香港の大学で、民主化を求める学生らが北京で武力弾圧された1989年6月4日の天安門事件を記憶する像や彫刻が相次いで撤去されている。

 反体制的な言動を取り締まる香港国家安全維持法(国安法)のもとで、事件を思い起こさせる像が「反共産的だ」とする親中派の圧力に大学側が屈した形だ。

 香港大学では23日、事件の犠牲者を追悼するモニュメント「国殤(こくしょう)の柱」(高さ約8メートル)が取り壊された。同日午前0時過ぎに記者が現場に行くと、像がある広場が白いシートと黄色い壁で目隠しされ、警備員が周囲を固めていた。その中からギィーンという何かを切り裂く電気のこぎりのような鈍い音が響いていた。午前4時前に像の搬出作業が開始。香港メディアによると、香港北部の大学の敷地に運び込まれた。像をどう処理するかは未定という。

 国殤の柱は天安門事件を悼み、デンマークの芸術家が作った。国殤とは国のために命をささげた人を指す。毎年6月4日には学生やボランティアらが像を磨き、犠牲者を追悼してきた。

 市民が寝静まった真夜中に像が撤去されたことに、当時の天安門事件の学生運動リーダー、王丹氏は「卑劣な手段だ」と非難した。

 香港大は23日朝、撤去の理由について「像は老朽化が進み、大学の全体の利益を考えた」などとする声明を発表した。親中派からは像が「若者を毒する」などの声が出ており、大学側が像を寄贈した民主派団体に撤去を求めていた。撤去を決めた同大校務委員会の主席は政府の諮問機関委員を務めており、当局の意向が反映された可能性が高い。