携帯電話は音声通話のための端末から、インターネット端末、マルチメディア端末へと進化し、それに伴って新たな構造を採用する端末が登場し始めた。ヒンジも従来のものを組み合わせるなど、さらなる工夫が必要になった。
「基本的に私たちが手がけているのは、フリップ型と折りたたみ型の2種類なんです。ただ、スライド式もヒンジの一種と捉えているので、基本形は3種類ですね。2軸型は折りたたみ型ヒンジの発展系で、応用系には“ブーメランタイプ”もありました。開け閉めのヒンジと横方向の回転が合体したタイプで、これは開発が大変でした」(久保田氏)
そして、高画素カメラの利用やワンセグ視聴、PCインターネットの閲覧といったニーズに対応する端末として、回転2軸端末が登場した。
「回転2軸ボディの端末が登場したきっかけは、カメラでした。横位置の写真を撮るためには、端末を横に持つ必要があり、縦開きの端末では本体を横に傾けるという不自然な形になってしまいます。携帯メーカーがデジカメとケータイの融合を目指す中で、ディスプレイが反転する必要が生まれ、メーカーから『(ディスプレイ部を表にして折りたためる)こういうのができないか』という話が来たのが最初ですね。初期の2軸は、“ヒンジ部にカメラを入れたい”などといった、さまざまな要求がありました」(久保田氏)
それではここで、代表的な2軸ヒンジの構成を解説してもらおう。本体を開閉するヒンジを「開閉側ヒンジ」、ディスプレイをひっくり返すためのヒンジを「回転側ヒンジ」と呼んでいる。
「基本構造としては、開閉側のヒンジと回転側のヒンジの融合で、回転側のヒンジには皿バネを使っているのが特徴です。皿状のバネが何枚か入っていて押さえつけるようになってます。枚数が多くなればなるほど力が強くなるんです。皿バネの大きさによっても押さえる力は変わってきます。直径が小さくなると、バネを強くしなければなりませんから」(久保田氏)
回転2軸の端末を使っていて気になったのは、回転側ヒンジの回転方向。片方にしか回らないようになっているが、慣れないと、つい逆に回そうとしてしまう。そういう人も多いと思うけれども、ヒンジ部が壊れたりしないんだろうか。
「2軸への強度の要求は厳しいですね。特に回転の強度は難しくて、開発時に一番もめるところです。どっちに回していいか分からない製品がありますから、絶対に無理やり逆に回す人がいるんですよ。そのため、人間が回すくらいでは壊れない強度で設計しています」(久保田氏)
携帯電話の構造が変わるだけでなく、最近では薄型軽量化というトレンドもある。ヒンジ開発もそれに対応すべく、改良が進んでいる。
「最近では小型軽量化への要求が大きく、ケーブルを通す穴が年々小さくなっていますね。20本くらいケーブルを通さなければならないのですが、最新モデルは穴が2ミリくらいまで小さくなってます。これは大変ですね」(久保田氏)
回転2軸モデルとひと言でいっても、その種類はたくさんある。今までで一番、開発が大変だったヒンジはどれなのか。
「平行2軸ヒンジですね。開閉のヒンジが2つ平行して付いているものです。なぜこうしたかというと、ヒンジがあると開いたときヒンジ部が膨らんでしまうのですが、これなら真っ平らになるので膨らまないんです。そのための2つヒンジで、両方がうまく連動して開くような構造になってます」(久保田氏)
この平行2軸ヒンジの製品は、フルオープンにしたとき、ヒンジ部のでっぱりがなくて、すごくスマートできれいなのだ。
「“開いたときにすごくきれいな形になる”というので売れたのですが、非常にコストがかかってるんです。単純にいっても2個のヒンジがあるので倍以上することは想像できると思いますが、実際には普通の折りたたみヒンジの5~6倍はします(笑)」(久保田氏)
パナソニック モバイルコミュニケーションズの「P905i」などが採用しているような、縦にも横にも開閉する端末のヒンジは難しくないのだろうか。使ってみると、ヒンジ部が壊れそうで怖いのだが。
「中央ではなく、片側にヒンジの中心がある2軸タイプですね。これは一見、華奢に見えるのですが、強度は変わりません。2軸のセンターが中心ではなく、端に寄っているだけですから」(久保田氏)
ケータイ機器にとってヒンジはとっても重要な部品だ。iPhoneのようなタッチパネルのみの端末や、INFOBAR 2のようなストレート端末は関係ないが、そうでなければ携帯電話だろうがスマートフォンだろうが、あるいはディスプレイ部が回転するデジタルカメラやビデオカメラも2軸ヒンジを採用している。今後はさらに多彩な形状の端末が登場すると予想され、その開発をヒンジが支えていくことになる。将来はますますいろいろなヒンジが出てくるに違いない。
「最近では、“2つ3つの動作を一緒にしてほしい”という要求が出てきてますね。1つの流れはそういう複合型で、もう1つは、小型化と強度です。われわれの強みは、あらゆる種類のヒンジを開発しているということで、“どんな動きでもどんな組み合わせもできる”ということをウリにしています。例えば現在は、スライド+チルト型のプロトタイプを作ってます。スライドした上でさらにチルトすることで、画面が見やすくなります」(久保田氏)
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個人的には、180度フルフラットに開くヒンジが欲しいと思うのだが、その開発は難しいのだろうか。
「確かに“真っ平らにしたい”という声はあるのですが、ヒンジとしては大変です。なぜなら、180度だと閉じるときの力を出しづらいからです。カムは左右対称に作りますから、閉じる力が出てこないのです。また、180度だとカメラを使うときはいいのですが、通話の時はちょっと都合が悪い。そういう意味では、細かい工夫が必要になります。通話に便利なヒンジ、カメラをよく使うためのヒンジ、音楽を聴く人のためのヒンジ――というように、常にニーズは変わっていきますから、それに対応したベストなヒンジを開発していきたいですね」(久保田氏)
身の回りを眺めると、ヒンジが使われている製品がたくさんあることに気づく。“開く”行為が伴うデバイスには、ほぼ例外なくヒンジが搭載されているからだ。ストロベリーコーポレーションも携帯電話にとどまらず、カーナビやPC、家電製品、ヘッドアップディスプレイなど、さまざまな製品へのヒンジ提供を目指すという。
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