親友? ただのパシリ? 元経産若手キャリア官僚のゆがんだ関係
毎日新聞 / 2021年12月20日 8時0分
「彼は親友です」「いや、私はただのパシリだった」――。詐欺罪に問われた経済産業省の元エリート官僚2人が、東京地裁でこんな言い争いを続けている。高校時代から「親友」だった2人の関係性はある出来事をきっかけに大きく変貌していた。その出来事とは何だったのか。判決は21日に言い渡される。
2人は新型コロナウイルス対策の国の給付金計約1550万円をだまし取ったとして逮捕、起訴された。
高校時代は同じゴルフ部
「全く改心していない。非常に残念です」。11月4日に行われた被告人質問で、産業組織課職員だった新井雄太郎被告(28)=懲戒免職=は、元産業資金課係長の桜井真被告(29)=同=に対する怒りを押し殺すように言った。そして、桜井被告について「私をパシリのように使いたかっただけ。『運命共同体』と言いつつ、切り捨てられるリスクのある立場だった」と指摘し、実質的な主従関係にあったと強調した。
それに対し、桜井被告は「脅されてやらされているとは思っていなかった。新井君とは和気あいあいとしていたし、旅行にも行き、濃密な時間を過ごしていた。彼は本当に私の親友です」などと反論した。2人が法廷で目を合わせることはほとんどなかった。
関係者や検察側の冒頭陳述によると、2人は有名私立大付属高校(神奈川県)で同じゴルフ部に所属していた。「官僚になって日本を変えたい」と周囲に話していた新井被告は高校卒業後、3度目の挑戦で東大に合格。学生時代の友人によると、東大在学中は勉強に没頭し、寮の部屋には参考書が山積みになっていたという。その後、司法試験や国家公務員試験に合格したが、希望していた中央省庁には採用されなかった。
そんな時に新井被告を励ましていたのが桜井被告だった。
桜井被告は高校から内部進学した私立大を卒業後、メガバンクを経て2018年10月に経産省に入省しており、新井被告の採用試験の面接の練習などに協力していた。その後、後を追うように新井被告も20年4月に経産省に入った。
新井被告は桜井被告について「非常に社交性が高く、人脈があり、依存しなければ自分は社会に出られないんじゃないかと思うほどだった」と話し、当時は頼りにしていたことを明かした。
ベンチャー設立を機に
一方、桜井被告が入省前の17年に設立したベンチャー企業が2人の関係に大きな変化をもたらしていた。
桜井被告は、設立に関わった高校の同級生だった知人男性との関係が悪化し、この知人に対し、金銭を請求する民事訴訟を起こそうと考えた。訴訟の証拠にするため、18年9月には事務所に置かれていたその知人のタブレット端末を勝手に操作し、桜井被告に対する恐喝を装う虚偽メールを新井被告に送信させた。
さらに、新井被告は同月、知人と親しい人物に接触し、「桜井被告のマンションから知人が3000万円を盗むのを見た」と偽証するよう依頼した。ところが、偽証を依頼する新井被告の声が相手側に録音されており、実際の訴訟で証拠として提出されたことから、桜井被告側の形勢が不利になった。
桜井被告は当時、「お前のせいで裁判に負けそうだ」「どうやって償うつもりだ」などと激怒したという。
検察側は、このことに負い目を感じた新井被告が、桜井被告の指示に従って給付金を不正受給したと公判で主張している。
同級生「友達だとは…」
2人の本当の関係はどうだったのか。ある同級生は「桜井はいつも新井に対して高圧的に接していた。2人が友達だとは思えなかった。不正受給事件は、桜井の指示を受けてやったんだろうと思った」と語る。別の関係者も「2人は本当の友人関係ではなかったのだろう」と見る。
桜井被告は10代の頃から株取引などで多額の利益を得ており、今年6月に警視庁に逮捕される直前には海外ブランドの腕時計を身に着け、高級外車ベントレーに乗っていた。また、事件での詐取金も桜井被告が住むタワーマンションの家賃の支払いや交際相手の小遣いなどに使われたという。公判では「拝金主義になっていた。勉学やスポーツで努力しても評価されず、自信をお金で補完していた」と打ち明けた。
一方、桜井被告の弁護側は、新井被告が桜井被告に叱責された後も一緒にパリ旅行やすし店などに行って多額の金を消費していたと指摘。司法試験に合格している新井被告の法的知識を高く評価していた桜井被告が「新井がこれでいけると判断して書面や資料を作り、手続きをしてくれたのだから大丈夫」と依存する思いもあったとして、一方的な支配従属関係にはなかったとしている。【林田奈々、安達恒太郎】
経済産業省キャリア給付金詐欺事件
桜井真と新井雄太郎の両被告は経産省職員だった2020年5月~21年1月、自ら設立したペーパーカンパニーなどについて、自宅を事務所としたほか、新型コロナウイルスの影響で売り上げが減少したなどと虚偽申請し、家賃支援給付金計約1150万円と持続化給付金計400万円をだまし取ったとして詐欺罪で起訴された。両被告は起訴内容を認め、検察側は桜井被告に懲役4年6月、新井被告に同3年を求刑。弁護側はいずれも執行猶予付きの判決を求めている。
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