2018年5月25日にリリースされたPS4用ソフト「Detroit: Become Human」ほか、「HEAVY RAIN -心の軋むとき-」「BEYOND: Two Souls」など数々の名作アドベンチャーを生み出したフランスのQuantic Dream(クアンティック・ドリーム)。同社の創立者であり、名作ゲームの生みの親でもあるデヴィッド・ケイジ氏が、2019年9月、東京ゲームショウの開催にあわせて来日し、忙しい最中でありながらインタビューに応じてくれた。
なお、インタビューの内容は「Detroit: Become Human」が主な話題になるため、まだクリアをしていない人はくれぐれもネタバレに気を付けてほしい。
――先日、「Heavy Rain」「Beyond: Two Souls」「Detroit: Become Human」のPC版について発表されましたが、PS4版から変更点はあるのですか?
デヴィッド:ストーリーなどに変更点はありませんが、ビジュアルのクオリティを上げました。64フレーム対応、4K対応、なおかつロースペックのPCでも綺麗に見えるように、ビジュアルに調整を入れています。
――もともと綺麗だったグラフィックが、PC版でより一層綺麗になるんですね。「Detroit: Become Human」の中で特に美しくて印象的だったのは、アマンダとコナーが会う禅庭園だったのですが、禅庭園は日本庭園的な雰囲気を取り入れていますよね?
デヴィッド:私は元々、日本文化が大好きなんです。「Detroit: Become Human」の開発中、あのシーンにちょうどいい場所を色々考えていたのですが、作中の時代とはちょっとズレている雰囲気がありつつ、静かで、そして平和な気持ちになれる場所、というイメージがあったものの、なかなかピンとくる場所が浮かばなかったんです。そんな最中、当時ちょうど京都に旅行で訪れて、「ここだ!」と思い、ゲームに取り入れることにしました。あの場所はプレイヤーの皆さんからも好評ですね。
――日本文化がお好きということですけれども、日本のクリエイターで影響を受けた人物、或いは影響をうけた日本のゲームやアニメ、映画はありますか?
デヴィッド:宮崎駿さんですね。彼は非常に偉大な作家だと思います。彼の作品は、もちろん全部観ました。日本のアニメは全体的にどれもすごく好きです。最近ですと、新海誠さんの「君の名は。」が、とても素敵でした。
――新海誠さんの作品は、独特の情緒がありますよね。
デヴィッド:はい。非常に詩的で、驚きのある作品でした。「君の名は。」に限らず、日本のアニメはどれも他の国には見られない、独特な趣を感じます。日本の文化は本当にユニークで、現実にありそうでいて現実ではないようなところに、とても魅力を感じています。
――ゲームを作る上で、日本という市場をどう見ていますか?
デヴィッド:作品を売るための戦略とかは特に考えていないですし、ゲームを作る上でも基本的に自分が情熱を感じたものを題材にしているため、特定の国を意識したりとかはあまりないんですが、日本では特にQuantic Dreamの製品は評判がよくて、自分の作品がこんなにも受け入れられたことについては、驚いています。「HEAVY RAIN」以降、ずっとQuantic Dreamのゲームは売れ続けているんですけれども、アジアの中でも特に日本での売れ行きがいいんです。
――その理由については、何か思い当たることなどはありますか?
デヴィッド:ストーリー主導型のゲームというものが、日本は他の文化圏よりもウケがいいようですね。あと、「Detroit: Become Human」の場合ですと、アンドロイドという存在が日本で特に受け入れられていると感じます。もしくは日本の方は、アンドロイドに抵抗がないと言うべきなのかもしれません。恐らく日本はロボットの文化が盛んなのもあり、ロボット技術も進んでいるためでしょうか。
――日本人がアンドロイドに抵抗がないのは、既にアンドロイドを題材としたゲームやアニメ、漫画などが割と多いこともあるかもしれませんね。
デヴィッド:それもやはり、日本ならではの傾向なのでしょうね。でも本当に、これほどまでに受け入れてもらえるとは思っていなかったので、私自身日本で大成功ともいえる成果を出せたことには、とても驚いています。日本のファンはとても情熱的で熱量が凄く、考察なども深いので、私も毎回来日するのが楽しみで、そしてファンの方から学ぶことも多いです。
――アジアの中でも日本だけ特殊ということですが、例えば「Detroit: Become Human」のフローチャートからわかる日本人特有の傾向とかはありますか?
デヴィッド:日本の特色というのは、フローチャートでも確かにあります。まず一番にくるのは、共感能力です。選択肢において、共感を必要とするチョイスは、日本人がぐっと高いんですよ。それは、アンドロイドの立場になって共感するのも、人間の立場から共感するのも同じ傾向です。
――なるほど、必ずしも自分が操作するアンドロイド側にだけ共感するわけじゃないんですね。
デヴィッド:そうです。例えば、エンディングのほうでカーラがバスのチケットを見つけるシーンがありますが、あのチケットの持ち主は赤ちゃんがいる若い人間の夫婦じゃないですか。カーラがチケットを手にしたあと、その夫婦が戻ってきてチケットをなくしてしまったと取り乱す場面で、夫婦にチケットを返すかどうかという選択肢が出現するわけですが…大抵の国では、チケットを返すのが大体40%、自分のものにしてしまうのが60%くらいなんです。なのに、日本は85%が返すんですよ。他の国の2倍以上の人が、人間の夫婦のほうに同情をして、チケットを返してしまうんです。
――しまった、私は毎回あそこで返さないほうを選んでしまう日本人です(笑)。
デヴィッド:oh…(笑)。でも本当におもしろいですね。他者への思いやりを示すところとか、非暴力的なところとか、そういうチョイスに関して日本の人は本当に高い傾向を示すんです。他の国とは全然違う、日本唯一の特色なんですよ。
また、日本人は、アンドロイドに何か重要な選択を任せるかどうか、というところでも抵抗感がないようです。例えばメニュー画面でクロエが色々と語り掛けてきますが、クロエの語る言葉への共感、そして彼女に言葉に耳を傾けるかなども含めて、日本人は世界的に見て高い傾向を示します。
――日本人としての共感能力という意味では、「Detroit: Become Human」のマーカス暴力ルートでは、“アンドロイド VS 人間”という構図が、映画の「ターミネーター」を彷彿させられて、ちょっと共感しにくかったんですよね。
デヴィッド:「ターミネーター」は“機械 VS 人間”で、機械が完全に悪者じゃないですか。「Detroit: Become Human」のアンドロイドは、AIが善人という前提で描いていまして、テーマはどちらかというと“人間 VS 人間”という構図ではあるのですが、日本人は非暴力にいく傾向がありますので、暴力ルートですと“機械 VS 人間”という構図を感じるのでしょう。
「Detroit: Become Human」では、人としてのアイデンティティとはなにか、人の権利を獲得していくためにはとか、どちらかというとそちらに傾いていて、そこにたまたまAIという題材があったので使ったという感じで、“機械 VS 人間”とは違うんですけれどもね。
――私の場合はですけれど、暴力ルートにいくとアンドロイドが人として戦うように見えなくなってしまうのかもしれません。ちなみにデヴィッドさんの作品作りで、何か影響を受けた作品はありますか?
デヴィッド:常になにかしらの影響は受けていますが、SF作家のフィリップ・K・ディックやシーマックの影響は強いかな、と思っています。
――コナー編での新米警察官とベテラン警察官などは、これまでにさまざまな作品で描かれてきていますよね。「Detroit: Become Human」ならではの二人の関係性として意識したところはどこでしょうか。
デヴィッド:コナーは新米警察官といってもアンドロイドですので、人間ではなくアンドロイドとしてどういう風に考えるかとかを、色んな角度から私なりに分析して作っていきました。また、ハンクがアンドロイド嫌いという設定も、自分では上手く作用したかなと思っています。
ただ、「Detroit: Become Human」では、最終的にふたりがどういう関係性を築くかは、あくまでプレイヤー次第です。プレイヤー次第で友情も芽生えますし、敵対もしますから、こちらが二人の関係性を意識するというよりは、あくまでプレイヤーが意識して作り上げていくものですし、そういったところを楽しんでほしいですね。
――ちなみに、新たな新作の開発には取り掛かられているのでしょうか?
デヴィッド:hmmm…………イエス(笑)。
――お返事に大分間がありましたが…(笑)、次はどのようなアプローチの作品を考えていますか?
デヴィッド:あまりたくさんは話せないんですけれども、ファンの方たちが次回作に期待してくださっているのはしみじみと感じています。私たちもその期待に応えようとは思っていますが、時期がきたらお話させていただければと思いますので、もうしばらくお待ちいただければと。
――では最後に、日本のファンにむけて一言お願いします
デヴィッド:とにかく日本のファンの皆さんには、御礼を言いたいです。「Heavy Rain」以降、私たちの作品をずっと愛して応援してきてくださって、特に日本の皆さんはとてもポジティブな反応をしてくださっています。たくさんのプレゼントを送ってくださったり、コスプレをしてくださったり、メッセージを送ってくださったり、心から感謝しています。本当に、「ありがとう」と申し上げたいです。
――こちらこそ、貴重なお話をありがとうございました。