※画像はイメージです(Getty Images)

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誰にでも、仕事でどうしようもなくテンパってしまうことはあるものです。普段は冷静で優秀な人であろうとも、重圧の重さに耐えきれなくなってしまい、大事なプレゼンの前で逃亡してしまう――実は私も、過去にそんな経験があります。

プレゼンの直前に自信喪失…

冷静で優秀かどうかはさておき、それまで特に重大なミスをすることもなく仕事を進めてきた当時38歳の私は、とあるプレゼンの5分前に逃げてしまいました。どうにもこうにも、そのプロジェクトを推進できると思えなくなってしまったのです。

それはいわゆる企業の「オウンドメディア」と呼ばれるサイトを更新する仕事だったのですが、当時から多数のウェブメディアを編集してきた私に編集長的な役割を担当するよう話が来ました。かなりの予算を扱うことになり、キャンペーン期間中の3ヶ月間、毎日3本の記事を公開することになりました。つまり、270本のオリジナル原稿を作らなくてはいけないということです。

その日のプレゼンは、クライアントに対して「このプランで行きます! 殿、承認をください!」と伝える大事なもので、その日に実質的にGOサインが出ることとなります。これがサイト公開の3週間前の話です。

そこからサイト公開までひたすら記事のストックを作り続け、なんとかキャンペーン最終日まで走り続けるという流れになっていました。クライアントがGOサインを出すことはほぼ分かっており、あとは先方からの疑問に答える、という形になっていたのです。しかしプレゼンの10分前ぐらいから、私は猛烈に自信を失ってしまったのです。

クライアント企業の1階受付で、広告会社のクリエーターA氏と2人で営業担当のB氏が迎えに来るのを待っていました。その間の会話はこんな感じです。

「Aさん、ヤバいです。オレにこんな仕事できません!」

「中川さんだったらできるから、安心して!」

「いや、無理です! ちょっと風呂敷広げ過ぎました。毎日3本なんて無理です!」

「いやいや、僕らもいますので。お手伝いするから大丈夫です!」

「とにかく無理です、ギャーッ!」

こんな問答をしていたところに営業担当のB氏が到着し、「中川さん、Aさん、そろそろ行きますかね」と笑顔で言ってきました。私はB氏のこの笑顔が、絞首刑の際の13段の階段のように感じてしまい、「もうダメだー!」と悶絶しました。B氏は「どうしたんですか!」と仰天していました。

ここでA氏はそんな私を見て、「ちょっとさB、キミが一人で説明してくれ。資料はもう昨日中川さんから送ってきてもらってるし、説明は聞いているから大丈夫だろ? ちょっとオレはデニーズで中川さんと酒飲んでくる。今はプレゼンできる状況ではない!」と言いました。

するとB氏は錯乱した私となだめるA氏を見てすべてを察したのか、「分かりました」と言い、プレゼンが終わった後デニーズに来ると言いました。

A氏の完璧なフォローで復活

デニーズではビールを頼み、A氏は「中川さん、大丈夫大丈夫。Bがあとはちゃんとやってくれるから。中川さんが作ってくれた資料は完璧だから、Bでも説明できるよ! でもって、この仕事は中川さんしかできない!」とおだててくれます。

すると私も「そうですよね! こんな仕事、オレしかできませんよね。ガハハハハ!」と気が大きくなってしまいました。そしてビールをガンガン飲み、1時間後に無事プレゼンを終えたB氏が「バッチリです」と言い、今度は3人で祝杯を上げました。

そして、ちょっとこっぱずかしいのですが、この時思ったのは「仕事仲間っていいな」ということです。

中川淳一郎

ネットニュース編集者 / PRプランナー

1973年東京都生まれ。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』など多数。