「確定。攻撃だけでは無く接触した空気も“接触と同時に消滅させている”様ですね・・・」
ゼタは僅かに冷汗を流す。
【ウラノス】の大気操作によって発射した圧縮空気弾も、圧倒的に質量が劣る筈の霧を動かすことさえ叶わず、簡単に無効化されてしまった。
ルンバのガーディアン形態でさえ霧を薙ぎ払った左腕が消滅した。
ルンバのENDは神話級金属のEND換算を上回る一〇万以上。
融合している【怨騎融鎧】の装備防御力やレジェンダリアで遭遇した〈イレギュラー〉の攻撃にも耐え得る【誇獣闘輪】の硬度を含めれば、ルンバの肉体を破壊出来る存在は極めて限られる。
しかし対するはEND、防御力、対象を問わず消滅させる霧。
もし【ウラノス】がこの夢幻世界の大気を掌握していなければ・・・夢幻世界は今頃真空の世界になっていただろう。
それでもーーー現在進行形で進んでいる“夢幻世界の崩壊”を防ぐ事は出来ないのだが。
しかし、修羅場を潜り抜けてきた二人は極めて冷静に敵の情報を探っていた。
(凶暴。ここまで無差別かつ凶悪な攻撃スキルは・・・今まで見た事がありませんね。第一形態の能力から考えて、封印の役割である夢幻世界の崩壊で“今の【モビーディック・ツイン】に水を接触させる“のは・・・正直、不味いかもしれません。ともあれば“先に倒すべき”対象は此方でしょうか。)
(霧も氷も多分、海属性のエネルギー減衰の”範疇“。氷はエネルギーと熱量に限定した能力だとして、霧は・・・無理矢理こじつければーーー”質量“か?だとしたら原子、電子も物質として存在している時点で自然界に存在する粗方の現象は全部無効化されるだろうなァ。TYPEルールの様な問答無用の法則ではなく、飽くまでも物理法則に基づいた物理現象。だがーーー)
二人が着目したのは、極めて高い攻防一体を誇る能力の詳細・・・では無い。
(推測。恐らく分類的には霧のエレメンタルなのでしょうがーーー)
(ついさっきまで肉体に留まっていた奴が、急に気体の身体を十全に扱えるのか?)
二人が着目したのはーーー【モビーディック】の状態の変化。
生物には、遺伝子情報に刻まれて受け継がれてきたマニュアルが存在している。
人間範疇外生物の種族によってはそのマニュアルに相当するスキルを種族単位で備えている場合があるが、元々魔獣だった【モビーディック・ツイン】が形を保たない種族であるエレメンタルとしての振る舞いを瞬時に習得出来るとは考え難い。
これは、マスターでさえ例外では無い。
事実、人型から外れて完全人外化するスキルよりも、人型を保持したまま変身するスキルの方が圧倒的に数が多い。
前者は【犯罪王】、【殲滅王】、【死霊王】であり、後者は【鮮血帝】、【色欲魔王】、【獣王】が主な代表例だ。
前者はスライム、頭脳核、◯ルボルと動物ですら無いのに対して、後者は四肢の有無と大まかな体型が人間のそれと一致している。
前者に比べたらモンスターである【リトルゴブリン】や【パシラビット】の方が、まだ人間に近い振る舞いが出来るだろう。
これはTYPEボディになった一部の例外と、何気に第1形態の時点で適応していたルンバの方が異常者の括りなのだ。
体が劇的に変化するというのは、メリットを享受する以前に己が自滅に繋がりかねないデメリットとなり得る。
それこそ自分の体の様に操作するぐらいならば・・・全身を霧化するよりも、原形を保持した状態で霧を操作する方が難易度の敷居が格段に下がる。
((ーーーこの霧を操作する本体が、霧海の中に存在する可能性が高い。))
二人は互いに相談せずとも、後者の確率が高いと踏んでいた。
問題はどうやってーーー霧の中の本体に攻撃するか、だが。
「確実。私の必殺スキルも“間接的”に無力化されていますし、いつもの弾になってください。」
「それは、俺に死ねと・・・?」
「冗談です。・・・それで共倒れに持ち込めるなら実行しますが。実は自爆機能とかありませんか?」
「そんな愉快な機能ついてねーよ・・・。だがまぁ、」
俺はクイっと親指を指して言った。
ーーー弾なら丁度良いのがあるぜ。“一艦”だけだが、壊しても良いデケェのがよ。
・・・・・
液体の爆薬化も物理攻撃も全く効かない氷の大戦艦を、単騎で引きつけている男がいた。
「此処でっ!!死んでッ!たまるかァァーーー!!!」
その男には霧に干渉する術が無かった為に、氷の方を自ら志願し見事時間を稼ぎ切った。
その背後では氷の大戦艦が無限軌道も無しに陸を駆動し、無数の砲門を孤軍奮闘していた【大提督】に向けていた。
疲労困憊気味の【大提督】を体内に入れて、その砲撃群から庇う。
氷の砲弾が雨霰の如く俺に叩き付けられるが、その程度では俺のENDを突破する事など出来はしない。
俺はガシッと氷の大戦艦に掴みかかった。
攻撃と認識したモビーディック二形態が掴んだ手を瞬時に凍らせて破砕しようとしたが、お構い無しに自身のSTRを全開にして“持ち上げる”。
ゼタ先生が【ウラノス】で大気のトンネルを作り出し、俺は持ち上げたソレをーーー霧海へと投擲した。
空気抵抗を一切受けず、追い風を受けて飛翔する氷山にも等しい大質量は霧海へと投棄され、霧の洗礼を受けてその体積をみるみると縮めていく。
自己修復機能で消滅した体積も回復しているようだが・・・無駄だ。
寧ろ自ら自壊した方が戦況的には正解であった。
他者との連携など一度たりともしてこなかったモビーディックにとって・・・味方がいる戦況とは初めての経験だったが故に。
咄嗟の選択を致命的に間違えた。
ーーー氷の大戦艦の墜落地点には、第一形態の白鯨に比べるとミニチュアの様な大きさの白鯨がいたのだから。
氷の大戦艦は消滅に拮抗するように最大出力で修復機能を働かせ、霧海の主は広範囲に展開していた霧を自らの身を墜落物から守る為に自身を中心に霧海を圧縮する。
白と白が、音も無く衝突する。
人類の天敵たれとデザインされた鯨の片割れが、自滅の形で滅びを迎えた。
氷の大戦艦は消滅に抗おうとして小さな氷片も残さずに消滅し、小さな白鯨は自身の身の安全を確保できた事に安堵する。
「《アブソリュート・スティール》」
そしてーーー静かな宣言と同時に、攻防一体の霧で守られている筈の白鯨は真っ赤な血塊を吐く。
氷の大戦艦の内部に密かに潜伏していた【盗賊王】が氷の大戦艦を囮にし、盗賊としての本領を発揮した。
盗賊系統超級職【盗賊王】の奥義《アブソリュート・スティール》は生物の体内からでさえ狙ったものを盗み出す。
ゼタが奪ったのは、忙しなく動く赤い臓器。
彼女は《アブソリュート・スティール》の有効範囲まで接近する為に霧に触れてしまった右腕を犠牲に、残された左腕で白鯨の心臓を盗み、掌の上で拍動する心臓をーーー握り潰した。
小さな鯨が苦し気にのたうちまわり、斑らに展開された霧海が滅茶苦茶に振り回される。
ゼタは死に際の抵抗で右腕に続いて左足の半分が消滅し、偶然霧に巻き込まれたルンバの一部が跡形も無く削られた。
そして、今度こそ光の塵となって宙に溶けていく。
ジャバウォックはその結末を見て微笑う。
ーーー此処までは想定内だ、と。
彼は白衣の中で、“第三次超級進化促進装置”の起動スイッチを握り込んだ。
ジャバウォックは他人のものを勝手に進化させる事は出来ない。
それは生前のマスターに掛けられたセーフティ。
彼は実行こそ可能だが、その言いつけを破る気は全く無かった。
なので・・・彼は、間接的に進化するきっかけを与える事にした。
そもそもSUBMとはーーー超級進化のきっかけになり得る”強い感情“を引き出すための舞台装置なのだから。
ルンバとカーソンの子供は何人欲しいかアンケート
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一人(抗菌と同じく特典化)
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双子
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五つ子(五等分の花嫁√(嘘))