11章プロローグ
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最悪の行いとは何か?
それは裏切りだ。
前世で酷い裏切りを受けた俺【リアム・セラ・バンフィールド】は、星間国家アルグランド帝国の伯爵家に転生した。
生まれながらの勝ち組で、今は出世を果たして公爵だ。
帝国の後継者争いにも勝利し、今や帝国内で栄華を極めつつある。
そんな俺だが、この世で最も酷い裏切りを計画していた。
俺の中では正当な権利だが、他者から見れば醜い行為だろう。
何しろ俺は――自らが推していた第三皇子クレオを裏切ろうとしているのだから。
話は少し前に遡るが、俺はクレオを皇帝にしようと今まで支援してきた。
莫大な資金と、精強な軍隊でクレオを皇太子の地位にまで押し上げた。
するとどうだ?
皇太子になったクレオは、今度は俺を邪魔者と判断して敵に回った。
腹の立つ話だが、同時にチャンスだと思っている。
何しろ――これで帝国を裏切れるのだから。
悪徳領主を目指す俺にとって、裏切りとは日常茶飯事だ。
正直な話、クレオもいつか裏切るだろうと思っていた。
人間などその程度の存在だと、俺は前世で学んでいる。
だから、激怒するほどでもない。
――だが、クレオや帝国には、俺を裏切った対価を支払ってもらうとしよう。
そのためにも、今は地力を上げることを最優先にしていた。
「旦那様、開拓惑星の入植状況ですが、予定よりも遅れていますが許容範囲内です」
執務室で天城の報告を聞きながら、俺は眉をひそめる。
計画よりも数パーセントの遅れが出ているが、確かにこの程度なら目くじらを立てる必要も無い。
許容範囲内ではあるが――問題は、今の俺には余裕がない事だ。
アルグランド帝国と戦うと決めたからには、今は少しでも力が欲しい。
そのためには、数パーセントの遅れも見逃せない。
しかし、開拓など焦ったところで良い結果にはならないし、急がせたとしても全体への影響は微々たるものだ。
ならばどうするか?
――開拓の終わっている惑星を手に入れればいいだけだ。
「地道な開拓も悪くはないが、あまり時間もかけられない。天城、領内の状況が火の車の無能貴族たちをリストアップしろ」
無能貴族――自領を発展させず、贅沢な暮らしをするために借金ばかり増やしている連中だ。
天城がすぐにリストを用意すると、俺は一覧を見て顔をしかめた。
「――多いな」
「帝国は広大ですからね。それにしても理解に苦しみます。もっと効率的に領地経営を行えば、帝国の国力は数倍になっていたはずです」
貴族たちに統治を任せたために、国力が大きく下がっているのは馬鹿らしい話だ。
だが、皮肉にもそのおかげで俺が帝国に勝つ見込みが出ていた。
「帝国は辺境に興味がないのさ。――天城、この惑星を手に入れるぞ」
「旦那様、そちらの惑星は領主が存在しますが?」
俺が手に入れようとしたのは、子爵が治めている惑星だった。
あまり発展しておらず、借金まみれの領地で見るべきところがない。
そんな惑星に目を付けたのは、子爵が首都星で暮らしているためだ。
つまり、子爵は領地に興味を持っていない。
「この無能子爵から惑星を買い取る。一から開拓するよりも、既にあるものを手に入れる方が楽だからな」
かつて俺の領地がそうだったように、ある程度の基盤さえあれば発展は可能だ。
「子爵の借金を肩代わりすると? それで領地を手放すでしょうか?」
無能に限ってプライドが高い。
簡単に領地を手放しはしないだろう。
「借金に加えて、一生遊んで暮らせる金を与えれば喜んで手放すさ」
それだけの予算を用意するのは、俺としても少しばかり懐が痛む。
錬金箱を所持しているとはいえ、予算にも限りがあるからな。
正直な話、錬金箱を持つ俺よりも帝国の方が凄い。
常に各地からレアメタルが集められるし、その他にも必要な資源は黙っていても大量に集まってくる。
錬金箱を以ってしても覆せない地力の差だ。
天城から俺を心配している気持ちが、無表情ながらも伝わってくる。
「――本気で帝国と戦うのですか?」
「当たり前だ。先に裏切ったのはクレオだ。ここで勝たなければ、俺に未来はない。安心しろ、俺は絶対に負けない」
案内人の加護がある俺に、敗北などあり得ない。
購入する惑星を選んでいると、天城がエレンの話題を出す。
「そうですか。話は変わりますが、エレン様の件でお話があります」
「エレン? 幼年学校に放り込んでいたが、何かあったのか?」
「幼年学校は随分前に卒業しております。今回は軍隊生活が終わり、現在は首都星にて大学進学の準備を進めております。一度、本星に帰郷させてはいかがでしょうか?」
色々とバタバタしている間に、幼年学校どころか軍隊生活も終わっていた。
天城がエレンの軍人としての評価を空中に投影する。
最終的に階級は少佐となり、幾つか勲章を得ていた。
「は、早いな。ついこの前、送り出したような気がするぞ」
「それだけ、旦那様はお忙しかったですからね」
成人を済ませ、年齢的にも問題ないと判断して幼年学校に放り込んだ。
本来エレンは貴族ではないから、幼年学校への入学許可は出ない。
俺の権力で押し込んだのは、俺がしばらくエレンの面倒を見られないからだ。
領内経営が本当に忙しい。
自分の修行と仕事で手一杯だ。
本来なら一閃流を受け継ぐ者として、エレンを厳しく指導したい。
だが、その時間が無いから、苦肉の策で幼年学校に放り込んだ。
出来れば師匠に預けたかったのだが、拒否されてしまった。
深い傷を負い、既に一閃を放てない自分は相応しくない――と。
次に候補になるのは、妹弟子の風華と凜鳳の二人だ。
その二人だが、現在は師匠の家に頻繁に通っている。
師匠のご子息である【安幸】君が可愛いらしく、様子を見に通っていた。
随分と気が緩んでいたため、エレンを預けられないというのが俺の本音だ。
――仕事が片付いたら、師匠に代わって俺が厳しく面倒を見てやる。
あいつらばかり、師匠の家に遊びに行くとか許されない。
俺だって顔を出したいのに、朝から晩まで仕事ばかりだ。
その仕事も、自分が増やしているので文句は言えないのだが。
「エレンにはそのまま大学に通わせろ」
即座に方針を決めると、天城が不満そうにしていた。
その顔は無表情だが、弟子として引き取ったのに面倒を見ないのか? という気持ちが表れている。
「ご本人の意思を確認しておりませんが?」
「俺は忙しい。――エレンの母親を首都星に送ってやれ」
親子水入らずの時間を作ってやるとしよう。
天城は俺の判断に少しばかり呆れているのか、少し嫌みを口にする。
「ご自身で忙しくしていますからね。惑星を買い取り、発展させるとなれば更に忙しくなります」
「エレンが一人前の騎士になったら、俺の仕事を手伝わせるかな?」
「――旦那様」
天城が目を細めたので、俺は首を縮めて仕事に戻った。
目の前の仕事を片付けてから、天城にだけは本音を漏らす。
「お前には言うが、バンフィールド家は兵力の割に率いる将の数が足りていない。エレンに期待するのも、それが理由だ」
本来であれば一閃流だけに専念させたかったのだが、遊ばせておく余裕がなくなっている。
あと、俺に出来たのだから、エレンにも出来るという期待もあった。
天城も将の数を気にかけていたらしい。
「有能な者たちは数多く存在しても、クラウス殿たちのような超一流が少ないですからね」
どんな状況にも対応するクラウスを始め、ティアやマリー、そして暗部のククリと粒ぞろいではある。
だが、どうしても数が足りない。
これが一領主ならば問題ないが、帝国を相手にするには大問題だ。
「さて、どうやって数を揃えるかな?」
この問題だが、教育が終わった優秀なエリートを揃えればいいというものでもない。
実戦を経験し、実績を残した強者が欲しいという意味だ。
帝国との戦いを前に、クラウス程とは言わないが――せめて、ティアやマリークラスか、やや劣る程度の将が欲しい。
案内人に願えば、揃えてくれないだろうか?
――我ながら虫が良すぎるな。
普段から世話になっているのだから、今回は自分で何とかするとしよう。
◇
その頃。
案内人はアルグランド帝国の首都星にいた。
汚い路地裏にあるゴミ箱の上に体育座りをし、悲しみに暮れていた。
「ちくしょう。――リアムなんて嫌いだ。大嫌いだ」
帽子だけの姿になった案内人は、どこにあるか分からない目から涙を流す。
嗚咽を漏らしながら、リアムへの悪口を言っていた。
どうして案内人がこの場にいるのか? どうして泣いているのか?
全てはリアムの責任だ。
ロゼッタとの結婚式で悪戯をしようとしたら、何百倍にもなって跳ね返ってきた。
体を失い、ボロボロになってやって来たのは、負の感情が渦巻く帝国の首都星だ。
「本当にここは落ち着く。いるだけで負の感情が流れ込む。まるで私のために用意された素晴らしい惑星だな」
積み重なった負の感情に心地良さを感じながら、案内人は今後の作戦を練る。
丁度、通りかかった人間が、電子ペーパーを捨てたので手に取る。
広げてみれば、随分と前の新聞だ。
「こんな紙屑で情報を得なければならない。――どうして私はここまで落ちぶれてしまったのか?」
以前は指を鳴らすだけで、見たい場面や色んな情報が手に入った。
それなのに、今は傷付き、弱って何も出来ない。
大人しく新聞を広げると、記事の一部が再生される。
写真の部分が動画になった。
『皇太子クレオ殿下は、これまで協力していたバンフィールド公爵との関係が悪化したとの噂が広がり――』
首都星でも、リアムとクレオの不仲説が広がりつつある。
案内人も知ってはいたが、どうやら二人は完全に決別したらしい。
しかし、今の案内人は手出しが出来ない。
「クレオを全力で支援してやりたいのに、今の私には何も出来ない。こんな自分が歯がゆい」
電子ペーパーの上に涙が落ちる。
案内人は、首都星の空を見上げた。
惑星を金属で囲い、天候すら完全に制御下に置いた首都星の天は偽物だ。
惑星を覆う殻に映像を映しているに過ぎない。
若木ちゃん( ゜∀゜)「フハハハ!! 私も帰ってきた! 今日からバリバリ宣伝してやるわ。まずは【俺は星間国家の悪徳領主! 4巻】が 10月25日 に発売よ。みんなもう予約した? もう手に入れた読者さんもいるかもしれないけど、予約してくれると私も嬉しいわ」
若木ちゃんヽ(・∀・ )ノ「まぁ、一番は買ってもらうことだけどね! さて、宣伝も終わったからモブせかの宣伝準備も進めないと~」
ブライアン(´;ω;`)「辛いです。後書きを平気で乗っ取る植物がいて辛いです。――それはさておき、コミカライズ版1巻も同時発売となります。皆様、原作小説共々応援よろしくお願いいたしますぞ」