『魂魄干渉異常現象分析開始』
歯車の群れは機械的に廻り続ける。
『死霊術師系統超級職【冥王】とは異なる魂の観測』
ただ創造主の意のままに、創造主の思惑通りに。
『非生物魂魄発生過程考察』
感覚から脳へ。脳から精神へ。精神から魂へ。深く、深く。
魂を獲得し、魂を理解し始めた【ドリーム・ベドレイド】は、もはや普遍的な機械に留まる事が無い。
ーーー魂の秘奥を知る竜達はSPを魂力、“内なる変革”と呼んだ。
ーーーアンデッドは怨念によって器を変質させた。怨念とは魂と邪心の混成物だった。
ーーー剣技や格闘技の《スキル》は時に肉を鋼より硬く変化させ、欠損さえ治癒させる異常な再生力を齎し、物理法則を超越した機動を可能にする。
ーーー物理戦闘職の真髄はSPによる自己改変にある。
つまりーーー器は内容物たる魂でその在り方を変化させる。
故に魂を持たぬ機械は・・・SPを使う事が出来ない。
しかし、【ドリーム・ベドレイド】においては例外だった。
『魂魄干渉技術の確立と共に当機の強化プランの立案、これは・・・』
延々と続く歯車の回転が、不自然に止まった。
『ーーー魂魄改変術式の逆干渉?』
いつの間にか収容基は黒い金属質な染みに覆われ、
『術式接続破棄!非干渉部は当機から隔離し干渉元の排除ーーー!!』
金属片が虚空から滲み出る様に世界を侵略していく。
かつてジャバウォックは評した。
“アレは決してハイエンドに類する天才ではない。”
“理知的というには感情的であり、生粋の激情家でありながら妙に賢しい。”
“王にしては小物であり、悪人にしては中途半端であり、善人にしては偽善者だ。”
“英雄にしては低俗であり、奴隷にしては野望家だ。”
“されど凡人衆愚の枠に収まりきらない。”
“ーーーだから、面白い。”
“魔王とは秩序の破壊者。”
“王を冠していながら民を率いる者ではなく、利己的な創造によって破壊を撒き散らす者。”
“それは同時に未知なる可能性の体現者であるということ。”
“ルン・バ・ンルというマスターは既存法則を破壊し、常識を覆す〈イレギュラー〉だ。”
“だからこそ・・・彼に課す試練は相応のものでなくては面白くない。”
魔王は己を収監した魂の監獄を喰らい尽くし、繋がりを利用して決戦兵器を蝕んだ。
闘争、飢餓、獣性を司る三悪道に堕ちた人外は歓喜の咆哮を叫ぶ。
使命もなく、目的すら無い無色透明な暴力は災害にも等しい。
尤も【死霊王】に就いた者は大抵が精神を狂わせた結果災害に成り果てるのだから・・・これは一種の予定調和だったのかも知れない。
そういった意味では、ルンバは歴代【死霊王】を凌駕する才覚を持っていた。
それは決してアンデッドを作り出す《死霊術》の才覚ではない。
負の概念である怨念を支配するという特殊な才覚の片鱗、即ちーーー魂の怪物に成る才覚。
それは奇しくも【怠惰魔王】の最終奥義に近く、世界の終焉機構である特殊超級職【◾️◾️】の機能の一つであった。
絶叫に呼応するように渦巻く魂が巨大な怪物の輪郭を描く。
黒い血が全身を駆け巡り、生体パーツが忙しく脈動を繰り返す。
両足に巨大な鉤爪が形成され、背中から生えた機械仕掛けの触手が先端に重火器を生やした。
『ーーー敵脅威度更新』
【ドリーム・ベドレイド】は初めての戦闘、想定にない事態にも関わらず冷徹に判断を下す。
『対象の脅威度をA からーーー』
その戦力評価は巨大化でも、増加した武装を評価したものではない。
『ーーーA+++に変更。凖インフィニットクラス、スペリオルクラスと断定。“例外措置”として鹵獲から撃滅を最優先。』
魂に干渉し、隷属下に加える特異性を持つ化身の尖兵をーーー化身以上の脅威、
鹵獲不能対象にして対化身用決戦兵器【ドリーム・ベドレイド】の天敵として評価した。
『戦況劣勢により魂魄干渉技術の実践投入を検討。予測演算による結果、暴走危機60%以上・・・対化身戦力喪失に匹敵。魂魄干渉技術の検証不足分を考慮。暴走危機80%を超過。』
不確実でリスクが高過ぎる賭け。それでもーーー
『当機の喪失を許容し、暴走の起因となるエラーの指方向性誘導。』
”自らと引き換えに滅ぼす“事を決定した。
『対化身撃滅魂魄開発術式・・・《Dyrition Ego Machina》』
【ドリーム・ベドレイド】は最も開発能力に優れた決戦兵器だ。
歯車の群れがその輪郭を失って、別存在へと変わっていく。
巨大な機械城から小さく縮んで・・・・・否。
それは単なる縮小では無かった。
ーーー自滅を伴う創造。
ギチギチと急速に高まっていく圧力に耐えられなかった歯車が何かの弾みで弾丸の様に弾き出され、機械のフレームが圧壊して自壊し、自己破綻までのタイムリミットを刻み始めた。
鎧の様に全身を覆う装甲が溢れ出さんばかりの体積を押し込め、時折稲妻が迸る。
それはまるで上位モンスターが習得する《人化》の様であった。
しかし別空間にリソースを収納する《人化》とは違い、【ドリーム・ベドレイド】は全リソースを人間一人の体積まで押し込めた。
現れたのは隙間が存在しない全身鎧に身を包んだ徒手空拳の人形。
形態は煌玉人に良く似ているが【大賢者】が設計した機能では無く、【ドリーム・ベドレイド】が自ら選択したーーー終末。
最後に【ドリーム・ベドレイド】は人の形を選び、ルン・バ・ンルは人の形を捨てた。
本質を同じとする存在達は決定的に分岐した。
機械仕掛けの英雄は、強く拳を握り締めた。
己の内に生じたバグこそが彼だった。
彼の存在証明は、化身を滅ぼす事で果たされる。
放っておくと勝手に人間離れしていく男は、牙を剥き出しにして凄惨な笑みを浮かべた。
人間の間に生まれたバグ。それが彼だった。
彼の存在証明はーーー
『嬉しいぜ・・・お前も、俺の敵になってくれるのか?』
『世界の為に、人々の為にーーー化身を滅ぼす・・・!!』
誰も知らない何処かで、人外達は強く踏み出した。
全てはーーー自らの意思で。
これはとある夢のVRMMOの物語。
怪物は何故、世界に生まれたのか。
全てのものは生じた瞬間から存在理由を持つ。
彼はその証明を闘争に求めた。
闘争を経て彼は怨念を支配する術を得た。
闘争を経て彼は魔力を操る術を得た。
闘争を経て彼は魂を知覚し、己の才覚を知った。
戦えば戦う程自我が確立されていく錯覚を覚えた。
今にして彼は思う。
死体の体。機械の体。
残された人間らしき特徴はもはや生体パーツだけ。
より高い次元で戦う為に彼は人間である事をやめた。
既に後戻りは出来なくなっていて、それでもーーー考えた。
俺は戦うことでしか己を知る術を持たない存在なのだろうかと。
今となっては意味の無い仮定、あり得た可能性だったが、それは最初に考えるべきことだったのだろう。
〈infinite dendrogram〉を始めた俺は、何故ーーー戦おうと思ったのだろうかと。
ルンバとカーソンの子供は何人欲しいかアンケート
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一人(抗菌と同じく特典化)
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双子
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五つ子(五等分の花嫁√(嘘))