被差別部落の地名リストをウェブサイトに掲載し、書籍化するのは「差別を助長する行為だ」として、部落解放同盟と幹部ら234人が川崎市の出版社「示現舎(じげんしゃ)」側に削除や計約2億6500万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は27日、「出身者が差別や誹謗(ひぼう)中傷を受けるおそれがあり、プライバシーを違法に侵害する」と判断した。その上で、示現舎の宮部龍彦代表らに、該当部分のサイト削除と出版禁止、計約488万円の賠償支払いを命じた。

 一方、現在の住所、本籍が地名リストにない場合や個人情報を自ら公にしているケースはプライバシー侵害を認めず、一部の原告は敗訴した。

 解放同盟側と宮部氏双方が控訴する意向を示した。

 成田晋司裁判長は、地名リストに加え、出版社側がネットに掲載した解放同盟幹部らの個人情報も「他人に知られたくない私的な事柄だ」と述べ、違法性を認めた。

 その上で部落差別が解消されたとは言い難く、地名リストの掲載による損失は「結婚、就職において差別的な取り扱いを受けるなど深刻で重大だ。回復を図ることも著しく困難」と指摘した。

 示現舎側は「差別の意図はなく、出版やネット掲載の禁止は憲法が保障する学問の自由の侵害だ」などと主張したが、判決は「研究の自由が制限されるとはいえず、公益目的でないことは明らか」と退けた。

 判決によると、示現舎は2016年2月、全国5367地区の地名リストを記載した、戦前の「全国部落調査」を復刻出版すると同社のサイトに告知。同時期に、他の複数のサイトにも地名リストや、解放同盟幹部らの生年月日、電話番号などの個人情報を掲載した。

 解放同盟側は、地名リストの出版やサイト掲載の差し止めを求める仮処分を申し立て、横浜地裁などが16年3~4月、示現舎側に差し止めを命じたが、一部サイトでは昨夏ごろまで掲載された。(共同)

 

■佐賀で19年にメルカリ出品発覚 「一歩前進」県内関係者

 ウェブサイトへの被差別部落の地名リスト掲載を巡って、佐賀県内では、その情報を製本化し、フリーマーケットサイトに出品する動きもあった。プライバシー侵害を認めた東京地裁の判決に、県内の関係者からは一定程度、評価する声が聞かれた。

 弁護団の報告集会をオンラインで視聴していた部落解放同盟佐賀県連合会の小宮晴樹書記長(46)は、判決について「一歩前進。プライバシー権の侵害ということだが、差別されない権利や名誉権も打ち出して闘っていたので、さらに突き詰めたい」と語った。訴訟の原告には佐賀県民も名を連ねているという。

 出版社「示現舎」によるウェブサイトへの情報掲載では、2019年に当時、県内の高校の生徒だった男性が、情報をダウンロードして「部落地名総鑑」の復刻版を製本し、ネットのフリーマーケット「メルカリ」に出品していた問題が発覚した。「地名がさらされた揚げ句、高校生に差別に加担する行為をさせた。絶対に許されるものではない」と憤る。

 ネット社会における差別に対応するため、16年に部落差別解消推進法が施行され、その中で「メルカリ事件」が起きた。推進法の普及啓発に当たってきた県人権・同和対策課は「メルカリの件は非常に重く受け止めている。まずは削除命令が出たのは、つらい思いをした方に少しでも寄り添う結果ではないか」とコメントした。(宮﨑勝)

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