ワシントン・タイムズ・ジャパン

一枚岩ではない「LGBT」

《 記 者 の 視 点 》

「性自認」で女性の人権と衝突

 本紙の連載「アメリカLGBT事情」が紹介したように、サウナ施設の女性スペースに、自称「女性」の性犯罪者が入り込むことを許すなど、「トランスジェンダリズム」(性自認至上主義=自己申告で性別を変えられる)は、世界でさまざまな混乱を生じさせている。その波はすでに日本にも及んでおり、それに歯止めをかけようとする動きが出てきた。

15日、ワシントンの米連邦最高裁前で、LGBT(性的少数者)権利拡大運動の象徴である虹色の旗を掲げる市民(AFP時事)

15日、ワシントンの米連邦最高裁前で、LGBT(性的少数者)権利拡大運動の象徴である虹色の旗を掲げる市民(AFP時事)

 11月25日、女性や性的少数者を中心とした4団体がトランスジェンダーの性自認を尊重するとしながらも、立法府や行政に対して「女性スペースでの女性の安心・安全という権利法益を守るための措置」を取ることなどを求める共同声明を発表した。歴史的に生物学的な性別で女性と男性を分けてきたのは、女性の安全を確保するためだからだ。

 ニュージーランド議会は12月9日、出生証明書に記載された性別を、現在の性認識に基づき変更する手続きを容易にする法案を可決したが、性別適合手術を受けなくても法的性別変更を認める国は少なくない。海外の動きを追うように、LGBT運動が活発化する日本でも今後、「差別解消」を名目に当事者の性自認によって性別移行ができるようにする法整備が行われる可能性がある。共同声明はその動きに警鐘を鳴らしたのだ。

 実際、左翼の巣窟になっていると言われる日本学術会議は昨年9月、自己申告だけで性別を変えられるよう、新たに「性別記載変更法」を制定することを提言した。しかし、前述の共同声明でも分かるように、LGBT当事者がすべて性自認至上主義の立場を取るわけではない。

 その一人は、元参議院議員の松浦大悟さんだ。同性愛者であることを公にしながら、左派に主導された急進的なLGBT運動について保守の立場から批判してきた松浦さんは今年秋、『LGBTの不都合な真実』を上梓(じょうし)した。その中で「女性の人権とトランスジェンダーの人権がバッティングしている状況」で、「トランスジェンダーの側だけに肩入れした学術会議の提言は、たとえ政策として採用されたとしても大きな禍根を残す」と述べている。

 だが、こうした声はこれまでほとんどメディアに取り上げられることはなかった。これについて、松浦さんは筆者の取材に対して「LGBTは左派だけでなくノンポリもいれば保守もいる。だけど、メディアは左派の人(当事者)しか登場させない」と語り、左に偏ったメディアの報道姿勢を問題にした。

 もう一つ、性自認至上主義への批判があまり表に出てこなかったのは、運動に批判的な発言を行う人への激しい攻撃があることも影響しているだろう。人気小説「ハリー・ポッター」シリーズの英作家J・K・ローリングさんは最近、トランスジェンダーの人権は尊重しつつも、生物学的な性別の概念の重要性を主張したところ、殺害予告などの脅迫を多数受けたとツイッターで明らかにした。松浦さんも誹謗(ひぼう)中傷だけでなく暴力の示唆もあり、警察に相談したこともあったという。

 4団体の共同声明を発表する記者会見でも、ある女性は激しい個人攻撃に対する恐怖を訴えた。リベラルなメディアにとって女性の人権は重要テーマで、共同声明は真っ先に報道すべき内容のはず。しかし、ほとんどが無視した。LGBTをめぐる急進的な活動家と学者、そしてメディアのズブズブの関係が見て取れる。

 社会部長 森田 清策


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