「この作品はフィクションです。実在の人物・団体とは~」の英語版表記は、日本語版とニュアンスが違う?

映画でも小説でもアニメでも何でも、ドキュメンタリーでない限りは作品の冒頭か最後の部分にこういう文章が挿入されます。

この作品はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

これ、英語では何と言うか皆さんご存知でしょうか。

洋画などのエンドロールを見ていると、最後の方でちょうどこれに相当するような英語の文章を見ることができます。が、実はこれが日本語とは少し文章の印象が違います。
表記には色々と種類があるんですが、たとえばある会社の映画では、

The characters and events depicted in this photoplay are fictitious. Any similarity to actual persons, living or dead, is purely coincidental.
(この映画で描写される人物、出来事はフィクションです。存命か故人かを問わず、実在の人物といかに類似していたしても、全くの偶然です。

また、別の映画では、

The persons and events in this motion picture are fictitious. Any similarity to actual persons or events is unintentional.
(この映画における人物、出来事はフィクションです。実在の人物、出来事といかに類似していたとしても、それは意図しないものです。

あとこういうパターンも。

This is a work of fiction. The characters, incidents and locations portrayed and the names herein are fictitious and any similarity to or identification with the location, name, character or history of any person, product or entity is entirely coincidental and unintentional.
(この作品はフィクションです。作中で描写される人物、出来事、土地と、その名前は架空のものであり、土地、名前、人物、または過去の人物、商品、法人とのいかなる類似あるいは一致も、全くの偶然であり意図しないものです。

日本語でも英語でも、言いたいことはだいたい同じであることが分かります。
「実在の人物とは関係ありません。」=「たとえ似ていたとしても偶然です。」
でも……、どうでしょう。何となく英語の方が人を食ったような表現してるなぁと私はずっと思っています。

なぜこんな表記なのか考えてみたのですが、たとえばもし日本語での表記をそのまま英訳すると、
“There is no relation to actual persons.”
が、英語に直した時に湧きあがる疑問が、そもそも「関係」(relation)という言葉とはここでは何かっていうことです。

もし日本の映画の中で、「おいおい、このキャラどう見てもあの実在の○○がモデルだろ」ということがあったとしたら、「いえ、実在の人物とは関係ありませんから」という反論が立ちます。しかし、よく考えるとそれは「このキャラはこの実在の人物をモデルにしていません」ということは主張していますが、「このキャラとこの実在の人物似てね?」という指摘そのものには何も言えないわけです。おそらく日本語表記での「関係」とは、モデルにする、パロディーにするといった具体的な行為の因果関係のことだと察してほしいのでしょうが、「それでもなお似てる」ということに対しては何も言っていません。
そういう場合、仮に裁判に訴えられて、「意図してこのキャラをこの人物に似せました?」という疑惑に反論するには、「意図なんてしてません!」ということを改めて主張する必要があります。

ここで改めて英語版を見てみると、「このキャラとあの人物が似てる? ただの偶然ですよ」、「意図なんてしてませんよ」と既に書いてるわけです。「(たとえそういうつもりは無くても)何かと似てると指摘されることはありえる」という可能性を受け入れた上で、「でもそれは偶然だし」と知らぬ存ぜぬを決め込むことができます。訴訟リスクに対する細かい先手かもしれません。

こういう表記の違いが出てくるのも、訴訟文化の違いとかが関係してくるんでしょうかね。
個人的には、何か人を煙に巻いたような英語版の言い方が好きです。

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