しかしその一方で、家事労働に関してはその経験値はあまりに個人差が大きく、しかもあまり評価されていない。一人暮らしが長く何でもできる人から、実家暮らしですべて親にやってもらいリンゴの皮すらむけない人まで、男女を問わずいる。コンビニに行けばカットされたリンゴを売っているからあまり不便もないのだが。それゆえ、結婚で問われるのは「年収」になりがちで「家事能力」はあまり問題にされない。
しかし、家事・育児は尋常ではなく大変で重要な仕事である。家事のすべてを外注できないし、子どもがいればなおさら家族の快適で健康な暮らしにとって家事は大事な仕事だ。食事作り、掃除、洗濯など家事労働なくして生活はなりたたない。誰かがやらなくてはいけないけどお互いできればやりたくないのが家事労働。この部分を「無償の愛」で曖昧にして相手に押しつけると、後から大きなしっぺ返しが来る。敏夫さんも、「家事は妻がしてくれて当たり前」という気持ちがあったのではないか。
家事を賃金に換算すると…
家事・育児の価値、そして大変さは、金額換算するとより明確になる。
今でこそ「家事労働」という言葉を平気で使うが、シャドウワーク(隠れた労働)と言われた家事・育児に「労働」が付くまでには涙ぐましい歴史がある。そうした議論の中で昔から「家事労働を賃金換算する」という家事労働の数値化の試みが出てきたのだ。賃金換算という考え方は、曖昧な家事労働の明確化には役立つ。
家事労働の賃金換算は、内閣府から5年おきに出される「家事活動等の評価について」という報告が代表的なものである。少しややこしいが、その方法は大きく分けて「機会費用法」と「代替費用法」の2つ。「機会費用法」は「家事をした時間を他で働いたらいくらになるか?」という計算方法。
一方「代替費用法」というのは「家事を誰かに頼んだらいくらか?」という計算方法で、細かく分けると「専門職(クリーニング屋さんや出前など)に頼む」のと「家事使用者(家政婦さんやシッターさん)に頼む」とに分かれる。今時は「家事代行」という選択肢もある。