虐待や事故で両親を失い家庭がない子達がいます。逆に子どもが居ない家庭があります。子ども政策に対して「家庭」が前提では傷つく人達がいます。そういった子ども達や方々への配慮や幼き子も読める様に平仮名「こども」庁としてきました。
(中略)
 自民党保守派だけではありません、公明党や立憲民主党も子ども家庭庁(省)を同じ様に主張されています。なので、党での名称維持ができても、更に衆参の国会では、再び子ども家庭庁の名称にされてしまうかもしれません。
 しかし、子ども真ん中の政策を最前線で策定してきた私としてはとても容認できません。改めて、こども庁の名称を強く訴えていきます。
 「こども庁」の名称について-山田太郎ブログ
 この件です。立憲民主党が「家庭」を名称に入れろ主張していたというのはにわかに信じがたく、同時にそれが実際に名称決定に影響したとする山田太郎の主張は信じがたいを通り越してあり得ないというべきものでした。


 しかしながら、彼は自身のチャンネルの動画内でも同様の発言を繰り返し、さらにこども庁という名称を支持しているのは与党しかいない、野党はオールこども家庭庁だなどという事実誤認発言を繰り返しました。(発言などについては『新橋九段の『山田太郎のさんちゃんねる』第475回への感想とツッコミ-togetter』も参照のこと)

立憲は実際どうだったのか

 実際のところ立憲民主党がどういう態度だったのかは、以下の記事がはっきりと示しています。
 立憲民主党は31日、「子どもの最善の利益が図られるための子ども施策の総合的な推進に関する法律案(子ども総合基本法案)」を衆院に提出しました。法案提出者は、大西健介子ども・子育てプロジェクトチーム(PT)座長、岡本あき子同PT事務局長、今井雅人内閣部会長、山井和則、寺田学、後藤祐一、池田真紀各衆院議員。
 法案提出後、大西同PT座長らは記者団の取材に応じました。大西議員は法案の意義について「子ども省をつくるだけでなく、子ども・子育てに係る予算をしっかり増やして、何をするか、どういう理念に依って立つかということを総合パッケージとして示した。われわれが政策、法案を選挙に向けて出すことによって、議論をリードし、各党が競い合うことによってわが国の子ども・子育て政策が前進させられる意義がある」と述べました。
 また、法案のポイントとして(1)ハコ(省庁の設置)より中身を重視し、子ども子育て予算を大幅に増やす(2)チルドレン・ファースト:「児童の権利に関する条約」の理念にのっとり、すべての子どもの最善の利益が図られ、その人権が保障され、社会全体で子どもの育ちを支援する社会を実現することを法の目的や基本理念に明記(3)子どもから若者までの切れ目のない支援:未就学児から初等・中学教育を対象とし、子どもが成人した後の関連施策を含む(4)児童手当の拡充(高校生までの支給、特例給付の一部廃止分の復活ですべての児童を対象に支給)、児童扶養手当の拡充(ふたり親を含む低所得子育て世帯への支給)(5)子どもの貧困への対応:子どもの貧困率を10年で半減することを目標に取り組む(6)上記施策を総合的に推進するために子ども省を設置――を挙げました。
 「子ども総合基本法案」を衆院に提出-立憲民主党(太字は引用者)
 少なくとも、5月末時点で立憲は党の方針として「こども省」でいこうと決めていたことがわかります。
 しかし、このようなファクトを示されてもなお、山田太郎支持者はこの記事よりも日付の古い記事(『【談話】いわゆる「こども庁」の創設について』)を「証拠」と示して騒ぎ立てるばかりであり呆れました。ネットに強い山田太郎が聞いて呆れます。
 選挙ドットコムは11月30日に実施される立憲民主党代表選に関連し、立候補者へのインタビューを行いました。
(中略)
 西村さんについては豊富な社会保障政策の知識があります。民主党政権を担っていたころから同じ厚生労働分野、子供子育て分野で一緒に政策を作ってきた仲間なので、やはり子供子育て政策や「子ども家庭省」といった政策を一緒に構想してきたという方です。
 立憲民主党代表選・泉健太氏インタビュー「『党の理念、魅力を全面に押し出していきたい』という声を受けて立候補を決意」-選挙ドットコム
 ちなみに、日付を指摘するとシンパは別の記事を出しましたが、これは「立憲民主党が現在の名称変更にかかわった」とする証拠にはなりません。なぜなら、泉氏はあくまでかつて西村氏と活動したという「過去の事例」として子ども家庭省の話題を語っているだけであり、現在の名称変更に関わる話は一
切していないからです。あくまで、立憲民主党の現在かつ最新の態度は5月末の記事だとみなすべきでしょう。

 ちなみに、立憲民主党の案に関しては、私は『(1)ハコ(省庁の設置)より中身を重視し、子ども子育て予算を大幅に増やす』ことと『「児童の権利に関する条約」の理念にのっとり、すべての子どもの最善の利益が図られ、その人権が保障され』るべきことを明言した点を評価しています。金がなければ解決しない問題は多くありますし、子どもの問題はあくまで人権の面から議論され解決されるべきです。こども省を作る必要があるかは疑問ですが。

名称変更は自民党「保守派」のせい

 では名称変更は誰のせいなのでしょうか。それはもちろん、自民党の「保守派」、というより、極右や国粋主義と呼ぶべき人々の態度のせいであることは疑いようもありません。そもそも、自民党は改憲草案の中に『家族は、互いに助け合わなければならない』などと書くほど「家族」を重視する組織です。まぁ、その「家族」はあくまで自民党のおっさんが認める「家族」でしかなく、同性婚のカップルや非嫡出子のいる家庭はもちろんのこと、苗字が違うだけでも否定される狭い枠でしかありませんが。
 左派NGOの国連勧告戦略に政府は及び腰
 子供の権利を歪曲拡大する左派が浸透

(中略)
 とくに討議の中心となったのは、国づくり、人づくりに大切な「教師の日」を制定し、父の日、母の日と同様に国を挙げた取り組みにしていくため、何月何日にするのが適当か、という問題と、こども庁の創設をめぐる「家庭」解体を目論む過激な性教育活動家や人権活動家が自民党の勉強会に講演に招かれて、こども庁の創設の背後で着実かつ巧妙に国家や家庭、親子の心のつながりを「子どもの権利」を拡大解釈して断絶、蝕んでいる実態です。
(中略)
 (引用者注:以下、高橋史朗の話として。太字は引用者)自民党の「こども・若者」輝く未来創造本部が掲げる「こどもまんなか」の理念が、いつの間にか、安倍政権下で推進されてきた教育再生の基本政策や教育基本法改正、道徳教育、学習指導要領、教科書検定、青少年健全育成などの施策を真っ向から否定するものに巧妙に醸成されつつある危機的な状態にあることに警鐘を鳴らしました。
(中略)
 家庭があっての「こども庁」なのが、家庭と切り離す形で「子ども権利」が拡大解釈されていく危機的状況になっていることへの提言でした。
 こども庁を蝕む「家庭」解体派に警鐘を 全教協役員会-一般社団法人全国教育問題協議会
 そのような自民党「保守派」の態度を根拠づけるものもいくつかあります。その最たるものが、上に引用した全教協の会合です。この会合には山谷えり子、義家弘介、小渕優子、有村治子など自民党のそうそうたるメンバーが参加しています。また、思想的にも自民極右に近い高橋史朗が、会合の中で「子ども家庭庁」の名称が安倍晋三の発想に近いことをわざわざ暴露してくれています。

 このような背景がある以上、名称変更は自民党の中でも特に影響力のある極右政治家、特に安倍晋三あたりの圧力があったためであろうと考えるのが素直なところです。少なくとも、未だに閣議決定すらされておらず公式には表に出てきていないこども庁の議論について、立憲民主党が影響力を振るえるという想定よりはこちらのほうが可能性が高いのは確実です。

デマ訂正も事実かどうか疑わしい


 上に示すように、山田太郎は散々指摘されてデマを訂正しました。しかし、彼の主張する「事実誤認」という説明は事実なのか実に疑わしいものがあります。

 そもそも、山田太郎はこども庁の議論にかなり労力を割いていたはずです。動画内でも「命を懸けて」という空虚な強調を何度も使っていたくらいですから、事実だとすれば心臓が7つくらいあるはずです。にもかかわらず、その議論に関する野党第一党の態度すら把握していないということがあるでしょうか。

 仮に、山田太郎の言う通り事実誤認だとすれば、それは彼がこども庁の議論について実は全然真剣ではなく、野党第一党の動向を把握していない程度の労力しか割いていないということになります。あるいは、命を懸けるほど頑張っても野党第一党の動向を把握できないほどの無能であるということです。

 逆に、この釈明が嘘であるとするなら、山田太郎は意図的にデマを流したことになります。そう疑う根拠も多くあります。そもそも自民党「保守派」が「家庭」に拘っているというのは周知の事実であり、山田太郎がそのことを把握していないとは到底思えません。また、名称の変更が決まったのは自民党の内々の議論であって、野党の意向が影響しえないことも常識的に考えればわかることです。にもかかわらず立憲のせいで名称が変わったということを「誤認」するとは到底思えません。

 あるいは、この説明に反し、山田太郎がそれでも単に事実誤認していたとすれば、あり得る可能性は1つです。それは、党内議論において自民党の「保守派」が名称変更の口実に立憲を挙げ、山田太郎がそれを鵜呑みにしたということです。だとすればあまりにもチョロすぎます。やはり無能のそしりは免れないでしょう。

 「命を懸けて」が嘘なのか、単に無能なのか、意図的なデマなのか、チョロすぎるのか。どのような解釈になったとしても、結論は変わりません。山田太郎は信頼に値しない政治家であり、彼がこども庁の議論をリードすることは永遠にないということです。

ちなみに:現状のこども庁の問題点

 ちなみに、動画を見て感じたこども庁の問題点も軽く書いておきます。なお、こども庁についてはまだ具体的なものが全然出てきていないのであくまで動画で述べられた内容に則してということになります。山田太郎は報道が憶測だとキレていますが、この点は自業自得でしょうね。

 現状のこども庁の問題点は、案の定結局縦割りが全然解決してない点です。いじめ問題では重大な事案をこども庁が担当と説明されていましたが、重大じゃない事案は相変わらず文科省ですし、そもそも重大かどうかで縦割り問題や押し付け合いが生じるでしょう。全く無駄な組織になっています。

 私の考えとしては、どうしてもいじめのような問題を一括で担当したいなら、いっそのこと政府から距離のある人権擁護委員会のようなものを作ってそこに担当させるべきでしょう。いじめというのは単に児童間で起こるだけではなく、不適切な対処による二次被害などを含めてれば対教師、場合によっては対教育委員会レベルで問題になるものです。また、いじめというよりは児童に対する権利を侵害する攻撃であると位置づけて一括で扱えば、教師によるわいせつ行為や体罰の問題も解決することができます。こうした問題には民族差別、障碍者差別、女性差別といった問題もかかわり得ますので、差別問題の一側面として取り扱うこともさほど的外れではないと思います。

 しかし、結局のところ組織を作れば縦割りの問題が生じます。これは組織を新たに作ってかえって縄張りを増やすより、いまある組織間で問題を解決するほうが良いのではないでしょうか。

 また、いかに権限のある組織を増やしたとして、実際の動く人や動くためのお金がなければ仏作って魂入れずです。そう考えれば、無駄に組織の箱だけ作るよりもいまある組織にリソースを割くほうが効率的でしょう。