンナになるって、けっして怖いことじゃないのよ」

  咲耶ちゃんが囁く。だけど。

  咲耶ちゃんみたいだったら。誰が見ても素敵な女の子だったら、そう思えるかもしれない。だけど。

  ボクはそうじゃない、ボクにはオンナノコなんて似合わない。

  …咲耶ちゃんの指が、ボクの背中に、腰に、胸に、優しく触れる。そのたび触られた部分から広がる、オンナノコの感覚。あにぃのことを考えるだけで体の中に湧いてくるものと同じ、暖かい感覚。咲耶ちゃんの瞳に見つめられていると、ボクはそのタッチに逆らうことができない。けれど、その優しい感触に身を任せてしまうこともできない。

  ボクは、オンナノコになんてなれない。

  オンナノコになってしまったら、ボクはもうあにぃを追いかけていくことができない。

  「…いやだよぉ…」

  「しょうがないなぁ」

  咲耶ちゃんは微笑みながら体を起こした。

  「教えておげる。衛ちゃんはもう立派な女の子だって。…そしてそれは、とっても素敵なことなんだって」

  咲耶ちゃんは、ボクの肩から水着の肩紐を左右にずらして、そのまま一気に引き降ろしてボクの上半身を剥き出しにしてしまった。

  「…いやっ…!」

  でも、ボクは逃げられない。咲耶ちゃんの言うこと、することに逆らえない。

  咲耶ちゃんの指が、直にボクの胸に触れる。そしてその朱い唇が、ボクの乳房の先端で痛いくらいに尖った乳首に触れる。

  「…いやぁぁぁ…っ!」

  そこから、ボクの体の中を今まで経験したことのない大きな快感が走りぬけていった。自分で触ってみた時とは比べ物にもならない。

  咲耶ちゃんは、指先で柔らかく乳房をまさぐりながら、唇で乳首をはさみ、舌先でつつき、転がした。そんな動きのひとつひとつに、ボクの体は敏感に応えてしまう。

  「…いやっ、いやぁ…あ、あはぁ…」

  止めようとしても、声が出てしまう。それまでざわざわした微妙な感覚だったものが、はっきりと『気持ちいい』という自覚をもってボクを襲う。咲耶ちゃんの愛撫に応えて声をあげるたびに、ボクの中で何かが一つずつ壊れていくような、そんな気がした。

  「…ダメェ…あ、やっ…あぁぁぁぁーっ!」

  咲耶ちゃんが、強く乳首を吸う。その時、ボクの全身にひときわ大きな快感が駈け抜けて、ボクは体を支えていられなくなっていた。体に力が入らない。それでいて体中がぴくぴくと痙攣するみたいに震えてしまう。ボクは後ろに倒れ込んでしまった。

  それには、咲耶ちゃんの方がびっくりしたようだった。愛撫する指を止めて、少し呆れたように言う。

  「…胸だけでイッちゃったの?…敏感なんだ、衛ちゃん」

  咲耶ちゃんは、仰向けになって動けないボクの下半身から、水着を脱がせてしまった。ボクはされるままにまかせた。…股の間から水着が剥がされる時、なんだかべたっとした感覚が伝わってくる。

  咲耶ちゃんの指が、ボクのその部分に触れる。いつの間にそんなになってしまったのか、そこで咲耶ちゃんが指を動かすたびに濡れたくちゅくちゅという音がする。咲耶ちゃんが微妙にその辺に触れる度に、消えきらない炎に風が吹き込むように、むずむずと快感がボクの中で暴れ出す。

  「…ほら、見て」

  咲耶ちゃんは、ボクの流した恥ずかしい液体にまみれた指をボクに見せつける。ボクはそこから目をそらすことができない。午後の光を浴びてキラキラと、咲耶ちゃんの細い指の間でそれは蜘蛛の糸のように光る。

  「こんなに感じるんだもの、ねぇ?衛ちゃんはもう立派なオンナ。…気持ちよかったんでしょう?」

  うなづいてしまってから、ボクはたぶん真っ赤になっていた。咲耶ちゃんは、指にまとわりつく液体を朱い舌でぺろりと舐める。

  「…でも、本番はこれからよ」

  咲耶ちゃんはそう言いながら、自分も躊躇なく水着を脱いでしまった。それを見て、いたたまれない気分がまた少し首をもたげる。裸になっても少しも形の崩れない胸。微かな日焼け跡の白いふくらみの先端にピンクの乳首。黒いチョーカーひとつだけ残して全裸の咲耶ちゃんの姿を見ていると胸がドキドキする。

  咲耶ちゃんがボクに覆い被さってくる。唇と胸を合わせて、二人の体が重なる。乳首の触れ合う心地よい感じ。咲耶ちゃんの指がボクのびしょびしょに濡れた股間に伸ばされる。

  「…うぅん…」

  その指が割れ目をこじ開けたとき、ボクは咲耶ちゃんの中に呻き声を洩らしていた。それに応えるように次から次へとボクの中から液体が溢れてくるのがわかる。ボクは知らないうちに、指をもっと奥まで迎えいれようと腰を浮かしていた。

  ボクの中で、咲耶ちゃんの指が蠢く。細い指が動くたび、その指がボクをオンナに変えていく。咲耶ちゃんが、ボクのクリトリスというところに触れる。微妙なタッチでこすり上げられるその動きに合わせて、ボクは何度も絶頂に達する。

  「…あ、いやぁ、あはぁ…っ!」

  「イクときはちゃんとそう言うのよ。…恥ずかしいことではないんだから」

  「…あぁ、イク、ボク、またイク、イッちゃうよぉ!」

  咲耶ちゃんの指に嬲られるだけで何度イッたかわからない。達しても達しても止まらない。咲耶ちゃんは、ボクの手を自分の股間に導いた。

  「…触って、わたしのも」

  そこは、ボクのと同様にぐっしょりと濡れていた。ボクは、咲耶ちゃんがしてくれたことを思い出しながらそこに触れてみる。

  「…そう、そんな感じ…。あんっ…もっと優しく…」

  咲耶ちゃんの声にも甘いものが混じる。咲耶ちゃんも気持ちいいんだ。ボクはその声に勇気づけられて割れ目の中に指を入れてみる。

  「…そう、上手よ、衛ちゃん…」

  そう言いながらも、咲耶ちゃんはボクを愛撫する指の動きは休めない。気持ちよさに負けそうになってボクの指の動きが止まりかけると、咲耶ちゃんはわざと焦らすように動きを止める。ボクは必死になって咲耶ちゃんにも気持ちよくなって貰おうと指を動かす。

  「…あ、あはぁ…、ボク、ボク、もう…」

  もう何十回目だかわからない絶頂に、ボクは一歩も動けない。咲耶ちゃんは、そんなボクを見て体をずらす。ボクの上に、反対向きになって重なる。咲耶ちゃんがボクの股間に顔を埋める。そして…ちょうどボクの顔の上に、咲耶ちゃんのそれが口を開いているのが見える。

  初めて間近に見るそれ。ぱっくりと口を開いた割れ目の奥に鮮やかなピンク色の襞が見える。今にも滴りそうに濡れた咲耶ちゃん。

  そして、ボクのその部分も咲耶ちゃんの前で口を開けているのだと気付く暇もなく、咲耶ちゃんが今度は舌を使ってそこを攻めてくる。

  「…ひゃぅ、いやぁ…やぁん…」

  咲耶ちゃんは、わざとぴちゃぴちゃと音をたててボクの洩らした愛液を啜る。舌がボクの中に入ってくる。指で触れられるのとは違うもっとぬめぬめした感覚に、ボクはまたすぐにでもイッてしまいそうになる。

  「衛ちゃん…わたしのも、舐めて…」

  ボクは夢中で舌を伸ばし、咲耶ちゃんのそこに触れた。海水と愛液の混じった塩辛いその部分を、ボクも真似をして啜る。それはなんだか懐かしいような味がした。咲耶ちゃんはボクの舌の動きに応えてくぐもった呻き声を上げる。

  ボクたちは我を忘れて互いのそこを舐め合った。何度となく達しながら必死に咲耶ちゃんに吸い付くボク。

  「…あ、あぁぁ、はぁぁん!」

  ひときわ大きな絶頂にボクがたまらず顔を離したとき、咲耶ちゃんもまた大きな喘ぎ声をたてながら愛液を溢れさせ、全身を震わせる。

  咲耶ちゃんもイッたんだ…。それに気付いて、ボクは満ち足りた気分で気を失っていた。

  ―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―

  目を覚ました時、ボクの体はまだ激しい快感の余韻に揮えが止まらなかった。咲耶ちゃんは、そんなボクの前にそれを差し出した。赤黒い肉の塊。思わず身の毛もよだつような醜悪な色と形。硬く、巨大に膨れ上がり脈打つ肉の棒。

  「…なに、それ…」

  「これを使って、あなたもわたしたちの仲間になるのよ、衛ちゃん」

  ボクは、魅き寄せられるようにその肉の塊を口に含んだ。口の中でそれはさらに大きさを増して、逆にボクを呑み込もうとするみたいに膨れ上がるようだった。肉塊は…山羊のペニスは、ボクの中に熱い精を放つ。その液体が命あるもののようにボクの喉を通りすぎていく時、ボクはこれまで以上の激しい昂ぶりに包まれてまたイッてしまう。

  ボクの口からこぼれ落ちたそれを、咲耶ちゃんは自分の股間にあてがう。するとそれはたちまち咲耶ちゃんと一つになって、咲耶ちゃんのペニスそのもののように高らかにそそり立っていた。

  「…欲しいんでしょう?」

  咲耶ちゃんは、吸い込まれそうな笑顔をボクに向ける。ボクは何のためらいもなくうなづく。

  咲耶ちゃんはボクを押し倒し、自分から開いたボクの脚の間に割って入って、血管の浮き出た赤黒く脈うつ肉塊でもってボクを貫いた。

  一瞬の引き裂かれるような痛みの後で、ボクは激しい快感に包まれている。咲耶ちゃんの腰の動きが、知らぬ間にそれに応えて動くボク自身が、ボクとそして咲耶ちゃんをこの世のものではないかもしれない快楽の中へ突き落としていく。

  ボクは、決して引き返せない線を越えてしまったことを知った。

  けれど、不思議に少しも悲しくはなかった。

  …ボクと咲耶ちゃんは、山羊のペニスに繋がれたままいつ終わるともしれない絶頂の中で抱き合っていた。

  ―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―

  体中の力を使い果たして仰向けに倒れ込んだボクの目に映る、いっぱいの星空。

  咲耶ちゃんがそんなボクにつけてくれた、お揃いの黒いチョーカー。

  そこに刻まれた”Mamoru”というネームが、まるで星の煌きのように光る。

  「…ボク、やっぱり女の子で、よかったよ…」

 

 ―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―

 次回予告

  花穂でぇす!

  衛ちゃんはスポーツ万能で、とってもかっこいいんだよ。

  今度花穂、マラソン大会に出る衛ちゃんの応援をすることになったの。

  花穂、一生懸命応援するからね!

  大会が終わったら、大事な話があるって、何かしら…

  次回「影の輪舞曲[ロンド]」

  「第4夜:影に焦がれて-花穂」見捨てないでね、お兄ちゃま!

 

  続

 


解説

 というわけで、ずいぶん間があいてしまったような気がしますが、3本目です。

 千影「…ずいぶん色々と浮気をしていたようじゃないか、作者くん」

 …ま、まぁ、3話も書くと、だいたい固定フォーマットができてきたので、次はもっと早くお届けできるといいなあ、と思うんですが。

 千影「『ティアリング・サーガ』も終わっていないくせに『リリーのアトリエ』まで買ってきて、あげくその日のうちに徹夜してまでノーマルエンディングを見るという無茶をしたそうだな。奥方は呆れているぞ」

 …(なんでそんなことまで知っている)

 千影「……何をたくらんでいるか知らないが、まぁ、私は別にかまわないんだ。さっさと次を書いてくれればね」

 あのー…なんだか今回、いつにも増してお言葉に棘があるようなんですが…。

 千影「………」(なんだか怒っているようだ)

 あのー、千影さぁん?

 千影「…………」(なんだかものすごく怒っているようだ)

 今回私、怒らせるようなこと(まだ)してないと思うんですけどー?

 千影「…私の出番が、なかったな」

 …はい。次は必ず。

 では、また次回お会いしましょう。

 


感想メールを送る

 お名前:
 

 メールアドレス(記入しなくてもOKです!):
 

 メッセージ:
 

 

掲示板に感想を書く(皆様の感想が投稿作家様の創作の活力になります!!)

戻る

動画 アダルト動画 ライブチャット