亡命
ぼうめい
refuge
本国政府からの政治的弾圧や宗教的・民族的理由による圧迫を逃れ、またはそれを避けるために外国に庇護(ひご)を求める行為をいう。現在個人は原則としていずれかの国家に所属し、そのため、外国にいる場合でも、その所在地国の法律や機関によって保護(国内的救済)が得られない場合には、本国政府の外交的保護を求めることができるはずである。しかし、亡命者の場合は、その保護を求めるべき本国の政府自体から弾圧、迫害を受けており、または受けるおそれが強いため保護が受けられず、不安な状態にある。無国籍者の場合でも、定住所地の政府から迫害を受けると同様の立場になる。refugeeの日本での公定訳は「難民」であるが、従来は亡命者と訳した場合もあり、難民はある程度まとまった集団の場合、亡命者は1人または少数の場合に用いられた。
亡命者・難民については、それゆえ国際的な保護が必要になる。第二次世界大戦後も、国際難民機関(IRO)が設けられたが、1951年国連難民高等弁務官事務所がその事業を継承した。1951年7月28日「難民(亡命者)の地位に関する条約」が結ばれ、1967年1月31日の議定書により補完された。同条約は、難民は迫害の待つ国に送還してはならぬとする「ノン・ルフールマン」の原則を定めており、日本も、同条約・議定書に1982年(昭和57)1月1日から加入し、出入国管理令を改定して「出入国管理及び難民認定法」とした。
[宮崎繁樹]
『宮崎繁樹著『亡命と入管法』(1971・築地書館)』
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亡命
ぼうめい
refuge
政治的,思想的,宗教的,人種的,民族的相違などから,迫害などの身の危険を回避するために本国から逃亡し,外国に庇護を求める行為をいう。教会および国家の支配層による弾圧を逃れてアメリカに渡った非国教徒たる清教徒,フランス革命の勃発によって諸外国に逃亡した亡命貴族 (エミグレ) ,既成秩序の転覆や民族独立革命を企図して本国から脱出した革命家など,古今東西の歴史において枚挙にいとまがない。もとより基本的人権が容認され,民主化が進んだ社会においては,このような亡命は次第に減少する傾向にあるが,亡命という事実,なかでも政治的亡命は決してなくなるとは考えられない。現在これに関連して逃亡政治犯罪人については「政治犯罪人不引渡しの原則」が国際的慣行として成立している。
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ぼう‐めい バウ‥【亡命】
〘名〙 (「命」は名、名籍の意)
① 戸籍を抜けて逃亡すること。逐電。また、その人。
※続日本紀‐和銅元年(708)正月一一日・宣命「亡二命山沢一、挟二蔵禁書一、百日不レ首、復レ罪如レ初」
※新聞雑誌‐三五号・明治五年(1872)三月「綱川晃南なる者と通し倶に亡命し竟に晃南の妻となり」 〔史記‐張耳伝〕
② 宗教、思想、政治的意見の相違により、自国で迫害を受けた場合、または受ける危険がある場合それを避けて他国にのがれること。
※西洋事情(1866‐70)〈福沢諭吉〉二「蘇格蘭
(スコットランド)の人ロウなる者〈略〉本国を亡命し
仏蘭西に来て」 〔揚雄‐解嘲〕
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亡命【ぼうめい】
政治・思想・宗教・民族等の相違を理由に,本国で迫害を受けている者が,外国に逃亡すること。戦災避難民の逃亡を含むこともあるが,特に問題となるのは政治犯の亡命である。亡命を認めるか否かは受入国の自由であるが,政治的亡命者については本国への引渡しを認めないのが国際慣行とされ,また近年は〈難民条約〉等により積極的保護が加えられるようになっている。日本では出入国管理および難民認定法に基づき法務大臣の許可によって事実上亡命者の在留が認められ,また逃亡犯罪人引渡法により政治犯の本国引渡しを禁じている。
→関連項目庇護権|亡命文学
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ぼうめい【亡命 refuge】
一般に,本国での政治的・宗教的・人種的迫害あるいはその恐れから逃れて,他国に保護を求める行為をいう。なかでも政治上の理由から他国に逃れる者を政治亡命者という。国民国家で個人は原則としていずれかの国家に属し,その属人的管轄のもとにある。このため政治的・宗教的信条の相違から迫害を受けたりする場合,他国に逃れてみずからを保護する必要が生じてくる。16世紀フランスで反新教徒による迫害から国外へ逃れたユグノー,17世紀イギリスからアメリカ大陸に移住したピルグリム・ファーザーズ,フランス革命期にみられた王侯貴族の亡命(亡命貴族émigré),ドイツの48年革命(三月革命)の際の自由主義者の亡命,1917年ロシア革命後,ソビエト体制に反対して国外に逃れたいわゆる白系ロシア人,ナチス・ドイツの迫害によって生じたユダヤ人や社会主義者,知識人の亡命など,戦争,革命,動乱,クーデタ,独裁政権などが発生する際に大量の亡命者を生みだしている。
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