ワクチン接種に加速がついたのは良かったが

 ここで、病院などが中抜きする前のワクチン接種手当について、説明しておくと、診療所や病院でワクチン接種をする場合、政府は都道府県を通じて各種支援金を支給する。

 まず医師がコロナワクチンを一回接種したときの報酬は2070円。1日に50人接種したら10万3500円になる。これがベースだ。さらに週100回以上の接種を4週間以上行った場合は、一回の接種につきベースに2000円を上乗せ。週150回以上、4週間以上行った場合は一回当たり3000円をベースに上乗せする。これ以外に休日手当、時間外手当もつく。

 この他に、診療所や病院が1日50回以上のまとまった接種を行うと、さらに1日10万円が診療所や病院に支給される仕組みもある。

 ワクチン接種報酬が高騰した背景を官邸関係者は次のように説明する。

「日本医師会は、ワクチン接種は労力がかかり、感染リスクもあるとして当初は協力に消極的でした。普段、日医と連携して動いている厚労省幹部たちも『お金を払っても医師はワクチン接種に協力しないだろう』と政府内で見通しを語っていました。そこで当時の菅義偉首相が『医師がだめなら歯科医師や自衛隊の医官が接種できるようにしよう』とした途端、日医の中川俊男会長が『歯科医のワクチン接種は困る』と反対した。

 歯科医がコロナワクチンを接種できるようになると、いずれインフルエンザワクチンワクチンの接種も歯科医ができるようになる恐れがあり、医師の既得権益が侵されるからです。

 しかし菅首相は日医の反対を押し切って歯科医のワクチン接種を可能にし、自衛隊の医官の協力も得て集団接種に踏み切った。

 消極的だった日医をはじめ全国の医師がコロナワクチン接種に積極的に協力し始めるのは、政府が1日10万円の上乗せ支給を打ち出してからです。これを契機に全国の医療機関が我も我もと手を上げ始めた。ある病院では、医師がみんな手を挙げたので、抽選で接種医師を決めたと言います。

 これでワクチン接種が急ピッチで進むことになったのは良かったのですが、一方で医師会の意を汲んで『お金を積んでも医師は協力しない』と自信満々に話していた厚労省幹部たちは政府内で笑いものになりました」