「何でマクロスがないんだ!」少年はそう叫んだ   作:柿崎ィィィィ!!!

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何度でも、何度だって

 「じゃあ、私は応援行ってくるよ」

 

 「ああ、俺とツムギの分まで頼む。すいませんジュリアンさん、手伝ってもらって」

 

 「気にしないで。タツヤの状態を聞いて見て見ぬふりをできるほど僕は冷めてないつもりだからね。それに、君のアイデアを聞いて実現させてみたいのも事実だから」

 

 「…どんな風になっても、操縦しきってみせるから。私の事は考えずにお願い」

 

 ヒマリが部屋を出ていく。昨日、ジュリアンさんに事の次第を説明して協力をお願いした。昨日の試合を見る限り彼とタツヤさんには何らかの関係があると思ったし、思いついたアイデアを形にするために彼の協力が必要になると思ったからだ。

 

 会った時、ジュリアンさんはかなり鬱屈とした様子だったが俺の話を聞くうちに目に生気が戻ってきた。あのタツヤさんは彼自身じゃないという可能性を分かってくれたから、そして正気になったタツヤさんに今度こそメイジン襲名の真意について問いただすため、彼の協力を得られることになった。

 

 セイとレイジには申し訳ないけど今日1日はすべて開発のために使うことにした。ただでさえ時間がないのに新システムの開発を1日でやろうなんて無茶苦茶もいいところだけどアランさんと約束したし、タツヤさんには元に戻ってもらわないと俺が困る。アイデアも昨日のうちに固めて粒子変容塗料で実験も済ませた。あとはヅダに積み込むだけ。

 

 まずはヅダの内部の変更、熱核バーストタービンを土星エンジンとのバランスを考えたチューニングのものから出力値を無視してより高いエンジン、つまり今VF-25に載せているものをそのまま流用、VF-25のほうが小型高性能なので空いたスペースに今回のシステムの要であるISCをもうひとつずつぶち込む。これなら慣性無視操縦がもっとえげつない精度で行えるようになるはずだ。

 

 マクロスキャノン、対艦ライフルは排除、あのエクシアの仕様書を見る限り使う隙は皆無だ。邪魔なだけなら最初から要らない。代わりに増加装甲(ミサイル入り)で死角をカバーしよう。ガンポッドを開いた腰にマウントできるようにしてヒートホークを一本追加。ガンポッドは1丁でいい。あとは、塗装のし直し…

 

 「ジュリアンさん、ここからなんですけど…」

 

 「うん、僕のバックジェットストリームは塗装の剥離を利用しているんだけど、違うんだよね?」

 

 「ええ、ヅダの新システム「ゴースト」はプラフスキー粒子を機体の形に変異させて実態のある残像にします」

 

 「攻撃判定のあるMEPE…実現したら恐ろしいね。それが今は頼もしくもある」

 

 粒子変容塗料で俺が気づいたのは、変容させた粒子自体が攻撃判定を持つことだ。あのエクシアの燃える剣や氷結する剣、あとはニルス・ニールセンのアストレイは斬撃を飛ばすことができるらしい。分身をしたと錯覚するほどの速度を誇るヅダが実際に分身をするわけだ。

 

 といってもそんな完璧に細部までヅダを再現できるわけじゃない。あくまでエフェクトの一種、つまり残像がそのまま実態になる。ぼやッとしていて一目見れば見抜けるものだ。だけど、今のタツヤさんには効果甚大なはず。アランさんの情報ではエンボディシステムは元はプラフスキー粒子を見るシステムらしい。つまり、プラフスキー粒子の塊であるゴーストは実際にヅダに見えてしまうはずだ。そして、一瞬とはいえ攻撃判定ができる。例えばヒートホークを構えた状態でゴーストを残して離脱した場合、ゴーストが振り下ろしたヒートホークには斬撃判定が出る。飛ぶ斬撃ではなく置く斬撃といったところだろう。もちろん連撃は不可能、投げ技締め技組技なんて無理だ。殴るか、斬撃のみ。タツヤさんの事だ、分身全部切り裂くなんてこともあり得る。多数の分身を残すことはできるけど、そこら辺は圧縮粒子との相談だ。ゴーストに使うプラフスキー粒子はフィールドのものだが攻撃するプラフスキー粒子自体は機体の圧縮粒子を使おうと思っている。威力はそっちの方が出るからな。

 

 セイやレイジの事が気になるけど…あいつらが勝つと俺は思っている。ニルス・ニールセンは強いけど、熱がない。目的意識がガンプラバトルにないんだ。あくまで何かを達成する手段としか見てない、そんなバトルだった。俺はその熱が勝敗を分けると思ってる。遊びだと侮るやつと、本気で遊ぶヤツのどっちが勝つかなんてわかり切ったことじゃないか?だから、大丈夫。俺は俺のやれることを最大限やるんだ。俺は塗料を混ぜ合わせ、新しいヅダのカラーにして筆をつけるのだった。

 

 

 

 

 

 「来ましたよ、メイジン。いや、タツヤさん」

 

 「……」

 

 翌日、GPベースを挟んで相対する俺たち。念のためタツヤさんに声をかけるが、やはり無言。今までヒロイックな機体に乗っていたタツヤさんのイメージとは真逆の赤黒く禍々しいエクシアをGPベースの上に置いて彼はコクピットの立体映像に消えていった。キララの実況も、何もかもがもう耳に入らない。情報はシャットアウトしよう。今は、ヒマリとツムギと相手さえ分かってれば、それでいい。

 

 「…アルト、やろう」

 

 「タツヤさんを、元に戻してあげようよ、アルトくん」

 

 「ああ、あの無表情を燃え上がらせてやるか!」

 

 俺はヅダをツムギに託す。限界を超えたチューンと新システム、新たな塗装、カラーリングは艶やかな赤。一番このカラーがゴーストシステムの発動が容易だったから。分かってますか?タツヤさん、俺あなたにずっと負けっぱなしだったんですよ。超えてやろうっていうときに、あなたがあなたじゃないなんてとんでもない。俺は、あなた自身に勝ちたいんです。だから、噛みついてでもあんたを元に戻してやる!

 

 バトルが始まる。エクシアがライフルを使ってこちらを狙い撃ちしてくる。機械のような正確な射撃、ヅダは右へ左へと移動しながらガンポッドとミサイルで反撃する。実際に戦ってるのを間近で感じてわかる。こんなのタツヤさんじゃない。強いけど、遊びがない、余裕がない、急所しか狙わない。危ないけど、避けられる。タツヤさんの鋭い操縦とは全く別でキレがない。

 

 ミサイルを撃ち落とすエクシアだけど対処が間に合わず何発か直撃した。真空の宇宙で爆炎が咲く、煙が晴れた先にはGNフィールドに包まれるエクシア。2本の剣を持ち、不気味なほど静かにこっちを見ている。

 

 「タツヤさんっ!!いい加減こんなバトルじゃ観客も眠っちゃいますよ!貴方のバトルはこんなのじゃないでしょう!」

 

 無言、急接近からの連撃、ヒートホークとピンポイントバリアで対処。警戒すべきはピンポイントバリアを凍らせるほどの威力を持つ氷の剣、ツムギはそこだけ見極めて凍り切る前にピンポイントバリアを解除してヒートホークで受け流す。攻撃、防御、回避が繰り返される。

 

 「…アルト、いくよ」

 

 「ああ、ISC循環起動、ゴーストシステム、オンライン!」

 

 「循環起動、タイムカウント開始するよ!」

 

 ISCを2機積んだことによる循環起動、1機目のISCが冷却に入った瞬間にもう1機のISCを起動させることで延々とISCを起動し続けるシステム。リミッターの範囲にある限りは制限時間は取っ払える。加速するヅダ、無数の分身を残しつつ真空の宇宙を駆ける。ヒートホークを振り上げつつ離脱、正面に残像が残る。そのまま背後でこぶしを握る。やはりタツヤさんは両方に対処しようとしている。プラフスキー粒子の塊である残像と本体の区別がついてない!結局危険度の高いヒートホークの分身を選択して剣で受け、本体の方はライフルで狙ってくる。

 

 「…そんな射撃!もう怖くない!」

 

 「気づいてっ!タツヤさん!」

 

 残像の振り下ろしたヒートホークを剣で受けたエクシア。残像が消えると同時爆発的な加速をしたヅダのピンポイントバリアパンチが入る。殴り飛ばされる寸前かろうじてシールドを差し込んだが、エクシアのシールドはめちゃくちゃに破壊されて使い物にならなくなる。ゴミでも見るようにそれを眺めた後適当に放り投げるエクシア。この、絶対にタツヤさんがしないであろう行動をされるたびに俺の神経が逆撫でされる。

 

 もう一度の接近戦のため、加速するヅダ、だけど唐突に目の前に壁が出現した。ツムギの咄嗟の動作でぎりぎりぶつからずに済んだがいきなりのフィールド変更にここまで露骨にやるかと怒りが募る。狭い、閉所での戦い。ヅダのスピードを活かせない場所だ。

 

 「くそっ、狭いな」

 

 「…大丈夫、もう…場所どうこうで私は揺るがない」

 

 言った瞬間ツムギがヅダをフルスロットルで発進させる。狭いはずの通路をほぼトップスピードで駆け抜ける。壁を蹴りながら、機体を傷つけることなく。これは去年カイザーさんが見せた五艘飛び…!いつの間に!接敵、ヅダを待ち構えていたエクシアの斬撃を受け止める。燃える炎がヅダを照らす。ゴーストを残しながら離脱、殴ろうとしたゴーストがあっさりぶった切られる。本当に機械を相手にしているようだ。反射で動いているとしか思えない。

 

 「タツヤさん!聞こえてるでしょ!?あなたのやりたかったことは何ですか!?メイジンになった理由があるんでしょ!?そのままでいいんですか!?」

 

 返答はビームだった。バックパックとライフルからの光の雨、ピンポイントバリアで守り、避ける。そしてそのままバックパックが変形した大型の剣を振り上げ壁ごと切り裂きながらヅダに迫る。こんな素人じみた武器選択なんてタツヤさんはしないっ!ふざけんなこの野郎!いい加減解放しろおおおお!!!

 

 「…こんなの、当たるわけないっ!」

 

 「ISC1機目機能停止!2機目循環起動、冷却開始だよ!」

 

 薙ぎ払いを接近することで止め、もう一度ピンポイントバリアパンチ。GNフィールドで止められるがそんなの関係なく殴り飛ばして壁に埋める。埒が明かない、武器を使う暇をくれない。殴るだけじゃ勝てないのはわかる。だけど下手に攻められない。攻めた瞬間またフィールドを変えられたら…!反応できるかどうかはツムギ次第だ…!どうする、何をすればいい?あの人を元に戻すには…!?

 

 その時、俺の頭をよぎったのはアランさんの言葉だった。「何らかの方法でプラフスキー粒子に思いをのせられれば、あるいは」…!もともとダメ元なんだ。やってやろうじゃねえか!いいかタツヤさん!

 

 「タツヤさん!俺の歌を聞けえええええ!」

 

 「…アルトッ!?」

 

 「アルトくんっ!?」

 

 「たった一曲のロックンロール 明日へ響いてく」

 

 俺がそう叫んだ瞬間、ツムギとヒマリが驚きの声をあげる。ああ、こんな場合の時に歌ってる場合じゃないってのはわかるさ!だけどな、あいにく俺は気持ちを伝えるのにこれ以上の手段は知らねえんだ!この世界にはないけど伝説のロックバンドの名曲だ!タツヤさん!あんたを音楽でぶん殴って目を覚まさせてやるよ!

 

 「朝焼けの彼方へ おまえを遮るものは 何もない!」

 

 歌うのはやめない。こんな時に何をという顔をしていた二人であるがいち早く元に戻ったのはヒマリだった。ツムギはミサイルで通路に爆撃、エクシアの動きを封じる。ヒマリは意を決したように顔を引き締めて俺の後に続くように口を開く

 

 

 「戦い続ける空に オーロラは降りてくる」

 

 ヒマリも続けてくれた!ツムギもうん、と頷く。分かってくれた、2人とも!わかるはずだ。アランさんの推測するもう一つの手段。プラフスキー粒子で想いを伝えるなら、俺たちがそれをするなら、これしかないって!連続斬りをピンポイントバリアで防ぎ守りつつ蹴っ飛ばしたヅダ、ヒマリが続くならとツムギも口を開く。

 

 「打ちひしがれた夜 おまえは一人ぼっちじゃない!」

 

 「いつだって!」

 

 3人の声が重なる。この曲「TRY AGAIN」は聖鳳学園の中等部に入ってから、軽音楽部でずっと練習していた曲だ。メロディーも何もかも俺たちには沁みついている。さあ!俺たちの歌を聞いてくれ!タツヤさん!迷ったようなエクシアがビームを乱射する。ツムギは避ける、俺たちは歌をやめない。

 

 「たった一つの言葉で 未来は決まるのさ! 俺たちのビートは 輝くダイヤモンド」

 

 「本当の空へ!」「本当の空へ!」

 

 「命輝く空へ!」

 

 アカペラの歌が戦いの音以外しない会場に響く。エクシアの動きが苦悶するように鈍くなる。タックルで壁に叩きつけて動きを封じる。押し付けるように壁に向かってブーストを吹かしてエクシアを壁に埋め込んでいく。戻ってきてくれ!タツヤさん!俺もヒマリもツムギも!本当のあなたと戦いたいんだ!

 

 「Fly away!」「Fly away!」

 

 「昇ってゆこう!」

 

 押さえつけていた壁が突然消失する。要塞内部から宇宙に放り出され自由になったエクシアが剣を振り上げるがその動作はさっきと比べると少し遅い。抗ってるんだ!きっと!洗脳の苦しみの中で本当のタツヤさんが戦っている!歌を届けろ!俺たちは頷きあってツムギがスロットルを押し込む。ヅダがそれに答えゴーストを残しながらミサイルを乱射していく。ゴーストとミサイルが交互に襲い掛かるがエクシアは何とかそれを凌いでいる。

 

「Try again!」「Try again!」

 

「昨日に手を振って」

 

 あなたの心に届くまで何度だって何度だって歌ってやるさ!楽しいバトルじゃねえよこんなの!心が通ってない剣なんて怖くない!視線が交わらない射撃戦なんてあくびが出る!エクシアが苦しみながらも二刀流で襲い掛かってくる。ツムギは、それを歌いながら凌ぐ。俺たちの息はいつだってぴったり。ずれることなんてない!

 

 「Fly away!」「Fly away!」

 

 「信じる限り!」

 

 サビの盛り上がりも最高潮!と言っても聞こえてるのは俺たちとタツヤさんだけか。いや、それでいい。それがいい!エクシアの動きが雑になってきた。機械的な操縦とタツヤさんの元の操縦が交じり合ってせめぎ合っている。タツヤさんはまだ何も言わないけど確実に届いている!俺たちの思いが!

 

 Try again! Try again! 明日を愛せるさ!」

 

 重なる声に反応して苦しむように機体をよじるエクシア。その機体が紅い光に包まれる!これはトランザム…!この…!いい加減に!

 

 「「「いい加減に!目を覚ませこのやろおおおおおおおおお!!!!」」」

 

 同じ言葉を吐いた俺たちの気持ちを代弁するかのように赤い閃光と化したヅダが思いっきり手を振りかぶってピンポイントバリアも展開せずに、受け入れるように動きが止まったエクシアを殴り飛ばした。

 

 飛ばされたエクシアのデュアルアイから光が消え、トランザムの光が消えて沈黙する。シンと静かになった会場が動かないエクシアとヅダを見守っている。判定は、まだつかない

 

 

 




 遂に主人公、歌う。まあヒロイン二人との合唱だけど。決着は次回へ持ち越し。

 歌詞の色分けの理由ですが
 緑→ヒマリ、基本ランカパートなので
 赤→ツムギ 同様にシェリルパートなので
 水色→アルト、空のイメージのスカイブルー
 となっております。色分けで見にくかったらすいませんが、今後は歌唱の際これで通しますのでよろしくお願いいたします

 ついでに新ヅダのカラーリングの由来でも。ファイアーバルキリーとYF-29からですね。どっちも赤がメインカラーだし、いいんじゃないかと思いました。

 覚醒した主人公、1日で粒子利用新システムを構築する(準メイジンの助けがあったとはいえ)ヅダが質量を持った残像(攻撃判定付き)をばらまきながらミサイル撃ちまくってくるとか自分で考えておいておかしいな。

 次回までまた少々お待ちください。

プラモデル大交流会の時他作品ネタを出してもいいか

  • どんなネタでも出していいよ
  • 機体のみにしておけ
  • やはりガンダムに限る

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