市に支払い命令も 教師が生徒の「髪」を切る行為、どんな法的問題がある?
頭髪に関する校則のある学校では、教師と生徒の間でトラブルが起きるケースがしばしば見受けられます。教師が生徒の髪を勝手に切った場合、犯罪行為となり得るのでしょうか。
教諭に髪を切られたことで身体的・精神的苦痛を受けたとして、山梨県山梨市の中学校に通っていた女性が市に損害賠償を求めた訴訟の判決が11月30日に下され、市に11万円の支払いが命じられました。報道によると2016年、当時中学2年生だった原告の女性は教諭に廊下でポリ袋をかぶせられ、工作用のはさみで髪を切られたということです。
この中学校に限らず、頭髪に関する校則を掲げる学校では、その指導方法を巡って、教師と生徒の間でトラブルが起きることが少なくありません。過去には「(校則違反の)パーマの髪を自分で切るよう、教師にはさみを渡された」といった体験談がSNSで話題になったこともあります。ネット上では「度を越している」「先生に言われたら生徒は逆らえないよね」「罪に問えるのでは?」など、さまざまな声が上がっています。
教師が生徒の髪を切る行為に法的問題はないのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。
傷害罪や暴行罪に該当する可能性
Q.指導の名目上、教師が生徒の髪を切る行為は犯罪行為となり得るのでしょうか。
牧野さん「他人の髪を勝手に切る行為は教師であろうと、傷害罪(人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役または50万円以下の罰金に処する、刑法204条)や暴行罪(暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料に処する、刑法208条)に該当する可能性があります。
1912(明治45)年の大審院(現在の最高裁)判決により、『人の髪を切る行為は人の体の機能を害していないので傷害罪にまではならず、暴行罪に該当する』と考えられていますが、傷害罪を認めた裁判例もあるようです。ただ、傷害罪の成立については一般に『けがをしても構わないと思い、乱暴に髪を切る』行為によって負傷させるなどの特殊な事情がないと難しいでしょう」
Q.校則を守らず、パーマをかけた生徒に教師がはさみを渡し、自分で髪を切るように促した場合ではどうでしょうか。
牧野さん「教師が『指導に従わなければ、髪を切る』と脅したり、『校則違反だから』という理由で、はさみを持たせて自らの髪を切らせたりした場合、強要罪(法定刑は懲役3年以下、刑法223条)が成立する可能性があります。同様に『黒く染めないと髪を切るぞ』などと告知した上で、髪を黒く染めるように何度も指導を行った場合も強要罪が成立する可能性があるでしょう」
Q.教師に髪を切られたり、自ら髪を切らされたりした場合、生徒は何らかの法的手段に訴えることはできますか。
牧野さん「『故意または過失により他人の権利(人格権)を侵害』しているので、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償を請求することが可能です。なお、例えば、『パーマ禁止』と校則に明記されていたり、生徒にパーマをかけないように何度か事前指導があったりした場合、刑事責任や民事責任が軽減される可能性はあります。しかし、基本的には傷害罪(可能性は低い)や暴行罪、強要罪などの刑事責任、慰謝料や損害賠償の民事責任を問われる可能性は免れないでしょう」
(オトナンサー編集部)
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