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大好きな人たちと歌うエンディングの多幸感!『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』また会いたい

大好きな人たちと歌うエンディングの多幸感!『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』また会いたい

実在のお笑い芸人のくらしをドラマ化した『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』(NHK)。全7話を通して、観る者の心を温かくして去っていきました。ドラマもお笑いも大好きなライター・釣木文恵が愛を込めて振り返ります。


哀しくもおかしみのある最終話のエピソード

先日、5話までのレビューを掲載した『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』の最終話7話が12月20日に放送された。ふたりがのほほんと過ごす姿がベースのこのドラマのなかで、6、7話では同名の原作エッセイでもとりわけ印象的な、ふたり行きつけの中華料理店のご夫婦の話が描かれた。

阿佐ヶ谷姉妹のことをあたたかく見守っていた、明るくて働き者の奥さん(いしのようこ)。彼女を亡くしたご主人(宇崎竜童)の憔悴した様子には胸をしめつけられた。ふだん寡黙だったご主人は、妻への思いをエリコ(木村多江)とミホ(安藤玉恵)に話し続ける。その圧巻の演技。スタッフブログによると、このシーンはなんとテストなしのワンテイクで撮られたものだという。

「お墓の下に一緒に入ろうとして止められた」という、哀しくもおかしみあるエピソードは、エッセイにも書かれている事実だ。ふたり暮らしに行き詰まりを感じ、二部屋ある新居を探していたエリコとミホは、おそらくここで改めて「大切な人とともにいる」「愛おしい場所で過ごす」幸せについて改めて考えたのだろう。

歌声響くエンディングの多幸感

最高の条件が揃った物件を見つけるも、マンション名に「荻窪」がついていて阿佐ヶ谷姉妹としてはどうかと後ろめたくなる過程を経て、ついに阿佐ヶ谷に条件に合う部屋を見つけるふたり。しかし、ふたりは契約直前までいって思いとどまる。今住んでいる場所からは阿佐ヶ谷駅を挟んで反対側。同じ駅でも、反対側に行くだけでそれまで築いた暮らしが変わってしまうのは、現実にある話だ。ふたりが阿佐ヶ谷の街を歩き、徒歩数分離れることの“距離の遠さ”を噛みしめるシーンは味わい深かった。

7話終盤、ふたりは大家さん(研ナオコ)の提案で、いま住んでいる部屋とその隣、2部屋を借りて暮らすというこれ以上ない新生活をはじめることとなる。家、街、関わった人々、自分がたいせつにしたいものを諦めることなく生きていけることとなったふたり。「いつかこのアパートを買い取って、大好きな人たちと暮らしたい」というミホの夢を具現化するように、「トルコ行進曲」にのせて、大家さんやご主人ら、阿佐ヶ谷の大好きな人たちと歌うエンディングの多幸感! 本物の阿佐ヶ谷姉妹同様、ドラマの阿佐ヶ谷姉妹と、そして街の人を改めてまるごと好きになってしまう終わり方だった。

そういえば、彼女たちに欠かせない要素である歌もあふれたドラマだった。二人が歌う安全地帯やWink、ラジオ番組でかけた岩崎宏美や沢田研二。宇崎竜童作詞、研ナオコが歌う「Tokyo見返り美人」が流れたこともあった。そしてこのドラマの主題歌「Neighborhood Story」は阿佐ヶ谷姉妹本人が歌う、二人の歌唱力とかっこよさが前面に出た一曲。つくづく、隅々まで彼女たちの魅力が詰まったドラマだ。

周りを愛した先に起こる“人生の不思議”

先日決勝が放送されたM-1グランプリに、阿佐ヶ谷姉妹も挑戦している。その準々決勝は大阪で2日、東京で2日の計4日間にわたって行われた。その最終日のトリを務めたのが阿佐ヶ谷姉妹だった。最後にピンクのドレスにシルバーのヒールで颯爽と登場した二人は、現場で4時間にわたって漫才を観続けた観客を「お疲れでしょう? 大丈夫?」とねぎらい、江里子さんが「ガンバです、さあまいりましょう」と言ってネタに入った。そしてネタの最後、その内容にからめて「M-1準々決勝、出場者全員合格!」と叫んで去っていった。

審査される側である賞レースで、4分間の制限のある中で、観客と芸人仲間をねぎらう言葉。戦いの場にあって、全員を思いやるこの振る舞い。彼女たちの、他の誰にも似ていない稀有な存在感を改めて感じた場面だ。

このドラマ、最終話のサブタイトルは、「ふふふ、人生って不思議よねえ」。血の繋がりのない二人が出会い、コンビを組み、人気芸人として活躍していること。街の人に愛されながら、ささやかな日常をたいせつにし、愛着のある家や街で暮らすこと。そして、エッセイがこんなふうに、彼女たちの魅力がまるごと伝わってくるドラマになったこと。どれも不思議で、愛おしい。

自分にうそをつかず幸せを求めること、周りを愛すること。その難しいことを貫いた先に、周りから愛される世界が待っているのかもしれない。『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』は冬にぴったりの、じつにあたたかなドラマだった。

『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』公式サイト(NHK)

脚本: ふじきみつ彦
演出: 塚津田温子、新田真三、佐藤譲
出演: 木村多江 安藤玉恵 他
原作:『阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし』阿佐ヶ谷姉妹/幻冬舎
主題歌:阿佐ヶ谷姉妹「Neighborhood Story」

Profile

Writer 釣木文恵 つるき・ふみえ

ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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Profile

Illustrator まつもとりえこ

イラストレーター。『朝日新聞telling,』『QJWeb』などでドラマ、バラエティなどテレビ番組のイラストレビューを執筆。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身、東京在住。
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Edit: Yukiko Arai

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