千五百七十七年 八月中旬
里見家の居城である佐貫城に籠城している里見義弘の許に凶報が届いた。
それは里見水軍の要でもある勝山城が、織田軍の猛攻に合い落城寸前だと言う。
報告を受けた義弘は膝から崩れ落ちそうになり、それを隠すためにも足を踏み鳴らして立ち上がった。
浮島に守られた勝山城は難攻不落の城塞であり、こうも容易く攻略されるとは悪夢でも見せられているかのようだった。
勝山城の陥落を防ぐべく救援を派遣しようとしたが、その計画が実行されることはなかった。
その後も矢継ぎ早に報告が舞い込み、その
勝山城だけにとどまらず、その補完関係にある金谷城と岡本城までもが砲火に晒されており救援を求めてきた。
悪いことは重なるもので、物見から最新の報告として織田軍の艦船が佐貫城近くの海岸に姿を見せたと言う。
更には小型挺を繰り出して、地上部隊を続々と展開しているのだ。
最早一刻の猶予もない事態に追い込まれ、義弘はこれを阻止すべく配下の将に叫ぶ。
「織田軍の上陸を許してはならん! 奴らの態勢が整う前に叩くのだ!」
義弘の号令一下、元々兵力を集中させていた佐貫城に詰めていた将兵達が次々と出陣の準備を整える。
ここが勝負所と踏んだ義弘は、自身も前線に立つと最低限の防備を残して全兵力で織田軍を叩くべく、佐貫城から出立した。
織田軍が今も上陸中の海岸は、現在で言う千葉県富津市の新舞子海岸であり、佐貫城から目と鼻の先にあるため小細工を
「見よ! 奴らの船は沖に留まっておる。今こそ好機! 既に上陸済みの部隊は僅かじゃ、里見武者の底力を見せてくれる。者どもかかれ!」
義弘の目には沖の母船と海岸を小型艇で往復し、上陸に手間取っている織田軍の姿が飛び込み、これが彼らを視野
地上部隊のみに限って言えば、彼我の戦力差は五倍以上に達する。これは負ける方が難しい状況であり、織田軍と混戦状態に持ち込めれば艦砲射撃も防げる一石二鳥の状況だった。
この時代の常識として大砲と言うものは攻撃力に優れるが、命中精度が低いため射線上に自軍が存在する状況ではとても撃てたものではない。
自軍の兵たちの頭越しに砲撃などしようものなら、風向きや砲に込めた火薬の量次第では自軍の将兵を吹き飛ばしてしまう代物だ。
端的に表現するならば巨大化した火縄銃であり、砲弾が球形かつ重すぎるために着弾点が何処になるかは運しだいであろうと推測した。
義弘は常に沖の敵母船と上陸中の織田軍の部隊とを結ぶ直線の延長線上に自軍がくるようにして脚の速い騎馬部隊をけしかける。
するとこれを見据えていたかのように、沖に浮かんでいる織田軍の艦船が一斉に火を噴いた。
地上に展開する織田軍の頭越しに砲弾が飛来し、里見軍本体から突出した騎馬部隊を吹き飛ばす。
織田軍の艦船に装備されている砲は、義弘が想像したような旧式の物ではなく、後装式かつ砲弾も流線形の外殻に包まれた最新式の物だった。
砲弾の後ろに火薬を押し固める必要が無く、常に一定量の炸薬がセットされているため、砲弾の飛距離も把握しやすいため誤射を恐れずに砲撃出来るのだ。
雷鳴の如き轟音と、吹きあがる砂煙が収まったころ、義弘たちの視界に入ったのは大きくえぐれた地面と辺り一面に広がる地獄絵図だった。
およそ人の形をとどめている死体が少ないような有様であり、人の物か馬の物かも判らない血と肉片が散らばる有様だ。
砲撃のショックから里見軍が立ち直る前に、織田軍の艦船から第二射が叩きこまれる。
しかし、この砲撃は一射目程の効果を発揮しなかった。里見軍の将兵が
それでも着弾と共にまき散らされる破片や、舞い上げられた土砂などに晒された最前線の里見兵が被害を受けた。
「ひっ……
義弘は喉が裂けんばかりに叫ぶと、全軍を丘陵地帯の後ろまで退避させるべく行動する。
それに対する織田軍側の第三射は無かった。わざと見逃されているような屈辱を感じつつも、義弘たちは佐貫城へと逃げ帰る羽目となる。
沖合に浮かぶ艦の甲板にて、望遠鏡を覗き込みながら里見軍が撤収していく様を眺めていた信忠は感嘆の声を上げる。
「敵ながら良き将と、兵たちだ。出鼻を
先制攻撃こそ成功したものの、里見軍を壊滅するに至らなかったのだが、信忠はこれを気にしていなかった。
一定の損害を与えた上に、彼我の戦力差をまざまざと見せつける事が出来た。今後は里見軍の動きも、常に砲撃を意識して鈍くなると言うものだ。
「地上部隊の展開はどうなっておる?」
「はっ! 小型艇による往復輸送ではかなりの時間を要します。恐らく予定通り二日程度かかる見込みとのことです」
「ふむ、虎の子の強襲上陸艇を用いるべきだったか。しかし、今の一戦で暫くは里見も近づけまい。物見には警戒を厳にするよう伝えよ、決して注意を怠るな」
「はっ!」
まさに
騎馬部隊を失ったのは痛恨だが、それでも
信忠は里見軍の評価を一段階引き上げることにする。現里見家当主の義弘は関東の覇者たる北条家と何度も戦い、領土の切り取り合いを繰り返しながらも里見家全盛期を築いた切れ者だ。
里見攻めはあくまでも北条攻めの前哨戦という位置づけなのだが、そう簡単には事が運びそうにないことを感じ取っていた。
信忠が予想したように、その後の里見軍は織田軍を警戒して徹底した籠城の構えに入る。信忠は里見軍本体を釘付けに出来ている期間を活用し、まずは勝山城を陥落させた。
勝山城は後回しにし、最優先で勝山湊を使用できるように整備すると、制海権を確保していることを盾に尾張から次々と資材等を運搬させる。
勝山湊を物資集積拠点として利用し、何もなかった佐貫城沿岸部に複数の簡易防衛拠点を構築しはじめた。
これは織田軍が火砲を主力とするまで得意としていた付城戦術であり、地上戦を展開する上では極めて有効な手段と言える。
義弘とて自分の目の前で、敵軍が拠点構築している間中ずっと手を
しかし、それら全てに於いて色よい返事が戻ってくることなく、そうこうしている間にも金谷城が落城し、城主であった
彼の報告に拠ると金谷城の状況は佐貫城と同様に、沖から牽制の艦砲射撃を受けて満足に反撃らしい反撃を出来ないまま追い詰められたとのこと。
このまま籠城を続けた処で状況が改善するどころか、物資や兵を消耗するだけだと判断した正木は自ら金谷城に火を放って佐貫城を目指したのだ。
「ふむ、金谷城主は自ら城に火を放ったか。城を枕に討ち死にするかと思うたが、存外
金谷城が炎上したとの報告を受けた信忠は前述の通りの決断を下した。里見軍と自軍との射程距離の差を考慮すれば、勝山湊を運用する上で金谷城と岡本城は目ざわりだが、確保したところで戦力を分断して配置するほどの旨みは無い。
勝山城周辺に一括で配置して運用した方がよほど効率的に動かせるため、金谷城及び岡本城を戦略的に無価値と断じた。
こうして信忠は房総半島に軍港及び要塞として勝山湊を中心に据え、佐貫城を睨む位置に付城を着々と構築していった。
信忠率いる織田軍が里見を攻めている間、関東の盟主たる北条家が何をしていたかと言えば、史実にあった『小田原
織田軍が擁する九鬼水軍の奇襲を受け、制海権を早々に奪われたのだが、その後九鬼側に目立った動きが無かった。
沖合に集結して海に出るモノは全て沈めるだけで、一向に地上へは手を伸ばしてこないのだ。これが北条側に奇妙な余裕を与えることとなる。
『喉元過ぎれば熱さを忘れる』との言葉もあるように、この作為的な余裕によって北条氏は見事に迷走する軍議の悪循環から抜け出せなくなってしまった。
「ふむふむ。概ね予想通りに推移しているね」
電話を通じて届けられる定時連絡から最新の勢力図を地図上に再現する。金谷城の駒は取り除かれ、勝山湊には織田艦隊の駒が停泊し、勝山城跡に物見櫓の駒が悠然と周囲を見渡していた。
里見家と戦端を開いて以降は相手の動き次第で状況が変化するため不確定性が上がり、現地での詳細な情報収集が重要となる。静子は定時連絡以外にも戦況に大きな動きがあり次第、適宜電話連絡をするよう情報統括を担う真田昌幸に命じた。
(敵に関する情報は勿論、自軍の武器弾薬や医薬品に糧食などの配備状況を把握しなければならない。自軍が十全に能力を発揮するよう支えるのが兵站を預かる私の仕事だから)
何かと気を配ることが多く根を詰めていた静子だが、喫緊の課題に対処できたため少しでも休憩を取るべく執務室を出た。渡り廊下を歩いていると、縁側の辺りから騒がしい声が彼女の耳に届く。
「なるほど。では、何故肥料を与えると作物が多く育つのですか?」
「む、またそれですか……肥料を与えることによって不足している作物の栄養を補うことが出来るからです」
「そうなのですか、四六殿は博識でおられる。では、何故必要な栄養が不足するのですか?」
「ぐっ……そ、それは……」
声から判断するに藤次郎(後の伊達政宗)と四六が問答をしているようだ。珍しく四六が口ごもっていることに興味を覚えた静子は、物陰から二人の様子を覗き見る。
どうも農作物に関する肥料が果たす役割について藤次郎が四六に質問を投げかけ、それに四六が答えると更に藤次郎がそれを受けてさらに掘り下げた質問を投げかけるという循環が繰り返されているようだった。
これは子供特有の質問に継ぐ質問という良く目にする光景なのだが、古代ギリシアの哲学者であるソクラテスが行った『無知の知』に通じるものでもあるのだ。
『無知の知』の意味するところは、自分が無知であることを知っていることであり、藤次郎が無自覚に行っているような問答を繰り返せば自ずと自分の知識が実は薄っぺらいものであることに気付かされる。
実際に四六も作物の生育を促進するために栄養が必要だという事を知っているが、栄養とは一体何なのか、生育過程において何故栄養が不足するのかまでは知識が及んでいない。
つまりは書籍からそういうモノだと言う知識を刷り込んでいるだけで、真の理解には至っていないという事を四六はまさに痛感していることだろう。これに答えるためにはそれぞれの栄養素がどのように作物に作用するのか、また栄養素の根源は何処から来ているのか等を知る必要がある。
「何を騒いでいるのです?」
静子は知らぬ素振りで四六に助け舟を出すことにした。四六と藤次郎は静子の声に気付き、問答を止めて揃って向き直る。藤次郎の背後に控えている小十郎が、静子の介入に安堵している様子を見せたのが印象的だった。
「そんな処で大声を出していると、皆が何事かと不審がりますよ。そして四六、知らないことは恥ではありません。判らないなら調べれば良いのです、貴方は既に調べ方を身に着けていますね?」
「は、はい」
四六が首肯するのを見て、静子は満足そうに頷いた。そして次に藤次郎へと視線を向けると声を掛ける。
「藤次郎殿、その問答方法はかつて南蛮の偉人が大々的に行った結果、人々の恨みを買って投獄され獄死しています。その方法は他者に質問を投げかけるのではなく、己自身に問うようにすれば深い理解に至れるでしょう」
「なんと! 私がしていたことは四六殿を不愉快にさせる行いだったのですね……四六殿、知らぬこととは言え申し訳ございませぬ」
静子の指摘を受けた藤次郎は、慌てて四六に向かって頭を下げた。
これを受けて慌てたのは四六であり、人目の有るところで自分の至らなさを暴かれるのは困るが、実際に理解が至らないことを自覚できたことは有益だったと考えた四六は言葉を返す。
「謝罪には及びません。私も次期当主としての立場がありますので、人目の有るところでは控えて頂けるならこれまで通りにして頂いて構いません。むしろ己の不明を自覚する一助になりました」
二人が互いに謝罪し合うのを眺めていた静子だが、話が堂々巡りになっているのを見てパンパンと柏手を打った。
「はい、話はそこまで。折角の機会ですから四六は藤次郎殿に図書室を案内して差し上げなさい。そこでお互いが納得するまで知識を深めあってはどうですか?」
「はい、母上」
「ありがとうございます、静子様」
二人は静子に一礼をすると踵を返し、連れ立って図書室へと向かっていった。二人が立ち去るのを見送っていると、小十郎だけがその場に残っていることに気が付いて目を向ける。
「我が主がご迷惑をおかけし、申し訳ございませぬ」
「構いませんよ。迷惑とも思っていませんし、四六にとっても良い刺激となるでしょう」
小十郎は静子に詫びつつも、何事かを言い出せずにいる様子だった。それを察した静子は呼び水として話題を振る。
「藤次郎殿は母が恋しいのでしょうか、四六が私を母と呼ぶのを何処か眩しそうに見つめておられますね」
小十郎は己の迷いを見透かされたようで大いに狼狽するが、相手は信長の懐刀と評される大人物だと思い直し口を開いた。
「正にそれを言おうかと迷っておりました。主は病を得て以降、片目と共にお母上の関心をも失ってしまわれたのです」
小十郎は悔し気に言葉を漏らす。
藤次郎は数え年にして五つの折に天然痘を患い、それが原因で生死の境をさ迷った結果として片目を失明している。今でこそ
それ以来藤次郎の実母である義姫は、彼の弟である小次郎ばかりを可愛がるようになってしまった。父である
いつしか藤次郎は他者に対して一線を引いて接するようになり、己の心に蓋をしたように本心を見せなくなった。しかし、人質として尾張に来た事によって環境が激変し、みつおの優しさや包容力に
(ここならば反藤次郎派の目が無いし、彼の閉ざされた心の
幼少期に罹った病が原因で、藤次郎は母親の愛に飢えていたのだろう。その気持ちに強引に蓋をしたがため、成長しても何処か歪な振る舞いをするのかもしれない。
そこに来て己を取り巻く環境が激変し、利害関係のないみつおの優しさに触れたことで飢えを自覚し、血の繋がりが無いというのに深く結びついてる静子と四六親子の様子に
「そして静子様が、我が主を叱って下さった事も心を開くようになった一因かと存じます」
小十郎の言葉に静子は過去を振り返る。藤次郎の行方不明騒動は大事にならずに済んだのだが、それはそれとして主君の行方を把握できずに周囲に迷惑を掛けた責は誰かが負わねばならない。
その折に伊達家の近習たちは主君を庇って、自分が代わりに罰を受けると申し出たために静子がこれを一喝した。
『藤次郎殿はこれから先、幾度も理不尽な状況に身を置くことになるでしょう。彼を庇って代わりに罰を受けるということは、彼が理不尽に立ち向かう機会を奪い成長する機会を逸することを意味します。責任とは人の上に立つ者が負わねばならないのです。それが出来ないようでは人の上に立つべきではない。近習の方々は主の罰を被るのではなく、主が理不尽に
そして自身が迷子になった事で迷惑を掛け、また家臣に庇われることで己の不甲斐なさを噛みしめている藤次郎に静子は顔を向けた。
『藤次郎殿、貴方は伊達家の代表としてここにいるのです。貴方の一挙手一投足が貴方に仕える近習、
静子は自分が口にしたことを思い出し、気恥ずかしさから赤面する。随分と上から物を言ったのものだ、自分でも実践できているか怪しいことを十かそこらの子供に求めるのだから大人げないこと
「我が主は片目を失って以来、誰からも期待を寄せられず、またそれゆえに叱られることもありませんでした」
小十郎の言葉に静子は史実の政宗が辿った人生を思い出した。政宗の母親である義姫は、彼女の生家である最上家と嫁いだ先の伊達家との
戦国時代の常として己の前に立ち塞がるのならば、実母であろうとも排除することは珍しくないのだ。それにも拘わらず家から放逐するでもなし、最終的に和解に至るなど異例と言っても良いだろう。もしかするとそこには母に対する慕情があったのかも知れない。
いずれにせよ、史実から大きく状況が変化している中、四六や藤次郎がどのような成長を見せるかが楽しみであった。
当初誰しもが難航すると思われていた伊達家の人質受け入れだが、蓋を開けてみれば最初の迷子騒動以降は平穏無事に過ぎていった。
伊達家の面々は当初こそ異質な尾張の生活様式に戸惑っていたが、その利便性を我が身で体験するに従って目覚ましい早さで順応している。
人質に関しては当面問題ないとして、静子は喫緊の課題である報告書を手に取って読み進める。
「ふむ。流石は里見、そう簡単には落ちないか」
定期報告を目で追いながら、戦況を示す立体地図を更新してゆく。里見家が所持していた支城の多くは陥落しているが、居城である佐貫城は健在であり、また多くの人員を抱え込みながらも困窮している様子もないとのことだ。
そして信忠が危惧し、動向を探るように要望を送ってきている案件があった。それは不干渉を決め込んでいる佐竹氏の存在だ。
佐竹氏は
彼はこの時代では最新となる
無論、佐竹氏の擁する火縄銃は織田軍が採用する新式銃と比べると数段劣るものではある。しかし、如何に性能で劣ろうとも銃弾が命中すれば人は容易に死に至るのだ。
多くの鉄砲を揃え、かつそれを運用できる兵士が存在するという事は決して侮れない戦力であることを意味していた。
「彼らのことは真田さんが調べてくれているけれど、何故この状況で沈黙を守っているかが判らない。織田家が天下に覇を唱えている以上、里見が落ちれば明日は我が身として協力するか、それともこちらに臣従すべく使者を派遣してもおかしくない頃合いなんだけど……」
里見家に対してはかなり派手にドンパチを繰り返しているため、当然間者を放っているであろう佐竹氏とて
「佐竹氏の沈黙が北条の動きを見定めているなら良いけれど、果たしてどうなることやら」
展開の読めないいくさは恐ろしい。何が起きても対応できるように備えると口で言うのは簡単なのだが、実行に移すとなると難しい。
史実とは比べ物にならない程に豊かな織田家の財力を以てしても、東西の二方面を同時侵攻している状況下では物資を遊ばせている余裕は無い。
そうしている間にも月日は流れ、八月も中ごろに差し掛かっている。そうこうしている間にも実りの秋を迎え、やがては厳しい冬が訪れることだろう。
これに対する信忠は、里見家との決着を短期決戦とするのではなく、被害を最小限に抑えるためにも包囲戦へと舵を切っている。
信忠は信長が得意としていた付城戦略を用い、佐貫城の周りを取り囲むように付城を設けている。佐貫城へは周辺の支城から多くの人員が流入しているため、補給路を断つように付城を配置すれば兵糧攻めとなるのだ。
佐貫城を包囲しつつも勝山湊の整備を推し進め、勝山城を再建して要塞化を行っていると報告があった。勝山湊は対北条戦に於いても物流及び軍備の
「母上、少しお時間を頂戴できますでしょうか?」
静子が考えに
「少しお待ちなさい」
静子は一言返すと、室内に存在する機密扱いの一切合切を片付ける。戦況を示す立体地図は壁面に収納できるようになっており、壁に押し込んでしまえば他の壁面と見分けがつかない。
戦況に関する命令書や報告書の類を鍵のかかる収納箱に収めると、領内の内政に関する文箱を机の上に並べた。そして如何にも書類を記しているような様子を取り繕うと、彼女は四六に入室の許可を出した。
室内外を隔てる襖を開けて入ってきたのは、静子の予想通り四六と藤次郎であった。お付きの小十郎は廊下に控えており、入室してきたのは二人のみとなる。
「何か話がありそうだね?」
「はい。藤次郎と東国攻めに関して議論していた際に気になったことがございます。端的に申し上げて、佐竹はもう北条を裏切りましたでしょうか?」
いつの間に仲良くなったのか、互いに名前を呼び捨てにするようになっている事に静子は驚いた。
そして自身も気に掛けていた佐竹氏の動向について訊ねられたことも驚愕に拍車を掛け、思わず表情に出かけたがすんでのところで無反応を貫き通す。
「本来ならば戦況を余人に知らせないのですが、別段秘密にするような事でもないので答えましょう。否です」
「然様ですか。我らの推測ではそろそろ北条を裏切って、こちらに接触してくるのではと予想しておりましたので意外です」
「どうしてそう考えたの?」
「私の知る情報と、藤次郎が知っている情報を擦り合わせた結果です。かの甲斐の虎(武田信玄のこと)すら織田家の前に屈したのです。如何に好立地に城を構えているとは言え、北条だけで織田家に敵うとは思えません。そして北条家が盟主となっている同盟も、断れば北条に攻め入られることを恐れての不可侵条約に過ぎませぬ。誰もが本心から北条に臣従している訳ではないそうです」
四六と藤次郎から齎された情報に静子は感心していた。幼い彼らが辿り着いた結論は、その裏付けこそ乏しいものの、まるで無根拠に言っているわけでもないというのに、静子たちが判断した結論と同じところにあったのだ。
そして北条の影響力は協力関係にあった里見家の窮地に対して、援軍すら送れない状況とあってその低下が著しい。ことがここに至っては、北条家との同盟関係を維持するメリットは無いに等しい。
制海権すら取り返せない北条に盟主たる資格はないとして、同盟を破棄することを決断するのは自明の理と言えよう。
「良いところに気が付きましたね。とは言え、実際に佐竹氏は沈黙を保っています。貴方たちはそれをどのように判断しますか?」
「互いの腹を探り合っているのでは無いかと考えます。劣勢にあるとは言え、未だに里見家は抗戦しており、北条とて兵力を保っています。つまり
「四六殿の言いようは
「藤次郎、母上の御前であるぞ! 口を慎め」
突如として話に割って入った藤次郎の無礼を四六が咎める。誰に対しても一歩引いた立ち位置を取る四六にしては遠慮の無い物言いに、静子は二人が本当に打ち解けたことが見て取れてほくそ笑む。
「仲が良いね、君たち」
「良くはありませぬ!」
「四六殿は照れ屋で困りまする」
まるで正反対の言葉を口にする二人を見つめながら、何処か二人は似ているなと静子は思った。
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